創作少女物語

 

「ところで晶、次の夏コミの原稿は進んでるの?」
「う……うぅぅ……ん」
 友希さんの不意打ちの質問に対して、あたしは呻き声で返事をした。
「もう六月も終わりだよ。次は新刊三冊とか息巻いてたでしょ? 大丈夫なの?」
「うぅ……あぅあぅあぅあぅぅぅ〜」
 呻き声のボリュームが上がる。
 そのままあたしはベッドに突っ伏して、クッションに顔を埋めた。
「……とりあえずね、ナルトとテニプリはなんとかなりそうなの。ただね、その、オリジナルの方が……」
「晶、あんたまさか……」
 友希さんが剣呑な目つきになる。
「まさか『裕貴×暁』の新刊、落とすつもりじゃないでしょーね? アタシはあれを一番楽しみにしてるんだから」
「あぅあぅあぅ〜、ネームは途中までできてるの。でもそこで煮詰まっちゃって……」
「新刊落としたら泣かす、殺す、ついでに犯ス。呻いているヒマがあったら、さっさと描きなさい!」
 フライングボディプレスのような形で、友希さんが上に乗ってくる。あたしは「ぐゲ!」と踏まれたカエルのような声を上げた。


 あたしの名前は水戸野 晶、もうすぐ十五歳になる中学三年生。
 趣味は、同人誌を作って即売会に参加すること。
 ジャンルはもちろんボーイズ・ラヴ。それもエッチあり、の♪
 だけどあたしはまだ十五歳にもなっていないから、いちおう十八禁にはならない程度に、ソフトにしているつもりではある。
 今は夏コミ向けの締切りが迫って、修羅場突入寸前っていう状況。
 そして、あたしを布団蒸しにしているおねーさんが、芳原 友希さん。ふたつ年上の高校二年生。
 去年のコミケで、たまたまあたしの本を買ってくれた人で、それを気に入って手紙をくれて、そしたら実は同じ町内に住むご近所さんだったという偶然。
 以来、あたしの一番のファンで、親友で、頼りになるお姉さんという付き合いが続いている。
 今日は土曜日で学校が休みなので、あたしの家に遊びに来ていて、冒頭の会話になったというわけ。
 以上、状況説明終わり。


「スランプ知らずの晶が煮詰まってるって、どうして? そのネーム、見せてよ」
 その言葉に素直に従って、あたしは描きかけのネームを渡した。
 友希さんは自分では描かないらしいけれど、ボーイズラヴにはちょっとうるさい人で、ストーリィ作りではいつもアドバイスをもらっている。
 この話はあたしのオリジナルで、隣り合う高校(もちろん男子校)に通う二人の男の子が主人公だった。二人ともテニス部で、お互いをライバルと認めていて、試合を通じて深まっていった友情が、いつしか一線を越えて……という内容。
 このシリーズを最初に描いたのが去年のコミケで、その本を友希さんが買ってくれたのだ。主人公の一人の名前が、友希さんと同じ読みだったのがきっかけだった。ちなみにもう一人の名前「暁」は、自分の名前からとったものだったりする。
 ぱらぱらとネームを読んでいた友希さんの頬が、だんだん赤く染まってきた。食い入るように紙面を見つめている。
「いいじゃん、面白いよコレ。いよいよ裕貴と暁が結ばれるんだね。どうして続きを描かないの? よりによって一番イイところで……」
「だって……」
 ベッドの上に座っていたあたしは、あからさまに答えるのが恥ずかしくて、抱きしめていたクッションに顔を埋めた。
「……よく、わからないんだもの」
「え?」
「だから、その……男の子同士のエッチって、実際、……どんな風に感じるのかなぁ、とか」
「ふむ」
「あたし、普通のエッチも経験ないのに、……お、お尻とか、ぜんぜんわかんないんだもん」
「なるほど」
「今までも想像で描いてきたけど、やっぱり思い入れのある作品だから、もっとちゃんと、リアルに描きたいなぁ、って」
「あははー、そーゆーこと」
 真面目な表情で相づちを打っていた友希さんが、ついに笑い出した。
 確かに、バカみたいな悩みかもしれない。だけどあたしにとっては大問題なのだ。
「バッカねー。どうしてもっと早く相談しないの」
「え?」
「アタシに任せなさい。ここは、友希おねーさんが一肌脱いであげましょう」
「……って、あの?」
 戸惑うあたしを残して、友希さんは「すぐ戻る」と言って家へ帰っていった。


