だから姉にはかなわない・番外編(後編)


 あんなにいっぱい出したのに、慎くんのおちんちんはまだ力強く反り返っていた。
 それを見て、今のフェラチオで限界に達していたあたしの最後の理性が、音を立てて崩れ落ちていく。
 あれが欲しい。
 あれを入れて欲しい。
 慎くんとひとつにつながりたい。
 慎くんのおちんちんでイかせて欲しい。
 もう、それしか考えられなかった。
 口の中に、唾が溢れている。ごくりと、喉を鳴らして飲み込むと、あたしは最後の一線を越える台詞を口にした。
「……お姉ちゃんに、入れてみる?」
 ここで「入れて」と言わなかったのが、姉としての最後のプライド。自分の性欲を持て余している弟のために、献身的な奉仕をするお姉さまってわけ。
「え? えっと、その……」
「正直に言ってごらん。お姉ちゃんと本番したくない? お姉ちゃんの……中に、入れてみたくない?」
 あたしは自分のあそこを指で広げて、慎くんを誘った。なのに慎くんは、まだぐずぐずしてる。
「そ……そりゃ、入れてみたい……けどさ……でも、姉弟で……そんな……」
「もう! ぐずぐずしないでそこに横になりなさい!」
 じれったくなって、大声で怒鳴っちゃった。
 慎くんが慌ててベッドに乗る。怒ったあたしには逆らえないんだ。十六年間、そ〜ゆ〜風に仕込んできたんだから。
 仰向けに寝た慎くんの上に乗る。
 おちんちんを握って、あそこにあてがった。
 気持ちイイ。
 粘膜同士が触れただけで、もう……イキそう。
 今すぐに、このまま奥までくわえこみたい。
 ……だけど。
 いいの?
 本当に、いいの?
 これは最後の一線。
 あたしはいつでもOKだけど、慎くんは本当にいいの?
 だって慎くんは……
「慎くん……あんた、初めて?」
「……うん」
「初めてがお姉ちゃんでも、いい?」
「……うん、いいよ」 
 慎くんがうなずいた瞬間、あたしは迷いを捨てた。
 すとんと腰を落とす。
「あぁっ!」
「はぁぁぁぁぁっっ!」
 一気に奥まで入ってしまった。
 一番深い部分を、ズンと突かれた。
 それだけで、あたしは軽くイってしまっていた。
「あぁ……んっ! ん……ぁ……んふぅ……すご……すごい……突き上げてくるぅ……」
 大きさも、太さも、文句なし。
 それにすごく固くて、熱い。灼けた鉄棒を入れられてるみたい。
 嬉しかった。
 とても嬉しかった。
 慎くんの筆下ろししちゃった。
 この先、慎くんが何人の女の子とセックスしたとしても、初めての相手はあたし。それだけは誰にも変えられない。
 多分、物理的な快感よりも、こうした精神的な刺激の方がより強いのだろう。あたしは、これまでのセックスの中で最高の快感に包まれていた。
 勝手に腰が動いてしまって、止まらない。
 アソコの粘膜が、慎くんのおちんちんに絡みついている。
 腰のひと振りごとに、イってしまいそう。
 意識してそうしなくても、慎くんのを締めつけている。
 動く度に、愛液が溢れ出してくる。
 まるで、あたしの身体がアソコから溶けだしているみたい。
 さ・い・こ・う……。
 こんなに気持ちよくて、こんなに興奮するセックスは初めて。
 初体験は中学三年。これまでの男性経験は豊富な方だし、感度も悪くないと思うけど、今までこんなに感じたことはない。
 身体中の全神経が、性感帯になったみたい。
 あたしは、無我夢中で動いた。
 慎くんの上で、弾むように。
 いつもならとっくに果ててしまうくらいに感じているのに、今日はいつまで経っても終わりが来ない。
 どこまでも、どこまでも。
 あたしは、これまで体験したことのない高みへと昇っていった。



「ん……ふ……んんっぅ……」
 あの日のことを思い出すうちに、あたしの指はいつの間にか下着の中へと潜り込んでいた。
 そこは触る前から、トロトロにとろけていた。
 指先で軽く触れただけで、全身が痙攣する。
「いい……気持ちイイ……慎くん……」
 慎くんとしたときのことを思い出しながら、指を動かす。
 下着は邪魔なので、脱いでしまった。
 ベッドの上で大きく脚を開く。
「はぁっ……っあ……はぁぁぁっっ!」
 右手の人差し指と中指でクリトリスを挟むようにして、前後に指を滑らせる。
