上村くんは部屋の入口に寄りかかるように立って、驚くよりはむしろ感心したような、そして少し呆れたような表情でこちらを見ていた。
「かっ、かっ……上村くん、どうしてっ?」
ラッキーに貫かれたまま、私は真っ青になる。
言い訳のしようもない。
ベッドの上に四つん這いになって、ラッキーが背後から乗りかかっていて。
全裸になっていないとはいえ、そんなの少しも慰めにならない。スカートをまくり上げて、お尻が丸出しになっていて、ラッキーとの結合部まで露わになっている。
「はぁ……んっ!」
私とラッキーはまだつながったまま。慌てて離れようとしたけれど、コブが入っていて抜くこともできない。
どうして上村くんがここにいるのだろう。彼が出かけて、まだ三十分にもならないはずなのに。
「本物の獣姦を実際にこの目で見るなんて、初めてだな」
上村くんは笑いながら、ベッドの脇へ来て結合部を覗き込んだ。
「マジで入ってるよ、これ。あの真面目な委員長に、こんなアブノーマルな趣味があったとは……」
「あっ、あのっ、……これはっ、そのっ……」
「……クラスのみんなに言ったら、驚くだろうな」
「い、いやぁっ! 言わないでっ!」
思わず悲鳴を上げる。こんなこと知られたら、もう人前に出られない。
「お願い……言わないで……」
「言わないさ。言ったって誰が信じる? 普段の行いがいいと得だよな」
上村くんはそう言って、私をほんの少しだけ安心させた後、ふと思いついたようにぽんと手を叩いた。
「このシーンをビデオに撮って見せれば、さすがに信じるかな?」
「いやぁぁっ!」
涙が溢れだして、顔中を濡らす。上村くんは、そんな私の反応を楽しんでいるかのようだった。
「冗談だって。それより、まだ途中なんだろ? 俺のことは気にせずに、最後まで続けろよ」
「あっ……あぁぁっ!」
ベッドの端に腰掛けた上村くんは、私の腰のあたりに手をかけて左右に揺さぶった。
私の中を満たしているラッキーのペニスが、膣壁を刺激する。コブが、一番敏感な部分に当たる。
「いやぁっ……あっあっ……やぁっ! やめ……て……あぁぁっ!」
声が、出てしまう。
どんなに堪えようとしても、いやらしい声が漏れてしまう。
上村くんの手が、私の身体を乱暴に揺すっている。
自分で腰を動かすときよりもずっと大きな動きで。
激しすぎる刺激が全身に広がる。
それは、どんなに感じないようにしようとしても、無視することのできない快感。
痛みすら感じるほどに。
無意識に上げる声が、だんだん大きくなっていく。
……だめ。
もう……だめ。
おかしくなっちゃう。
上村くんが見ている目の前で、ラッキーとセックスしているなんて。
こんな……、こんなの……。
どうしていいのかわからない。気が狂いそう。
「あぁっ……いやぁ……やぁ……あぁっ! ……やめ……あぁぁんっ!」
乱暴に動かされて、結合部がぐちゅぐちゅと音を立てる。
流れ出した愛液が内腿を滴り落ちる。
「ふーん。ずいぶん感じてんじゃん?」
「やぁぁぁっ!」
さらに手の動きが大きくなる。私の理性の最後の堰が、一気に決壊する。
「あぁっ! あぁぁっ! だっ……だめぇぇっっ! やぁぁぁ――――っっっ!」
――最後まで、達してしまった。
上村くんが……恋人でもなんでもない男の子が見ている前で。
犬とセックスして。
全身を痙攣させて、涙と、涎と、愛液を垂れ流しながら。
私は、絶頂を迎えてしまった。
意識が、朦朧とする。
私はまだラッキーとつながったまま、ぐったりと枕に顔を埋めて、ぐすぐすと泣いていた。
立て続けの、激しすぎるエクスタシーのために全身から力が抜けていたし、恥ずかしさのあまり顔が上げられない。
「か……上村くん……君、どうして……?」
枕に突っ伏したまま、私は蚊の鳴くような声で訊いた。
「どうして、こんなに早く戻ってきたのかって? 当然、いいところを見逃さないためさ」
「――――っ!」
それって……。
じゃあ……知っていたの?