 三十分後――
 大きな鞄を肩にかけて、友希さんが戻ってきた。
「なに、その大荷物?」
「開けてごらん」
 友希さんは鞄を床に置く。あたしは素直に従った。
 すると、中からでてきたものは。
 まず、学ランが一着。
 次に、男子のブレザーの制服が一着。
 Yシャツが2枚。
 そして……。
「こ、こっ、これって……っ!」
 あたしは絶句してしまった。
 知識では知っているけれど、実物を見るのは初めて……の、バイブレーターとかなんとか、そういった所謂『オトナのオモチャ』がいろいろと出てきたのだ。
「……ゆ、友希さん。これで、あたしにどうしろと?」
「だから、さ」
 友希さんがニヤァ……と、ものすごーく意味深な笑みを浮かべる。
「経験ないから、上手く描けないんでしょ? 自分で経験してみりゃいいじゃん。兄貴の制服借りてきたからさ、二人で裕貴×暁ごっこしよ?」
「け、経験って……、裕貴×暁ごっこって……」
「アタシが『裕貴』になって『暁』を犯すの。どぉ?」
「ど、どぉって……」
「スルのは『後ろ』なんだからイイじゃん。ホントのバージン失くすわけじゃないんだし。何事も経験だって」
「け、経験って、そんな……」
 友希さんってば、普段から結構大胆な思考回路の持ち主だったけれど。
 まさか、これほどとは思わなかった。
 いくらなんでも、そんなことできるわけがない。
 だいたい、女同士でそんなこと……って、普段、男同士のエッチばかり描いてるアタシだけど、自分が当事者となるとやっぱり戸惑いがある。
「大丈夫。痛くしないから」
 いや、そんなことを心配してるんじゃないんだけど。
 っていうかそれ以前の問題。
「アタシの持論としては、やっぱりエッチに関しては、まったく経験がないといいものは描けないと思うんだよね、マンガでも小説でも。特にボーイズラヴなんて『お尻』の経験なしに描いてるのが多くて、読んでて笑っちゃうようなのがあるよね」
「そ、そうなの?」
「そうそう、全然リアリティがないの。お尻に限らず、普通のエッチだってそうだよ。雑誌の体験告白記とかでも、本物と、経験のない子が描いた作り話と、読めばだいたいわかるよ」
「そ……そうなんだ……」
 なにしろあたしも経験ナシの中学生。そういった「違いのわかる」人間ではない。
 大きな声では言えないけれど、ひとりエッチくらいは少しは経験ある。だけどパートナーが必要な行為は、まったくの未経験なのだ。
「だから、さ。試してみよ? やっぱり創作をする上で実体験は大切だって。これがSFとかファンタジーとか推理ものなら、想像だけで書くしかないけど、エッチはその気になれば自分で経験できるんだから」
「う、うーん……」
「いい作品を書く作家って、みんな勉強してるよ。十分に調べもせずに想像だけで書いた作品って、やっぱりどこか底の浅さを感じるんだよね」
「そ、そうかな……そうかも……」
 言葉巧みに説得する友希さん。あたしもだんだん、その気になってしまう。
 やっぱり、いいものを書くためには勉強が必要だろう。これも、資料集めの一環だと考えればいい。
 それに、経験するのは「お尻」だから。
 ホントのセックスじゃないから。
 バージンを失くすわけじゃないから。
 それならいいかな……なんて。
 正直に言って、好奇心もある。エッチなことに興味津々の年頃だ。やっぱり、ちょっと経験してみたいかな……なんて思ってしまう。
「……わかった。あたし、やってみる!」
 あたしは拳を握りしめてうなずいた。


