「それじゃあ、ほんの少し未来の話をしましょうか」
祥子さまは微笑した。
ほんの少し未来の話、なんて言うからこの後のデートの予定について話し合ったりするのかと思いきや、祥子さまはまるで違う話を始めた。
それは、もう少し未来の話。
「祐巳は高等部を卒業したら、リリアンの大学へ進学するの?」
「え?」
急に話題が変わって、少し戸惑ってしまう。どうして突然、こんな話を始めたのだろう。あ、もうじき紅薔薇さまが卒業してしまうから、寂しいのかな。
「ええ……。一応、そのつもりですけど」
「そう。じゃあ私もそうしましょう。それなら、卒業してもしょっちゅう会えるわね」
「え……」
祥子さまの言葉に、なぜかちょっとだけドキドキした。
「そして、祐巳が大学を卒業したら結婚しましょう。あなた、結婚式は神前と仏前と教会と、どれがいい? リリアンの卒業生同士だからといって、教会じゃなきゃいけないってことはないわよね」
「あ、あの……、お姉さま?」
「二人の新居は、郊外の環境のいいところにマンションを買って……。私がひとりっ子だったから、子供は最低二人は欲しいわね。祐巳に似た女の子だったら可愛いでしょうね。ああ、でも、祐麒さんに似た男の子もいいかしら。子供が大きくなるまでには家を建てて……。大丈夫、そのくらいは私が稼いでみせるわ」
熱っぽい表情で語るお姉さまの話は、とどまるところを知らない。だけど今、さらっととんでもないことを口にしたのでは……。け、結婚? 子供?
自分の夢に夢中になっていたお姉さまが、祐巳の表情に気付いた。
「どうしたの祐巳、変な顔をして。……まさか、嫌なの?」
「そーゆー問題じゃありません」
祐巳は真っ赤になって応える。
「お姉さま、大切なことを忘れてませんか?」
「大切なこと?」
「そりゃ私もお姉さまのことは大好きですけど、女同士じゃ結婚はできませんよ。少なくとも日本では。ましてや、子供なんて」
こんな基本、祥子さまが忘れていたとも思えないけど。いやいや、学校の成績はトップクラスだけど、一般常識的な知識についてかなり問題があることは、つい先刻のファーストフードで証明済みだ。まさか、子供の作り方も知らないなんてことは――。
「あら、そんなこと」
だけど祥子さまは、祐巳の疑問を鼻で笑い飛ばした。
「祐巳が大学を卒業するまで、まだ六年以上もあるのよ。その間になんとでもできるわ。小笠原グループの権力と財力を持ってすれば、ね」
ダークな笑みを浮かべてそう言ったときの祥子さまは――。
紛れもなく、目が本気だった。
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