自分を取り巻いていた淡い光が消えた瞬間。
「――ナコ、ひさしぶり〜☆」
突然、弾んだ少女の声が『飛びかかってきた』。
転移してきた直後だったため、由維はまだ、周囲の状況を把握していなかった。
どこか室内のようだ――と思ったとたん、背後から襲われたのである。
(ええっ、なに!?)
思わず身を固くしてしまう。
『どんっ!』と背中に軽い衝撃を感じ、続けて柔らかい感触が押しつけられる。
どうも、後ろから抱きつかれた状況らしい。
しかも、思いっきり胸を触られている。
「――っ!?」
由維の頭に反射的に浮かんだのは、痴漢の撃退法だった。
奈子の足元にも及ばないが、由維だって空手を習っている。こういった状況は出くわす可能性が高いと思われるので、その対処法は何度も練習している――
しかし、いざとなると体が動かなかった。
しかも、この相手は痴漢よりタチが悪かった。
「もうっ、ナコってば一回向こうに帰ったと思ったら、なかなかこっちに来ないしさ。私、寂しかったんだから――って、細かいことはどうでもいいかっ。再会の挨拶はこれくらいにして、とりあえずベッドに――」
言ってる側から、床に押し倒された。
そこからの連係は完璧だった。
嵐のような激しさで顔にキスの雨を降らせる。
梅雨のような湿っぽさで首筋に舌を這わせる。
そして触手のような執拗さで胸に指を――
「……あれ?」
そこになって、相手は怪訝そうな呟きを発した。
「……ナコ、ずいぶん胸が平らになったね。容量、減ってない?」
こきーん。
一瞬、時が止まった。
「ファージ……」
奈子が心底あきれた表情で、ため息をついた。
「それ、アタシじゃないから……」
「え?」
予想外の位置から声がしたので、由維を押し倒した人物――ファージは顔をあげた。
そこには自分が押し倒したはずの少女、奈子が立っている。
「え、こっちにナコがいるってことは、つまり、こっちにいるのは――」
ファージは理解に苦しむように数秒間見つめてから、再び床に視線を戻した。
そこに押し倒されている少女を、まじまじと見つめて。
「あは」
ファージは頭を掻きながら身を起こした。
「ゴメンゴメン。人違いだったみたい☆」
気楽に笑いかけるファージの下で。
……由維は半べそになって体を震わせていた。
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