そのままずっと、時間の感覚もなくなるまで、ほとんど休みなしにお互いを求め合った。
やめられない。とまらない。
お兄ちゃんと私、ひとつにつながったふたりだけが世界のすべてだった。
我に返ったのは、玄関のチャイムが鳴らされた時。
「――っ!」
つながって抱き合ったまま、はっと顔を見合わせる。
その時になってようやく、外がもう薄暗くなっていることに気がついた。いったい何時間、続けていたのだろう。最初に結ばれたのは、まだ午前中だった。
「……母さんだ」
「やば……どうしよう」
反射的にぱっと離れる。
「……まずパジャマ着て……、部屋に戻って寝たふりしてろ」
脱ぎ捨ててあったパジャマの上と、パンツを拾って渡してくれる。
慌てて身に着けたところで、そういえばパジャマの下は自分の部屋に脱ぎっぱなしだったことを思いだした。まったく。
立ち上がろうとしたところで、脚に力が入らなくてその場にへたり込んでしまった。腰が抜けてしまっている。
急いでお兄ちゃんが抱き上げて、足音を殺しながら私の部屋へと運んでくれる。こんな危機的状況でも、お姫様抱っこされたことを喜んでしまう。
お兄ちゃんは私をベッドに寝かせると、パジャマを拾いあげて掴ませ、毛布を掛けて急いで自室に戻っていった。
大慌てでパジャマの下を穿き、頭まで毛布をかぶる。
トン、トン、トン……
階段を上ってくる足音。
部屋のドアがノックされる。
わざと返事はしない。
寝ているふり。寝ているふり。
静かにドアが開かれる。
「愛梨ちゃん、具合はどう?」
「…………ん……おかえりなさい」
いかにも、いま目を覚ましましたという演技。
かぶっていた毛布を少しだけずらして、顔の上半分を外に出す。
だけど、お母さんの顔は見られなかった。
後ろめたさに視線を逸らしてしまう。今日は一日中、お母さんには話せない、イケナイことをしていたから。
「元気になった?」
「ん……もう元気」
一日中、エッチし続けられるくらいに元気……とは口が裂けても言えないけれど。
「そう? でも、まだ顔が紅いわね」
熱を確かめるように、額に手が置かれる。
だけど、顔が紅い理由は違う。
「それでも熱は下がったかしら? 晩ごはんは食べられそう?」
「う……うん、大丈夫、普通に」
今まですっかり失念していたけれど、昼食もとらず、お菓子と飲み物をちょっと口にしただけでエッチし続けていた。落ち着いてみれば、お腹はぺこぺこだった。
熱はいつの間にか下がっていたらしい。今日は安静どころか、一日中『激しい運動』をしていたというのに。こうして見ると、発熱の原因は身体ではなく心の問題だったのかもしれない。
「ごはんの仕度ができたら呼ぶから、それまでもう少し寝てなさい」
「……はぁい」
お母さんが部屋を出ていく。
ひと安心。どうやらばれなかったみたい――と安堵の息をついた。
――その瞬間、
「あ、そうそう」
閉じかけたドアがまた開かれる。
油断した一瞬の隙を衝いた不意打ちに、心臓が跳ねあがった。
「……な、なぁに?」
声が裏返りそうになる。
微かに震えている。
「ずいぶん汗かいているみたいだから、着替えておきなさいね」
「……は……はぁい」
驚かさないでほしい。本気で心臓が止まるかと思った。
だけど、大丈夫。ばれなかった。
熱を出した時に汗をかくことは当たり前だから『エッチな激しい運動をしていた』なんて思われないだろう。
それでも、心臓がばくばくいっている。「晩ごはんまで寝てなさい」となんて言われても、とても眠れる精神状態ではなかった。
そんな精神状態は、晩ごはんの食卓でも変わらなかった。
お父さんは残業で帰りが遅いので、今夜はお母さんとお兄ちゃんの三人で食卓を囲んでいる。
お兄ちゃんの顔も、お母さんの顔も、まともには見られない。
お兄ちゃんの顔を見るのは恥ずかしくて。
お母さんの顔を見ると罪悪感に苛まれてしまう。
うつむき加減にゆっくりと箸を動かす。
お腹は空いているはずだけど、緊張感しているのと胸がいっぱいなのとで、あまり喉を通らなかった。
お兄ちゃんの態度もなんとなくぎこちないように感じるけれど、ちらちらと様子をうかがう限り、お母さんがなにか気づいている様子はない。
お兄ちゃんと私が血のつながった実の兄妹だと明かした直後にこんなことになってしまって、お母さんには申し訳なく思う。