 最初にすることは、着替え。
 マンガの設定では、裕貴の制服は学ラン、暁がブレザーとなっている。友希さんが持ってきた制服の通りだ。
 これは二人いるお兄さんの、中学時代のお古なのだそうだ。昔は学ランだった制服が、下のお兄さんの代にブレザーに替わったのだという。
 着ていた服を脱いで、ブラジャーも外してワイシャツを着る。乳首が透けそうでちょっと恥ずかしい。
 ネクタイを締めて、ズボンとブレザーの上着を着けてできあがり。姿見の前に立ってみる。
 さすがに、男物の制服はあたしには大きかったけれど、まあなんとかなりそうだ。あたしの髪はショートだから、この格好をしているとマンガの中の『暁』に似ていないこともない。もともと暁は、やや小柄で童顔という設定である。
 友希さんの方は……と振り返って、あたしは真っ赤になった。
 股間に、男の人のアレが生えている。正確には、男性器を模した器具の付いたパンツを着けているのだ。一部のレズビアンの人とかが使う道具らしい。
「……友希さんって、どうしてそんなもの持ってるの?」
「それはヒ・ミ・ツ。十七年も生きていると、いろいろとあるのよ」
「そーゆーものですか……」
 人生経験十五年の若輩者にはわからない世界があるのかもしれない。深くつっこまない方がいいだろうか。
 あれがあたしの中に……と考えると、やっぱり怖い。だけど興味もある。不安7割に期待3割ってところだろうか。
 だけど、お尻って……
 ボーイズラヴもののマンガや小説では簡単に書いてるけど、実際にはいろいろと問題があるのではないだろうか。
「ね、友希さん?」
「ん?」
「お、お尻ってやっぱり……中とか、汚くないのかなぁ?」
「んー」
 ズボンを穿こうとしていた手を止めて、友希さんが考えるような仕草を見せる。
「ホントは、先に中を洗っておくといいんだけどね」
「あ、洗うって?」
「普通はね、浣腸をするの」
「か、かん……っ」
 浣腸って、あれ?
 注射器のお化けみたいなものでお尻から薬を入れて排泄を促すという、あれ?
「そ、それって誰が……」
「もちろん、今回は晶が『受け』なんだから、アタシが、晶に」
 友希さんは、自分とあたしを交互に指差した。
「ヤダッ! ダメッ! そんなの……ぜっっっったいにヤダ!」
 いくらなんでも、そんな。
 恥ずかしすぎる。
 慌てふためいたあたしの様子に、友希さんはくすっと笑った。
「そう言うと思った」
「当然だよぉ」
「じゃ、代わりにいいこと教えてあげる」
 友希さんがこしょこしょと耳打ちしてくる。
 それを実践するために、あたしは一人でお手洗いへ行った。


「ホントに、友希さんってどうしてこんなこと知ってるのかな……?」
 たった二歳しか違わないのに、人生経験にはずいぶんと差があるような気がする。
 あたしはズボンとパンツを下ろして、トイレに座った。
 小さな深呼吸をひとつして、お尻洗浄のボタンを押す。
 温水のシャワーがお尻をくすぐる。
 もう一度深呼吸をして、水勢調節つまみを『強』の側にいっぱいに回した。
 水音が激しくなる。
「ひゃっ……」
 思わず、小さな声を上げてしまった。痛いほどの水流が、お尻に当たってくる。
 友希さんに教わった通り、お尻の力を抜く。
「う、ん……くぅ……ん」
 水が、入ってくる。
 激しい水流は、お尻をこじ開けて中に流れ込んでくる。
 これが、友希さんに教わった「お尻の中を洗う方法」。ウォッシュレットを利用した、お手軽一人浣腸だった。
 不思議な感覚だった。そこは本来、排泄のための器官。出てくるだけの一方通行のところを、強引に逆進しているのだ。
 十数秒間そうしていて、停止ボタンを押す。
 お尻の奥の方に、液体の存在を感じる。ちょうど、お腹をこわして下っている時の感覚に似ている。
 便意が、急激に高まってくる。それをぎりぎりまで我慢して、限界と思ったところで力を緩めた。
 激しい水音。
 同時に、直腸内にあった固形物も一気に排泄される。
 水音が止んだところで、あたしは大きく息をついた。ひどい脱力感と解放感に包まれる。
 だけど、これで終わりじゃない。
 もう一度、同じことを繰り返す。
 そしてもう一度。
 三度目になると、出てくるものは透明な水だけだった。直腸がすっかり綺麗になった証拠だ。
 あたしは濡れたお尻を綺麗に拭いて、ややふらつく足取りでお手洗いを出た。
 それにしても……
 友希さんって本当に、どうしてこんなこと知ってるんだろう。


