MI・KU・MI 15

15

　駅の女子トイレは、一番手前の個室がふさがっている以外、他に誰もいなかった。
　公美さんは素速い動きで、あたしを一番奥の個室に連れ込んだ。
　ドアが閉められ、鍵がかけられる。
　そこは洋式だったので、公美さんは便座のふたを下ろし、その上に自分とあたしの鞄を置いた。
「声、出しちゃだめよ。他に人がいるみたいだから」
　あたしはこくこくとうなずいて、縋るように公美さんを見つめた。この、疼いて堪らない下半身を、早くなんとかしてほしかった。
「もぉ、そんなに目を潤ませちゃって。なんて可愛いの！」
　ぎゅう、と抱きしめられる。
　それだけで気持ちよかった。
　唇が重ねられる。
　あたしは自分から口を開いて、公美さんの口中に舌を差し入れた。
　二人の舌が絡み合う。
　あたしは貪るように舌を動かした。下半身で振動している、あと一息のところで達することのできない中途半端な快感を、ディープキスで得られる感覚で補おうとするかのように。
「ん……ふ……ぅん……んん」
　背中に回された手がゆっくりと動いて、腰からお尻にかけてを撫でている。
　あたしは、公美さんの上着をぎゅっと掴んだ。
「ねぇ……はやく……なんとかして……」
　もう、我慢できない。
　いつまでもこのままでいたら、おかしくなってしまう。
「いいわよ。じゃあ、まず……」
　不意に、手首を掴まれた。両手首が交差するように重ねられ、公美さんが片手でそれを押さえている。
「……え？」
　公美さんのもう一方の手は、あたしの、制服のブラウスに結ばれたリボンをほどいていた。
　ほどくと、短めのネクタイくらいの長さがある紅いリボン。状況を把握するより先に、公美さんは驚くほどの手早さで、あたしの手首を縛ってしまった。突然のことに、なんのリアクションもできない。
「え……と、あの……？」
「君が、逃げないようにね」
　そう言うと、公美さんはあたしの腕を上に上げさせた。万歳するような格好で、縛った手首が、上着や鞄を掛けるためのフックに引っかけられる。
　それは、平均よりも小柄なあたしには、辛い姿勢だった。頑張ってつま先立ちにならなければ、脚が床に届かない。
「や……だ、こんなの……」
「これで、君は抵抗できない。思う存分、楽しめるってわけ」
「う……」
　涙目で、公美さんを睨んだ。
　こんな、恥ずかしい格好。
　駅のトイレで。
　手を縛られて。
　え……ＳＭプレイみたいに吊されたりして。
　この変態さん相手に「ちゃんといかせて」なんて頼んでしまった自分の愚かさを悔やんだところで、今となっては後の祭りだった。
「やだ、こんな……痛いよ」
「心配しないで。これから、うんと気持ちよくしてあげるから」
　公美さんはなだめるように言って、ちゅっとキスをする。それから、あたしのブラウスのボタンに手を掛けた。
　上から順に。
　ひとつずつ。
　ボタンが外されていく。
　胸が、露わにされていく。
　鎖骨のあたりに唇を押し付けた体勢で、公美さんはボタンをひとつ残らず外してしまった。
「や……だ……」
　恥ずかしさのあまり、あたしは顔を背けた。
　これまでにもさんざん恥ずかしいことはされているが、服を脱がされて裸を見られるというのは、電車の中で触られるのとはまた違った恥ずかしさがある。
「肌、きれいね。すべすべしてる」
　公美さんの両手が、お腹の上に触れた。そのままゆっくりと、背中の方へと回っていく。
「あ、や……」
　その意図に気付いて、あたしは身体をよじらせた。
　もちろん、そんなことでは手の動きを封じることはできない。
　背中に回された手が、こそこそと動いている。次の瞬間、胸のあたりがふぅっと楽になった。
　ブラジャーのホックを外されたのだ。
　前に戻ってきた公美さんの手が、ブラのカップを上へずらす。
　ブラウスのボタンを外されただけでも恥ずかしいのに。
　胸を外気に晒されて、あたしはぎゅっと目を閉じた。
　公美さんの手が、あたしの胸を柔らかく包み込む。
