27


「……え?」
 聖さんは、目をまんまるに見開いてあたしを見た。
 あたしは急に恥ずかしくなって、真っ赤になって俯いた。
「だから……その……聖さん、先刻言ったじゃない。あたしと、エッチなこととかしてみたいって。その……だから……なんて言うかな。聖さんさえよければ、だけど。お、お餞別? っていうか……」
「ハト……そんなこと、軽々しく言うもんじゃないの」
 聖さんは真面目ぶって言うけれど、口元が笑いを堪えている。
「したくないの?」
「……したい。すっごくしたい。でも……いいの?」
 唾を飲み込んで訊いてくる聖さんに、あたしはこくんとうなずいた。
 聖さんが同性だって、恋人じゃなくたって、そんなこと関係ない。
 同性で、恋人でもなんでもない公美さんと、すでに何度かエッチなことをしている……いや、されているのだ。大好きな聖さんとすることに、なんの抵抗があるだろう。
 聖さんとはもう会えない。会えたとしても、それは何年も先のこと。
 そう考えたら、あたしだって聖さんとの素敵な想い出が欲しかった。たとえ今夜一晩限りの関係だって、変態の痴漢さんに身体を許すよりはよっぽど健全だ。
 こんな時、女同士って便利だと思った。
 男女間のこととは違って、間違っても妊娠の心配とかはないし、本来の意味での「挿入」がないから、どこまでの行為をすればセックスしたことになるのか、その線引きが曖昧だ。だから、スキンシップの延長として身体を重ねることができるような気がする。
 あたしは、公美さんとの行為を思い出してみた。
 それは、すごく気持ちのいいことだ。
 痴漢とか、駅のトイレとか、そういったアブノーマルな状況でなければ、嫌悪感も全然ないし、素敵なことだと思う。
 ましてや、相手はある意味両想いの聖さんである。
 裸になって、抱き合って、触られたりキスされたり。そのくらいのことをしたって、全然かまわない。
「あ、あたしバージンだし、あんまりハードなのは困るけどさ。でも……あの、あたしのこと、ずっと忘れずにいて欲しいし、あたしも、聖さんのこと忘れたくないし。だから……」
「だから、一生忘れられない想い出を作ろう?」
 聖さんが耳元でささやく。微かに触れた唇の感触に、あたしはぞくぞくした。
「ハト……」
「……聖さん」
 どちらからともなく、顔を近づけていく。
 また、唇が重ねられる。
 先刻のキスとの違いは、聖さんの手があたしの胸の上に置かれていること。女の子としては大きな聖さんの手が、乳房を包み込んでいる。
 指先でつつくような刺激に、乳首がつんと固くなって、パジャマの薄い生地を持ち上げる。そこを手のひらで優しく擦られて、痺れるような快感に小さく震えた。
 あたしは最近、乳首がすごく感じるようになっていた。エッチなことを憶えはじめた頃のクリトリスよりも、よほど感じてしまう。女の子の身体って、経験を積むほどに、どんどん感度がよくなっていくのだろうか。
「ぁ……んっ」
 重ねた唇のわずかな隙間から吐息が漏れる。あたしの反応を楽しむように、聖さんの愛撫が強くなってくる。
 聖さんは顔中にキスの雨を降らしながら、パジャマのボタンを外して直に胸を触ってきた。
 つんと立った乳首が摘まれて、軽く引っ張られる。左右に捻られる。指先で弾かれる。
 その度にあたしは鼻にかかった甘い声を上げて、聖さんを喜ばせた。
 聖さんの顔が下がっていく。首筋、鎖骨、そして胸へ。
 あたしの身体に押し付けられた舌が、カタツムリが這ったような痕を残していく。
「ハトの胸ってホント素敵だなぁ。こんなに大きくて、形が綺麗で、張りと弾力があって、これぞ理想のおっぱいって感じ」
 聖さんは嬉しそうに言って、何度もキスしたり、頬ずりしたりする。
「キスマーク、つけてもいい?」
「え?」
「キスマーク。何日か痕が残るけど、いい? ハトの身体に、印を残しておきたい」
「あ、……うん、いいよ」
 胸にキスマークをつけられて、もしもそれを公美さんに見られたりしたら、どうなるだろう。
 だけど、別に構わないって思った。それで公美さんが怒ろうと傷つこうと、あたしの責任じゃない。今のあたしには、聖さんの愛の証をつけてもらうことの方が大切だった。
