その後しばらく、黙って抱き合ったまま余韻に浸っていた。
 二人とも汗びっしょりで、息が荒い。
 背中に触れるひんやりとしたシーツの感触が気持ちいい。シーツを濡らしているのは汗だろうか、それとも別のものだろうか。
 なにしろすごく感じてしまったから。
「……ひ……引き分け……ですね」
「……そうだね」
 普通ではない感じ方だった。無理にいくのを我慢していたせいか、いつもよりずっと高いところまで昇ってしまった感じ。
 勝負は、引き分けだった。
 だけど一つ、私が勝っていることがある。
「ふっふっふ……、隙だらけー」
「……あ……ん……や……ぁ」
 私は、まだ半ば朦朧としている笙子に襲いかかった。まだ経験が浅くて、小柄で華奢な笙子よりも、経験豊富で体力には自信のある私の方が、回復はずっと早いのだ。
 抵抗しようにも、笙子は身体に力が入らない。強引に脚を大きく開かせて、その中心に顔を埋めた。舌先でくすぐりながら、鼻を擦り付ける。
「や……っ、あっあっ! はっ……あぁっ!」
 ぐったり、ぐにゃぐにゃの笙子の身体。それでもしっかり感じているようで、甘く切ない声だけが響く。
「やぁっ! あぁんっ! あぁんっ! あぁっ……、やん! やぁんっ!」
 舌先を小刻みに震わせながら顔を動かして、小さな割れ目の隅々まで舐めまわす。
 ひと舐めごとに、熱い蜜が湧き出してくるようだ。
 その部分はすごく熱くなって、真っ赤に充血していた。
 また、指で触れてみた。
 すごく熱くて、柔らかい。
 指先に少し力を入れると、まるで溶けたバターの塊に指を差し込むように、なんの抵抗もなく中にもぐっていく。
 こんなにとろとろなのに、それでも中は狭くて、私の指をきゅうっと締めつけてくる。きついのは半年前と同じだけど、固さが感じられた以前とは違い、柔らかくほぐれて指にからみついてくる。
 こんなとき、自分が女であることがほんのちょっとだけ悔しい。
 もしも私が男で、ここに男性器を挿入したなら、きっと素晴らしく気持ちいいのだろう。いっぺん味わってみたい。だけどそれは叶わぬ願いだから、私の目の黒いうちは、どんな男にもこれを味あわせはしないと心に誓った。
 これは、私だけのもの。
「ん……っ、んんっ!」
 指を二本挿入すると、笙子は少しだけ苦しそうな声を出した。狭い膣口がいっぱいに広げられている。
 私は二本の指を揃えて、回すように動かした。最初はゆっくり、そして少しずつ速く。
 卵白を泡立ててメレンゲを作るときのように、激しく中をかき混ぜる。卵白に似た白濁した粘液が泡立っている。
 そこへ、味見をするかのように舌を伸ばした。
「あぁぁ――っ! あぁぁんっ! あっ、あ――――っ!」
 断続的な悲鳴を上げて、笙子の身体がベッドの上で何度も弾んだ。
「いい? 気持ちいいでしょ? もう、いきそう?」
「やぁぁ――――っ! あぁぁっ! いっあぁぁぁぁ――――っっ! ――っ!」
 私の声なんてまるで聞こえていない。
 甲高い悲鳴は肺が空っぽになるまで続き、そして唐突に止んだ。
 おやと思って顔を覗き込む。
 少し、やりすぎてしまったらしい。
 笙子は完全に気を失っていた。



 しばらくして目を覚ました笙子は、しばらくぐすぐすと泣いていた。
 今日は自分が攻めになって私を悦ばせるつもりだったのに、一方的にやられてしまったから。
「……ひどいです。こんなに……」
「イイことしてあげたのに、泣かないでよ」
「わたしだって、沙紀さんをいっぱい感じさせてあげたいのに」
 笙子は意外と負けず嫌い。
 そしてなにより、私と対等になりたがっている。
 私の被保護者ではなくて、対等の恋人になりたいのだ、と。
 目に涙を浮かべて訴えられては、私も折れるしかない。愛しい笙子を抱きしめて、耳元でささやいた。
「じゃあ、今度は笙子がして。いっぱい、いっぱい気持ちいいコトして、感じさせてくれる?」
「もちろんです」
 先刻の仕返しのつもりなのか、きっぱりと言いきった笙子の攻めはすごく激しかった。
 私は十五分後には、泣きながら「もうやめて」と懇願していた。もちろん笙子はやめてはくれず、私はその後五回もいかされて、ついには失神してしまった。



 そんな調子で、私たちは夕方まで休むことなくお互いを求めあった。二人とも、何度絶頂を迎えたのか数え切れないほどだ。
 昨年の夏一緒に暮らしていたときは、ここまではじけたことはない。この半年分の想いをぶつけるような、激しいセックスだった。
 さすがにへとへとに疲れ切ってふと時計を見ると、もう午後五時を回っていた。桜子さんとは六時に札幌駅で待ち合わせなのだから、もう出発する準備をしないといけない。まずはシャワーを浴びなければ、二人とも汗やなんかでべとべとだ。
「笙子、そろそろ帰る用意しないと」
 俯せになって眠ったような笙子の背中を叩いて起こす。しかし笙子は、枕に顔を埋めるようにして頭を左右に振った。
「笙子」
「……嫌。帰りたくない」
「笙子!」
 私だって同じ想いだ。去年の夏休みみたいに、ずっと一緒に暮らしたい。
 だけど、そんなことはできない。
「私も、空港まで送っていくから」
 それでも笙子は、いやいやと首を振る。
「……二度と、会えなくなってもいいの?」
「嫌っ! 絶対嫌!」
「じゃあ……、今日は、帰ろう?」
 ようやくのろのろと身体を起こした笙子の頬は濡れていた。私は指でその涙を拭って、軽く唇を重ねた。
 両手で笙子の顔を挟むようにして、間近で見つめ合う。
「春休みになったら、また会いに来てよ。なんなら、私の方から東京へ行ってもいいし」
 笙子が抱きついてくる。私の胸に顔を埋める。
「その後だってGWとか、夏休みとか、チャンスはいっぱいあるよ」
「……ん」
 私の胸に顔を押しつけたまま、笙子は小さくうなずいた。



<<前章に戻る
次章に進む>>
目次に戻る

(C)Copyright 2001 Takayuki Yamane All Rights Reserved.