だけど、きっかけはそのことだろう。どうしてかはよくわからないけれど、実の兄妹だと知った直後から急に意識するようになってしまった。
安定していた日常に投じられた一石。それが生みだした波紋。
それは私の世界を一変させてしまった。
晩ごはんの後も気持ちの昂りは治まらず、心身ともにひどく疲れているはずなのに、目が冴えて眠ることができなかった。
熱は下がったはずなのに、身体の芯が熱い。
特に、下半身が。
熱く火照って、下着が湿っている。
呼吸が荒い。
鼓動が速い。
全身が汗ばんでいる。
ごろごろと何度も寝返りをうって、それでも落ち着けない。
無意識のうちに、手が身体に触れてしまう。
胸を包み込み、脚の間に入り込んでくる。
「う……んっ……ン……、はぁ……ぁっ!」
パジャマのボタンをはずして胸に直に触れると、胸が張って、小さな乳首が固くなっていた。
普段、自分が触れてもさほど気持ちいいとは感じなかった未発達な胸が、軽くつまんだだけでも悲鳴を上げそうなほど敏感になっていた。
一度触れてしまうと、もう止まらない。
もう一方の手が、パジャマの、そして下着の中に潜り込む。
そこは温度と湿度が明らかに高かった。
「……っ、はぅんっ!」
指先で軽く触れる。
身体に電流が走る。
粘液が指にねっとりと絡みつく。
ぬめりを帯びた熱い蜜が割れ目の中をいっぱいに満たしていて、指を潜り込ませると溢れるように流れ出してきた。
そのまま、中指を自分の中に挿入する。
「――んんんっ! んくぅんっ!」
大きな声を上げないよう、唇を噛む。
家族がみんな家にいる時に、エッチな声を上げるわけにはいかない。階下の寝室で寝ている両親はともかく、お兄ちゃんの部屋は壁一枚隔てただけの隣なのだ。
「……っ! ん……ぅっ! ……ぁっ!」
毛布の端を噛んで、声を抑える。
それでもやめられない。中に挿れた指を動かし続ける。
まだ、少し痛い。塞がりきっていない傷を触るような痛みがある。
それでも、昨夜までよりもずっとスムーズに指を挿入できた。それが、今日の出来事が夢ではない物的証拠だった。
そこにはもう〈少女〉の証は存在しない。私の身体は〈女〉になっていた。
だから、昨夜までよりもずっと感じてしまう。
とても、気持ちよかった。
中は、すごく熱かった。他の部位で測る体温よりも、何度か高いような気がする。
そして、これまでなかったくらいに濡れていた。膣内が蜜でいっぱいに満たされているのかと思うほどだった。
流れ出す蜜が指を濡らし、滑りをよくする。
充血した粘膜が指を包み込む。
二本の指で、中をかき混ぜるようにこする。
しかし、
それでも満たされることはなかった。
何度も絶頂に達する。
なのに、物足りない。
今日、お兄ちゃんから与えられた悦びには遠く及ばない。
どんなに指を動かしても、けっして同じ快楽は得られなかった。
だから、満足して眠ることもできない。
中途半端な快感は、むしろ逆効果だった。
心と身体を昂らせ、欲求不満を募らせ、よけいに目を冴えさせてしまう。
真夜中を過ぎても眠気は訪れない。
いいかげん眠らなきゃいけないと思っても、目は覚めるばかりだった。
枕元の時計を見る。
お父さんもお母さんも明日は仕事だ。もう眠った頃だろうか。
だけど、まだ夏休み中のお兄ちゃんは。
「……」
わかっている。
きっと、このままでは朝まで眠れない。
そして……
自分がなにを求めているのかもわかっている。
毛布をはねのけて、身体を起こした。
ベッドから降りようとしたところで、パジャマと下着を膝まで下ろしていたことに、いまさらのように気がついた。
それを直そうと手をかけて、しかし思いとどまった。
逆に、パジャマの下もパンツも脱ぎ捨ててしまった。身に着けているのは、ボタンが全部はずされたパジャマだけ。
裸と変わらないような格好で、部屋のドアを開け、耳をそばだてる。
階下からはなにも聞こえない。
忍び足で短い廊下を歩き、お兄ちゃんの部屋の前に来た。
ドアの隙間からはかすかな明かりが漏れている。予想していたことではあるが、まだ眠っていない。
決意を固めるように、小さく深呼吸。
そして、目の前のドアをそっとノックした。
「……いい?」
返事を待たず、ドアを開けて中を覗きこんだ。
ベッドに寝転がって雑誌を開いていたお兄ちゃんが顔を上げた。
「ああ」
雑誌を閉じてうなずく。
