「……え?」
学校帰り、いつものように上村くんの家を訪れた私は、驚いて目を見張ったまま固まってしまった。
部屋の中では、ハンサムなゴールデンレトリーバー、愛してやまないラッキーが行儀よくお座りして、つぶらな黒い瞳で私を見あげている。
それはいい。いつものこと。
問題は、ラッキーが三頭いるということだった。
「……ラッキーが……分裂増殖してる……?」
一生忘れられないであろう特別な夏休みが終わり、二学期が始まって以来、私は上村くんと一緒に帰る日が多かった。おかげで、親友の貴音をはじめとして、クラスメイトたちからはすっかり〈恋人同士〉と認識されてしまっている。
私も上村くんも、それをはっきり認めてはいない。実際、上村くんは〈彼氏〉ではない。
しかし肉体関係があるのは事実だから、きっぱりと否定するのも気が引ける。結果、曖昧に誤魔化すだけになって、「ああ、照れてるんだな」と思われているというオチ。
しかし、まさか本当のことをいうわけにもいかない。
私の本当の恋人は上村くんが飼っているゴールデンレトリーバーのラッキーで、私はラッキーともども上村くんのペットになった――なんて、他人に話すわけにはいかないし、話したとしても誰も信じないだろう。
学校から帰った後、いつも一緒に散歩している。
そして、ラッキーとも上村くんとも、時々……じゃなくてしょっちゅう……というか、毎日のように、エッチなことをして。
その時の私は、首輪とイヌ耳と尻尾をつけられて、牝犬扱い。
そんなこと、絶対に誰にもいえない。
学校での私に対する周囲の認識は、今でも『優等生の委員長』なのだ。
なのに、プライベートでは〈牝犬〉で〈ペット〉。
人間としての尊厳はどこへ行ってしまったのかと思わなくもないけれど、正直なところ、そんなシチュエーションがかなり気に入っている。
ラッキーとするのも、上村くんとするのも、すごく気持ちがよくて、楽しい。
ラッキーは私のことが大好きで、私もラッキーのことが大好き。
上村くんとの間に恋愛感情があるのかどうかは判断に悩むところだけれど、お互いにある種の好意を抱いていることは間違いないし、第一印象はやや冷たい雰囲気だった上村くんも、たとえサドではあっても、彼なりの愛情を持って私に接してくれている――たとえそれが、ペットに対する愛情であったとしても。
だから、牝犬として扱われることに抵抗は感じていなかった。そもそも上村くんは、人間よりも犬に対する時の方が優しいのだ。
私たちの間には、きちんと口に出して確認したわけではないけれど明確なルールがあった。普段、学校では普通の――少し仲のいいクラスメイトとして接して、ふたりきりになったある瞬間から、私は彼のペットになる。
そんな関係が始まって、もう二ヶ月近く。
いつもは学校が終わると一緒に帰るのだけれど、今日は私が委員会の用事があって、上村くんはなにやら家で用事があるらしく急いで帰ってしまったため、私は遅れて彼の家を訪れた。
そして――
「……ラッキーが……分裂増殖してる……?」
「なにバカなこといってんだ」
私のつぶやきに、上村くんが醒めた口調でツッコミを入れる。
自分でも、おかしなことをいっている自覚はある。
だけど……でも。
目の前には、同じ顔、同じ毛並みのハンサムなゴールデン・レトリーバーが三頭。
まったく同じポーズで座って、私を見あげている。
少なくとも、ぱっと見ただけでは区別がつかない。
「ラッキーと一緒に生まれた兄弟たちだよ」
上村くんが、一頭の頭に手を乗せていう。
「こいつが長男のエース。ラッキーが次男で、こっちが三男のラッシー」
彼には、そっくりな三頭の区別がちゃんとついているらしい。
「あ……そっか」
そういえば、聞いたことがある。ラッキーは、親戚の家で生まれた仔犬のうちの一頭だって。 何匹も生まれた仔犬を、親戚内で分けたんだって。