上村くんは、知っていたの?
私とラッキーを二人きりにすれば、こうなることを知っていたの?
どうして……?
顔を上げて上村くんを見る。彼は、笑ってこちらを見下ろしていた。
その笑みには不思議といやらしさが感じられなくて、まるで悪戯っ子のような表情だ。
「不思議か? 俺が、なにも知らないと思った?」
私は、こくんとうなずく。
だって、知っているはずがない。このことを知るのは、私とラッキーだけなのに。
「ラッキーから、聞いたんだ」
「え?」
聞いた……って、ラッキーは喋らないよ。
「今まで内緒にしていたけどね。俺は、犬の言葉がわかるんだよ。委員長が考えているよりもずっと正確に、ラッキーと意志の疎通ができるんだ。わかりやすく言えば……テレパシーみたいなものかなぁ」
「……っ! そんな、それじゃあ……」
確かに上村くんとラッキーはすごく仲がよくて、話をしているように見えるときがあった。
ラッキーは上村くんの言うことをよく聞いていた。
それに上村くんは他の犬にも好かれていて、初めて会った犬にも、とても懐かれていた。
それは……彼が、犬と話ができるため。
じゃあ、全部知っていたの?
ラッキーをお風呂に入れてあげたとき、何があったのか。
散歩を頼まれた日、何があったのか。
上村くんが旅行に行っていた一週間、何があったのか。
知っていて、私にラッキーの世話を頼んだの?
「ど、どうしてっ? 君、なにを考えてるの……ぁんんっ!」
思わずがばっと起きあがった私は、まだラッキーとつながったままだということを忘れていた。突然の刺激に腕から力が抜けて、また枕の上に落ちる。
それを見た上村くんが、ぷっと吹きだした。私の頭を、ぽんぽんと叩く。
「委員長、一年生の頃からしょっちゅう、あの河川敷を散歩してただろ?」
「……ぅん」
「ああ、ずいぶん犬が好きなんだなぁ、と思ってた」
「……うん」
「で、ラッキーが委員長のことを気に入ったって言うからね。こいつもそろそろ年頃だし、彼女を世話してやろうかな、と」
「じゃ、じゃあ……」
最初から、仕組まれていたってこと?
ラッキーが私を押し倒したあの日から。
「だけど、こう上手くいくとは思わなかったな。なにしろ牡犬と人間の女の子、どうやってその気にさせるかが問題だと思っていたけど……まさか委員長に獣姦趣味があったとはね。いやいや、人は見かけによらないってホントだな」
「そ、そんなぁ……」
「ラッキーも喜んでるよ。委員長とのセックスは最高、だってさ」
上村くんはそう言うと、また私の腰を掴んで揺さぶった。
こんな状況なのに、私の身体は反応してしまう。
――もしかしたら、こんな状況だからこそ、かもしれない。
「あっ……んんっ!」
「相手が犬でも構わない上、エッチが大好きっていうんだから最高だよな。ラッキーも見る目があるというか……」
「や……ぁあっ! う……んっあっ、はぁっ!」
「ラッキーの彼女にするなら、やっぱり人間の女の子の方がいいと思ってたんだ。妊娠の心配もないから、去勢手術とか仔犬のもらい手とか、面倒なこと考えなくてもいいし。それに……な?」
「……!」
意味深な笑みを浮かべた上村くんが何を言わんとしているのか、本能的に理解できた。
一瞬、全身の筋肉が緊張する。
「それに、俺も楽しめるもんな」
上村くんはゆっくりと、ジーンズのファスナーを下ろした。
固く反り返った男性器が、鼻先に突きつけられる。
人間の男の人のを見るのは、これが二人目。
それはすごく大きくて、凶悪そうな赤黒い色をしていて、びくびくと脈打っている。
「あ……」
顎を掴まれて上を向かされ、先端が唇に押し付けられる。
条件反射的に、私は口を開けてそれを受け入れた。
「ぅんっ……んんむ……ん……」
上村くんのペニスが、口中深くにねじ込まれる。
それはとても太くて、熱くて、固い弾力があった。
彼のって、ずいぶん大きいのではないだろうか。先端は喉の奥まで届いているのに、根本までは口の中に入りきらない。
