桂木香奈シリーズ2 二人目のお兄ちゃん


 夏休みのある日。
 あたし、桂木香奈が家に帰ったのは、夕方と呼ぶにはやや遅い時刻だった。
 父さんと母さんは、まだ帰ってきていない。家にいたのは兄貴一人だ。昼間、兄貴の彼女が遊びに来ていたはずだけど、もう帰ったらしい。
「どこ行ってたんだ?」
「ん、ちょっと……ね」
 曖昧に応えてさっさと自分の部屋へ行こうとしたけれど、その前に腕を掴まれてしまった。いきなり、兄貴に抱きしめられる。
「どこ行ってた?」
 あたしの身体に回された腕に、妙に力が入っている。どことなく、怒っているような口調だ。
 どうやら、一発でばれてしまったらしい。まあ、覚悟はしていたけれど。
「石鹸とシャンプーの匂いがするぞ」
 うう……やっぱりわかっちゃうんだ。
「昼過ぎから出かけていって、外で風呂か? どういうことだ?」
 どういうことだ、って。兄貴のこの表情は、絶対にわかって訊いている。
「……えへへ、バレた?」
 ぺろっと舌を出す。笑って誤魔化そうとしたんだけれど、兄貴ってば本気で怒っているみたい。
 乱暴に肩を掴まれた。
「どういうことだ? お前、彼氏なんかいないはずだろ?」
「今日の昼過ぎまでは、ね」
 怒りのあまり手が震えている兄貴を見ながら、あたしは顔がにやけてしまうのを抑えるのが大変だった。
 兄貴ってば、やきもち妬いてる。
 自分は彼女がいるくせに、妹のあたしが他の男性と遊んでいたことを、本気で怒ってる。
 今日、いきなり彼氏ができてしまったあたしだけれど、兄貴のやきもちはやっぱりすごく嬉しかった。



 今日の午後。
 あたしは、一人でぶらぶらと街を歩いていた。
 先刻まで家にいたんだけど、いたたまれなくって飛び出してきたところ。
 すごく、嫌な気分だった。泣きたいくらい。
 今日、兄貴の彼女が家に遊びに来てたんだ。
 いつものように、兄貴の部屋でエッチしてた。壁を通して、あたしの部屋からも彼女の声はよく聞こえた。
 すごく大きな、いやらしい声。
 まるで、あたしに当てつけるみたいに……っていうのは考え過ぎなんだろう。
 なんだかむらむらしてしまって、その声を聞きながら一人エッチしてしまった。
 他人のエッチな声を聞きながらって、すごく興奮してしまったけれど、終わったらすごく虚しくなってきた。
 今日、もしも兄貴がデートじゃなかったら。
 兄貴とエッチしていたのは、あたしだったのに。


 そう。
 あたしは、実の兄と肉体関係を持っている。
 一月半くらい前、兄貴相手に初体験してしまった。
 その後も、何度かエッチしている。
 別に、兄貴に恋愛感情を抱いていたわけではない。肉親としては、大好きな兄貴だったけれど。
 ただ、中学二年生っていうのはそろそろエッチなことに興味を持つ年頃で。
 あたしは特に、その傾向が強かったらしくて。
 そして、妹のあたしが言うのもなんだけど、兄貴ってば格好よくて、大学でも女の子にすごくもてる。当然、エッチの経験値も高い。
 だから、兄貴なら優しくリードして、気持ちいい初エッチをしてくれるかなぁ、なんて思ったんだ。
 結果は実際にその通りで、なかなか素敵な初体験だったとは思うんだけど。
 でも、ひとつだけ誤算。
 知らなかった。
 女の子の身体と心って、こんなに密接な関係があるなんて。
 身体を許した相手のことが、こんなに愛おしくなってしまうなんて。
 兄貴とエッチすればするほど。
 エッチが気持ちよくなればなるほど。
 兄貴のことが、好きになってしまう。
 今日だって、兄貴が彼女とエッチしていることが悔しくて、悲しくて。
 胸の奥に溜まったどろどろとした気持ちが、いつまでも消えてくれなくて。
 それで、家を飛び出してきてしまった。
 血のつながった兄貴に恋愛感情を抱いたって、どうにもならないのに。
 頭ではわかっていても、心が納得してくれないんだ。


「香奈ちゃん?」
 溜息をつきながらぷらぷらと歩いていたあたしを、呼び止める声があった。
 聞き覚えのある声……と思いながら立ち止まって振り返る。日焼けした筋肉質の男性が、小さく片手を上げていた。
「……高宮さん」
 それは、兄貴の友達だった。
 高宮浩人さん。高校時代からの親友で、大学も一緒。家にも時々遊びに来るから、あたしもよく知っている。
 兄貴の友達の中では、一番のイイ男。
 ハンサムという点では兄貴も同じだけど、ひょろっとした優男の兄貴と、ちょっと筋肉質なスポーツマンタイプの高宮さん、外見は対照的だった。
「どしたの? なんだか、泣いているみたいに見えたけど」
 優しく訊いてくる。
「え……へへ……」
 あたしは無理に笑顔を作った。けれど、やっぱりどこか泣いているような表情になってしまう。
「ちょっと、ね。落ち込んでるの」
「ふぅん?」
 高宮さんは軽く首を傾げて、それから近くの喫茶店を指差した。
「よかったら、パフェでもおごろうか?」
 泣いている女の子には、とりあえず甘いものでも与えておけばいい。
 そんな単純な考えが見え見えで。
 それが可笑しくて。
 あたしはにこっと笑ってうなずいた。



「……なんと、まあ」