「ン……」
 胸に唇が押し付けられて、強く吸われた。これまでされたことがないくらいに強く、痛みすら感じるほどに。
 そのままの状態がしばらく続いて、ようやく離れたと思ったら、少し離れた場所でまた同じことが繰り返される。
 鈍い痛みをともなうその行為が、あたしにたまらない快感を与えていた。なんて言ったらいいのだろう、本当に「愛されている」っていう気がする。
 三つ、四つ。胸の上に、小さな朱い楕円形の印が増えていく。
 だんだん、頭がぼぅっとしてきた。顔が火照って熱いほどだ。
 パンツの中が、溢れるほどに濡れているのがわかる。そこははしたないほどにだらだらと涎を垂れ流して、聖さんに愛撫されることを待ち望んでいた。
「せい……さんっ!」
 あたしは、聖さんにぎゅっとしがみついた。もう、我慢ができなかった。公美さんにさんざん弄ばれて開発されてしまった女の子の部分は、もっと直接的な快楽を望んでいた。
「下も……触って」
 聖さんはあたしの胸に吸いついたままうなずくと、パジャマのズボンの中に手を入れてきた。
「ふ……ぁ」
 思わず、溜息に似た声が漏れる。
「ハトのここ、熱くなってる」
 一度、手のひら全体でパンツの上からその部分を包み込むようにして、それから割れ目に沿って指を滑らせる。
「あ……うぅんっ……んふっ」
 意識してやっているわけじゃないのに、唇から漏れる声はとても甘ったるくて、切なげだ。
 涙が出そうなほどに、気持ちよかった。
 割れ目に押しつけられた指がゆっくりと動くたびに、全身の毛が逆立つような気がした。
「は……あぁ……んん。く、ぅん……」
 ぎゅっと目を閉じて、歯を食いしばって、絶え間なく襲ってくる快感に耐える。そうしていなければ、おかしくなってしまいそうだった。
 だけど、不意に指の動きが止まった。目を開けると、すぐそこに聖さんの顔があって、楽しそうにあたしを見つめていた。
「聖さぁん……」
「ハトってば、すっごく感じやすいんだ。もう、パンツもぐっしょりだよ」
「やぁ……」
「脱がしちゃっても、いい?」
「え……」
 あたしは少し躊躇した。ここまで来ても、その部分を聖さんにに見られるのはやっぱり恥ずかしい。
 でも、見てもらいたい。そんな相反する想いもある。聖さんに、あたしのすべてを見てもらいたい。
「……ん」
 小さくうなずくと、聖さんは慣れた手つきで素速くあたしのパジャマを脱がしてしまった。なのに肝心のパンツの方は、もったいつけるようにゆっくりと下ろしていく。時間をかけられた分だけ、あたしの羞恥心が膨らんでいく。
「や、ぁ……」
 最後の一枚を脱がした聖さんが、足首を掴んで脚を開かせようとするので、あたしは慌てて手でそこを隠した。
 そこはぐっしょりと濡れていて、触るまでもなくわかるくらいに熱い蜜が溢れだして、お尻の方まで流れている。
 こんなところを聖さんに見られるのは、すごく恥ずかしい。公美さんの場合は向こうがずっと年上だし、無理やり「されている」という雰囲気もあったけれど、同い年の、クラスメイトの目に曝すというのはやっぱり気分が違う。
 恥ずかしいところを隠して縮こまっているあたしを見下ろしながら、聖さんも自分で服を脱いでいった。すごく、綺麗な身体だった。マネキンのように均整のとれた理想的なプロポーションに、あたしは見とれてしまった。
「ハト……隠しちゃだめ。見せて」
 パンツ一枚を残したところで、聖さんが言う。
「だって……恥ずかしいよ」
「私も、見せてあげる」
 なんのためらいもなく、聖さんは最後の一枚を脱いでしまった。
 修学旅行のお風呂以外で、クラスメイトの下半身を目にするなんて初めてだ。公美さんとした時だって、向こうが服を脱いだことはない。
 ヘアは、すごく薄い。いや、すごく丁寧にお手入れされているようだ。幅の狭い小さな逆三角形は、あたしのそれよりもひと回り面積が狭い。一昔前の、きわどいハイレグ水着も平気で着れそうだ。
 聖さんは、仰向けになっているあたしの頭の横で膝立ちになって、脚を開いてみせた。赤い生肉の色をしたそこは、濡れて艶やかに光っている。
 それは、信じられないくらいにエロティックな光景だった。
