「お兄ちゃんっ!」
ノックもせずに、お兄ちゃんの部屋に飛び込んだ。
驚いてこちらを向くお兄ちゃん。
私も動きを止める。
「あ、あの…………えっと……」
勢い込んで来たはいいけれど、これからどうすればいいのだろう、なにを言えばいいのだろう。
ほとんど考えなしに部屋を飛び出してきてしまったのだ。
「あ……あのっ、さ、さっきのは、ち、違うの! イヤなんじゃなくて……その……だから…………」
顔が、そして全身が熱い。
手が、背中が、じっとりと汗ばんでいる。
鼓動が不自然に速い。
脚が震える。
「だ、だから…………、か、身体……拭いて……?」
なんだか変な台詞だ。わざわざ部屋まで追いかけてきて言うことじゃない。だけど、他になにを言えばいいのかもわからない。
しばしの沈黙。
お兄ちゃんは、困惑したような複雑な表情を浮かべていた。
「あ……えっと……、ちょっと、待ってろ」
そう言って、私の部屋からタオルを取ってくる。
私は微かに震えながら、お兄ちゃんと向き合った。
「……お、ねがい…………」
震えて思うように動かない手で、それでもなんとか、羽織っていただけのパジャマを脱ぐ。
やっぱり恥ずかしい。
お兄ちゃんの顔を見られない。
お兄ちゃんに裸を見られたくない。
両手で胸を隠すようにして、背を向ける。
背後から気配が近づいてくる。
「……んっ」
背中に触れる、ひんやりと冷たいタオル。
ゆっくりと背中を拭いていく。
お兄ちゃんに触れられていると、やっぱりドキドキして、心臓が破裂しそうになって、触れられているところが熱くって。
だけど……
なんだか、安心できる。
そして、気持ちいい。
背中を拭き終わり、脇腹からお腹へと移動してくるタオル。
お兄ちゃんの腕が身体の前に回されて、背後から抱きしめられているような体勢になる。背中に、お兄ちゃんの身体が微かに触れている。
下から上へ、お腹を拭きながら移動してくる手。
おへその下から、胃の上、そして胸の膨らみのふもと。
そこで躊躇するように動きを止める。
この状態、体温がぐんぐん上昇していくように感じる。
これまでなら、ごく自然に、お腹の一部であるかのように胸も拭いてくれていた。確かに、お腹の延長でしかないようなささやかな膨らみだけれど、それはそれでちょっと傷つくことではある。
けれどこんな風に意識されると、こちらも変に緊張してしまって、このまま倒れてしまいそうだ。
私はどうして欲しいのだろう?
以前のようにごく自然に拭いて欲しいのか。
それとも触れて欲しくないのか。
それとも――
動きを止めていた手からふと力が抜け、タオルが落ちた。
おやっと思うのと同時に、
「……っ!」
お兄ちゃんの手が、直に胸を包み込んでいた。
そのまま、腕に力が込められる。
ぎゅっと抱きしめられ、背中にお兄ちゃんの身体が密着した。
もう、だめ。
今にも心臓が破裂してしまいそう。
背後からとはいえ、お兄ちゃんに抱きしめられている。しかも、下着一枚だけの、全裸同然の姿で。
……どうして?
どうして、お兄ちゃんは私を抱きしめているの?