それが当たり前のように、私は舌を絡ませた。口をすぼめて、内頬で彼のを締め付ける。
フェラチオ……その行為はもちろん初めてじゃない。
二年前、初体験のその日からくわえさせられ、口の中に射精された。
その時は苦しくて涙が出た。
以来ほとんど毎日、口で奉仕させられた。
しかし当時の私は、肉体的には苦しいはずのその行為が、決して嫌ではなかった。
まだエッチの知識もろくにない私が一生懸命口でしてあげると、彼がとても喜んでくれたから。
少しでも彼に気に入られたかった。
上手になった、と褒められるのが嬉しかった。
あの夏休みに、たっぷりと仕込まれてしまった口技。二年間のブランクがあっても、身体が憶えている。
なにも考えずに、私は上村くんに口での奉仕を続けた。
舌を絡めたり、強く吸ったり。
上村くんが私の意志などお構いなしに強要していることなのに、本当に条件反射のように反応してしまう。
私にはわかっていた。
これを、拒否することなどできないのだと。
だったら、彼の機嫌を損ねないようにするしかない。
そう自分に言い聞かせて、彼のものをくわえ続ける。
上村くんは私の頭を掴んで、腰を前後に激しく動かしている。小柄な私の身体が揺すられて、まだ私の中にあるコブが、新たな快感を呼び起こす。
「ん……ん……んんっ……っ!」
私は今、ラッキーとセックスしながら、上村くんに口を犯されている。
女性器と口とに、同時に挿入されている。
よく考えてみたら、これっていわゆる3Pというものではないだろうか。
(3P……?)
それが、あまり普通ではないセックスの形態であることは知っている。
それを今、自分がしている。
しかも、相手の一方は犬なのだ。
私は、身体の芯がかぁっと熱くなるのを感じた。
信じられないくらい、異常な行為をしている。
その事実を認識することによって、私の快感はさらに高められていった。
「んんっ……んっ……んんんっ……っ!」
口いっぱいに、上村くんを頬張って。
あそこは、ラッキーに満たされて。
私は無我夢中で首を振り、腰をくねらせていた。
二人を、もっともっと感じさせようとして。
それによって、自分自身がもっと感じようとして。
激しく動いていることと口を塞がれていることで、私は酸欠になりかけていた。
頭が、ぼぅっとしてくる。
「意外だ。委員長ってフェラ上手いじゃん」
そんな上村くんの声が、遠くに聞こえる。
もう、なにも考えられない。
ただ狂ったように、舌と腰を動かす。
昇りつめていく。
高く、高く、どんどん高く。
「んんーっっ! んんっ……んっ……んぅっ!」
ラッキーの熱い精が、子宮へと流れ込んでいる。
口の中のものが、びくんと大きく脈打つ。
一瞬、頭の中でなにかが爆発したように感じた。
どろりとした、粘りけの強い液体が口中にほとばしる。
目の前が暗くなって。
私はそのまま、気を失った。
「ん……、ふ……ぅ……ん……?」
意識が戻った私は、全裸でベッドに横たわっていることに気がついた。
どのくらい失神していたのだろう。もう、ラッキーとつながってはいない。
代わりに、裸になった上村くんが隣に座っていて、私の胸を乱暴に弄んでいた。ラッキーはベッドの脇に座って、つぶらな瞳で私たちを見つめている。
「委員長って、華奢に見えるけど着やせする方なんだ」
大きな、少しごつごつした手が、私の乳房をこね回している。
「Cカップくらいはありそうだな」
「や……ぁ……」
やだ、私ってば。
私の、エッチな身体ってば。
あんなに激しく、しかも休みなく四回もいったのに、また感じ始めている。
軽くつねられ、引っ張られた乳首が、つんと固く立ち上がる。
股間をぐっしょりと濡らしているものは、流れ出したラッキーの精液なのか、それとも、私自身のエッチな蜜なのだろうか。
「さて、そろそろいいか?」
「え?」
「ちゃんと、牝犬らしい格好しろよ。委員長」
「あ……」
なにを言われているのか、すぐに理解した。顔が微かに強張る。
当たり前だ。この状況で、口だけで許されるはずがない。