確かに、毛色や顔の作りは一見そっくりであっても、よくよく見れば微妙に雰囲気が違う。落ち着けば、三頭のうち誰がラッキーかは間違えようがない。
「あー、びっくりした」
「……つか、どうやったら分裂増殖なんて発想が浮かぶんだか」
「い、いいじゃない。私は想像力が豊かなのよ」
馬鹿にしたような口調で苦笑する上村くん。私はぷぅっと頬を膨らませる。
「でも、どうしたの? いきなりラッキーの兄弟たちを連れてきたりして……」
そこまでいったところで、はっと気づいた。
上村くんはきっと、あれを企んでいるに違いない。
慌てて、部屋の外までささーっと後退る。
「ま、まさか上村くんっ! よ、よ、4Pとかっ、そーゆーすごいアブノーマルなこと考えてるっ? だ、ダメだよっ!」
自分の身体を抱きしめるようにして叫ぶ私を、つぶらな三対の瞳がじっと見つめている。
犬好き――性的な意味で――としては、この瞳に見つめられるだけでドキドキして、身体の奥が熱くなってしまいそう。
……だけど、ダメ。
犬とセックスするというだけでも女子高生としては充分すぎるくらいにアブノーマルなのに、三頭を相手の乱交だなんて。
第一、いつもラッキーの相手をするだけでも腰が抜けるくらいヘトヘトになって、その後で上村くんとするのは正直なところオーバーキャパ気味だというのに、さらにプラス二頭なんて絶対に無理。
「そ……そんなにしたら、死んじゃうよぉ」
「……」
涙目で訴える私を、上村くんは何故か無表情に見つめていた。どことなく呆れているようにも見える。
「委員長、またなにか勝手に思い込んでるな?」
「……え?」
「伯父さん家が一家で旅行に行くんで、その間うちで預かるんだよ」
「え……あ、……な、なんだ、そうなの? あははー、やだ、私ったらてっきり……」
笑って誤魔化す。
また、エッチな想像をしてしまった。どうして私ってば、すぐに思考がそっちへ行ってしまうのだろう。
きっと、半分以上は上村くんの責任だ。彼はクールな外見とは裏腹にすごくエッチで、サドで、私にいろいろといやらしいこと、恥ずかしいことを強要して楽しんでいるから。
――と、上村くんと関係を持つ前からその傾向があったことは棚に上げておく。
それにしても、先刻の台詞は失言だった――そう気づいたのは、上村くんの口元に意地悪な笑みが浮かんだ時。
「……4Pか、それも面白いな」
不穏な空気を感じ取って、また後退る。だけど部屋の外に脱出する前に腕を掴まれてしまった。
部屋の真ん中に連れ戻される。
「よかったな、委員長。今日はたっぷりと楽しめるぞ。明日は休みだし、少しくらい帰りが遅くなってもいいよな?」
「う……」
一瞬、心が揺れる。
こんなに素敵な犬が三頭も。
本当に、限界を超えるまでしてもらえる。
考えただけで、下着が濡れてしまいそう。
だけど。
「だ……だめだめ! む、無理だよ、そんなの。ほ……ホントに壊れちゃう!」
「委員長」
上村くんの声が、少し低くなる。
ゆっくりと上げられる腕。その手が持っているものを見て、私は動けなくなった。
彼が手にしているのは、紅い革製の、大型犬用の首輪。
それには私の名前を彫った、小さな金属製のメダルが付いている。
私用の、私専用の、首輪。
上村くんが一歩前に出る。私との距離が縮まる。
「あ……」
手が、首に回される。
首に触れる、固い革の感触。
メダルを下げている短い鎖が、鈍い鈴のような音を立てた。
顔がかぁっと熱くなる。
首輪を着けられてしまったら、私はもう完全に上村くんのペットだ。ご主人様に逆らうことはできない。
それが、ふたりの間の暗黙のルール。
この一ヶ月ほどの間に、すっかり身体に染みついてしまった習性。
身体が、微かに震えている。
「リカ」
首輪を着け終わると、上村くんは一歩離れて私の名前を呼んだ。
もう、その呼称は「委員長」ではない。
首輪を着けた私は、上村くんのペットの牝犬「リカ」なのだ。