「ね? ハトとエッチしてるから、こんなになってるの。ハトのも、見せて」
「ん……」
 聖さんが足元へ移動する。
 やっぱり恥ずかしかったけれど、聖さんがここまでしている以上、いつまでも隠していることもできない。あたしは手をどけて、おずおずと脚を開いた。ここまでの愛撫でぐっしょりと濡れてしまっているところを、聖さんの前に披露する。
 聖さんは嬉しそうに目を細めた。
「すごく綺麗。小ぶりで、淡いピンク色で。可愛いね、とってもハトらしいや。それに、溢れるくらいに濡れてる。私とのエッチでこんなに感じてくれてる。それって、すごく嬉しいよ」
「そう……なの?」
「うん。だから、もっともっと感じさせてあげるよ」
「あ」
 あたしの太腿に手をかけてさらに脚を開かせると、聖さんはその中心に顔を近づけてきた。
「あ、ん」
 茂みの上に、キスされてしまう。そのまま、ミリ単位で下へ移動していく。
「ふひゃぁ……っぁんっ」
 直に、キスされてしまった。熱く濡れた粘膜の上に。
 柔らかな唇の感触は、指とはまた全然違う。触れられた部分がとろけてしまいそうだ。
「いい匂い。ハトの匂いだ」
「やぁんっ」
 あたしが恥ずかしがるのをわかっていて、そんなことを言う。クリトリスや割れ目の中に、何度も唇を押しつけてくる。
「ふわぁぁ……あぁぁっ、ひっ、ぃぃんっ」
 唇よりも柔らかくて、ぬめりを帯びて、温かいものが押しつけられた。一瞬遅れて、それが聖さんの舌だと気がついた。
 指でその部分を広げて、舌を押しつけて全体を舐め上げてくる。その強い刺激に、あたしの上体は大きく仰け反った。
「はぁっ、あぁぁっ、はぁんっ、ひゃぁぁっ!」
 だらしなく開いた口から断続的な悲鳴が漏れる。
 脊髄を貫く鋭い快感に、涙が溢れてきた。
 聖さんの舌が、敏感な部分をくまなく舐め回している。
 強く、優しく。
 ゆっくりと、速く。
 舌先でくすぐるように、全体で押しつけるように。
 一瞬ごとに変化する愛撫。
 あまりの快感にあたしは気が狂いそうで、暴れて逃れようとするのだけれど、聖さんの手に下半身を押さえつけられていてはそれも叶わない。むしろ動くことで、自分に加えられる刺激をより強くしてしまうだけだった。
「気持ちいい?」
「いいっのっ、イイのぉっ! すごいっ……すごぉいっ!」
「もっと、気持ちよくなろう。二人で一緒に」
「え……あ」
 聖さんは上体を起こすと、大きく広げられたあたしの脚の間に身体を入れてきた。自分も脚を開いて、あたしの片脚を抱えて、二人の下半身が交差するような形になる。
 まるで、男女のセックスみたいな体勢だ。だけどもちろん、女の子同士では相手に挿入する器官はない。すると、この体勢でできることというと……。
「ひゃっ……」
 あの部分に、柔らかなものが押しつけられた。肌とは違う、ぬるぬるとした感触だ。
 それでわかった。二人の、女の子の部分を触れ合わせようというのだろう。
「ふぅっ……あぁんっ!」
 聖さんが、腰を押しつけてくる。二人とも十分すぎるくらいに濡れているみたいで、ぬちゃぬちゃと湿った音がした。
「は……、あっ……んっ。ふぁ……はぁっ!」
 女の子の身体の中でいちばん敏感な粘膜同士が密着し、擦れ合う。舌よりももっと柔らかく絡みつく。
 男の人がするみたいに、聖さんが腰を前後に動かしている。溢れだす蜜でその部分の摩擦係数は限りなく低いはずなのに、悲鳴を上げるほどの快感が襲ってくる。
「はぁぁっ、あんっ! はっ……ひぁぁっ、あぁ――っ!」
「んっ……く、あぁ……んっ、んっ……ふぁっ」
 聖さんも切なげな喘ぎ声を上げながら、さらに腰の動きを加速していく。顔は汗びっしょりで、雫がぽたぽたとあたしのお腹の上に落ちた。
 ベッドが、ぎしぎしと軋んでいる。
 聖さんが腰を押しつけてくるたびに、あたしの胸が不安定に前後に揺れる。聖さんの胸も、リズミカルに上下に弾んでいる。
「ハトッ! はとぉ……っ!」
 ある時は大きくゆっくりと、ある時は小刻みに素速く。聖さんの動きは多様に変化する。それでも全体としては、快楽の頂へ向けてその動きは加速度を増しつつあった。
「いいっ……聖さん……聖さぁんっ!」