「君の胸って素敵よね。身体は華奢なのにすごく大きいし、それに形がきれい。張りがあって、ブラを外してもぜんぜん形が崩れないんだもの。乳首も小さくて、きれいなピンク色で」
「やぁ……やめ、て……」
　パン生地かなにかのように、乳房をこね回される。聖さんにおふざけで揉まれたりしたことはあるけれど、こんなにじっくりと、しかも直に触られるのは初めてだった。
「見るのは二度目だけど、こうして触るのは初めてね。思った通り、手触りも最高」
　感触を確かめるかのように、二度、三度と強く揉まれる。あたしの胸はゴムボールのように形を変えた。
「や、だ……やぁ……」
　口でいくらやめてと言っても、フックに吊されて両腕を上げた今の体勢では、あたしの胸はまったく無防備に晒されている。公美さんは両手で胸をこねるように揉みながら、その谷間にキスをした。
「ん……っふ……ぅん」
　胸の上を、舌が滑っていく感触。無意識のうちに、唇の隙間から息が漏れた。
　公美さんの唇と舌が、あたしの胸を上っていく。
「あっ！　んぅ……」
　唇が、乳首に触れた。
　そこは硬くなっていて、微かな接触に予想以上の強い刺激を感じた。
「だっ……め……」
　口の中に含まれて、「ちゅう」と音を立てて吸われて。
　下半身を触れられるのと同じくらい、敏感に反応してしまう。胸が、こんなに感じる部分だとは知らなかった。
「やぁ……だ、めぇ……あ、あん……」
　強く吸われて。
　一瞬口が離れたと思ったら、今度は唇で軽く噛まれる。さらに、舌先が乳首をくすぐっている。
　その間も公美さんの手は、強く、優しく、胸を揉み続けている。
　やがて片手がゆっくりと下へ滑りはじめ、スカートをたくし上げたところで、あたしはぶんぶんと頭を振った。
「だ……め……そこは……。声、出ちゃ……」
「そぉ？」
　公美さんが目を細める。
　あ、やだ。
　また、あたしを苛めようとしている目。
「ひぃっ！　……ぃ……ゃぁ……」
　いきなり、あの部分を強く押された。
　ローターがクリトリスを刺激している、その上から。
　上げかけた悲鳴をなんとか呑み込み、血が滲むほどに強く唇を噛んで堪える。
　悲鳴の代わりにこぼれた涙が、頬を伝っていく。
　公美さんが微かな笑い声を立てた。
「お、頑張るじゃない」
「だ、って……」
「よしよし。お姉さんがなんとかしてあげましょう」
　あたしの頭を撫でてくれてから、公美さんはパンツに手をかけた。
　おしゃれとは無縁な生理用ショーツ。
　ゆっくりと下ろされていく。
　押し付けられていたローターが離れて、あたしはふぅっと息とついた。
　だけど安堵と同時に、一抹の寂寥を感じたのも事実だ。
　片方ずつ、足を上げさせられて、完全にパンツを脱がされてしまう。
　続いて、スカートも同じように。
　公美さんが見ている前で、下半身はソックスと靴以外なにも着けていない状態にさせられる。
　ブラウスの前もはだけてしまって、ブラのホックも外されて、もう全裸と大差ない格好だ。
　あたしは顔を背けた。
　公美さんの顔を見られなかった。
　女の子の一番恥ずかしい部分を露わにされて、だけど両手を縛られて隠すこともできない。
　六月の陽気の中だというのに、下半身が妙に涼しく感じた。
「そういえば、見るのは初めてね。ん～、可愛い可愛い」
　あたしの前にしゃがん、公美さんは楽しそうに笑っている。
「やっ……見ないでぇ……」
「ヘアは薄いんだね。おかげでよく見える。やっぱり、きれいなピンク色。あーあ、こんなに濡れちゃって……」
「やぁ……やめて」
　あたしが嫌がるのをわかっていて、その部分を克明に描写していく。
　公美さんにとっては、そこを見ることよりも、あたしを恥ずかしがらせることの方が楽しいのだろう。
「あ、これがないと寂しいよね」
「――っ、やっ……くっん……」
　また、小刻みな振動が伝わってくる。
　公美さんの指がローターをつまみ上げて、あたしに当てている。
　一番感じる部分を探るように、ゆっくりと動かしていく。
　あたしはぶるぶると身もだえした。