 汗をかいたアイスコーヒーのグラスを持ったまま、高宮さんは驚きと困惑の入り交じった声を漏らした。
 そりゃそうだろう。
 親友が、実の妹と近親相姦していたなんて。
 普通、誰だって驚くはずだ。
 チョコパフェを食べながら、あたしは兄貴とのことを全部話してしまっていた。
 初体験のことも、今日、落ち込んでいた理由も。
 話が終わるまで、高宮さんはなにも口を挟まずに聞いてくれていた。
 この人になら、話しても大丈夫だと思った。兄貴の親友だし、信用してもいいはずだ。
 誰かに、話したかった。
 誰かに、聞いてほしかった。
「裕也の奴……」
 高宮さんの低い声は、なんだか怒っているようにも聞こえた。
「血のつながった、しかもこんな可愛い妹に手を出すたぁ……。香奈ちゃん、まだ中二だろ? なんて羨ま……いや、なんて鬼畜な行為を」
「ふふっ」
 今、「羨ましい」って言いかけたのを聞き逃さなかった。けっこう正直な人かもしれない。
「今度会ったら一発殴ってやる。……いいだろ、そのくらい? 可愛い妹を泣かしたんだから」
「いいよ」
 あたしもあっさりとうなずいた。
 そうそう。可愛い(ここ強調!)妹が泣いてるんだから、一発くらい殴られた方がいい。
 あまり深刻にならずに、わざと冗談めかした高宮さんの物言いが、かえって嬉しかった。
「高宮さんっていい人だね。あーあ、高宮さんみたいな素敵な彼氏がいればなぁ……。近親相姦ってやっぱ虚しいよね。いくら相手が格好よくたって、友達に自慢もできないし、結局は他の女に取られる運命なんだし」
「いい人だろ? もしよかったら、俺に乗り換えない?」
「え?」
 パフェを勧めた時と同じ、あっさりとした口調。
 相変わらず、にこやかに微笑んでいる。
 でも、今、なんて言った?
 本気? ……のわけないよね。
「俺のこと、どう思う?」
「カッコいいと、思うよ」
 内心どきどきしながらも、あたしは正直に答えた。
 高宮さんは素敵な男性だ。精悍な外見も、優しい性格も、すごくいいと思う。
「裕也より?」
「客観的評価では、少なくともタメだと思う」
 タイプは違うけれど。でも、どっちもイイ男には変わりない。
「香奈ちゃんにとっては?」
「……」
 あたしは、ここで返答に詰まった。
 どうも、単なる冗談じゃない雰囲気だ。
 もしここで「高宮さんの方が素敵」なんて答えたら、ひょっとしてあたしの彼氏になってくれるんだろうか。
 でも。
「……高宮さんって、彼女は?」
 きっと、すごくもてるはずなのに。まさか、親友の妹を弄ぼうとしているとは思えないけれど。
「先月からフリー。だから、なんも問題なし」
「う……」
 思わず、心が動いてしまう。
 高宮さんと付き合うことになったら。
 あたしの望み通りの、『大人っぽくて格好よくて優しくて、友達に自慢できる彼氏』ではないか。
 高宮さんには、なにも不満なんてない。
 でも。
 でも……。
 本当に、いいの?
 高宮さんは、素敵だと思う。
 好きか嫌いかって、絶対に好き。
 でも。
 本当に、それでいいの?
 自分に、嘘はついていない?
「……」
 あたしは深呼吸して、できるだけ冷静に自分の心を分析してみた。
 そして。
「……ごめんなさい。兄貴の勝ちです。『兄貴』だから……」
 単純に異性として比べた場合、甲乙つけがたいと思う。
 例えば二人とも他人で「どちらか一人だけを選べ」って言われたら、コインを投げたり、あみだくじで決めてもいい。
 でも、ひとつだけ大きな違いがある。
 兄貴は、単なる異性じゃなくて『兄』なんだ。
 血のつながった兄との、背徳的な関係。
 その事実が、あたしをよりいっそう昂らせている。
 兄妹だからこそ、よりいっそうドキドキしてる。
 今、はっきりとわかった。
 あたしって、兄貴とエッチする前からブラコンだったんだ。
 以前から、あたしは年上がタイプだと思っていた。
 だけど違う。
 条件は「年上」じゃなくて「兄」なんだ。
 格好よくて、優しくて。生意気な口を利きながらも、つい甘えてしまいたくなるような兄。
 それが、あたしの理想の男性だったんだ。
 いくら高宮さんが素敵な男性でも、他人である以上、兄貴より好きなることはできない。あたしのブラコンが今すぐ治らない限りは。
「……ごめんなさい」
 あたしは正直に、いま考えたことを話した。だけど意外なことに、高宮さんってばにこにこ笑いながら聞いている。
 そしてあろう事か、あたしの話が終わるとこう言ったのだ。
「だったら、まだ俺にも望みはあるな」
「え? でも……あたしのブラコンは筋金入りだよ? そりゃあ、高宮さんみたいな素敵な男性が側にいれば、いつかは治るかもしれないけど。でも、それがいつになるか……」
「別に、ブラコンのままでいいさ」
「え?」
「二人の関係を変えればいい」
「……?」
 あたしは黙って首を傾げた。彼がなにを考えているのか、まるでわからない。
 高宮さんはにこにこと笑って、あたしの顔の前で人差し指を立てた。
「香奈ちゃん、俺の妹にならないか?」
「……は?」
 もっと、わからなくなった。ぱちぱちと瞬きを繰り返しながら、今の台詞の意味を考える。
 妹に、なる?
