「うぅ……二日続けて奇跡は起きないかぁ……」
聖美は畳の上で大の字にされたまま、苦笑混じりにつぶやいた。
翌日の稽古では、凉子は最初から本気だった。
強すぎる。
惨敗だ。
寝技はもちろん、立ち技でも手も足も出なかった。
昨日のことがよほど屈辱だったのだろうか、全国大会の決勝の時よりも、福岡国際で海外の強豪を相手にしていた時よりも、凄い気迫だった。
組み手争いをする隙すら与えられずに一瞬で投げられ、抑え込まれ、まったく反撃の余地もなかった。
凉子はものすごい負けず嫌いだと、いやというほど思い知らされた。
だからこそ、ここまで強くなれたのだともいえる。負けても「ま、いいか」で済ませる人間が、勝負の世界で頂点を極められるわけがない。
「さぁて、じゃあ覚悟はいいか?」
聖美を抑え込んだ体勢のまま、凉子は引きつった笑みを浮かべて言った。怒りを押し隠して無理に笑顔を作っているような、そんな表情だ。
「え?」
「昨日はアンタが勝って、あたしにあんなことをしたんだから、今日はあたしがアンタを好きにしてイイってことだろ?」
ニヤリ、と唇の端を上げる。その笑みが妙に怖い。
「え……えぇぇっ?」
生肉を前にした肉食獣を思わせる表情で、凉子は聖美の胸を乱暴に掴んだ。
……
…………
………………
本当に、本当に、本当に、いやというほど思い知らされてしまった。
凉子は本当に、本当に、本当に、ものすごい負けず嫌いだ。
昨日、まぐれとはいえ一本負けして、シャワー室で一方的に弄ばれたのが屈辱だったらしい。
倍返しどころではない。その責めは激しくて、乱暴で、執拗で、泣き叫んでも許してくれなかった。
失神しかけた頃にようやく下校時刻になって、解放されたと思ったのに、その後は寄宿舎の凉子の部屋に連れ込まれてしまった。
「あー、すっきりした。やっぱあたし、こっちの方が向いてるな」
隣に座った凉子が、勝ち誇った表情でこちらを見おろしている。
聖美は何度も何度もイカされてしまい、腰が抜けて、身体にまったく力が入らなくて、ぐにゃぐにゃの軟体動物にでもなってしまったかのような気分でベッドに横たわっていた。
(………………凉子先輩ってば……)
本当に、本当に、本当に、いやというほど思い知らされてしまった。
寝技の名手・安曇凉子は、ベッドの上でも無敵なのだと。
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