「やっ、んっ！　だ、めぇ……ホントに、声……でちゃう」
　駅のトイレなんて、いつ人が来るかわからないし、実際、今も利用者がいる。
　万が一にも、エッチな声を聞かれたりしたら大変だ。
「そぉ？　じゃあ……」
　にやり、と。
　公美さんが意地の悪い笑みを浮かべる。
　また、あたしが嫌がることを企んでいる……そう思ったのと同時に、口に、なにか布のようなものが当てられた。そのまま、中に押し込まれる。
　それが、つい先刻脱がされたばかりの生理用ショーツだと気付くには、数秒を要した。
「ん……ぅ……むぅ……」
　抗うあたしの口をこじ開けて、ぐいぐいとショーツが押し込まれる。
「苦しい？　自業自得ね。こんな無粋なもの穿いてくるからいけないのよ。もっとセクシーな、小さいパンツだったら楽だったのに」
　すごい、勝手な言い分。
　だけど抵抗のしようもない。あたしにできるのは、口から布きれをはみ出させて、むーむーと唸ることだけ。
　口に異物を押し込まれる苦しさに、また新たな涙が滲んできた。
「さぁて、声も出せなくなったところで、たっぷり楽しませてもらいましょうか」
　公美さんが、また足元にしゃがみ込んだ。
　手であの部分を広げて、ローターを押し当ててくる。割れ目に沿って、ゆっくりと前後に滑らせていく。
　あたしの身体が、びくっびくっと痙攣するように震える。
　動くと、縛られた手首が締め付けられて痛いんだけれど、身体が勝手に反応してしまう。
「んっ……んん――っ！」
「気持ちいい？　って訊くまでもないようね。もう大洪水。溢れて流れ出してるわよ」
　そう言って、溢れ出た蜜を手で周囲に塗り広げていく。お尻の穴の周囲は、特に重点的に。
「こっちも、可愛がってあげようか？」
「んん――っ、ん――」
　あたしは首をぶんぶんと左右に振ったけれど。
　嫌がれば嫌がるほど公美さんを悦ばせてしまう。
　公美さんは指先で、お尻の穴をこちょこちょとくすぐって。
　ゆっくりと、しかし止まることなく侵入してくる。
「んっ……んんっ……ぅん……」
　また、お尻を犯されてしまった。
　考えようによっては、あそこを弄ばれるよりも恥ずかしいことかもしれない。
　まだ、前はバージンなのに。
　お尻は、何度も何度も指を入れられてしまって。
　しかも。
　すごく恥ずかしいことなのに、あたしは、それで感じはじめていた。
　固くすぼまった筋肉を無理やり広げられる痛み。
　異物を挿入される苦しみ。
　だけど、ぬるぬるの指でお尻を弄ばれるのは、確かに気持ちのいいことだった。
　公美さんの長い指を根本まで埋め込まれて、奇妙な充実感すら覚えていた。
「こっちも、慣れてきたみたいだね。じゃあ、もっといいことを……」
　指が引き抜かれる。
　少し間があって、またお尻に触れるものがあった。
　指よりも硬い。それに、もう少し太いみたい。
「実は、もう一個あったりして」
　公美さんの言葉と同時に、お尻に振動が伝わってきた。
　ヴーンという低い呻りが、二つに増える。
「ぅんん――っっ！　んっ、んっ……」
　前後から加えられる小刻みな振動。
　二つの波が身体の中心でぶつかり合って弾けた。
　意志に反して、お尻の穴が強引に広げられていく。
　ローターが振動しながら、あたしの中に入ってくる。
　ヌルリ……
　一瞬の痛みの後、それはあっけないくらい簡単にあたしの胎内に収まってしまった。
　奇妙な既視感。
　すぐに、その正体に気がついた。
　小さな子供の頃、熱を出すと解熱用の座薬をお尻から入れられたものだ。あの感覚に少し似ている。ただ、いま入ってきたものは座薬よりも何倍も大きいけれど。
　お尻の穴はすっかりすぼまってしまった。なにか軽く触れるものがあるのは、電源コードだろうか。
　そして、お尻の出口近くにある、わずかな異物感。そこから、じーんと痺れるような振動が骨盤に伝わってくる。
「ん……ん……ん……」
「どう？　これって、けっこう病みつきになると思うけど」
「んん――」
　あたしは首を振った。
　認めたくなかった。