なにかの間違い、とかじゃない。
自分の意志で、力強く抱きしめている。
痛いくらいに。
苦しいくらいに。
そして、タオル越しではなくて胸に触れている。
どんどん、体温が上昇していく。
一秒ごとに、鼓動が加速していく。
頭がくらくらする。抱きしめられていなければ、このまま倒れてしまっていたに違いない。
この状況……
私はどうしたらいいのだろう。
私はどうしたいのだろう。
今、予想外の突然の出来事に戸惑っている。
だけど、ちょっと……いや、かなり……、喜んでいる……かもしれない。
昨夜は一晩中、お兄ちゃんを触れ合うことを妄想し、うとうとするたびに夢に見ていた。
それが今、現実になりかけている。
私は……
私が望んでいることは……
「……お兄……ちゃん」
そっと、胸を包み込んでいるお兄ちゃんの手に触れた。
びくっと反応するお兄ちゃんの腕。少しだけ力が抜けた隙に、腕の中で回れ右をする。
そうして、お兄ちゃんの大きな身体に腕を回した。しがみつくように、お兄ちゃんの胸に顔を埋めるようにして抱きしめる。
驚きを含んだ、小さな声を上げるお兄ちゃん。
そして、また、腕に力が込められて、私の身体を包み込む。
お兄ちゃんと私は正面から向き合って、しっかりと抱き合う形になっていた。
もちろん初めての経験だ。仲のいい兄妹、ふれあいは少なくなかったけれど、こんな、まともに抱き合うことなんてなかった。
全身が灼けるように熱い。身体中の血液が沸騰しそう。
だけど、嬉しい。
泣きそうなほどに、嬉しい。
腕に力を込める。もっと、もっと、近づきたい。もっと、もっと、密着したい。
お兄ちゃんの腕にも力が込められる。
頭の上に、お兄ちゃんの息を感じる。髪が揺れる。
恥ずかしかったけれど、思い切って顔を上げた。
お兄ちゃんが見おろしていた。
間近で見つめ合う形になる。顔の間隔は、ほんの数センチしかない。
ふたつの顔が、どちらからともなく、さらに近づいていく。
ゆっくりと。
しかし確実に。
間隔の単位がセンチからミリになったところで、瞼を閉じた。
――唇が触れる。
しかしそれだけで動きは止まらない。さらにしっかりと唇を重ね合わせる。
それでも、まだ、足りない。
もっと、もっと、近づきたい。
唇をわずかに開き、舌を差し伸べる。
示し合わせたように、お兄ちゃんも同じことをしてきた。
濡れた粘膜が触れる感触。
でも、触れただけでは足りない。
ふたつの舌が意志を持った生き物のように蠢き、絡み合う。
それはまったく自然な流れだった。
呼吸が荒くなる。
信じられない。だけど、正真正銘の現実。
お兄ちゃんと、キス、している。
それも、家族の親愛の情を表すソフトなキスではない。
恋人同士がするような、激しく、濃厚な、ディープ・キス。
口を大きく開いて密着した口の中で、舌が絡み合い、唾液が混じり合う。
ディープキスなんて、初めての経験だった。いや、ディープに限らず、唇同士のキスなんて。
頬や額へのキスなら、子供の頃にお兄ちゃんととか、女の子同士のおふざけとかでは経験あるけれど。
だから、知らなかった。
キスって……ディープキスって、こんなに気持ちのいいものだったなんて。
唇が、舌が、まるでクリトリスみたいに感じてしまう。
もう、キスだけで達してしまいそうな気がしてしまう。
キスって、こんなに気持ちのいいものなのだろうか。それとも、相手がお兄ちゃんだから特別なのだろうか。
あと何秒か続けていたら、本当に絶頂を迎えていたかもしれない。だけど、脚の方が先に限界を迎えてしまった。
脚から力が抜けて、がくがくと震える。
抱きしめられていなければ、倒れていたかもしれない。自分の力だけで立っていることができず、お兄ちゃんの腕に体重を預ける形になった。
「……大丈夫か?」
優しく、ベッドに横たえられる。
そのまま、お兄ちゃんの身体が覆いかぶさってくる。
ベッドの上で、ふたりの身体が重なった。
これは間違いなく、恋人同士がするような、エッチなシチュエーションだ。
……セックスする時のような。
……セックス?
お兄ちゃんと?
昨夜、何度も夢に見たように?
してしまうのだろうか?
したいの、だろうか?
……
…………
私は…………
そして、お兄ちゃんは……?