私は、上村くんに犯されるのだ。
なにを要求されているのか頭では理解していても、すぐには従えずに私がぐずぐずしていると、上村くんは私の脚を掴んで、乱暴にひっくり返した。俯せになった私の腰に手をかけて引っ張り、お尻だけを高く突き上げるような姿勢にする。
それは先刻、ラッキーとしていた時と同じ格好だ。
「や……ぁ、いやぁ……」
もちろん、そんな私の声は無視される。
なにかが、あの部分に触れた……と思った瞬間。
「あぁぁっ! あぁぁ――――っ!」
一気に、私の中に入ってきた。
予想外の乱暴な挿入に、私は悲鳴を上げた。
大きい。
すごく太い。
固くて。
とても、熱い。
一番深い部分を、ずんずんと突かれる。
「あぁぁっ! いやぁっ! あぁっ……やぁぁっ! あぁっ……あぁぁ――っ!」
激しすぎる。
挿入直後のラッキーにも負けないくらいの速い抽送に、繊細な膣の粘膜が悲鳴を上げる。
「はぁぁ――っ! あぁっ、あぁぁっっ! だめっ、だめっ、だめぇぇ――っ!」
私、感じてる。
二年ぶりの人間の男の子を相手に、あの時よりもずっと感じてる。
どうして?
こんなの、変。
恋人でもなんでもない相手に、乱暴に犯されているのに。
二年前は、向こうは遊びでも私は本気で好きだった。恋人のつもりだった。
なのに、今の方が感じてる。
上村くんなんて――
私を牝犬扱いするような男に犯されているのに――
なのに。
なのに。
「ひっ、いいぃっ! やぁっ! はぁぁっ! あぁんっ! あぁぁっ! あぁ――っ!」
身体は、これ以上はないってくらいに反応している。
奥までずんっと突かれるたびに、短い悲鳴を上げている。
痛みのためじゃない、歓喜の悲鳴。
「コブまで入れて悦んでるくらいだからガバガバかと思ったら、すっげーイイ締まりしてんな。気持ちイイや。ラッキーが夢中になるのも当然だな」
少しうわずった声で上村くんが言う。
腰の動きがさらに激しくなる。
「委員長、まさか、ラッキーが初めてじゃないよな?」
「んっ……あぁっ……ち、違う……」
「いくらなんでもそこまでアブノーマルじゃないか。でなきゃコブ入れるのは無理だよな。見かけによらず経験豊富なんだ」
「あぁっ……あっ、むっ……違う……よぉっ! ひっ、一人だけ……んぁっ!」
そりゃあ私は、犬とセックスして喜んでいる変態だ。だけど、遊んでいる淫乱女と思われるのは我慢がならない。
「じゃあ、そいつにずいぶん仕込まれたのか? フェラは上手いし、こんなに腰は使うし」
「あぁぁ――っ!」
言われて気付いた。言われるまで気付いていなかった。激しく腰を振っていたのは、上村くんだけじゃないということに。
いつの間にか私も、上村くんが突いてくるのに合わせて、大きく腰を振っていた。
気持ちいい。
どうして、こんなに気持ちいいの。
ラッキーが見ている前なのに。
「やぁぁっ……ぁっ! いやぁっ! あぁんっ!」
私は、恋人の前で他の男に犯されているような心境だった。
それってつまり、スワッピングかいうものだろうか。
私、興奮してる。
すごく感じてる。
認めないわけにはいかない。上村くんのペニスは、すごく気持ちいい。
ラッキーのももちろん最高だけど、犬と人間では、ずいぶんと感じが違うのだと知った。
ラッキーのペニスは……そう、熱い液体でぱんぱんに満たしたゴムのチューブみたい。
上村くんのはもっと、硬い芯のようなものが感じられる。すりこぎに薄いゴムの膜を被せたような、ちょっとごつごつした感じがする。
それぞれ膣が受ける感覚はずいぶん違うけれど、どちらも同じように私を狂わせる。
「あぁっ! あぁぁぁっん! あぁんっ! あぁっんっ!」
「くぅっ、ラッキーは幸せ者だな。初めての相手がこんな名器で、しかもテクニシャン!」
私のお尻を掴んでいる手に、ぎゅっと力が込められる。
激しく打ちつけられる腰の動きが、一段と大きくなる。
「あぁぁっ! いいぃっ! イクぅっ! イっちゃうぅ――っ!」
「いいのか? 委員長、もういきそうか? ほらっ、いけよ!」