　だけど、確かに。
　羞恥心さえなければ、これって、けっこういいかもしれない。
　身体の中から刺激が加えられる。これって、外から触られるのとはまた違った感覚だ。
　じーんと。
　身体の、奥の奥まで伝わってくる。
　くすぐったいような。
　むず痒いような。
　それだけでいけるような、強い刺激ではない。だからこそ、いつまでも味わっていたいと思ってしまう。
　ヴィー、ヴィィ――
　あたしの身体の中で震えているのは小さなカプセルだけど、その振動は力強くて、骨の髄まで、内臓の中まで伝わって来るみたい。
「ん……んん……」
　脚から、力が抜けていってしまう。吊された手首や肩に体重がかかり、また痛みが走る。でも、しっかりと立つことなんてできない。
「さて、じゃあこっちにも……」
「んっ！　ぅ……ん」
　また、クリトリスにロータが強く押し当てられる。それに続く、奇妙な感触は……？
　あたしが首を傾げていると、公美さんが立ち上がった。
　手には、なにも持っていない。なのに、クリトリスにはローターが押し付けられたまま。
　それで気がついた。絆創膏かなにかで貼り付けられたのだ、と。
　公美さんの両手が、あたしの胸を包み込んだ。
「君の素敵な胸を、もっと堪能したくてね」
　大きな円を描くように胸をこね回しながら、その先端に口づけする。
　強く、吸う。
　軽く、噛む。
　舌先でくすぐる。
　絶え間なく加えられる刺激にあたしの胸は固く張りつめ、先端はより敏感になってしまう。
　右の胸をたっぷりと弄んでから、左へ。
　左の胸を飽きるほど嬲ってから、また右へ。
　あたしの胸は、公美さんの唾液でべとべとにされてしまう。
　きっと、キスマークもつけられているに違いない。今日は体育があるのに、どうしよう。
「んんっ……んっ……ぅんっ！」
　乳首を強く吸われるたびに、鋭い快感が身体を貫く。
　胸がこんなに感じるなんて、初めてだった。
　息つく暇もなく加えられる陵辱に、あたしの身体はこれ以上はないってくらいに反応してしまっている。
　汗とか。
　エッチな蜜とか。
　涙とか。
　もう、身体中べとべとになっている。
　口を塞がれていなければ、きっと涎も垂らしてしまっていたと思う。
　内股を滴る露は、もう膝のあたりにまで達している。
　それでもまだ、あたしは達してはいなかった。
　本当にあと一歩、いや半歩のところで、頂に達することは許されずにいた。
　公美さんの、そんなぎりぎりの線の見極めはすごいと思うけれど、されている当人にとっては感心している余裕などない。
　もっと、感じさせてほしい。
　ちゃんと、いかせてほしい。
　あたしの下半身は、いやらしい涎を垂れ流して、そうおねだりしている。
　そんな状態が、どのくらい続いたのだろう。
　きっと、普段電車に乗っているよりもずっと長い時間のはず。
　これまで経験したことのない、長時間に渡る愛撫。
　しかも、手と、舌と、そして二つのローターで同時に攻められてしまって。
　特に、初体験のローターが問題だった。
　クリトリスに当たるように貼り付けられて。
　お尻の中に入れられて。
　身体の中へと浸透する長時間の振動は、思わぬ副作用をもたらしていた。
「――っ！」
　絶え間なく与えられる快感に身を委ねて、頭がぼーっとしていて。
　気付いた時には、もう、かなりまずい状況に陥っていた。
「ん、んんーっ、んん……」
　そのことを公美さんに訴えようにも、声が出せない。いくら呻き声を上げたところで、感じているんだとしか思ってくれない。
　あたしは不自由な体勢のまま、じたばたと暴れて非常事態であることを訴える。
「……どうしたの？」
　様子がおかしいことに気付いた公美さんが、あたしの顔を覗き込む。あたしはせっぱ詰まった様子で呻りながら、目で、意志を伝えようとする。
「なにか、あった？」
　ようやく、口の中に詰め込まれた布を取ってくれる。あたしは大きく口を開けて、荒い呼吸を繰り返した。
「どうしたの？　手、痛いの？」
　心配した様子で訊いてくる。あたしは無言で首を振った。