私は部屋の中に滑り込み、ベッドの脇に立った。
「あ……あの……」
横になっているお兄ちゃんを見おろして口を開く。だけど、決意は固めてきたはずなのに、続く言葉が出てこなかった。
考えてみればこの状況、まるで〈夜這い〉とかいう行為みたいではないか。
年下の女の子の方から、裸同然の格好で深夜に男性の部屋を訪れるなんて、もしかしなくても、かなりはしたない行動ではないだろうか。
そう思うと恥ずかしくて、言葉が出てこない。
「え……えっと…………、あ、あのね?」
どう取り繕えばいいかわからなくて口ごもっていると、しかしお兄ちゃんは私の意図を察したようだった。
……いや。
それをいったら、ノックをした時からわかっていたのだろう。それはつまり、お兄ちゃんも私と同じ想いだということだ。
相性最高のふたり。こんな時に考えることも一緒だった。
お兄ちゃんが身体の位置を少しずらして、ベッドの上に空きスペースを作る。そこをぽんぽんと叩いて私を促す。
「…………うん」
ベッドに上がり、お兄ちゃんの隣に横になった。
腕が身体に回される。
私はぴったりと密着するように身体を少し動かした。
「…………眠れ、ないの」
お兄ちゃんの腕に顔を押しつけて、甘えたように言う。
くっくと、喉の奥で笑うお兄ちゃん。私の耳元でささやく。
「……それって、誘ってる?」
「…………………………、うん」
顔を真っ赤に染めながら、小さくうなずく。
「……いくらなんでも、身体、きついんじゃないか?」
「でも………………、もっと……お兄ちゃんと、一緒に……いたい」
「……そうだな」
ちゅっと、額にキスされる。
「とことん限界に挑戦するって言ったのに、母さんに邪魔された形だもんな」
「…………うん」
「でも……父さんや母さんには顔向けできない、いけないことだよな」
「…………うん」
「その父さんと母さんが家にいる時に」
「………………うん……」
「だからこそ、興奮するっていうのもあるけどな」
「……う、うん!」
思わず強くうなずいてしまい、お兄ちゃんに笑われてしまった。
「……あまり無理はしない程度に、優しく、するから」
「……うん。私は、お兄ちゃんの傍にいられればいいの。優しくエッチしてくれたら……嬉しい。でも……」
自分の要望だけを押しつけるつもりはない。
お兄ちゃんは私を優しく気遣ってくれるけれど、お兄ちゃんは、お兄ちゃんだけは、私にわがままを言ってくれても構わない。
「……それじゃあ物足りないなら、ちょっとくらい……、激しくしても、いいよ?」
「いや……正直なところ、俺も少し痛いんだ」
苦笑を浮かべるお兄ちゃん。
「男のアレも、固いけど、先端部は皮膚じゃなくて粘膜だから、あれだけ激しく何回も何回もすると、ちょっと赤くなって痛い」
「……お兄ちゃんも?」
痛くても、それでもしたいのは私だけ……じゃなかったんだ。
「ああ。…………ひとつ言っておくと、今日は、俺の一日の回数記録を大幅に更新だぞ?」
「……し、新記録?」
「ああ」
「他の女の子と、こんなにしたことないの?」
「当然だろ」
その一言、すごく嬉しかった。
お兄ちゃんは女の子に不自由したことなくて、経験が豊富。実をいうと、そのことが少し悔しかった。
私はお兄ちゃんが初めてで、お兄ちゃんしか知らなくて、お兄ちゃんさえいればいいのに、お兄ちゃんの初めてはもちろん私じゃないし、私以外の何人もの女のこと経験している。
……だけど。
それでも。
一日の回数記録は、私がいちばん。
少なくともひとつのカテゴリでは、私が、お兄ちゃんにとっていちばんの女の子。
そのことがたまらなく嬉しかった。
「……お……お兄ちゃんにとって、私って、……なに?」
質問してみる。
答えを聞くのはほんの少し怖かったけれど、それでもいい答えが聞けることを期待し、そして確信もしての質問だった。
そんな想いを、お兄ちゃんが気づかないはずがない。
「……今までけっこうな数の女の子としたけれど……その中で最高の女の子、だな」
……もう、バカ。
そんな、嬉しすぎる台詞。
言われただけで濡れてしまうどころか、それだけでイってしまいそうな台詞。
そんな台詞をさらっと言ってくれる。
「わ、私って……お兄ちゃんにとって、特別な女の子?」
「……いちばん可愛くて、いちばん気持ちよくて、……絶対に手放したくないいちばんの女の子」
ああ、もう!