 高宮さんの?
 高宮さんの家の養女になるの?
 それは無理だと思う。うちも両親は健在だし。
 じゃあ、ひょっとして「義妹」って言ったのかな?
 例えば兄貴が、高宮さんの妹かお姉さんと結婚すれば……って、高宮さんって確か一人っ子じゃん。
「……あの?」
「香奈ちゃんは、裕也がいい男だからというよりも『兄』だから好きなんだろ? だったら、俺のことを兄だと思ってくれたらどうだ? 俺も、香奈ちゃんのことを本当の妹だと思うことにする」
「あ……」
 なんとなく、わかってきた。
 今の台詞を、頭の中でもう一度反芻する。
「つまり……『兄妹ごっこ』ってこと?」
「そう。戸籍上は確かに他人なんだけど、二人でいる時は実の兄妹として振る舞う。これなら、いろいろな問題はクリアできるだろ?」
「えっと……」
 よく、考えてみる。
 頭の中でシミュレーションしてみる。
 高宮さんが、実の兄。
 二人でいるときには、本物の兄妹として振る舞う。
 うわぁ……。
 考えていたら、どきどきしてきた。
 あたしってば本当に、筋金入りのブラコンだぁ。
 まさか『兄』ならなんでもOKなんだろうか。いやいや。兄貴も高宮さんも、間違いなく「いい男」だもんね。
「でもさ……」
 ひとつ、気になることがある。
「高宮さんは、本当にいいの? 相手があたしみたいなブラコンのお子様で、そんな変な付き合い方で……」
「俺はね、裕也がうらやましかったんだ。一人っ子だろ。ずっと、香奈ちゃんみたいな可愛い妹が欲しいなって思ってた。どう?」
 それって。
 つまり。
「高宮さんって……一人っ子なのにシスコン?」
「専門用語で言うと『妹萌え』ってやつだな」
 なんの専門用語なんだか。
 でも。
 でも……。
 いいかも。
 高宮さんが、あたしの『兄』になる。
 でも、公には「恋人」って言っておけば、なにも問題ない。
 二人っきりの時には、兄貴にするみたいに甘えて。
 友達には「彼氏」って言って自慢できるし。
 その気になれば、将来は結婚だってできる。
 すごく、いいかも。
 あたしは、小さく深呼吸した。
 でも、高宮さんは『兄貴』じゃない。そのけじめだけはつけないといけない。あたしの兄貴は、桂木裕也ひとりだけだから。
 だから……。
「……お兄ちゃん、って呼んでもいい?」
 そう言った瞬間の高宮さんの顔ったら。
 この人、本物のシスコンだぁ。
「……か、感動だ」
 なんて言って、ぎゅっと拳を握っている。
「お、に、い、ちゃん」
 もう一度呼んでみる。
 あーあ。
 せっかくのハンサムな顔が台無し。あんなににやけちゃって。
「……俺も、香奈って呼び捨てにしていいか?」
「うん。これからよろしくね。お兄ちゃん」
 これって……いいかも。「お兄ちゃん」って呼び方、いかにも甘えん坊の妹みたいで、すごくいい。
 思えば、物心ついた頃から「兄貴」って呼んでたもんなぁ。「お兄ちゃん」なんて言葉、初めて使ったような気がする。
 いいな、これ。
 あたしたちって、いいカップル……ううん、いい兄妹になれるかも。


「これからどうする、香奈?」
 喫茶店を出たところで、高宮さ……じゃなくて、お兄ちゃんが訊いてくる。
 あたしは、お兄ちゃんの腕にぶら下がるようにしがみついた。
「行きたいところでも、食べたいものでも。なんでも言っていいぞ」
「なんでも? ホント?」
「ああ」
「じゃあ……」
 上目遣いにお兄ちゃんの顔を見上げる。
 うんと、甘えた声で言った。
「……お兄ちゃんと、エッチしたいな」
 一瞬、お兄ちゃんの動きが固まる。まったく期待していなかったはずはないと思うんだけど、でもやっぱり少し驚いたみたい。
 お兄ちゃんは身体を屈めて、あたしの耳元でささやいた。
「いいのか、本当に」
「うん」
 そりゃあ、いきなりエッチまでしてしまうのはどうかと思うけれど。
 でも、お兄ちゃんは以前からよく知ってる人だし。
 やっぱり、最初にちゃんとしておいた方がいいと思う。擬似兄妹の契り、ってやつを。
 それに、当てつけの気持ちもあったかもしれない。兄貴は今ごろ、彼女とイイことしているはず。あたしが他の男性としたっていいはずだ。
「お兄ちゃんを誘惑するなんて、悪い子だ」
 なんて言って。でもすごく嬉しそう。
 すごくもてて、女の子には不自由したことないはずのお兄ちゃんなのに。あたしとエッチできるってことが本当に嬉しいみたい。
 あたしも嬉しくなってしまう。
「エッチな妹は、嫌い?」
「……大好きだよ」
 耳に息を吹きかけるようにささやかれて。背筋がぞくぞくする。
 そのまま、ほっぺにチュッとされちゃった。
 肩を抱かれて。
 あたしたちは、近くのラブホテルへと向かった。