言葉に合わせて、長いストロークが最奥まで打ちつけられる。
ただでさえ大きな上村くんの分身が、私の一番深い部分で一瞬膨らんで……弾けた。
少しずつ流し込まれるラッキーのものと違い、爆発するみたいに一気に噴き出してくる。
「あぁぁっ! いぃっ、くっ……あぁぁんっ! あぁぁぁん! やぁぁぁ――――っ!」
全身を痙攣させて、絶叫する。
体内に残った力をすべて費やして、私は今日五回目の……そして一番の絶頂を迎えた。
「は……ぁ……はぁ……あ……あぁ……」
「ふぅ――っ」
酸素を貪っている私の横で、上村くんが満足げに大きく息をついた。それから身体の位置をずらして、だらしなく開いた私の口に、いくぶん大きさと固さを失ったペニスを押し込んでくる。
しかし行為を続けようというつもりではないらしい。ペニスを汚している粘液を私の舌が舐め取ると、それだけで離れていった。つまり上村くんは私を牝犬扱いしているだけではなく、ティッシュペーパー扱いもしているわけだ。
私の……は、ラッキーが身を乗り出してきれいに舐めてくれている。さすがにもう、私の身体はなにも反応しなくて、ただぼんやりとベッドに横たわっていた。
「いやー、よかった。生の獣姦なんか見た直後のせいかな、すっげー興奮した」
「…………」
私は黙っていた。頭の中がぐちゃぐちゃだった。
上村くんの手が、肩のあたりをぽんぽんと叩く。
「これからも、ラッキーと一緒に楽しませてもらうぞ」
のろのろと身体を起こした。
これから、どうなっちゃうんだろう。
考えたくはないけれど、だいたい想像できる。
きっと、上村くんの性欲処理女にされちゃうんだ。
好き放題に犯られまくって。
ううん、きっとそれだけじゃ済まない。
写真やビデオを撮られて売られたり、お金のために無理矢理援助交際させられたり……。ひょっとしたら、風俗のお店で働かせられるのかも。
どんどん、考えが悪い方に向かってしまう。
(……やだよ……そんなの)
だけど、どうしようもない。
犬とセックスして悦んでいる変態女だって知られちゃったんだもの。
何をされても、逆らえない。
こんなこと学校で言われたら、私、もう生きていけないもの。
ううん。それだけじゃない。
上村くんに逆らったら、ラッキーに会えなくなっちゃう。ラッキーにしてもらえなくなっちゃう。
どうしよう……どうしよう……。
考えるほどに、涙が出てきた。
「……お願い……ひどいこと、しないで……」
「ひどい? どこが? 委員長が悦ぶことしかしてないだろ?」
泣いている私に構わずに白々しく言うと、上村くんは私の乳首を指先でぴんと弾いた。
そりゃあ確かに、今のセックスはすごく感じて、乱れちゃったけど。
抵抗らしい抵抗はしなかったけど。
逆らえないってわかっていてしたくせに。
「委員長、なにか勘違いしてんじゃないか?」
「え、だって……そんな、でも……」
「もしかして、あーんなことやこーんなことされたり、お金のために無理矢理援交させられたり、風俗に売られたりするとか思ってる?」
「え、えっと……ぅん」
上村くんってまさか、犬だけじゃなくて人間の考えていることもわかるんだろうか……そんなことを思いながら、私は小さくうなずいた。
「なに考えてるんだか。委員長ってエッチだな。官能小説とかアダルトビデオの見過ぎじゃないのか?」
からかうように笑う上村くんを見て、私は呆気にとられていた。
だけどあの場合、そう考えるのが普通じゃないだろうか。それとも私ってすごく、考えることがエッチなのかな。でも。
「……だけど上村くん、私のこと、犯したもん」
「当然だろ」
って、胸を張って言われても。
「あんなもん見せられて、何もせずにいられると思うか? 健康な、やりたい盛りの男子高校生が」
だから、そういうこと胸を張って言わないでよ。
「だからって、他の男にさせたりするわけないだろ。俺の話ちゃんと聞いてたか? 委員長は、ラッキーの彼女なんだから」
「え……?」
ラッキーの、彼女?