　声を出せるようになっても、よくよく考えてみれば、それは口に出すのがすごく恥ずかしいことだった。
　だけど。
　我慢も、もう限界が近い。
「あっ……の……」
　自然と、極端な内股になって、腰が引けたような体勢になってしまう。脚が、腰が、小刻みに震えている。
「美鳩ちゃん？」
「……これ、ほどいて」
　あたしはちらりと上を見た。手首を縛ってドアのフックに引っかけられている、あたしの制服のタイ。
「それはだめ。まだ、終わってないもの」
「でも、……あの……。お願い、ちょっとだけ……」
「だーめ。どうしたの、急に？」
「あの……だから……」
　ああ、もうだめ。
　もう、限界。
「…………おしっこ……したいの……」
　仕方なく、あたしは正直に白状した。
　家を出る前にちゃんと用を足してきているのに、ローターの振動が腎臓や膀胱を変に刺激したらしく、もう本当に限界ぎりぎりの状態だった。
「ねぇ……お願い……」
「あはん」
　公美さんは納得顔で微笑んだ。だから、少なくとも用を足す間はほどいてくれるものだと思った。
　このままでは、そのシーンを見られることになてしまうけれど、背に腹は替えられない。
　だけど。
「そのまま、お漏らししちゃえば？」
　さらっと。
　公美さんはそう言った。
　腕を組んで、トイレの壁に寄りかかる。
「君が、そうやって恥じらいの表情を浮かべてお漏らしするシーンってのも、面白そうね。ぜひ、見物させてちょうだい」
「そんな……！」
　あたしは絶句した。
　できるわけがない。
　高校生にもなって、お漏らしするだなんて。
　それも、駅のトイレなんかで。
「パンツもスカートも脱いでるんだし、汚れる心配はないでしょ」
　そーゆー問題じゃない。……って言っても、無駄なんだろう。
　だけど、お漏らしだけはいや。それだけは、本当に、超えちゃいけない一線って気がする。
「……お願い……お願いです……」
「そんなこと言われてもなぁ。ねぇ？」
「っっ！」
　いきなり、ローターの振動が激しくなった。公美さんが、手の中にあるリモコンのスイッチを弄んでいる。
　あたしは短い悲鳴を上げた。
　ただでさえ限界ぎりぎりなのに、これ以上刺激を与えられたら。
「う……や……ぁ……うぁ……」
　歯を食いしばって、内股に精一杯力を込める。
　だけどもう手遅れっていうか、焼け石に水っていうか。
　限界は、刻一刻と迫ってきている。もう、最後の秒読みが始まっている。
「お願い！　……お願いします！　お願いだから……」
　ちゃんと、トイレでさせてほしい。
　だけど公美さんってば、悶えているあたしの様子を楽しそうに見ているだけ。
　鞄から、先刻ホームの自販機で買った食物繊維入りドリンクの小瓶を取り出して、わざとゆっくりと飲みながら、あたしの泣き顔を観察している。
「公美さぁん……ひどいよ、こんなの……お願い、お願いっ！」
「もう、本当に我慢できない？」
　ドリンクを飲み干した公美さんが、ゆっくりと顔を寄せてくる。
「もう、漏らしちゃいそう？」
　あたしの耳を軽く噛みながら訊いてくる。手が、震えているあの部分に触れてくる。
「だめっ！　だめぇっ、お願い……」
　意識して、おしっこの出る部分を触っている。指先で小さな円を描いて、マッサージするように。
　まるで、母犬が仔犬のお尻を舐めて排泄を促すように。
「やっ……だ、め……」
「もう、出ちゃう？　じゃあ……」
　公美さんは、あたしの顔の前でからになったビンを振った。
「この中にしなさい」
「……え？」
「ほら」
　あそこに、硬いビンが振れる感触。
「こうして持っててあげるから、この中にしなさい」
「や……っ！　そんな……ヤダ！」
「じゃあ、お漏らしして床をびしょ濡れにする？」
「やだっ！」
「なら、言うことききなさい」
「だって……」
　そんな。
　立ったまま、ビンの中にしろだなんて。
　でも、公美さんは絶対に、この手をほどいてくれそうにない。
　このままトイレの床を汚すか。
　ビンの中にするか。