 部屋に戻ると、友希さんは学生服に身を包んで、すっかり男の子の格好になっていた。
 例の器具を無理やりズボンの中に押し込んでるので、股間が膨らんでなんだかエッチっぽい。
 長身で、普段からボーイッシュな友希さんは、本当に男の子みたいに見えた。裕貴のイメージにぴったりだ。
「友希さん……カッコイイ」
「でしょ? 晶も可愛いよ。じゃ、始めようか。こっちおいで」
 自分からベッドに腰を下ろして、あたしを呼ぶ。
 隣に座ると、肩をぎゅっと抱かれた。急に、心臓の鼓動が速くなった。
「暁……」
 普段よりも低い、男の子みたいな声であたしの名前を呼ぶ。
 いや、あたしじゃなくて『暁』を。
 友希さんの顔が、すぐ近くにあった。顔に息がかかる。
「友……、裕貴……」
 あたしも暁のつもりになって、友希さん……じゃなくて裕貴に応える。
 顔が、近づいてくる。
 友希さんの顔って、すごく綺麗だ。精悍な雰囲気の、いわゆる美少年顔。
 本当に、裕貴のイメージにぴったりだ。そして裕貴は、あたしの理想のタイプを形にしたキャラなのだ。
 鼓動が速くなる。
 頬が熱くなる。
 そして、唇が重なった。
 柔らかな唇が、強く押しつけられる。
「――っ!」
 その時になって、今さらのように気がついた。
 裕貴×暁のラブシーンを再現するということは、当然、お尻でのエッチの前に、抱擁とかキスとか、そういったことを体験することになるのだと。
 ファーストキス、だった。
 ホントのセックスじゃないからいいか、って。気軽に話に乗ってしまって。
 キスのことまで、考えてなかった。
 うわぁ、どうしよう。
 ファーストキス、しちゃった。
 しかも相手は友希さんで、女の子同士で。
 ……いや。
 相手は『裕貴』だ。あたしの理想の男の子。そう思えばいい。
 そうなるとあたしは『暁』ということで。
 女の子のあたしが、女の子同士で、だけど男の子同士のファーストキスを体験してしまった……と。
 もう、わけがわからない。
 だけど、ひとつだけわかったことがある。
 キスって、すごく気持ちいいんだなって。
 これまで、それは単にお互いの愛情を確かめるためだけの行為だと思っていた。
 だけど違う。
 柔らかな唇の感触は、それ自体がすごく気持ちよくて。
 なんだか、エッチな気持ちになってしまう。
 キスってやっぱり、エッチの入口なんだって思った。
「ん、ふ……」
 友希さんの舌が、こちょこちょと唇をくすぐってくる。
 くすぐったくて、だけど気持ちよくて。
 試しに、あたしも同じことをしてみた。
 友希さんの舌と、あたしの舌が触れ合う。
 舌は、唇よりもずっと敏感なんだと知った。より強く、友希さんを感じてしまう。
 ふたつの舌が密着する。絡みあって、お互いの口の中に入っていく。
 ディープ・キス。
 それは唇だけのキスよりも、何倍も何倍も深く、激しいつながり。
 唾液で濡れた粘膜が絡みあって、湿った音を立てる。
「あ……んは……ん、んく……」
 あたしは、初めての行為にすっかり夢中になっていた。友希さんもあたしも大きく口を開いて、貪るようにキスを続けた。
 肌と違って、普段は絶対に他人と接触することのない部分。だからこそ、これは特別な関係の二人が行う、特別な行為なのだ。
 いったいどのくらいの時間、キスを続けていたのだろう。時間の感覚はまるでなくなっていた。
 気がつくと、友希さんの手があたしのワイシャツのボタンを外していた。
 手が、中にもぐり込んでくる。手のひらが肌の上を滑って、お世辞にも発育の良くないあたしの胸を包み込んだ。
「んっ……んっ」
 唇はふさがれたままで、思うように声も出せない。
 胸の先端の小さな突起が、手のひらで転がされる。そこから、ぴりぴりと痺れるような刺激が伝わってくる。
「暁……可愛いよ」
 友希さんが唇を離して言った。そして今度は、あたしの首筋に唇を押しつけてくる。
 そこから、徐々に下へ移動していく。
 首から鎖骨へ。
 鎖骨から胸へ。
 ささやかなふくらみの頂にたどり着いて、その小さな突起を口に含む。
「あっ……んん」
 びくんと、身体が震えた。
