だから姉にはかなわない・番外編(前編)


※本作は『だから姉にはかなわない』本編の後でお読みください

 どうしてだろう。
 慎くんのこと、ひっぱたいちゃった。
 今日は生理痛がひどくて、おまけに学校で面白くないことがあって、ちょっとむしゃくしゃしていて。そんな時に「写真撮らせて」なんて言われたから、つい。
「なによ。お姉ちゃんはあんたの金ヅル? それとも性欲処理の道具なわけ?」
 って、ひっぱたいちゃった。
 どうしてあんなこと言っちゃったんだろう。
 本当は、虫の居所が悪い日だからこそ、気分転換に慎くんとイイコトしたかったのに。
 だけど……不安なんだ、あたし。
 慎くんは、あたしのことどう思っているの?



 アタシハ 慎クンノ コトガ スキ。

 そんな想いに気付いたのは、実は最近のことだ。
 それも、他の男とエッチしている最中に。
 相手は、その頃付き合っていた男。
 たまたま、あたしがフリーの時にしつこく言い寄ってきた奴で、顔はまあまあだし、ちょっと付き合ってみてもいいかな、なんて思ったんだ。
 だけど、それが失敗。
 ロ先だけのつまんない男で。
 しかもエッチが下手。
 さっさと別れた方がいいかな……なんて、入れられてる最中に考える余裕があるんだから、どうしようもない。
 やっぱり別れよう、って決めた。
 そうなると、この退屈なセックスが終わるまで、どう時間をつぶすかが問題。
 そこで目を瞑って、他の男としてるところを想像してみた。
 例えば、好きなアイドルや映画俳優を相手にしてるって考える。
 これってけっこう楽しめた。少なくとも、こいつに抱かれているよりずっとマシ。
 それで味をしめたあたしは、ちょっとした悪戯心で、弟の慎くんとしてるって想像してみたんだ。
 ……すごかった。
 慎くんの顔を思い浮かべた瞬間、あたしはイってしまった。
 すごく感じた。信じられないくらい。
 下手なのも、全然気にならない。だって慎くんはまだ童貞の筈だもの。
 慎くんの初めてをいただいちゃった――なんて背徳的な空想にとりつかれて、あたしは何度もイった。かつてないくらいに感じていた。
 それで、気付いたんだ。
 あたし、慎くんに特別な感情を抱いているのかもしれない……って。


