諸々の事情でカットされてしまった、しかし、そのままゴミ箱行きとするにはもったいない。
そんなシーンをここに掲載!
公園で、奈子と亜依が話しているシーン――
「だから、奈子が強くなろうとするのは、人を傷つけるためじゃない、大切な人を護るためなんだよ」
どこまで信じていいんだろう?
でも、亜依の無邪気な顔を見ていると、そうかなって思ってしまう。
「少しは、迷いが解消できたかな?」
「うん…」
(そういえば以前、ハルティ様にもそんなことを言われたっけ…)
人にそう言ってもらえると、なんとなく安心できる。
「じゃあ、お礼して欲しいな」
「お礼って?」
と訊き返す間もなく、亜依がぴったりと身体を寄せてきた。
「キス…して?」
「あ、あ、亜依! あんたね〜!」
奈子は狼狽する。
奈子の周囲の女の子の中では、亜依はノーマルな方だと思っていたのに、と。
「あたしだって、奈子のこと好きだよ」
「あ…あんた、彼氏いるじゃん!」
それも結構ハンサムな高校生。
奈子も何度か会ったことがある。
「とっくに別れちゃった、あんな奴。半分は奈子のせいだよ」
「ど〜してっ?」
「比べちゃうと、どうしてもね…。奈子と違って、無条件に信頼できないんだもの。だからいまは、奈子ひとすじ」
「いや、ひとすじって、あのね…」
どうしてアタシのまわりってどいつもこいつも…。
一瞬頭に浮かんだ「類は友を呼ぶ」という言葉を慌てて振り払った。
亜依は、奈子の腕にぎゅっとしがみつく。
「亜依…」
「ダメ? あたしとじゃそんな気になれない? それとも由維ちゃんに怒られるから? 本命は由維ちゃんであたしは二号さん…でも構わないんだけどな?」
困ったことに…
奈子はそんな気になれないどころか、思いっきりその気になっていた。
亜依がいじらしくて、愛しくて。
気が付いたときには抱きしめて、唇を奪っていた。
我に返った奈子が慌てて唇を離すと、亜依は悪戯っぽく笑った。
「奈子ってば、キス上手なのね。意外と経験豊富なんだ?」
「そ、そんなことないっ!」
「あたしで何人目?」
「ん…と…五人…。あぁっ!」
しまった、と奈子は口をつぐむ。
ついうっかり、口を滑らしてしまった。
亜依はというと、指を折ってなにやら数えて、
「由維ちゃんと、あたしと、高品さんと…あと二人? いったい誰? こ〜の浮気者!」
笑いながら、人差し指で奈子の脇腹を突っついた。
(ファージと…ハルティ様)
もちろんそんなことは口には出さない。
亜依は、向こうのことなど知らないのだから。
「あ…アタシって、やっぱ浮気っぽい性格?」
奈子は、最近ずっと気になっていたことを訊いてみる。
由維のことは大好きだ。
でも、向こうに行けばいつもファージとじゃれ合ってるし、ハルティに口説かれてぽ〜っとなってるし、高品のことも忘れたわけじゃない。
そして、いまは亜依のことが可愛くて仕方がない。
(これじゃあまるで…)
どう見ても、節操のない浮気者だ…。
そんな男には虫酸が走るはずなのに、自分は…。
「浮気っぽいっていうか、惚れっぽいのよね」
亜依は笑って言う。
「仕方ないんじゃない? 別に遊びじゃなくて、みんな本気で好きなんでしょう?」
「仕方ない、で済む話か?」
どうしてこうなんだろう。
自分の気の多さに呆れてしまう。
「とりあえず、先刻のことは由維ちゃんには黙っててあげる」
亜依はそう言って自分の唇に人差し指を当てる。
「そのかわり…さ」
意味深な笑みを浮かべる亜依。
奈子は、ものすごくイヤな予感がした。
「今度、うちに遊びに来て。昼間なら、親は仕事でいないし…」
「ちょっと待った!」
奈子は慌てて亜依の言葉をさえぎる。
「それはまずい! アタシ最近、自分の理性に自信がないんだから」
その慌てぶりが可笑しいのか、亜依はくすくすと笑う。
そして、重大な発言をごくさり気なく口にした。
「奈子とだったら、いいよ。どうせあたし、バージンじゃないんだし」
「えっ?」
それは、初耳だった。
思わず叫んでしまう。
「いつの間に! いったい誰よっ? アタシの亜依を…あ!」
またやっちゃった。
どうしてアタシってば…
こう、失言が多いんだろう。
奈子の顔が赤く染まる。
亜依はそんな奈子を見て笑っている。
そして、ゴールデンは雪の上に寝そべって大欠伸をしていた。
目次に戻る |
(C)Copyright 1998 Kitsune Kitahara All Rights Reserved.