 手のひらよりもずっと柔らかくて、優しくて、そして気持ちのいい唇と舌の感触。
 舌は軟体動物のように蠢いて、あたしの敏感な突起を弄ぶ。
「あっ、んっ……ぅんっ……あ」
 一人エッチなんかじゃ感じたことのない感覚に、堪えようとしても声が漏れてしまう。
「暁ってば、胸にキスされてこんな声出して……女の子みたいだな」
 裕貴になりきった友希さんが笑う。
「だって……」
 あたしは本当に、女の子なんだから。
 だから、胸を愛撫されたら感じちゃう。
「暁の声って可愛いな。オレも興奮するよ。だから……」
 舌と唇による胸への愛撫を続けながら、友希さんの手は下半身へと滑っていった。
 ズボンのファスナーを下ろして、そこから中にもぐり込む。
「もっと、声、聞かせろよ」
「ひぁっ……あっ、あっ!」
 薄い生地一枚を隔てただけで、女の子のいちばん敏感な場所の上で友希さんの指が滑る。
 思わず、悲鳴に近い声が上がった。
 女の子のいちばん敏感な場所。
 いちばん大切な場所。
 いちばん恥ずかしい場所。
 もちろん、こんな風に他人に触られるのは初めての体験。
 そこを触るのは気持ちいい……それはもちろん知っている。自分の指で経験済みのことだ。
 だけど。
 ぜんぜん、違う。
 自分で触るのと、人に触られるのと。
 こんなにも感じ方が違うなんて。
 そこは、すごく濡れていた。
 キスだけで、すっかり熱くなっていた。
 その上で友希さんに触られて。
 指先が触れるたびに、エッチな蜜が溢れだしてしまいそうだった。
「あ……だ、め……あんっ、んっ、くっ……くふぅ……んんっ」
 ぎゅっと唇を噛みしめても、声が我慢できない。
 こんな、エッチな声。
 恥ずかしいのに。出したくないのに。
 だけど……ダメ。
 抗えない。
 気持ちいい。
 気持ちよすぎるくらいに、気持ちいい。
 友希さんの指が動くたびに、身体に電流が走る。
 とろけていく。
 あたしの身体、あそこからどんどんとろけていってしまう。
「はぁ……あ……ゆ、友希……さぁん……」
 下着の上を滑る指。
 割れ目をなぞるように。
 小さな円を描くように。
 すらりと長い友希さんの指。
 とても器用に蠢いて、あたしをメチャメチャにしてしまう。
 くちゅくちゅと湿った音が聞こえてくる。
 頭の中はとろとろのカスタードクリームみたいで、もう、なにも考えられない。
 あたしを狂わせる指の動きだけに、意識が集中している。
 エッチがこんなに気持ちのいいものだなんて、これまで知らなかった。
 興味半分で試してみた一人エッチなんて、本当に子供の遊びだ。この、気の遠くなるような快感こそが、本物の悦びなんだって思った。
「あ……やっ、だ……め」
 どのくらいの間、友希さんの愛撫に身を委ねていたのかわからない。気がつくと、あたしはズボンと下着を脱がされて、下半身が露わになっていた。
 友希さんの身体が、脚の間に入ってくる。エッチな部分に、顔が近づいてくる。
「ホントは、フェラしてあげるシーンなんだけどね。それは無理だから、代わりに……」
「え……あっ、やっ! あぁぁんっ!」
 キス、されてしまった。
 とても敏感な、エッチな部分に。
 熱く濡れて、エッチな蜜を溢れさせていた部分に。
 唇が押しつけられて、舌先が触れる。
 その瞬間、あたしは悲鳴を上げていた。
 全身が痙攣する。
 高圧電流を流されたような刺激。
 一瞬で意識が遠くなる。
「だっ、だめっ! あぁぁっ! やぁっ! だめっ……だぁぁっ!」
 濡れた粘膜を唇で愛撫しながら、女の子のいちばん敏感な突起に舌が絡みついてくる。
 未熟なあたしの身体に、許容量を超える快感を無理やり注ぎ込んでくる。
 ベッドの上で弾むあたしの下半身を、友希さんの手が押さえつけた。そして、舌をもっと強く押しつけてくる。
「やぁぁんっ! ひぁぁっ……だっ、もっ……と、やさ……しっ……あぁぁ――っ!」
 頭の中で、なにかがぱーんと弾けた。
 意識が真っ白になって、何もわからなくなる。
 これが「イク」ってことなんだって気づいたのは、目が覚めてからだった。