　この二つしか選択肢がない。
　だったら……。
「……どうしても？」
「どうしても。床を汚すか、ビンの中にするか。どっちにする？」
　催促するように、指を乱暴に動かして訊く。今にも噴き出してしまいそうだ。
　床を汚すわけには、いかない。
「どっち？」
「ふえぇぇぇん……」
「泣いてちゃわかんない」
「ふぇ……、ビンに……します」
　泣く泣く、残された選択肢を口にした。
　すごく、屈辱的な気持ちだった。
　公美さんは満足げにうなずいて、あたしの前にしゃがんだ。
　ビンの口が、しっかりと押し付けられる。
「はい、どうぞ」
「……どうぞって、いわれても……」
　やっぱり、躊躇してしまう。
　立ったまま、ビンの中にするってだけでも異常事態なのに、それを、至近距離から公美さんにまじまじと見られているんだから。
　膀胱は破裂しそうなほどなのに、いざとなると出てこない。
　あたしはこれでも繊細な性格で、普通に用を足す時も、隣の個室に誰かいるだけでなかなか出なくなってしまうのだ。
　こんな変態的な状況では、出そうったって出てくるものじゃない。
「緊張してるの？　仕方ない子ね」
「んっ……あんっ！」
　びりっ、と。
　ローターを貼り付けていた絆創膏がはがされた。どうやら、ヘアが一、二本貼りついていたようで、突然の痛みに小さな悲鳴を上げる。
　それが、引き金になった。
　痛みで、一瞬羞恥心を忘れてしまった。
「あ……あぁ……」
　しゃぁぁーっという水音。
　解放感。
　全身から、力が抜けていく。
　張りつめていたものが解き放たれて。
　限界いっぱいまで膨らんでいた膀胱が、急に楽になる。
　膨らんだ風船が、しぼんでいくみたい。
「あ……ふぅぅ……ん」
　最後の一滴まで放出して、あたしは大きく息をついた。
　下半身がだるくて、力が入らない。
「はい、よくできました。じゃあ……」
「えっ？　あっ、やっ！　やだっ！」
　拭いてくれるものだと思った。
　だから、トイレットペーパーではない感触がそこに触れた時、あたしはびっくりして叫んでいた。
「ヤダ！　やめて！　そんな……汚いっ！　あぁっ！」
　それは、公美さんの舌だった。
　公美さんに、舐められている。
　排泄後の、拭いてすらいないその場所を。
「ダメだって！　そんな、汚いよ！」
「可愛い美鳩ちゃんものだもん。汚くなんてないわ」
　公美さんは立ち上がって言った。
「なんなら、君も味見してみる？」
　あの小瓶が、鼻先に突きつけられる。
　わずかな黄色みを帯びた、透明な液体で満たされている。
　あたしは顔を背けようとした。自分のおしっこを見せられるなんて、恥ずかしいどころの騒ぎじゃない。
　だけど、公美さんはあたしの顎を乱暴に掴むと、口にビンを押し付けてきた。
「やっ……うぅっ！」
　無理やり、口の中に流し込まれる。
　暖かいというよりも、熱いくらいの液体。
　苦いような、しょっぱいような味。
　決して美味しいものでないことだけは確かだ。
　あたしは、すぐにそれを吐きだそうとした。けれどそれより早く、公美さんの唇に口を塞がれてしまう。
　密着した二つの唇。
　舌が、差し入れられてくる。
　あたしの舌と絡み合って、口の中をかき混ぜるように。
　自分のおしっこのいやな味が、口中に広がる。
　あたしは涙を溢れさせながら、こみ上げてくる吐き気に耐えていた。
　やがて、その味も二人分の唾液に薄められていく。
　すっかり味がなくなったところで、公美さんはようやく唇を離してくれた。
　もう、本当に身体に力が入らなくて。
　あたしはだらしなく開いた口から涎を垂らして、陸に上がったタコかクラゲのようにぐったりと、トイレのドアにぶら下がっていた。手首や肩の痛みも、もう全然感じない。
　立て続けのアブノーマルな行為に神経が焼き切れて、痛覚もすっかり麻痺してしまったみたい。
「…………変態」
　ぽつりと、それだけつぶやいた。
「聞き捨てならないわね」
　公美さんが心外そうにあたしを見る。
