結局、かなり遅い時刻……というか、朝早くといった方がふさわしいような時刻まで行為を続けていたと思う。
さすがに、激しくはない。
激しくすると痛いし、声が出てしまうかもしれないし、そうじゃなくてもベッドのきしみが階下に聞こえてしまうかもしれなかったから。
ゆっくりと、優しく。
だけど、深く、深く、つながって。
それだけで十分すぎるほどに気持ちよかった。
何度も何度も、絶頂を迎えた。
お兄ちゃんも、何度も、私の中に射精した。
もう、起き上がれないくらいに疲れていてもおかしくはないのに、朝、いつも起きるのとほとんど変わらない時刻に、妙に晴れやかに目を覚ましてしまった。
睡眠不足と疲労でくたくたのはずなのに、まったく実感がない。
満たされた気分で、とても元気だった。あるいは、単に悦びと興奮でハイになっていただけかもしれないけれど。
お兄ちゃんは一足先に目を覚ましていたようで、私が目を開けた時、顔を覗きこんでいる優しい笑顔と目が合った。
「…………おはよ」
頬が熱くなってしまう。
「おはよう。調子はどうだ?」
「…………最、高」
もう、この場で踊り出したいくらいに。
首を伸ばしてちゅっとキスして、身体を起こした。下半身に微妙な倦怠感は残っているけれど、それすらも気持ちいい。
「……もう、起きなきゃ」
「学校、行くのか?」
「……うん」
昨日の発熱は、もう痕跡すら残っていない。
かなりの寝不足のはずだけれど、今はすごく元気だ。
これなら問題ない。学校に行ける。どういうわけか「学校へ行きたい」という気持ちを強く感じた。
「だったら……今日は寄り道せずに、早く帰って来いよ」
お兄ちゃんの意味深な笑み。
もちろん、その意図はわかる。
私は学校だけれど。
お父さんもお母さんも仕事だけれど。
お兄ちゃんは、まだ、夏休み。
授業が終わってまっすぐに帰宅すれば、お母さんが帰ってくるまで、しばらく時間がある。
「……もちろん、そのつもり」
もう一度、キス。
「ってゆーか、病み上がりだし、早退してくるかも」
そう言ったら、軽くデコピンされてしまった。
「元気そうじゃん。サボるのはよくないぞ」
「ぶー、ヲトメ心をわかってなーい」
唇を尖らせる。
だけど、続く言葉はむしろ私を喜ばせた。
「この先ずっといっしょなんだから、そんな、無理する必要はないだろ」
ずっと、一緒。
そう。
これから先、なにがあっても、お兄ちゃんと私の血のつながりは変わらない。
この先、一生、血のつながった兄妹という事実は変わりようがない。
本当は今だって学校をサボって一緒にいたい気持ちもあるけれど、これから先のことを考えれば、無茶をするよりも節度を保っていた方がいいに決まっている。
ひとつ屋根の下に暮らしているのだ。触れ合う機会はいくらでもある。
「…………今夜、また、一緒に寝てもいい?」
「……つか、寝るヒマはあるかな?」
「あ、そうだ。今日、帰ったら、一緒にお風呂入りたい」
「いいな、それ。身体の洗いっこしようか?」
「……うん!」
嬉しい言葉に満足して、私はベッドを降りた。
登校時も、足どりは妙に軽かった。
まるで、世界そのものが一昨日とはまったく違うような気がした。
幸せに包まれて、ハイな気分で、自然と駆け足になってしまう。
走ると、一日中、一晩中、こすられていたあそこが少し痛い。
だけど、その痛みも幸せの証だ。
だから、走り続ける。
一歩ごとに、痛みを感じて。
一歩ごとに、幸せを感じて。
いつも一緒に学校へ行く葵ちゃんは、一足先に待ち合わせ場所に来ていた。
私の顔を見るなり、微妙に表情を引きつらせる。
「葵ちゃん、おは……」
「愛梨、あんた……」
朝の挨拶をする隙さえなかった。
「やったな? やったでしょ? 勇利さんと!」
これには私の方が驚いた。どうしてわかったのだろう。一昨日まで、近親相姦を、お兄ちゃんへの恋愛感情を、頑なに否定し続けていた私なのに。
絶句していると、葵ちゃんは言葉を続けた。
「わかるって。病み上がりのはずなのに、そんな、妙に元気で、晴れやかで、なにか吹っ切れたような幸せいっぱいの顔して」
「……………………う……うん」
そんなに、顔に出ているのだろうか。
だとしたら、お父さんやお母さんにばれなかったのは奇跡的だ。休みのお兄ちゃんを除いて、朝はみんなバタバタしていたから……の幸運かもしれない。
しかし、葵ちゃんにならばれても構わない。そもそも葵ちゃんには話すつもりだった。
こんな大切なこと、いちばんの親友に隠してはいられない。
だから、すべてを話した。
お兄ちゃんが、本当のお兄ちゃんだったこと。
なのに、妙に意識してしまって、ついにはセックスしてしまったこと。
それがとても気持ちよくて、幸せだったこと。
以前からお兄ちゃんと私をくっつけようとしていた葵ちゃんなら、きっと話しても平気だと思った。
それに、やっぱり誰かに知っていて欲しかった。
こんなことを話せる相手がいるとしたら、それは葵ちゃんしかありえない。
そしてもうひとつ、本音をいえば牽制の意味もある。
お兄ちゃんファンの葵ちゃんが、気を変えて、アタックしないように……と。
だから、包み隠さずすべてを話した。
さすがに驚いた様子だったけれど、最後まで話し終える前に、それは祝福の笑みに変わっていた。
「そっか……おめでとう!」
本心の、祝福の言葉と笑顔。
さすがは親友。話したことは間違いではなかった。
すごく、嬉しかった。
私とお兄ちゃんのことは、公にはできない関係。
周囲に祝福されることのない関係。
だからこそ、たった一人だけでも祝福してくれる存在が救いだった。
「……それにしても、あんたらって」
肩をすくめて苦笑する葵ちゃん。
「美男、美女ということを除けば、外見とかあまり似てない兄妹だと思ってたケド……」
「……けど?」
「変なトコで似てるよねー」
「……え?」
長身のお兄ちゃんと、華奢な私。小さな頃から似てないと言われて、だからこそ本人たちも周囲も、血がつながっていないという話を信じていた。
なのに、似ている?
どこらへんが?
「ふたり揃って、〈血のつながった実の兄妹〉にしか萌えないトコロとか」
「えー? え、へへ……」
いわれてみれば、そう。
これまでお互いに、まったく意識したことはなかったのに、実の兄妹とわかった瞬間から、ふたり揃ってあんな状態。
そんなところは、すごく似ているかも。
似てる。
血のつながった、実の兄妹だから、似てる。
その〈似てる〉ことがたまらなく嬉しいんだから、私の〈実兄限定〉のブラコンは、かなりの重症なのかもしれない。
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