「え……と?」
 朦朧とした頭で考える。
 いったい、何をしていたんだっけ?
 すぐ目の前に、友希さんの顔があった。
 ちょん、と唇が触れる。
「暁ってば、あんなに簡単にいっちゃうなんて。可愛い奴だな」
 ちょっと低い声の男言葉。それで、まだ裕貴×暁ごっこは続いているんだってわかった。
「あ、あの……裕貴……俺……」
 あたしも演技を続けようと思ったけれど、なにを言っていいのかわからなかった。
 初めての経験に戸惑っていて、恥ずかしくて、友希さんの顔をまともに見ることもできない。
「でも、暁だけ気持ちいいのはズルいぞ。今度は、オレにしてくれよ」
「え?」
 友希さんはあたしの手を掴んで、自分の股間へと引っ張っていった。そこには、固いふくらみがある。
「あ……」
「さあ」
 友希さんは自分でファスナーを下ろした。中に押し込められていたものが飛び出してくる。
 男の人のアレを模した大人のオモチャ。ディルドーとかいうんだっけ?
 色がベージュ系だから、なんだか本物みたいでちょっと気持ち悪い。
 友希さんに促されるまま、あたしはそれを握った。小さな手のひらには余るくらいに太かった。
 ゴク……。
 あたしは唾を飲み込んだ。
 こんなに大きなものが、身体の中に入るなんて。
 信じられない。
 人体の神秘、って気がする。
「さあ」
 それを握ったまま固まったしまったあたしの頭を、友希さんが両手で掴んだ。ぐいっと乱暴に、押し下げられてしまう。
 さすがに、その意図は理解できた。
 すぐ目の前に、男の人のアレがある。
 この状況で求められることといえば決まっている。
 つまり、あれだ。
 フェラチオ……口にくわえて……ってやつ。
 まあ、本物じゃないんだから、それほど抵抗もないんだけど。
 ちらりと、上目遣いに友希さんの顔を見た。友希さんがかすかにうなずいたように見えた。
「ん……」
 あたしは意を決して、自分から顔を近づけていった。
 まずは先端に、そっと唇を押しつけてみる。
 弾力のある、樹脂の感触。
 舌を伸ばして、ぺろっと舐める。
 ちょっとゴムに似た味。あまり美味しいものじゃないけれど、口に入れるのがイヤっていうほどでもない。
 恐る恐る、唇を開いて先端を口に含む。
 少しずつ、奥の方へ。
 舌を、押しつける。
 友希さんが、腰を前に突き出してくる。
 喉の奥まで突き入れられて、反射的に吐き気が込み上げてくる。
 それが限界に達する前に、先端ぎりぎりまで引き抜かれる。
 また、奥へ押し込まれる。
 その繰り返し。
 だんだん、動きが速くなってくる。
 あたし、今、犯されているんだって。
 裕貴に口を犯されているんだって。
 そう考えると、頬が熱く火照って、頭がぼぅっとしてくる。
 いっぱいに開いた口からは、唾液が溢れて滴り落ちている。
 友希さんは興奮した様子で、あたしの髪を乱暴に掴んで腰を前後に揺すっている。
 乱暴で、ちょっと苦しい行為。
 犯されている。
 陵辱されている。
 なのにあたしの身体は、その行為を悦んでいた。
 感じてしまう。
 先刻まで愛撫されていた女の子の部分が、今も熱く火照っている。
 暁も、こうだったんだって。
 裕貴に乱暴にされて、それでも裕貴のことが大好きだったから、悦んで受け入れたんだって。
 そう思った。
「そろそろ、いい?」
 あたしの口の一番深い部分まで犯しながら、友希さんが訊いてくる。
「……最後まで、したい」
 口を塞がれて声が出せないので、あたしは小さくうなずくことでその言葉に応えた。
 満足げな笑みを浮かべて、友希さんはあたしを解放する。
 力尽きたようにそのままベッドに仰向けになったあたしの上に、友希さんが覆い被さってくる。
 両脚の間に身体を入れて、太腿を抱えるようにして。