 歩いている途中、あたしは何度も何度も「お兄ちゃん」って呼んだ。その度にお兄ちゃんが優しく微笑んで「香奈」って応えてくれる。
 その笑顔が、すごく好きだと思った。



「ふわぁ。ラブホの中って、こんな風なんだー」
 エッチは何度か経験したあたしだけど、考えてみればラブホって初めて。
 する時はいつも、兄貴の部屋だったから。
 部屋に入ると、いきなりぎゅうっと抱きしめられた。壁の大きな鏡に、抱き合っているあたしたちが映っている。
 胸が、ドキドキした。
 兄貴とする時よりも、興奮してるかもしれない。少なくとも、初体験の時と同じくらいには。
 あたしは背伸びして。
 お兄ちゃんは少し屈んで。
 唇を重ねた。
 舌を絡め合う。
 痛いくらいに強く抱きしめられての、激しいキス。
 これだけでとろけちゃいそう。
 長い、長いキス。
 下着の中が、濡れてきている。
 鼓動が速くなって。
 身体中、汗ばんでくる。
 お兄ちゃんが腕の力を緩めると、あたしはその場にぺたんと座り込んでしまった。脚に、力が入らない。
「お兄ちゃん……」
 床に座ったまま、お兄ちゃんの脚にしがみついた。そのまま、太股から股間にかけて頬ずりする。
「か、香奈……」
 お兄ちゃんの声もうわずっている。
 あそこが、硬くなって膨らんでいる。
 ジーンズの上から、その部分に唇を押し付けた。
「……すごく、大きくなってる。ねえ、興奮してるの?」
「ああ。香奈とできると思うと、もう堪らないよ」
「んふ」
 あたしは、ジーンズのファスナーを下ろした。
「中学生の妹に手を出してこんなになってるなんて、悪いお兄ちゃん」
「お互い様だろ」
「……あっ」
 お兄ちゃんは、足をあたしの股間に押し付けてきた。あたしもすっかり興奮していたから、思わず声が漏れてしまう。
「んっ……ふぅっ、んっ」
 二度、三度。つま先を擦りつけられて。その度に身体が小さく痙攣した。
「お兄……ちゃん……」
「香奈も……な?」
「……うん」
 ジーンズの中から、お兄ちゃんのアレを引きずり出した。
 それはもう、これ以上はないってくらいに大きく、硬くなっていて。
 すごく、熱かった。
「……すごい」
 あたしは息を呑んだ。
 大きい。
 兄貴のも、平均よりはずいぶん大きいはずなんだけど。その兄貴のよりも、長さは同じくらいだけど、ほんの少し太い気がする。
 対して、兄貴が言うにはあたしのはかなり小振りなんだそうだ。あたしがちびのせいでもあるけれど。
 それなのに、お兄ちゃんのはこんなに大きいなんて。
 ちょっと期待……じゃなくて、不安。
 ホントに、ちゃんと入るのだろうか。兄貴とするのだって、今でも挿入はけっこう痛いのに。
 こんなことなら、兄貴ともっといっぱいやって慣らしておけばよかった。初体験の後、最後までしたのはまだ三度だけなのだ。
 触ったり触られたり、舐められたり舐めたりくわえたり……はしょっちゅうしてるけれど、最後までとなると親がいない日にしかできないし、生の方が気持ちいいから安全日にしかしないし。
 だから、最後までした回数は意外なくらいに少ない。
 まだまだ男の人を受け入れるのには慣れていない、未熟なあたしの身体。ちゃんと入れられるのか、お兄ちゃんを満足させられるのか、ちょっと不安でもある。兄貴は、お世辞抜きであたしのはすごくイイって言ってくれてるけどね。
「お兄ちゃんの、大きい……」
 あたしはそれをそっと握って、先端に唇を押し付けた。口を少しだけ開いて、舌を伸ばす。
「香奈のは小さそうだよな。ちゃんと入るかな?」
「……わかんない。でも、無理やり入れたっていいよ。お兄ちゃんなら、少しくらい痛くたって平気」
「このぉ。可愛いこと言ってくれるじゃん」
 くしゃくしゃって、ちょっと手荒にあたしの頭を撫でてくれる。
 あたしは少しずつ、舌を這わせる範囲を広げていった。
 先端から、根本の方まで、念入りに、隈無く。
 舌を滑らせ、あたしの唾液を塗りつけていく。
 時折、お兄ちゃんが小さな声を漏らす。それが嬉しくて、もっと大きな声を出させちゃおうって気持ちになる。兄貴が、あたしが泣き出すまで指や舌で愛撫を続けることがあるけど、同じような気持ちなのかもしれない。
「香奈……上手だな」
 本当に、気持ちよさそうに言ってくれる。
「へへ……」
「裕也に教わったのか?」
 少しだけ、嫉妬の混じった台詞。そんなお兄ちゃんが可愛い。
「ううん。あたし、初めての時から上手だって褒められたよ」
「天性の素質ってやつか」
「あはは。……ね、口でするのが上手な妹って好き?」
「最っ高」
 お兄ちゃんの両手が、そっと頭に添えられる。乱暴に掴むんじゃなくて、優しく挟み込むように髪を撫でている。
