毎年大きくなるチョコレートケーキ、重荷である反面楽しみにしていた部分も多少はあったのだ。ケーキはいつまで成長し続けるのか。果てはいつやって来て、どのような形で決着するのだろうか――
…なんてことを考えていたのは、何年前のことだったっけ。
そう、あれはまだリリアン学園の高等部に通っていた頃のこと。「黄薔薇革命」なんて騒がれた事件の後のバレンタインデー。
その答えが、今ようやくわかった。といっても今日はバレンタインデーではなくて、ホワイトデーなんだけど。だからケーキもチョコレートケーキではなくて、真白い生クリームたっぷりの。
由乃も、ケーキとお揃いのような純白のドレスに身を包んでいる。そしてケーキの制作者は、由乃の隣に立っていた。白いタキシードを格好良く着こなして。
「…由乃」
令ちゃんが小さな声でささやく。その手に、由乃は自分の手を重ねた。令ちゃんの頬が少しだけ朱くなる。
二人の手が、リボンの結ばれた一本のナイフを握っている。二人の前に置かれているのは、由乃の身長よりも大きなケーキ。
眩いフラッシュが、二人を包み込む。
カメラを構えているのは蔦子さん。今では日本を代表する女性カメラマンなのに、こうしている姿は高校時代となにも変わらないように見える。
そして、大切な友人たち…。
祐巳さんがいる。もちろん、その隣には祥子さまがいる。
志摩子さんも。そして、久しぶりにお会いする薔薇さま方も。
みんな、笑みを浮かべて二人を祝福している。
ケーキにナイフを入れるとき、思わず涙が出そうになった。
披露宴の会場を後にする二人の頭上に、薔薇の花びらが舞う。
紅い薔薇、白い薔薇、そして黄色い薔薇。
三色の花びらが、まるで雪のように降りそそいでいる。
由乃が手にしているブーケも、三色の薔薇を束ねたもの。十代の頃と変わらない悪戯な笑みを浮かべると、由乃はそれを宙に放った。
狙い違わず、ブーケは祐巳さんの手に収まる。驚きと喜びが微妙にブレンドされた表情を見せる祐巳さんの肩を、静かな微笑みを浮かべた祥子さまがそっと抱いた。
「次は、祐巳さんの番だからね」
横を通りすぎるときにそっとささやくと、祐巳さんは耳まで真っ赤になった。
コタツの中で、いつの間にか眠ってしまったらしい。
なんだか、不思議な夢を見ていた気がする。
(あれって、結婚披露宴…だよね)
由乃と令ちゃんの。
現実にはそんなことあるはずがないのに。それは、決して叶うことのない夢だから。
いや、もしかしたらそうとは限らないのかも。何年も先の話だもの、その頃には、日本でも同性の結婚が認められているかもしれない。
たとえ、そうならなくても。
「確か、北欧のどこかの国では、同性でも結婚できるのよね。よ〜し、明日からはスウェーデン語の勉強よ!」
――と、どこまでも前向きな由乃であった。
あとがき | >> | |
目次に戻る |
(C)Copyright 2000 Kitsune Kitahara All Rights Reserved.