 お尻に、なにかが触れた。
 穴の部分に、ぐいっと押しつけられる。
 反射的に筋肉が緊張して、身体が強張る。
 体内に侵入しようとしている異物を、押し返そうとする。
「暁、力抜いて」
「そんなこと、言ったって……」
 身体が言うことをきかない。
 理性では受け入れるつもりになっていても、本能的な恐怖心が拭いきれない。
「抵抗すると、力づくで犯すぞ? ま、オレとしてはその方が興奮するけど」
「や……ぁ……あぁんっ!」
 あたしの脚を抱える友希さんの腕に、力が込められる。あたしを動けないようにして、体重をかけて腰を前に突き出してくる。
 無意識の抵抗を続けるお尻は、その力に抗いきれなかった。
「あ……あぁ……んっ、くぅん……」
 固くすぼまった入り口が、強引に開かれていく。
 少しずつ、少しずつ。
 だけど、止まることなく。
 そして、中に入ってくる。
 緊張した括約筋を広げられることによる痛みもある。だけど痛みよりも強く私が感じていたのは、違和感というか、異物感というか、言葉では上手く説明できない、不思議な感覚だった。
 本来そこは、排泄のための器官。体内からの『出口』であって、そこからなにかが侵入することはない。それが、異性を受け入れるための女の子の部分とは根本的に違うところだ。
 だからこそ、より激しい違和感、異物感を覚えるのかもしれない。
「や……やぁ……あ、う……ぅん……いやぁ……」
 唇から、切ない声が漏れる。
 意図したものではなくて、下半身に加えられる刺激に反応して、身体が勝手に発している声。
 お尻の中に、大きな異物が存在するのを感じる。
 その先端が、徐々に奥へと進んでくる。
「痛い?」
 友希さんの質問に、まともに返事をする余裕はなかった。
 痛みは我慢できる程度だったけれど、なんだか苦しくて、あたしは歯を食いしばっていた。
「自分で、前の方を触ってごらん。少しは気が紛れるから」
 無意識のうちに、あたしはその言葉に従う。
 シーツを掴んでいた手が、下腹部へと移動する。指先が、女の子の部分にもぐり込む。
「……っ! あふっ……んんっ……んぁっ」
 指先が触れた瞬間、全身に電流が流れたような衝撃を受けた。
 そこはすごく濡れていて、ぬるぬるとした蜜を溢れさせている。今までに経験したことのないくらいに敏感になって、指先で触れただけでも悲鳴を上げそうなほどだった。
「あんっ……んっ、んふっ……あぁんっ!」
 指の動きが、止まらない。止められない
 お尻を貫かれたまま、友希さんに見られながら、あたしは自分を慰めていた。
「暁ってば、すごく感じてる。お尻を犯されて、そんなに気持ちイイんだ?」
「やぁぁ……あぁんっ、いやぁ……」
 言葉とは裏腹に、指の動きは激しさを増して、溢れる蜜はその量を増やしていく。
 今ではお尻に加えられる刺激さえ、快感として受け止めていた。
「ひぃっ! あぁっ、やぁんっ! やぁぁっ!」
 お尻を貫いているものが、動きはじめた。
 友希さんが、ゆっくりと腰を前後にスライドさせている。
 先端ぎりぎりまで引き抜かれ、そしてまた奥へと進んでくる。
 体内深くまで打ち込まれて、また戻っていく。
 一往復ごとに動きは速くなり、あたしの悲鳴は大きくなっていった。
 ぎゅうぎゅうと締めつけている括約筋に、すさまじい刺激が襲ってくる。
「ああ……気持ちイイ……暁の中、すごく気持ちイイよ」
 頬を紅潮させた友希さんがつぶやく。
 あたしは知らないうちに、涙を溢れさせていた。
 痛くて。
 苦しくて。
 それを紛らわせようとするかのように、自分を慰める指の動きも激しくなっていく。
「あぁ……あぁぁ……あぁっ、あぁんっ……あんっ」
 痛くて。
 苦しくて。
 切なくて。
 そして――
 気が遠くなるくらいに、気持ちよかった。