「変態じゃなくてなんなのよ！　こんなところでおしっこさせて……それを舐めたり、飲ませたり……」
「別に私、スカトロ趣味ってわけじゃないわ。ただ、君の嫌がる様子が可愛いからね。ついやりすぎちゃった」
「……変態」
　もう一度繰り返す。公美さんは少し気分を害したようだった。
　まだ湯気を立てているビンが、鼻先に突きつけられる。
「つべこべ言うと、これ全部飲ませるわよ？」
「やぁっ！　ヤダヤダ、ぜったいヤ！」
　あたしは泣きながら、ぶんぶんと首を振る。公美さんはぷっと笑いを漏らした。
　その場に屈んで、ビンの中身を便器に流す。空になったビンは、汚物入れの容器に捨てた。
「ま、スカトロごっこはこのくらいで勘弁してあげましょう。でも君、人のこと変態変態って言うけどね……」
「ん、んっ……」
　いきなり、あそこを触られた。掌で乱暴にまさぐっている。
「あーゆーことされて、こんな風になっている女の子はなんなのかな？」
　顔に押し付けられた公美さんの掌は、ぐっしょりと濡れていた。粘液が、顔中に塗り広げられる。
「どうして私が、君を苛めるかわかる？　苛められている君の姿がすごく可愛くて、しかも、それで感じているからよ。私、女の子が感じないようなことはしないからね」
「……そん、な……だって……」
「あたしが苛めて悦ぶ変態なら、君は苛められて悦ぶ変態。相性ぴったりじゃない？」
「ち……ちがうもん！」
　そんなこと、あるわけない。
　もう、絶対に。
　あたしが、あたしが……マゾ、だなんて。
「事実は事実。素直に認めなさい。さて、そろそろフィニッシュといきましょうか」
「え？」
「まだ、ちゃんといってないでしょう？」
　公美さんはまた跪いて、あたしの股間に顔を埋めた。
　片脚が持ち上げられて、公美さんの肩に担がれるような形になる。そのため、公美さんの唇があそこにぴったりと押し付けられるようになった。
　舌が、その部分の粘膜全体を舐め上げる。
　舌先が、クリトリスをくすぐる。
　先刻の激しい尿意で忘れかけていた快感が、たちまちのうちに甦ってくる。
　舌、は反則だった。
　指で触られるより、ずっと気持ちいい。
「あぁっ！　だめっ！　……あぁんっ！」
　そんな。
　舌を、中に入れたりしちゃ駄目。
　内側から舐められるようなその感覚。
　指先を入れられた時と違って、不安感がない。
　舌なら、そんなに奥まで入れられないし、バージンを奪われる心配がないから。
　だから、余計に感じてしまう。
　気が遠くなりそう。
　ぴちゃぴちゃ。
　くちゅくちゅ。
　仔犬がミルクを飲む時のような、湿った音が響く。
「あぁっ！　あぁぁっっ！　だっ……ぁ……」
　じゅるじゅる。
　あたしの中から溢れてくる蜜を、わざと音を立てて飲んでいる。
　そんなに強く吸われたら。
　……死んじゃう。
　それなのに、また、お尻に指も入れてくる。
　そう言えばまだ、お尻にはローターも入ったままなのに。
　公美さんの人差し指が、中でローターを転がしている。
「だっ……めぇっ！　声……声、出ちゃう」
　今はもう、口になにも詰められていない。
　そんなにされたら、あたし絶対に悲鳴を上げちゃう。
「いいよ。声出しても」
「そんな、あ……だって……」
「もう、誰もいないから」
「え？」
「気付いてなかった？　今、このトイレにいるのは私たち二人だけ」
　そういえば、おしっこの時もずいぶん騒いでいたはずだ。あたしが気付かないうちに、他の人は用を足して出ていったらしい。
「だから、声出していいよ」
「そん……な……」
　そんなこと言われたって。
　駅のトイレで、恥ずかしい声を上げるだなんて。
　第一、あたしは声出すのに慣れていない。
　一人エッチの時って、そんなに大声出すものじゃないし。
　それ以外の時といえば、電車の中で公美さんに痴漢されている時だけなんだから。
「声、出しなさい。いく時は、うんと声出した方が気持ちいいから」
「や……あっ！　あんっ！」
　舌の動きが、激しくなっていく。お尻の中の指も。
　あたしから、無理やり声を引き出そうとするかのように。