「愛梨……」
耳元でお兄ちゃんがささやく。
耳たぶをくすぐる、微かな呼気の動き。それすらも愛撫のようだった。
「……ごめん、俺、昨日からなんだかおかしいんだ」
私の華奢な身体を抱きしめながら言う。
「愛梨の、こと……、愛梨と、こういうこと、したいって……ずっと、そればかり考えてて……」
「……お兄ちゃん」
「愛梨のこと、抱きしめたい。……愛梨と…………エッチなこと、したいって」
「おにい……ちゃん……」
私も腕に力を込める。
全身で、お兄ちゃんの体重を感じる。
「……私も……おかしいの。……一晩中……ずっと、お兄ちゃんと…………こーゆーコト……する、夢……見てて…………」
しかも、ただ夢を見るだけじゃなくて。
「……それが…………イヤじゃ、ないの。……すごく…………嬉しい、の」
「愛梨……」
それ以上、言葉は不要だった。
ごく自然に、そうするのが当然のように、また、唇が重なる。舌が絡み合う。
気持ちのいい、キス。
下着が濡れてしまうほどに。
「……っ」
胸を、触られた。
大きな手が、小さな膨らみを包み込む。
唇が離れ、お兄ちゃんの顔が下へ移動していく。
顎、首筋、鎖骨……唇が滑っていく。そして、胸の膨らみの上へと。
「ん……っ、ぁ……」
胸の小さな突起が、お兄ちゃんの口に含まれる。唇で軽く咬まれる。その先端を舌先でつつかれる。
同時に、もう一方の胸は手で愛撫されていた。
手のひら全体で、優しくマッサージするように揉まれる。乳首をつままれる。転がすように弄ばれる。
こうしたことは、もちろん初めての経験だった。友達同士でふざけて服の上から触ったりすることはあっても、そもそも直に胸に触れられること自体が初めてだ。お兄ちゃんに身体を拭かれていた時も、あくまでタオル越しの接触だった。
気持ち、よかった。
クリトリスほどではないけれど、だけど、ちょっと似たような感覚。指先でこすられると、じぃんと、痺れるような快感が走った。
小さな乳首が固くなって、つんと突き出してくる。そうすると刺激に対してよけいに敏感になってしまう。
「は……ぁ……、あ、んっ……」
刺激を受けるたびに身体が震え、声が漏れてしまう。
どんどん熱くなってくる。触れられている胸は灼けるようで、全身から汗が噴き出してくる。
下半身はもっと熱くって、下着の中の湿り気が増してくる。
そこをお兄ちゃんに触れられたら、どんな風に感じるのだろう。
いったい、私、どうなってしまうのだろう。
少しだけ怖くて、だけど、その何倍も、そうされることを期待している。触って欲しい、と思っている。それはごく近い将来訪れるはずの現実だ。
「……ん」
胸を愛撫していた手が動き出す。
小さな膨らみを下り、お腹からおへそを越えて、さらに下へと移動していく。
「……ぁんっ! あっ……」
下着の上に指を置かれただけで、声が出てしまった。
一瞬、熱湯の飛沫でもかかったかのように感じた。
エッチな部分から、エッチな蜜が滲み出してくる。それは滲み出るというよりも、触れられた瞬間、身体の中から噴き出してきたかのような感覚だった。
一度、割れ目の上を端から端まで往復した指が、いちばん敏感な部分に押しつけられる。そこで震えるように小刻みに動き出した。
「あ……、あっ! あんっ! あぁっ!」
ちょっと触れられただけで、いやらしい声を上げてしまう。
やだ。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
たぶん、お兄ちゃんも気づいているだろう。
そこが、下着の上からでもはっきりわかるほどに濡れて、熱くなっていることに。
強く……弱く……強く……弱く……
動きに変化をつけながら震える指。
私の声は甲高い悲鳴に変化していく。
あっという間に達してしまいそうになったところで、しかし、指は気持ちのいい部分から離れてしまった。
そして、下着のゴムの部分に引っ掛けられる。
「……あ…………や……」
ゆっくりと引きずり下ろされていく。
女の子のいちばん恥ずかしい部分が露わにされていく。
お兄ちゃんは身体の位置を変えて、両手で下着を脱がしていく。
「…………ヤ」
小さな布きれが脚から抜かれた。
もう、なにも身に着けていない。
正真正銘、一糸まとわぬ全裸を、お兄ちゃんの目にさらしていた。
昨日までの、お兄ちゃんに見られるのが平気だった時でさえ、下半身まで全部脱いだ裸体をさらしたことなんてない。それなのに、胸を見られるのすら恥ずかしくて耐えられない今日の精神状態で、全裸を見られるなんて。
しかも、ベッドに……よりによってお兄ちゃんの匂いがするベッドに横たえられて。
恥ずかしすぎて耐えられない。
無意識のうちに、両手で胸を隠して、脚と瞼を固く閉じていた。