「ふやぁぁ……」
 まだ、意識が少し朦朧としている。
 それでも温かくて柔らかな感触で、友希さんの腕に抱かれているんだってわかった。
 いつの間にか、二人とも全裸だった。
 直に触れる肌の感触が気持ちいい。
 このままもう一度、眠ってしまいたい。
「どうだった? 感想は?」
 耳元で、友希さんがささやく。そのまま、軽く耳たぶを噛まれる。
 くすぐったくて、あたしは身体を縮めた。
「……うーん……なんて言ったらいいんだろ。とにかく……すごかった」
 あたしは考えながら答える。
「ホントに、もう……あんなにすごいなんて、思わなかった」
「次回作の役に立ちそう?」
「うん。なんだかすごく、創作意欲が湧いてきた」
「そう、よかった。アタシでよければ、いつでも協力してあげるからね」
 もう一度、友希さんの腕があたしを抱きしめる。なんだか気持ちよかったので、あたしはもうしばらく、その柔らかな胸の感触を楽しむことにした。


 それからしばらく後のこと――

「ところで晶、次の冬コミの参加ジャンルは決まったの?」
「う……うぅぅ……ん」
 友希さんの不意打ちの質問に対して、あたしは呻き声で返事をした。
「申し込み締め切りは、もうすぐだよ」
「うう〜ん……まだ迷ってるの。やっぱり小説FC『マリア様がみてる』かなぁ」
「え? 創作少女系・百合通りじゃないの? やっぱオリジナルでしょ。『友希×晶』の新刊、楽しみにしてるんだからね。実地訓練の成果が活かされているかどうか」
「え? えっと……でも、それはやっぱり、恥ずかしいかなぁ……って。……半分ノンフィクション……なんて」
 応えながら、あたしは頬を真っ赤に染める。

 そう。
 あれが、きっかけだった。
 あれ以来、あたしにひとつの変化があった。
 つまり……その。
 女同士っていうのも、いいものかなぁって。
 新しいジャンルに目覚めてしまったみたい……かな?

‐おわり‐


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