「やだ……そんな。あぁっ……あっ、あぁっ！」
　あたしは、堪えようとした。
　だけど、一度声が出てしまうと、もう抑えられない。
「あっ、あぁっ、あぁっ、あんっ！」
　舌の動きが速くなるのに従って、あたしの唇からも絶え間なく甘い声が漏れ出す。
　あたしの声に誘われるように、公美さんの指と舌がさらに加速する。
　どんどん、どんどん。
　どんどん、どんどん。
　あたしの意識が、高みに昇っていく。
　一応公共の場とはいえ、いつもの満員電車ほどの緊張感はない。少しくらい声を出しても、少しくらい悶えても、誰にも見つからない。
　だから、素直に感じることが許されてしまう。
　あたしの声は、少しずつ大きくなっていった。
「あぁ……あぁぁ……あぁぁ――っ！　あぁんっ！」
「気持ち、いい？」
「い、イイっ！　いいのぉ！」
　公美さんの問いに、あたしは声を震わせて応えた。
　口先だけの否定なんて、もう無駄なこと。
　あたしは、公美さんの顔をぐちゃぐちゃにしてしまうほどに濡れてしまっていた。
「あぁーっ！　あんっ、あんっ！」
「イイの？　いきそう？」
「イ……イイっ！　あぁっ、い……っちゃう」
「いきなさい。ほら」
　最後の、とどめ。
　あそこを、軽く噛まれちゃった。
　痛いはずのその刺激すら、気持ちよかった。
「……っ！　あぁっ！　あぁぁ――っ！」
　全身が痙攣していた。
　ドアが、がたがたと軋む。
　達する瞬間、あたしはトイレの外にまで聞こえるんじゃないかっていうほどの声を上げていた。

「…………」
「なあに、そんな怖い顔して？」
　公美さんが、ウェットティッシュであたしの身体を隅々まできれいにしてくれて、服を着せてくれている間。
　あたしはずっと、縛られていた手首をさすりながら、ジト目で公美さんを睨んでいた。
「……変態」
「それはお互い様」
「……おかげで、遅刻したじゃない」
「少しくらい、いいじゃない。気持ちいい思いしたんだから」
「……体育があるのに、キスマークなんかつけて」
「美鳩ちゃんみたいに可愛い子、キスマークの一つや二つない方がおかしいって」
「……お尻、痛い」
「すぐに治るよ」
　いくら言っても無駄なのはわかっていたけれど、それでも文句を言わずにはいられなかった。
　だって、そうしないと。
　公美さんにエッチなことをされるのは、とても気持ちよくて、あたしはそれをされたがっているって認めることになりそうに思えたから。
　されるのは、確かに気持ちがいい。
　でも、されたがっているわけじゃない。自分から進んでされたいわけじゃない。
　いくら嫌がっても、公美さんが無理やりしているだけ。
　そう、きっちり線引きしておかないと。
　本当に、歯止めが効かなくなりそうだった。
「……はい、できあがり。行きましょうか」
　公美さんは、身体を拭いて服を着せてくれただけではなく、髪をセットして、軽くお化粧までしてくれた。涙と涎で、顔もぐちゃぐちゃだったから。
　でも、ひとつだけ忘れてる。
「あの、……パンツは？」
　あたしまだ、パンツ穿かせてもらってない。
「なぁに？　あんな、涎でべとべとのパンツ穿きたいの？」
　って、パンツも汚物入れに捨てちゃった。
「ノーパンで登校するってのも、ドキドキするんじゃない？」
　まだ、あたしを苛めようとしてる。あれだけやっても足りないんだろうか。
　でも、残念でした。
　あたしは無言で、自分の鞄を開けて予備のパンツを取り出し、公美さんがきょとんとしている前でさっさと穿いてしまった。
　小さく、舌打ちの音が聞こえる。
「ちぇっ、用意がいいわね。あたしが用意した、エッチなパンツを穿かせようと思っていたのに」
「……」
　まさか、そんなことまで考えていたなんて。
　危ないところだった。替えのパンツを持っていて本当によかった。
　思惑が外れた公美さんは本気で悔しがっていて、あたしは少しだけ溜飲を下げた。

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