「……ん」
顔が紅潮していくのを感じながら、小さくうなずいて制服のスカートに指をかけた。
一度、小さく深呼吸をしてから指を動かす。
微かな衣擦れの音とともに、スカートが足下に落ちる。
続いて、セーラー服を脱ぐ。
そしてソックス。その次にブラジャー。
最後に残ったのは、白のショーツ。
上村くんが見ている前で裸になるのは、もう幾度となく経験していることだ。全裸の、これ以上はないくらいはしたない姿を毎日のように曝している。
それなのに、いまだに慣れることがない。最後の一枚を脱ぐ前に、どうしても手が止まってしまう。
だけど上村くんには、犬に服を着せる趣味はない。全裸にならなければならない。
小さく深呼吸をして、目を閉じて最後の一枚を脱いだ。
「……よし」
脱いだセーラー服を手際よくハンガーに掛けてくれた上村くんが、また傍に来る。
その手に持っているのは、今度はイヌ耳のカチューシャ。
頭に乗せられる。
私はその場に膝をついて、そのまま四つん這いの体勢になった。
全裸で、首輪と耳を着けて、四つん這いで。
本当に犬みたい。
だけど、まだこれだけでは足りない。
もうひとつ、着けるべきものがある。
「……ひゃん!」
お尻に触れた冷たい感触に、思わず声をあげた。
上村くんの手が、お尻の、いちばん触られたくない――だけど触られると気持ちいい――部分を撫でている。
冷たくて、ぬるぬるとした感触。
ジェル状の潤滑ローションが、たっぷりと塗り込まれる。
私はきゅっと唇を噛んで、次に訪れるものに備えた。
「……んっ、……く……ぅん」
お尻の穴に、指よりも硬くて、もう少し太いものが触れる。
ゆっくりと、しかし力強く押しつけられる。
「ぅん……くぅっ、ん……ふぅ、ん!」
少しずつ少しずつ、お尻の穴が拡げられていく。
じわじわと、尻尾のついたアナルバイヴが侵入してくる。
それは、長浜梨花という人間を、一匹の牝犬とするための最後の仕上げ。
無意識に抵抗する括約筋を押し拡げて、私の中へ、どんどん深く入り込んでくる。
「うぅ……、くぅん……んふぅ、ふあぁぁ……」
根元まですっかり埋まったところで、大きく息をついた。
もう、ラッキーと同じ鮮やかな山吹色の尻尾だけが、私のお尻から生えている。
この感覚、何度経験しても慣れることができない。
膣への挿入とはひと味違う、独特の異物感に襲われる。
身体の力を抜いた方が楽だ――と頭ではわかっていても、全身の筋肉が勝手に強張って締めつけてしまい、結果、直腸への刺激がより強くなってしまう。
かといって、けっして不快というわけではない。
むしろ、逆。
大量のローションを塗られたお尻以上に、膣がとろとろに蕩けて濡れているのを感じる。膣への挿入に比べれば、はっきり「気持ちいい」といえる感覚ではないはずなのに、湧き出す蜜は呆れるほどの量だった。
「ぁ……はぁ……、ん」
抑えようとしても、甘い吐息が漏れる。
潤んだ瞳で、縋るように上村くんを見あげた。
瞳に映るのは、上村くんの笑顔。
私にエッチなことをしている時、彼はいつも楽しそうに笑っている。
「始めてもいいか?」
それは問いではなく、確認の言葉。
拒否権はない。
牝犬としての私は、上村くんに逆らうことはできないから。
小さくうなずくと、上村くんはまたお尻に手を伸ばしてきた。
スイッチを動かす、カチッという小さな音。
くぐもったモーターの呻りとともに、私の中に在る異物が妖しく蠢きはじめる。
「――っ! ……あっ、ぁ……ぁあんっ! あぁぁっ!」
お尻の中をかき混ぜられる感触に、身悶えする私。
その動きは尻尾に伝わり、モーターの動きと合わさって、ぱたぱたと振られているように揺れる。
それはまるで、発情した牝の匂いを振りまいて、若い牡たちを誘っているようだった。
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