「……ん」
 髪に触れられただけで、感じてしまう。
 あたし、本当にフェラチオって好き。兄貴相手でも、放っておけば(そして兄貴がいかなければ)顎が痛くなるまで続けてしまう。
 これって、すごく興奮するんだ。
 女の子にとっては、セックスそのものよりもエッチな行為って気がする。
 それに、あたしから兄貴やお兄ちゃんに対して、一方的にしてあげられることだし。
 口で一生懸命奉仕して相手がいってくれた時って、本当に嬉しい。それに自分でもすごく興奮しちゃって、あそこは滴るほどに濡れてしまう。
 今だってもう、ぐっしょりだ。
 片手で、触れてみた。
「……、……んっ」
 すごいことになってる。
 あたしは指の腹でその部分を擦りながら、お兄ちゃんへの奉仕も本格的に開始した。
 太いものをしっかりとくわえ込んで。
 舌を絡ませたり。
 強く吸ったり。
 内頬に擦りつけたり。
 軽ーく噛んだり。
 奥まで呑み込んだり。
 本や、ビデオや、兄貴との実践で学んだ技術を総動員する。
 その間、自分の中にも指を入れる。そこはもう、熱くとろけている。
 お兄ちゃんの声が、だんだん大きくなってきた。
 あたしの頭に添えられた手に、少し力が加わる。
 感じてる。
 感じてくれてる。
 このまま、いかせてあげたい。
 全部、飲んであげたい。
 そう思っていたのに、もう少しってところでいきなり口の中から引き抜かれてしまった。
「……っ、ダメだ。それ以上やったら、ホントにいっちまう」
「え、いいよ。口でいってくれても。飲んであげる。それとも顔にかけたい?」
 嫌がる女の子も多いらしいけど、あたしは好きだから。そういう、エッチなことをされるのが大好きだから。
 そして男の人って、女の子にかけたり飲ませたりするのが大好きなはず。少なくとも兄貴はそうだし、アダルトビデオを見ても大抵そうだ。
「遠慮しなくていいよ。兄妹なんだから」
「いや、それはこの次に頼むよ。最初は、ちゃんと香奈の中に出したい……いいだろ?」
「え? あ……うん」
 あたしは、一回口で飲んであげて、二回目に中にしてもらおうと思っていたんだけど。でもお兄ちゃんがそうしたいなら。
 だけど、あたしが一瞬ためらった理由を、お兄ちゃんは違う受け止め方をしたらしい。
「ひょっとして、マズイか?」
「ううん。今日は大丈夫……ていうか、あたしも中で出されるの好きだったり」
 照れ隠しに、へへへって笑う。
 比べてみればわかる。生でするのと、コンドーム着けてするのでは、絶対に生の方が気持ちいい。
 考えてみればそうじゃない?
 ゴムという無機質なもので擦られるのなんて、バイブレーターとか使うのと一緒じゃない。好きな人の粘膜と自分の粘膜が絡み合う、あの感覚こそエッチの醍醐味だ。
 ちなみに、この意見を友達に言ったら「香奈ってば大人ー!」って感心された。そうなんだろうか。まだ片手で数えられる経験数で、そこまで違いがわかるってのは、少数派なんだろうか?
 だとしたら、あたしには元々エッチの才能があったんだろうか。それとも、経験豊富な兄貴に教わっているからなのかもしれない。
 どっちにしろ、男の人には悦んでもらえるんだからいいんじゃないかな、って思う。
「……ベッド、連れてって」
 甘えるように言って、腕を伸ばす。お兄ちゃんはあたしを軽々と抱き上げて、優しくベッドまで運んでくれた。
 服が、脱がされていく。
 一枚ずつ、ゆっくりと。
 裸になったあたしを見ながら、お兄ちゃんも服を脱ぐ。
 二人とも全裸になって抱き合う。
 大きな身体が、覆い被さってくる。
 肌と肌が密着する。
 お兄ちゃんの鼓動を感じる。体温を感じる。
 大きな手が、あたしの敏感な部分に触れた。
 小さなあたしは、大きな声で反応する。
「すごい濡れてるな、香奈」
「だって……」
 あまりはっきり言われると、自分がすごくいやらしい女の子みたいで。それは確かに事実だけれど、やっぱり少し恥ずかしい。
 なのに。
「だって?」
 お兄ちゃんってば、あたしの口からはっきり言わせようとする。
「お、お兄ちゃんに口でしてあげてたら……あたしも、すごく興奮しちゃって。それで……自分で……触っ……て……」
 ううっ。
 これ以上自分から言うのは、さすがのあたしでも恥ずかしい。
 でも、優しい笑みであたしを見ているお兄ちゃんは、もっと言わせたがっているらしい。
「だから……その……」
「だから?」
 あたしってば、こういう攻めに弱いんだ。
「だから……あの…………」
 身体の芯が、かぁって熱くなってくる。
「もう……お兄ちゃん……の…………入れて」
 うわぁ、もう!