 指全体を使った長いストロークは、指先だけの愛撫よりも刺激が強い。
 なのにそれだけでは足りなくて、クリトリスを擦る手はそのままに、左手の人差し指と中指、そして薬指までを中に入れてしまった。
「あぁっ! あぁっ! あぁぁ〜っ!」
 中を、メチャメチャにかき回す。
 痛みさえ感じるほどに。
 それでも、あたしは満たされない。
 ここに、慎くんがいないから。
 この指は、慎くんの指じゃないから。
「慎くん……慎くぅん……あぁっ……は……」
 慎くんの幻影を追いながら、あたしは夢中で指を動かす。
「ちょうだい……慎くんの……欲しいのぉ!」
 慎くん……。
 慎くんに抱いて欲しい。
 慎くんのおちんちん入れて欲しい。
 慎くんにイかせてもらいたい。
 ううん、そうじゃなくて。
 もう慎くんじゃなきゃ、あたしはイけないの。
 慎くんが好きだと気付いたあの日以来、一人エッチも慎くんのことを考えながらじゃないとイけなくなってしまった。
 ただ指を動かしても、虚しさが募るだけ。
 慎くんとのセックスが一番。慎くんのことを考えながらの一人エッチでも一応イけるけど、あの時の高みにはほど遠い。
 あたしをそこまで連れていってくれるのは、想像じゃない本物の慎くんだけ。
「慎くぅん……そこ……もっと突いて……そこぉっ! あぁっ!」
 今日も、やっぱりそうだった。
 慎くんにイかせてもらった後はなんともいえない満足感があるのに、一人エッチでイった後はとても虚しく思えてしまう。
「はぁ……ぁ」
 あたしは、大きな溜息をついた。
 その直後。
「あの……姉貴……?」
 躊躇いがちな声。
 一瞬空耳かと思ったけれど、そんなはずはない。
 慎くんの声。
 慎くんが、困ったような表情で部屋の入口に立っていた。
 ということは……。
 い、今の、見られちゃったのっ?
 何度も何度も慎くんの名前を呼びながら、一人エッチしてたのを?
 ヤダ! そんな! それってマズイよ。
 あたしは身体を起こした。下半身が丸出しだったので、慌ててスカートの裾を引っ張って隠す。
「な、な、なにしてんのよっ? へ、部屋に入るならノックくらいしたらどうっ?」
 真っ赤になって叫ぶ。だけどこれは完全な言いがかりだ。ノックといっても、そもそもあたし、部屋の扉を閉めた記憶がない。
 知らず知らずのうちに、扉を開けっ放しで一人エッチしてしまったんだ。
 続く言葉は出てこなかった。
 あたしは耳まで真っ赤になって、俯いていた。
 初めて、慎くんに弱みを見られてしまった。
 最初の時は意図的に見せてあげたものだし、イニシアチブはあたしにあった。第一、あの時は慎くんの名前なんて呼んでいない。
 まったく無防備の一人エッチを見られてしまうなんて。
 それも、オカズにしていたその相手に。
 これまでの人生の中で、これほど恥ずかしいことがあっただろうか。
「あ、あの……姉貴に話があって……そしたら、ドアが開いてて……俺の名前が聞こえたから、その……」
 慎くんも、真っ赤になってしどろもどろに事情を説明する。
「……何よ?」
 あたしは涙目で慎くんを睨んだ。
「……話って何よ?」
「……先刻の、写真のことなんだけど……」
「それなら断ったでしょ!」
「姉貴、誤解してるんじゃないかと思って……」
 そう言って慎くんは、持っていた一冊の雑誌を差し出した。
 あたしはそれを受け取って目を落とした。
「……え?」
 もう一度、手の甲で涙を拭ってよく読み直す。
 確かにあたしは、大きな勘違いをしていた。
 慎くんが言った「写真」ってのは、これまでみたいなエッチなものじゃなくて、真面目な写真雑誌で募集しているコンテストだったんだ。
 それに応募するためのモデルになって欲しいということらしい。
 あたしは呆然と、雑誌と慎くんの顔を交互に見た。
「でも……どうして?」
 ぼんやりとつぶやく。
「どうして、お姉ちゃん?」
 そのコンテスト、別に人物写真やヌードに限定されてるわけじゃない。そもそも慎くんは普段、風景写真を撮ることが多かったはず。
「それは、その……」
 慎くんは口ごもった。
 なんだか、言いたくないみたい。
「何よ、はっきり言いなさいよ」
「その……つまり……」
 赤くなって、あたしと目を合わせないようにしてる。どうして?