 その男とはそれきり別れたけれど、以来あたしは、慎くんのことが妙に気になるようになってしまった。
 家にいるとき、つい、目が慎くんを追ってしまう。
 いつの間にか、あたしよりもずっと背が高くなって、男らしくなって。
 でもよく見ると、けっこうかわいい顔をしている。
 男友達は多いけれど、彼女はいないみたい。
 カメラが趣味。
 この間、十六歳になったばかりで、今はバイクを欲しがっている。
 でも、お金がなくて困ってる。
 そこである日のこと。
 冗談めかして「美人で優しいお姉さまが貸してあげようか?」って言ったのに、慎くんてばあたしのこと全然信用しないんだもんなぁ。
 子供の頃にいじめすぎたせいかな……なんて、お風呂の中で少し反省。
 だけど、部屋に戻る時に慎くんの部屋を覗いて、おやっと思った。
 灯りがついているのに、慎くんがいない。
 自分の剖屋に戻ったら、カーテンにわずかな隙間があった。
 その向こうにキラリと光る物。
 すぐにわかった。
 慎くんのカメラのレンズだって。
 ピンときた。
 スケベ心でやってるんじゃない。あたしの着換え写真、友達に売る気だな。
(……どうしよう、かな)
 気付かない振りしてベッドに座り、これからどうしようかと考えた。
 慎くんに裸を見られるのは、イヤじゃない。
 どきどきするけど……少し嬉しいかも。
 スタイルには自信があるから、見てもらいたい。
 だけど、その写真を他の人に見られるってのはね……。
 でも、ま、いっか。
 バイクを欲しがっている慎くんのため。恩を売っておきましょう。
 そこであたしは、特別にサービスしてあげることにした。
 さりげなくバスタオルを落として、裸になってやる。
 胸がどきどきする。身体の奥の方が、かぁっと熱くなってくる。
 もっとエッチな写真、撮らせてあげようかな……なんて悪戯心を起こしたのは、あたしの悪いクセ。
 倒れるように、ベッドに横になった。
 胸のどきどきが、より一層強くなる。さすがのあたしも、心を決めるのに少し時間が必要だった。
 だけどその間にも、気持ちはどんどん昂ぶってくる。
 そしてあたしは、ひとりエッチを始めた。
 慎くんが見ている前で。
 慎くんのカメラに写るように。
 ちょっと胸に触っただけで、全身に電流が走ったような気がした。
 胸だけでも、ものすごく感じる。
 声が出てしまう。
 アソコを触ってみると、もう溢れるほどに濡れていた。
 恥ずかしいけれど、慎くんに見えるように、脚を大きく開いた。
 そして、指を入れる。
 それだけでもう、イってしまいそう。
 ひとりエッチでこんなに興奮したのは初めて。
 慎くんが我を忘れて襲いかかってこないかな、なんて想いもちょっぴりあったりして。期待九割に不安が一割。
 慎くんに犯されてる光景を想像しながら指を動かしたら、すごく乱れてしまった。腰が勝手に動いて止まらない。
 あたしは何度もイってしまって、だけどそれで終わらずにさらに高みへと昇っていく。
 気が狂いそうなほどの快感、というのを初めて体験した。
 ちらりと窓を見ると、慎くんてばあたしを見ながら自分のモノを手でしごいている。
 もう。こっちに来れば、お姉ちゃんがしてあげるのに。
 来て……。
 来て……。
 お姉ちゃんに、入れて。
 お姉ちゃんに、慎くんのものいっぱいかけて。
 その光景を頭の中で描く。
 もう、限界。
 頭が真っ白になって、気を失いそうになって。
 窓ガラスに白いモノが飛び散るのが見えた瞬間、あたしも快感の頂に達していた。
 一瞬、意識が遠くなって。
 全身から力が抜けて、スライムみたいに溶けてしまいそうな気分。
 だけど、我に返ると急に恥ずかしくなって、部屋を飛び出してシャワーを浴びにいった。
 火照った身体を冷やすように、冷たいシャワーを浴びた。
 だけど、動悸が治まらない。
 すごく恥ずかしいことをしてしまった。
 慎くんてば、あたしのことどう思っただろう。
 いやらしい女って、軽蔑するかな?
 慎くんは、エッチな女の子は嫌い?


 軽く汗を流して部屋に戻ると、もう慎くんの姿はなかった。窓を開けて、ガラスに顔を近づけると、ほのかにザーメンの匂いがする。
 窓ガラスをぺろりと舐めてみると、微かに男の人の味がした。



 それから何日か経ったある日。
 慎くんてば、お金を数えてほくほくしていた。
 きっと、あたしの写真を売ったお金だ。
 ちょっと、いじめちゃおうかな? また、悪戯心が頭をもたげる。
 それに、慎くんがこのままバイクを買ってしまったら、もうあんな刺激的なことはできないかもしれない。
 背後からこっそり忍び寄って、お金を奪い取る。「モデル料」って言ったら、慎くんは可笑しいくらい真っ青になっていた。
 まさか、気付かれていたなんて思わなかったんだろう。
 それはお姉ちゃんを舐めすぎというもの。
 怯えた表情の慎くんも可愛いけど、あまりいじめすぎちゃ逆効果よね。
 だから、あたしは言ってあげた。
「今度は隠し撮りじゃなく、ちゃんとしたモデル撮影で、もっと過激な写真撮ろうか? その代わりモデル料は七割、ね」
 もちろん、あたしの目的はお金じゃない。だけど慎くんは、そんなことまるで気付いちゃいないんだ。

中編に続く


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