息が苦しい。緊張のしすぎで過呼吸を起こしそうだ。
それなのに、お兄ちゃんってば。
「……隠さないで、ちゃんと見せて」
なんて、さらに血液が沸騰しそうなことを言う。
死ぬほど恥ずかしいのに、どういうわけかその言葉に逆らえなかった。身体が勝手に従ってしまう。
胸を覆い隠していた手を下ろす。
おそるおそる、ゆっくりと、脚を開いていく。
五センチ……十センチ……三十センチ……しまいには、はしたないくらいに広く。
女の子の、いちばんエッチな、いちばん恥ずかしいところが、お兄ちゃんの目の前に露わになってしまう。
「きれいだよ」
やや緊張した面持ちのお兄ちゃんは、それでも優しい笑みを浮かべて言った。
「……私の、裸なんて、見慣れてるくせに…………」
「……そうだな。これまでずっと、きれいだとは思ってたけれど、それでも興奮することなんてなかった。……いったい、どうしちゃったんだろうな……、今日は、愛梨のこんな姿を見せられたら、我慢できない」
「ひゃん……」
内腿に触れられる。
それも、かなり際どい部分に。
そこに、顔が近づいてくる。
「ちょっ……や、だめっ!」
私の下半身に覆いかぶさるお兄ちゃん。内腿にキスされてしまった。
そこからさらに、核心へと迫ってくる。
「ふひゃっ……ぁんっ! やぁぁんっ!」
いちばんエッチで、いちばん敏感な部分。そこに触れるのがとても気持ちのいいことであることはよく知っているけれど、キスされるのが、その何倍も、何十倍も、気持ちのいいことだったなんて。
唇が軽く触れただけで、意識が飛びそうなほどの衝撃だった。
ベッドの上で身体が弾む。
「や……っ、あぁっ! あぁんっ! あんっ!」
抑えようとしても、甘ったるい声が出てしまう。
もう、気持ちいいとか、そんなレベルの話じゃない。これまでしてきた独りエッチなんて、「なにそれ?」って感じ。
これこそが本当の快感なんだって思った。
「……ひぃゃっ……はぁぁっ! あぁぁぁっ!」
クリトリスを唇で噛まれる。
軽く吸われる。
割れ目全体に舌が押しつけられ、舐められる。
そして、舌が中に入ってくる。
気が遠くなる。
イイ……
イイっ!
よすぎる!
初めて経験する舌による愛撫に、私の身体は激しく反応していた。
特に感じてしまうのは、やっぱり、クリトリスをちょっと強めに吸われた時。お兄ちゃんはすぐにそれを見抜いたのか、いちばん弱い部分を執拗に責めたててくる。
そして――
口での愛撫に加えて、指が、入ってきた。
私の、中に。
自分の指すらほとんど挿れたことのない部分に。
滲み出す蜜を塗り広げるようにしながら、ゆっくりと侵入してくる。
少しだけ、痛い。
だけど……すごく、気持ちいい。
「ん……、くぅ……んっ! ん、ふぅんっ」
以前、独りエッチで試してみた時には、クリトリスの方がずっと気持ちいいと思ったけれど、今はものすごく感じてしまう。
やっぱり、そこは『性器』なのだ。お兄ちゃんに愛撫されれば気が遠くなるほどに気持ちいい。
ゆっくりと、しかし着実に、自分でも触れたことのない奥まで入ってくる。
指の腹で、膣壁の粘膜をこすられる。
「ひぃんっ、んふっ……あんんっ、くぅぅんっ!」
唇と舌による、クリトリスへの愛撫も続いている。
それだけでも許容限界を超えるほどの快感なのに、膣への愛撫が加わった。
膣の中に一ヶ所、信じられないくらいに感じてしまう部分があった。
じんじんと痺れるような感覚で、おしっこがしたくなるような感じで、だけど悲鳴を上げそうになるくらいに気持ちがいい。
怖いくらいに、泣きそうになるくらいに、感じすぎてしまう。
「そ、こ……っ、や……だっ! あんっ、あぁっ! あぁぁんっ!」
微妙に位置を変えつつ、いちばん感じる部分を探り当てていくお兄ちゃん。
より激しく反応する部分を見つけると、そこを執拗に責めたてる。
「やっ……っ! やぁんっ! やぁっ、だめっ! だめぇっ! やめてっ! もうダメっ! ストップ! ストーップっ!」
お兄ちゃんの髪を掴んで必死に懇願する。
だけどやめてくれない。むしろ、舌の、指の、動きが速くなっていく。
私の「やめて」の台詞が、嫌だから、不快だから、ではなく、怖いくらいに気持ちよすぎるからであることを、お兄ちゃんはよくわかっている。
だから、よりいっそう感じさせるために、愛撫が激しさを増していく。
「やっ……だめっ、だめっ! だめぇっ! あんっ、あんっ! あぁぁんっ! あぁぁぁ――っ!」
その瞬間、本当に意識が飛んだ。
頭の中が真っ白になる。
全身の筋肉がびくんびくんと痙攣する。
そんな状態が数秒間続いた後、ふぅっと力が抜けていく。
身体にまったく力が入らなくなって、全身がスポンジにでもなったような感覚。
これって……
これって……
イった、ってこと?