もう、ダメ。
もう、我慢できない。
「わ……私にとって、男の人はお兄ちゃんだけ。お兄ちゃんに悦んでほしい。お兄ちゃんを気持ちよくしてあげたい。そして、……気持ちよくしてほしい。だ……だから……」
もう、言葉を飾る必要もない。
素直に、本音を言えばいい。
お兄ちゃんは、絶対に、それを受け入れ、応えてくれる。
……だから。
「………………、い……挿れて?」
もう、一秒だって我慢できない。
いちばん望んでいることをおねだりする。
「前戯なんていらない?」
「……来る前に……自分で、してた」
恥ずかしいけれど、耳まで真っ赤にして告白する。
私のあそこはほどよくほぐされ、十分すぎるほどに濡れていた。
「……え、エッチな女の子だって、軽蔑する?」
「まさか」
一瞬の間も置かず、安心させる答えが返ってくる。
「だって、俺のこと考えながらしてたんだろ?」
やっぱり、すべてお見通しだ。
「そんなの、愛おしいだけだって。……マジ、俺ももう我慢できない。……挿れるぞ。愛梨と一緒に、もっと、気持ちよくなりたい」
こくんとうなずく。もう、言葉はいらない。
私たちふたり、同じ気持ち。同じ想い。
おずおずと脚を開く。
濡れた、女の子の部分が露わになる。
お兄ちゃんは手早く服を脱いで、身体を重ねてきた。
「……ん」
私に、当たる。
弾力のある、熱い、お兄ちゃんのいちばん愛おしい部分が。
「ん……んふ……ぅん、んぁ……あんっ!」
押しつけられる。
割れ目を拡げ、侵入してくる。
中に、入ってくる。
ゆっくりと、優しく。
だけどとても固くて、太い。
「あぁっ! ……っ!」
先端が入ってきただけで、気持ちよすぎて気が遠くなりかけた。
「だっ……だ、めっ……声……出ちゃう」
大きな声を出しそうになって、慌てて口を押さえる。
どんなに抑えようとしても、抑えきれない。
今、ぐっと奥まで貫かれたら、絶叫してしまいそうだ。
だけど、絶対に声は出せない。
必死に堪えていると、お兄ちゃんの大きな手のひらが口をふさいだ。
もうひとつの手が、私の腕を押さえつける。
そして、腰が押しつけられる。
入って、くる。
熱く火照った粘膜をかき分けて、お兄ちゃんが私の身体の奥深くまで入ってくる。
口を押さえられていなければ、階下はおろか、家の外にまで聞こえるほどの声を上げていたかもしれない。
気持ちいいとか、もう、そんなレベルではない。
挿入の瞬間、イってしまった。
服をふさがれ、腕を押さえられ、まるで強引に『犯されている』『陵辱されている』ような状況。
だけど。
だからこそ、いい。
お兄ちゃんが、そんな風に強引にでも私を欲しがっているんだ――って想うだけで、絶頂に達してしまう。
「ん……んぅんっ! ん……んん……んっ! んヴ……ぅん!」
この至高の快楽を、どう表現すればいいのだろう。
すべての幸せ、すべての悦び、それがこの一点に集中していた。
「んぅ…………んんんっ!」
奥の奥まで貫かれて、しかし、そこで動きはゆっくりになる。
さすがに、初体験の日に一日中セックスし続けて、正直なところ、入口の周辺とかはかなり痛い。
だけど。
お兄ちゃんに深く貫かれている。
お兄ちゃんとひとつにつながっている。
今の私はその事実を実感するだけでイってしまう。
ずっと、こうしていたい。
一晩中でも。
何日でも。
お兄ちゃんにぎゅっとしがみつく。
「……大丈夫か?」
口を押さえている手が、少しだけ緩む。
うかつに口を開くと大きな声を上げてしまいそうなので、口を閉じたまま無言でこくこくとうなずいた。
心の準備をして、呼吸を整えてから耳元でささやく。
「い……挿れられた、だけで……イキそう…………っていうか、イった。ずっと……こうしていたい。すごく、気持ちいい、すごく、幸せ、大好き、愛してる、……愛して」
とりとめのない、感情の奔流。
想いを口にすると、それが引き金となってまた興奮してしまう。
ささやきを返すお兄ちゃんの息も熱い。
「もちろん、愛してる。誰よりも、いちばん。いちばんの女の子。これまでの彼女たちとは違う、特別な。……妹、だから」
お兄ちゃんの台詞も、断片的。
それに合わせて、腰が前後する。私の身体が痙攣する。
「……いっぱい、して? 中に出して? 飲ませて? 口でも、おまんこでも、身体中で、お兄ちゃんを感じたい」
「……当たり前だろ。たっぷりと、俺のことを感じてろ。何回でも、何十回でも、いけよ」
ぐいっと押しつけられる腰。
深く、深く、打ち込まれるお兄ちゃんの分身。
私の身体の中に、いちばん深い部分に、お兄ちゃんがいる。
その事実だけで、私を絶頂に導くには十分。
私は、これまでに感じたことのない至福の充実感に包まれていた。
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