 この台詞って、恥ずかしすぎるよ。
 あたしは真っ赤になって、両手で顔を覆った。
 お兄ちゃんが、小さな声で笑っている。
「本っ当に可愛いな、香奈は。こんな可愛い妹がいて幸せだよ、俺は」
「……お兄ちゃん」
 そんなこと言われたら、あたしも嬉しくなっちゃう。
「お兄ちゃん……来て」
 つい、甘えた台詞を口にしちゃう。
 お兄ちゃんはあたしの脚を大きく広げさせて、その間に身体を入れてきた。
「あ……んっ!」
 お兄ちゃんの指に、あそこを広げられる。そして、指じゃないもっと大きなものがそこに触れる。
 緊張の一瞬。
 何度か経験したけれど、やっぱり緊張してしまう。
 大きくて、硬くて、熱いものが押し付けられて。
 あたしの、狭い膣口が。
「んっ……くっ、んっ……っぅんっ!」
 ゆっくり、少しずつ。
「ふ……ぅん……んんっ! あ……」
 広げられていく。
「ふぁ……あぁ……あぁっ!」
 巨大な異物の侵入に抗うあたしの秘所。
 だけどそれは最初から勝敗がわかっている戦いで。
「うぅ……くぅっ!」
 じりじりと、ほんの少しずつ。
 ミリ単位で。
 だけど着実に侵入してくる。
「い……いぃっ、くぁ……ぁ」
 あそこはもう、いっぱいいっぱいに広げられている。
 少し……ううん、かなり痛い。
 女の子の部分はかなり伸縮性があるとはいえ、それでも限界はある。お兄ちゃんの太さはその限界ぎりぎりのところじゃないだろうか。
 セックスでこれじゃあ、あたしが将来子供を産む時は大変だろうなぁ……って、そんな先のことを今心配しても始まらない。でもそれがお兄ちゃんの子供だったらいいかも……なんて、痛みに耐えながらそんなことを考えていた。
 多分、あたしがもう少し大人になって、もう少し経験を積めば、もう少しスムーズに入るようになる。
 でも、今はやっぱり痛い。
 とはいえ、実はあたし、この痛みがけっこう好きだったりする。
 痛くて、苦しいんだけど。
 この、狭いところに無理やり入れられているって感じが。
 お腹の中を、いっぱいに満たされてる感じが。
 けっこう、イイ。
 正直に言えば、ただ感じるってだけなら指や舌でされる方がいい。肉体的な快感っていう意味では。
 だけどこの挿入感は、すごく、心が感じてしまう。
 薄々思っていたけれど、あたしってブラコンなだけじゃなくて、ちょっとマゾっ気があるのかもしれない。
 エッチなことしながらの、ちょっとした痛みや苦しみに感じてしまう。だから口でするのも、あの太いものを喉の奥まで入れるのも、苦しいけれど好きなんだ。
「あぁん……あぁぁっ! はっ……あぁっ! あぁぁっ……あぁ――っ!」
 なんとか、一番太い部分が通り抜けて。
 ずぶずぶと、一気に奥まで入ってくる。
 一番深い部分を突かれて、あたしは悲鳴を上げた。
 お兄ちゃんの身体にしがみつく。
「すっげぇ、きつい」
 お兄ちゃんがふぅっと息を吐いた。
「こんなの、初めてだ。痛いんじゃないか?」
「うン……痛い」
 あたしは正直に答える。このきつさと、挿入の痛みにゆがんだ顔は誤魔化しようがない。
「痛い……けど、感じちゃう……」
 これも嘘じゃない。最近ちゃんと、本番でも感じるようになってきている。こんな太いもので貫かれているのに、それでも気持ちよくなってきている。
「……少しなら、動いてもいいよ」
「じゃあ、ゆっくり……な」
「うン」
 ズル……ズブ……。
 そんな感じで、ゆっくりとお兄ちゃんが動く。
 あたしの胎内で。
 ゆっくりと前後に。
 身体の中を、えぐられるみたい。
 ほんのちょっとの動きで、あたしは悲鳴を上げてしまう。
 でも。
 だんだん。少しずつ。
 気持ちよくなってくる。
 また、すごく濡れてきて。
 中がほぐれてきて。
 痛みもいくらか和らいでくる。
「は……あぁ……あぁっ……お兄ちゃぁん」
「ん……香奈」
「お兄ちゃん……ぅあっ……あたし……いい?」
「ああ、こんなに気持ちいいのは初めてだ」
「ホントに? ね……ホント?」
「本当だよ」
 お兄ちゃんはそう言って、あたしにキスしてくれる。
 唇を重ねたまま、ズンって奥まで突き上げてくる。
「――っ! んんんっ!」
「最高だよ、香奈。香奈も、感じてる?」
「お兄ちゃあん……お兄ぃ……あぁっ!」
 やっぱり、間違いない。
 この前、兄貴とした時よりも感じてる。
 どうやら、まだ経験の浅いあたしの身体は、一回ごとにだんだん感じるようになってきているらしい。
 これなら、大丈夫だ。
「……あぁんっ! お兄……ちゃん……。い、いきたく……なったら……いっぱい動いても、いい……よ。平気……だから」
 確かに、あたしには今のゆっくりとした動きの方がいい。激しく動かれたら、痛くて泣いてしまう。