 慎くんがおどおどしているおかげで、あたしはいつもの「お姉ちゃんモード」になることができた。
「ちゃんと言いなさい。言わなきゃモデルなんかやってあげない!」
 慎くんは諦めたのか、小さく深呼吸してぎゅっと拳を握った。
「こ、この間、気付いたんだ。あ……姉貴が、俺にとっていちばん魅力的な被写体なんだって!」
 真っ赤になって、そう叫んだ。
 あまりにもストレートに言われてしまって、あたしもすぐには反応できなかった。
 いつものように軽口でかわそうと思ったけど、言葉が浮かばない。
 だけどやがて、胸の奥の方から暖かいものが広がってくるのを感じた。
 知らず知らずのうちに、頬が緩んでしまう。
 あたしはもうすっかり元気になって、元の「お姉ちゃん」に戻っていた。
 だって、弱みを持っているのはあたしだけじゃないってわかったから。なにも、弱気になることはないんだって。
「そぉね〜。条件次第では、モデルになってあげないこともないけどぉ〜?」
 余裕の表情で言う。慎くんはやっぱりいつものように、あたしの前では少し腰が引けている。
「わかってるんでしょ〜? 条件が何かってことくらい。お姉さまにものを頼むには、それなりの礼儀ってものがあるわよねぇ〜?」
 あたしはスカートの裾をつまんで、ぴらぴらとめくって見せた。下着は先刻脱いじゃったから、ヘアが丸見え。それで慎くんも理解したらしい。
「わ、わかってるよ!」
 慎くんはその場で土下座して、床に頭を擦り付ける。
「今夜は精一杯頑張って、姉貴を満足させます! だからモデルになってください!」
 うんうん。やっぱりこうでなくっちゃ。
 慎くんとエッチするにしても、あくまでも主導権はあたしになくちゃね。うじうじ悩んで一人エッチなんて、全然あたしらしくない。
「今夜だけぇ? 母さんは明日も留守なんだよねぇ?」
 相手が下手に出ると、あたしはいくらでも偉そうになれる。
 こんな自分の性格が、実はちょっと……いや、かなり好きだったり。
「ちょ、ちょっと待ってよ! あんなに激しく二日もやり続けたら、俺、マジで死んじゃうよ!」
「だいじょ〜ぶ。慎くんのってすごいもん。それに今夜はお姉ちゃんが、特製スタミナ料理を作ってあげるから」
 うんと偉そうにして、とことん苛めて。その後でちょっとだけ優しくしてあげる。
 これでもう慎くんはあたしに逆らえない。
 慎くんの身体に染みついちゃってる習慣。十六年間、こうして躾けてきたんだもの。
 そう、なにも慌てる必要はなかったんだ。
 生まれたときからずっと、慎くんはあたしのものだもん。
 あたし、知ってるよ。
 口ではどう言っても、強気なお姉ちゃんに命令されたり、わがまま言われたりするのが好きなんだって。
 実は、マゾッ気があるのかもね。
 だから、慎くんはいつまでもあたしにはかなわないんだ。

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