あとがき


 たいへん長らくお待たせいたしました。
 ようやく完結です。
 連載開始が二月末ですから、約八ヶ月強……当初の予定では半年で終わらせる予定だったんですけどねぇ。何がいけなかったんでしょう?
 ラグナとか。
 未公開の秘密の長編とか。
 まあ、いろいろあるわけですが、そろそろ、ちょっと心を入れ替えたいところです。……って、以前も言ったような記憶がありますが、今度こそ(笑)。

 この作品は、これまでのキタハラ作品とはちょっと違っています。
 一括書き下ろしではなく連載だったり、長編なのに一人称だったり。
 それでもやっぱり、百合でしたね〜。予定では、ここまで百合度が濃くなるはずではなかったのですが、書き進めるほどにどんどん百合になっていくあたりはやっぱりキタハラ作品でした(笑)。
 それでは完結記念に、読者からの質問がもっとも多かった「タイトルの意味」を簡単に説明しておきましょう。

 まずは作品タイトルの『tus(トゥス)』。
 一般には「呪術」などと訳されますが、占いとか予言とか、神託とか、そういった能力の総称、またはその能力を持った人。言うまでもなく、美杜と、彼女の力のことです。

 序章『iramkarapte(イランカラプテ)』。
 目上の人や、初対面の人に対する丁寧な挨拶の言葉です。『ふれ・ちせ』のトップページにも書かれていますが「初めまして」の意味もあるので、序章のタイトルとしました。
 ちなみに私は最近、iramkarapteは「ごきげんよう」と訳すのがもっともふさわしいと思っています(笑)。

 一章『rayochi(ラヨチ)』。
 虹です。これはもう、説明するまでもないでしょう。

 二章『sirokanipe(シロカニペ)』。
 作中でも紹介されている『アイヌ神謡集』に収められている『梟の神の自ら歌った謡』の冒頭の一節です。

 三章『atuy(アトゥイ)』。
 海です。海を表す語としては「rep‐un(レプン)」が有名ですが、これは「沖合」を指す言葉で、「海」を指す一般名詞はatuyを用いるようです。
 ちなみに三章は、多分全編でもっとも暗いエピソードの章。キタハラ作品には欠かせない「暗い過去」です(笑)。

 四章『tokkoni(トッコニ)』。
 (※『kinasutun‐kamuy』から改題)
 マムシです。そのまんま。
 実はこのエピソードが、一番最初に思いついた『トゥス』の物語だったりします。その原案では美杜の方が転校生で、二人はクラスメイトでしたが。
 その小ネタにいろいろと前後のエピソードを付け足したものが、この連載版『トゥス』です。

 五章『ahunpar(アフンパル)』。
 異世界(一般には「黄泉の国」)へ通じる穴・道。山奥とか海中にある洞窟が、この名で呼ばれることが多かったようです。

 六章『tus‐kur(トゥス‐クル)』。
 意味は作品タイトルの項参照。
 トゥスは呪術めいた力。そして「kur(クル)」はアイヌ語で「人・者」を意味します。
 つまり、「トゥスの力を持つ者」の意。
 トゥスは守護神から授かる力とされていますが、一般には遺伝するもののようで、作中に書いた通り、美杜の母方は代々トゥスの家系です。

 終章『kamuy‐mintar(カムィ‐ミンタラ)』。
 直訳すると、「神々の庭」。一般には、山中の深い森の向こうに現れる、樹木の少ない草原・花畑がこう呼ばれたようです。神々がこうした場所に集まって宴を開くと考えられていたのでしょう。

 それでは最後に、恒例の次回予告ですが……。
 未定、です。
 短編は『光』や『たた少』のカーテンコールを考えていますが、はっきりとした時期は未定。
 長編は『一番街』か、まったくの新作か……。新作だとして、ファンタジーか現代女子校百合モノか……。
 これから考えますので、気長にお待ちください。

二○○三年一○月 北原樹恒(Kitsune Kitahara)
kitsune@nifty.com
創作館ふれ・ちせ
http://hure-chise.atnifty.com/


目次に戻る

(C)Copyright 2003 Kitsune Kitahara All Rights Reserved.