 だけどそれでは、兄貴はなかなかいけないのだ。きっとお兄ちゃんもそうだろう。うんと長い時間をかければいけるのかもしれないけれど、それではむしろあたしの方が辛い。
 だから兄貴とする時は、痛いのを我慢して最後だけ激しく動いてもらっている。あたしの方から言わなければ、遠慮して射精せずに終わりかねないのだ。それではあたしもなんだか悲しい。
「だから……ね。いいよ……好きにして……」
「かえって、あんまり時間かけない方がいい?」
「……時間が同じなら……間に休憩入れて二回の方がいいかも」
「二回、してもいいのか?」
「お兄ちゃん、したい?」
「……香奈さえよければ。でも、無理はすんなよ」
「大丈夫……だと思う。三回までは、したことあるもん」
 初めての時に。あれは自分でも無茶したと思う。
 でも、二回くらいならきっと大丈夫。
 ……と、思ったんだけど。
「じゃあ、三回だ」
 お兄ちゃんは、少しむっとしたように言った。
「え?」
 三回は、ちょっと辛いんだけど。
「裕也とは三回したんだろ? だったら負けられるか」
「……お兄ちゃんて、やきもち妬きだぁ」
「悪いか。ただでさえ、香奈のバージン奪われてムカついてるのに」
 本気でやきもち妬いてる。
 えへへ、嬉しいな。
「……うん、いいよ。あたし頑張る」
「早めに終わらせるようにするから」
「うん……あっ、あんっ!」
 また、お兄ちゃんが動き始める。
 最初は、それでもゆっくりと。
 でも、だんだん動きが大きくなってくる。
「あっ……あっ……あっ、あっ、あっあぁっ!」
 大きくなって、そして加速していくお兄ちゃんの腰の動き。それと同じタイミングで、あたしは切ない声を上げる。
 痛いのか、苦しいのか、気持ちいいのか。
 よくわからない。その三つがぐちゃぐちゃに混じった感覚。
「あぁんっ! あぁんっ! あはぁっ! おっ、お兄ちゃんっ!」
 お兄ちゃんの大きな身体にぎゅっとしがみつく。そうしていないと、どこかに飛んでいってしまうような気がした。
「お兄ちゃんっ! あぁんっ! お……っ兄ちゃあん!」
「香奈っ」
 お兄ちゃんが、あたしの中で暴れてる。
 あたしの小さな身体を、めちゃめちゃに蹂躙してる。
 そして。
 あたしは、感じてる。
 お兄ちゃんも、あたしの身体で感じてくれてる。
 どんどん激しくなる動きが、その証拠。
 あたしのお腹や胸に、ぽたぽたと汗が落ちてくる。
「あぁぁっ! あぁぁっ! あぁぁっ!」
 激しい。
 こんなに激しいの、初めて。
 無我夢中でお兄ちゃんにしがみついて、あたしは泣いていて、でも気持ちよくて。
「あぁ――っ! お兄ぃっ、ちゃあぁぁっ! あぁっ! あぁぁっ!」
 一往復ごとに、角度を変えて突いてくる。
 あたしの小さな身体が、ベッドの上で弾む。
「あぁぁんっ! あぁぁ――っ! あぁぁっ! あぁんっ!」
 壊れちゃう。
 本当に、壊れちゃう。
 痛いのに。
 いっぱいに広げられちゃってるのに。
「あぁんっ! あぁぁんっ! あぁぁんっ! あぁぁっ!」
 感じちゃってる。
 お兄ちゃんので、感じちゃってる。
 いっぱいいっぱい、感じさせられちゃってる。
「あぁっ! お兄ちゃぁんっ!」
「……もっと、お兄ちゃんって呼んで」
 お兄ちゃんの声は、どこか遠くから聞こえるみたい。
「お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ! あぁぁっ! お兄ちゃぁんっ!」
 お兄ちゃんって呼ぶ度に、激しく突かれてしまう。
「香奈っ、香奈っ!」
「あぁぁ――っ! お兄ぃっ……お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ! お兄ちゃんっ! お兄ちゃぁぁんっ! あぁぁっ! あぁぁぁっ!」
 あ……
 あぁ……
 気が遠くなりそう。
 いちばん――
 あたしの、いちばん深い部分で。
 お兄ちゃんがビクッビクッって脈打ってる。
 あたしの中に、いっぱい、いっぱい、注ぎ込まれてる。
 お兄ちゃんの精が。
 お兄ちゃんは痛いくらいに強くあたしを抱きしめて。
 いっぱい、いっぱい。
 あたしの中に、お兄ちゃんの命を注いでる。
 これで――
「香奈」
 満足そうに大きく息をついたお兄ちゃんが、あたしの乱れた髪を手ぐしで直してくれる。
 その後、何度も何度も頭を撫でてくれる。
 まだ、お兄ちゃんはあたしの中にいる。
 二人は、ひとつにつながったまま。
「……お兄ちゃん」
「ごめん、痛かった?」
「うん……だから、ね」
「ん?」
「ちょっと痛いけど、我慢してね」
 あたしはそう言うと、首を伸ばしてお兄ちゃんにキスをする。そのまま、唇に噛みついた。
「っ、痛……」
 お兄ちゃんの唇から、血が滲んでくる。