ラッキーは、上村くんの飼い犬で。
私は、そのラッキーの彼女で?
えっと、それって、つまり……。
「……じゃあ……、えっと。これからもずっと、私のこと……可愛がってくれるの?」
「もちろん。ラッキーと同じように大切にするさ。あ、そうそう」
上村くんが、ふと思い出したように立ち上がる。
「プレゼントがあったんだ。先刻、出掛けたついでに買ってきたんだ」
「……?」
私は戸惑っていた。なんだか、考えていたのとずいぶん違うみたい。
上村くんは、机の上に放り出してあった小さな紙袋を手に取った。近所にあるペットショップのものだ。
「ほら」
袋の中から取り出したものを、私の顔の前に突き出した。
それは、赤い首輪だった。
大型犬用の首輪。多分、ラッキーがつけているのとお揃いだ。
ラッキーのと同じように、金属製の小さなメダルが付いていて、それにはちゃんと『Rika』って彫ってある。
これが……プレゼント? 私への?
戸惑っている私がなにも言えずにいる隙に、上村くんは私に首輪を付けてしまった。
「うーん…………驚いた。必要以上に似合ってるな」
自分でしておいて、変な感心の仕方をしている。
「…………」
どうリアクションすればいいんだろう。
私、人間の女の子なのに。
裸にさせられて、犬の首輪を付けられている。
ちらりと横目で、壁に掛かっている鏡を見た。
一糸まとわぬ裸に、赤い首輪だけ付けた姿は……すごくエロティックだった。
「……これって」
「俺ん家にいる間は、取るなよ」
上村くんは命令口調。だけど顔は笑ってる。
「……私、上村くんのペット……なの?」
「そうだよ。文句あるか?」
私の顔を間近から覗き込むようにして言う。
「…………」
ちょっと考えてしまう。
上村くんてばやっぱり、私のこと牝犬扱いしてる。
だけど不思議と、不満も不安も感じなかった。
知っているから。
上村くんは人間に対してはちょっとぶっきらぼうで、乱暴なところもあって。初めて同じクラスになったときは恐い人かと思ったけれど。
だけど犬には――特に自分の飼い犬にはとっても優しいって、知ってるから。
だから、不安はない。
ラッキーと一緒に、ラッキーと同じくらい大切にしてもらえるんだって信じてるから。
それを嬉しいって思う私は、やっぱり変なのだろうか。
でも、上村くん公認でラッキーの彼女になれるんだし。
床の上に伏せているラッキーを、ちらりと見た。私とセックスした後いつもそうするように、目を細めて幸せそうな表情をしている。
うん、いいかも。
だけど、一つ気になることがある。
「私……ただのペット、なの?」
「まさか」
なに寝言いってんだバカ――と口には出さなくても、顔がそう言っていた。
「やることはやるに決まってるだろ。俺が知ってる中では、委員長のが一番気持ちイイもんな。ラッキーのものは俺のもの、さ」
あ、やっぱり……するんだ。
そうか、しちゃうんだ……。
「委員長、嫌なのか?」
「…………」
実をいうと、私が考えていたのはまるで逆のことだった。
私はラッキーのことが好きだし、彼とのセックスは最高に気持ちいいんだけど。
先刻の上村くんとの行為も、それに劣らず感じてしまったから。
私ってば、欲張りだ。とっても気持ちいいことしてくれる素敵な男の子を、二人とも欲しがっている。
「委員長?」
私が黙っているせいか、上村くんがどことなく不安そうな声音で訊く。その時になって、今さらのように気付いた。
ひょっとして上村くんも私のことが……って、考え過ぎかな。
だけどあの上村くんが、自分の気に入らない女の子をラッキーの彼女にはしないだろうし。
少なくとも、好意は持たれているはず。
「なあ、委員長」
「んふ……、わん!」
私は背伸びをすると、ラッキーがいつも私にそうするように、上村くんに対して口をペロペロと舐めるようなキスをした。
もしも私に尻尾があったら、それをぱたぱたと振っていたことだろう。
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