これが……本当の、絶頂?
だとしたら、今までの独りエッチで「イった」と思っていたのはなんだったのだろう。
本当の快感はその先にあったことを知らなかった。もし「ストップ」の叫びでお兄ちゃんがやめていたら、知らないままだった。
「……気持ち、よかったか?」
いつの間にか移動してきたお兄ちゃんが、私の顔を覗きこんで笑っている。
「すごく感じてたな。びちょびちょに濡れてるぞ?」
「……うるさい、バカ」
股間が濡れて、ひんやりと冷たくなっているのを感じる。これまでになかったくらいに濡れている。
それが恥ずかしくて、だから、ふくれっ面で可愛くない台詞を吐いてしまう。
もう、ありない。
こんなに気持ちいいなんて。
こんなに感じてしまうなんて。
こんなに濡れてしまうなんて。
恥ずかしい。
恥ずかしい。
お兄ちゃんに愛撫されて、いちばんエッチな部分をさんざん舐められて、弄られて。
めちゃめちゃに感じてしまって。
……死ぬほど恥ずかしい。
「…………私だけ、裸なんて恥ずかしいよ。お兄ちゃんも……脱いでよ」
「……ん」
お兄ちゃんの前で、ひとりだけ裸でいることも恥ずかしさをいや増す原因だと思った。ふたりとも裸だったら少しは恥ずかしさも薄れるかも……と思ったのだけれど、実際のところ、それは間違いだった。
大学生で、女の子にもてて、経験豊富なお兄ちゃん。女の子の前で裸になるなんて慣れっこだ。私の前で服を脱いでも、それで恥ずかしがることはない。
むしろ私の恥ずかしさが増すだけだ。
まだ中学生で、バージンで、彼氏いない歴十五年の私。お父さんやお兄ちゃんと一緒にお風呂に入っていた幼少の頃を別にすれば、男の人の裸を目の当たりにするのも初めてで、しかもそれがお兄ちゃんであれば、見ている方が恥ずかしい。
上半身が裸になっただけで、真っ赤になって目を背けてしまう。これ以上直視していたら神経がもたない。
横を向いて目を閉じていると、また、お兄ちゃんの身体が重なってきた。
さっきの抱擁とはまったく違う、お兄ちゃんの肌と、私の肌が直に密着する。
触れた部分がとても熱かった。
ぴったりと重なるふたつの身体。お兄ちゃんの息が耳にかかる。その息も熱い。そして、呼吸が荒い。
「もう……我慢できない。今度は、俺も一緒に気持ちよくなりたい。……愛梨はちょっと痛いかもしれないけど……我慢できるか?」
「……ん」
言わんとしている意味はすぐにわかった。
いよいよ、本当に、セックス……する。
お兄ちゃんが……私の中に、入ってくる。
私の身体で、お兄ちゃんが、気持ちよくなろうとしている。
私は初めてだから、たぶん、痛いかもしれない。
痛いのは、ちょっと、怖い。
それでも……やっぱり、したかった。
お兄ちゃんに、指と口とで、すごく気持ちよくしてもらった。だから、今度はお兄ちゃんに気持ちよくなってもらいたかった。お兄ちゃんを気持ちよくしてあげたかった。
そしてなにより、お兄ちゃんと……
……ひとつに、なりたかった。
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