「あたしは、もっと痛かったもん」
「だからって……」
 お兄ちゃんの台詞を遮って、もう一度キス。
 血が滲んだ唇を、ぺろぺろと舐める。
「香奈?」
「あたしにも、同じこと……して」
「あ」
 どうやら、お兄ちゃんにもわかったらしい。あたしが何をしたいのか。
 今度はお兄ちゃんの方から唇を重ねてくる。
「……ん!」
 唇を噛まれる。血が滲むくらいに。
 その血を、お兄ちゃんの舌が舐め取っていく。
 これでほんの少しとはいえ、あたしとお兄ちゃんの血は混じったことになる。
 ほんの少しだけ、血のつながった兄妹。
 この『兄妹ごっこ』をいつまでも続けていくという、誓いの儀式だった。



「……と、ゆーわけ。…………なんだけ、ど?」
「……」
 洗いざらい白状したあたしは、おそるおそる兄貴の顔を覗き込んだ。
 本当は、ここまで全部話すつもりはなかったんだけど。
 結局、言わされてしまった。
 つまり、その。
 あたしは今、兄貴のベッドの中にいる。
 あのまま、強引に部屋へ連れて行かれて。押し倒されて。
 いわゆる「身体に訊く」ってやつ。
 さすがにこれはひどいと思う。今日はお兄ちゃんと三回もして、もうくたくたなのに。
 それとも、それでも感じてしまうあたしがいけないんだろうか。
 とにかく、いっぱい気持ちいいことされちゃって。その上でさんざん焦らされて焦らされて。
 全部、白状させられてしまったというわけ。
 でも。
 うう……。
 兄貴の沈黙が怖い。
 肩が、ぶるぶると震えてる。
「……そりゃあ、な」
 三分くらい続いた沈黙の後、兄貴は大きく息を吐いて話しだした。
「俺だって、香奈が俺に本気になり始めてるのは感じてたし、マズイと思ってたよ。でも、だからってよ!」
 どんっ!
 兄貴は拳で枕を叩いた。
 声が大きくなる。
「こんな、なんの予告もなしにいきなり。しかも、高宮とできちまっただって? 俺だって香奈の前で彼女といちゃついてんだから、言えた義理じゃないんだろうけど。けどなぁ……、頭で理解しようとしても、感情が納得してくれねーんだよ! 可愛い妹寝取られて、笑ってられるかって! ちくしょう!」
 何度も何度も、枕に八つ当たりする。きっとそこに、お兄ちゃんの顔でも見えてるんだろう。
 あたしは、そんな兄貴を見てくすくすと笑った。
 あたしはブラコンだけど、兄貴も正真正銘のシスコンだ。お兄ちゃん風に言えば「妹萌え」だっけ?
 普通、妹なんて他の男に寝取られる運命にあるものじゃない。
 それを、こんなマジになって怒るなんて。
 すっごく、嬉しい。
 あたし、やっぱり兄貴のことも好きだから。
 こうして妬いてくれる兄貴は、すっごく嬉しい。
「おい。お前がなんと言おうと、俺は高宮を一発殴るからな!」
 思わず、ぷっと吹きだした。
 兄貴とお兄ちゃんって、外見は似てないのに中身はけっこう似てる。
「お兄ちゃんも、同じこと言ってたよ。やっぱり、初めてを奪われたのが悔しいんだって。こーゆーのは理屈じゃないんだって言ってた」
「う……」
 恋敵(?)と「似たもの同士」と言われて、兄貴が絶句する。自分でも思うところはあるのだろう。
「あのね」
 あたしはベッドの上に頬杖をついて、にこにこと笑いながら言った。
「あたし、お兄ちゃんのことが好き。それに、あんまり本物の近親相姦にのめり込むのってよくないと思う」
 兄貴もそれはわかっているんだろう。でも、あたしの口からはっきりそう言うと、目に見えて落ち込むところが可愛い。
 あんまり苛めちゃ可哀想かな。
「……でもね、兄貴のことは今でも好きだよ。だからさ、兄貴とも今まで通りでいたいんだけどな……。ダメ?」
 この一言でぱぁっと顔が明るくなるんだから、やっぱり男って単純だ。
 でも、そんなところが好きなあたしはやっぱり『女』なんだ。
「……でも、高宮がそれでいいって言うか?」
「ダメって言っても内緒でするよ」
 そう答えたら、兄貴ってば本当に嬉しそうな顔をした。今なら、前々から欲しかったノートパソコンをねだっても買ってもらえそうな気がする。
 でも、これってちょっと反則だよね。
 実はもう、このことはお兄ちゃんの了解をもらってるんだ。
 ちゃんと言った。「あたしは当分、お兄ちゃんだけ、兄貴だけを選ぶことはできない」って。
 お兄ちゃんは「仕方ないな」って笑っていた。
 そして、もう一つ。
 お兄ちゃんには了解を得ている話がある。
 つまり。
 その……まあ、なんていうかな。
 好奇心旺盛な年頃だし、さ。
 一度……ほら。
 3Pっていうのも、してみたいかなぁ、なんて。
 ……ねぇ?




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