「わ、私……っ、いっ……イクっ、いくぅっ!」
「あぁぁっ、あぁ――――っっ!」
 二人とも、ほとんど同時に甲高い悲鳴を上げた。普段はどちらかといえばハスキーな聖さんの声とは思えないくらい、オクターブが高かった。
 目の前でフラッシュでも焚かれたみたいに、意識が真っ白になる。どさりと覆い被さってきた聖さんの身体に、無意識のうちにしがみついた。



 荒い息づかいが、ふたつ重なっている。
 重なった二人の肌はどちらも熱く火照って、びっしょりと汗をかいていた。
 あたしは絶頂の余韻に浸って、まるで濃い霧の中を歩いているような感覚だった。聖さんの身体の重みがなければ、自分がどこにいるのかもわからなくなっていたかもしれない。
 ぼんやりとした意識の中で、あたしは今の行為を反芻していた。
 すごく、気持ちがよかった。
 経験を積むごとにどんどん感じるようになっているあたしだけど、今日でまたひとつレベルアップしてしまったような気がする。
 しかも、今日の相手は公美さんじゃなくて聖さん。
 あたしはここにいない公美さんに対して、奇妙な優越感を覚えていた。相手が公美さんじゃなくてもちゃんと感じるんだぞ、ざまあみろ――そんな気持ちだ。
 最近、少し怖くなっていたのだ。
 男の痴漢に遭ったら吐くほど気持ち悪いのに、どうして公美さんにされるのは、あんなに気持ちがいいのだろう、と。
 ひょっとして、あたしは公美さんのことを好きになってしまっていて、だから感じてしまうのだろうか、と。
 だけど、聖さんとのエッチでもちゃんと感じる。公美さんの愛撫に全然負けていないくらいに感じてしまった。
 だからひと安心……と思いかけて、大変な勘違いに気がついた。
 あたしは、それが恋愛感情かどうかはともかくとして、聖さんのことは大好きなのだ。これはつまり、公美さんのことも聖さんと同じくらいに好きということになるのだろうか。
 冗談じゃない。あたしはその考えを頭から振り払った。
「ハト……」
 呼吸が落ち着いた聖さんが、ちゅっと軽くキスしてくる。あたしも自分から首を伸ばして、お返しのキスをした。
「楽しんでくれた?」
「……すっごく、感じちゃった。もう……こんなの初めて」
 あたしは正直に答えた。頬がぽっと熱くなった。
「ハトってば、すっごく感じやすいんだもん。可愛かった、想像していたのよりもずっと」
「……想像?」
「うん。今だから言うけどね、しょっちゅう、ハトのこと考えながらひとりエッチしてた。ハトのことオカズにするのが、一番興奮するんだもん」
「もぉ、聖さんってば」
 ぷぅっと頬を膨らませる。だけどこれは怒ったふり。あたしも聖さんのことを考えながらしたことがあるのだから、おあいこだ。
 今まで上に覆い被さっていた聖さんが、あたしの横へと移動する。ぴったりと寄り添って、腕枕してもらうような形になった。
 公美さんとはこんな体勢になったことがなかったから知らなかったけれど、裸で肌を触れ合わせるのは、すごく心地よいことだった。
 いつまでもこうしていたい、と思う。恋人同士って、こんな感じなのだろうか。
 暖かな陽だまりで昼寝している時のような、柔らかな充実感。
 どのくらい、そうしていただろう。
「ね、ハト?」
 聖さんが不意に口を開いた。
「……ん?」
 いつの間にかうとうととしていたのか、あたしの声は少し寝ぼけていた。
「まだまだ、夜はこれからだよね?」
「……え?」
 聖さんの手が胸の上に置かれる。ぼんやりとした頭でも、その意図はすぐに理解できた。
「……また、するの?」
「いや?」
「ううん、全然」
 嫌じゃないどころか、ぜひともして欲しいくらいだ。聖さんが相手なら、あの気が遠くなるような快感を何度でも味わいたい。
 それに、聖さんとする機会はもう当分ないだろうから。
 そこでふと、いいことを思いついた。聖さんもきっと、喜んでくれるんじゃないだろうか。
 胸から下半身へ移動しようとしていた聖さんの手を押さえて、あたしは言った。
「……あ、あたしが……して、あげようか?」



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