あとがき


 皆様、ごきげんよう。
 ……と、今回は挨拶も作品の雰囲気に合わせてみましたキタハラです。
 久しぶりの新シリーズ『一番街の魔法屋〜賢者の宝物編〜』いかがでしたでしょうか?
 キタハラにしては、かなりほのぼの系の話かと思います。元々、『マリア様がみてる』のパロディみたいなノリで始めた企画ですから。
 最初のコンセプトは、「大正浪漫風、お嬢様学園ソフト百合コメディ異世界ファンタジー」。なかなか盛り沢山です(笑)。一番最初の構想は一九九九年となっていますから、思いついてから執筆まで約二年のブランクがあるわけですね。とはいっても、別に二年間構想を練り続けていたわけではなくて、単に「『光』も終わらないうちに、これ以上シリーズを増やしたら死ぬ」ということでストックしておいたものですが。
 もちろん、その間に少しずつ手を加えてはいます。例えば最初のアイディアでは、舞台は寄宿舎ではありませんでした。ミュシカは自宅住まいで、フィーニはリースリングの本家に居候という設定です。しかし、新装版で『クララ白書』を読み、その後久しぶりに『ひみつの階段』を読み返して、「やはり、お嬢様学園コメディには寄宿舎が必須だ。ソフト百合ならなおさらのこと」と考えを改めたのでした(笑)。

 ところで、既存のキタハラ作品の読者にとっては一番重要なこと。
 既におわかりでしょうが、この作品は『光の王国』の数百年後の物語です。舞台となっているソーウシベツの語源は奏珠別で、いうまでもなく奈子の領地の未来の姿。
 お気づきでしょうか?「シーリア女学園」の語源が「白岩学園」だということに。なお、学園の創設者は奈子ということになっていますが、実際には由維の発案ではないかと思います。『マリア様』ファンですから(笑)。
 本当は制服のセーラー服も「緑を一滴落としたような黒」にしたかったのですが、低緯度にあるマイカラスで黒は無謀だろう、と扉絵にある通りの白になりました。でも考えてみれば、奈子の時代のマイカラスの騎士の礼服って黒ですよねぇ。ま、あれは露出度高いですし(笑)。
 そしてヒロインのミュシカ・サハ・オルディカは、当然ソレアの遠い子孫。
 キタハラのお気に入りレイアお姉様は、リューリィの子孫。
 なのに肝心のフィーニがリースリング姓で、ナコユイの直系の子孫(マツミヤ家)ではない理由は内緒。いずれ『光』の方で語られると思います。リースリング家はマツミヤ家の親戚なので、一応ナコユイの血も受け継いではいますけどね。
 そしてセルタは……ひ・み・つ(笑)。あまり気にしないでください。このシリーズはあくまでも〈お嬢様学園コメディ〉で、王国時代の因縁やなんかはあんまり関係ない話ですから。相変わらず寝ているフレイムも、多分出番はこれっきりです。

 ここでちょっとした余談。
 作中に、アルコールを燃料とする汽車が出てきますが、魔法が一般的ではなくなったこの時代、主な燃料はアルコールです。『光』の読者の声のコメントに書いたと思いますが、この世界では前文明が化石燃料(石油・石炭)を消費してしまっているため、ファレイアとランディは未来の人類のために、組織内で高濃度のアルコールを精製する植物をDNA合成によって生み出していたのでした。
 ついでにもう一つ余談。
 リースリングというのは、ソーウシベツ地方で栽培されている白ワイン用の葡萄品種名です。こちらの世界にも実在し、ドイツやフランス北部で広く栽培されて高品質な白ワインを生み出しています。向こうのリースリングは、味が似ていた新種にドイツワイン好きのナコユイが名付けたものらしいです。
 ワイン用葡萄といえば、ミュシカの名前も実在する葡萄品種名「ミュスカデ」から取ったものです。ジェイクトの姓「ジーンディル」はカリフォルニアワインの主要品種「ジンファンデル」から。いっそのこと、レイア様の名前も「シャルドネィ」とかにすれば面白かったかも(笑)。
 さらにもう一つ余談。
 作中では長さの単位にメートル法、時間の表現に時分秒を用いていますが、これは読者にわかりやすくするためにそう表記しているだけで、実際に向こうの世界でメートル法が使われているわけではありません。
 よく、ライトノベル系の異世界ファンタジーでは度量衡も造語のカタカナ語を使いますが、私はそれに疑問を感じています。「日本で出版する日本語の小説なんだから、固有名詞以外は日本語に〈翻訳〉されているべきではないか。その方が読みやすく、わかりやすいのではないか」と。いちいち注釈をチェックしなければならない小説なんて鬱陶しすぎます。
 同様に、作中に「牛」「鶏」「象」「鯨」などの単語が登場しますが、これも字の通りの動物ではなく、実際には「こちらの世界でのこれらの動物に相当するような、向こうの世界の動物」のことです。当然、カタカナで書くべき「アィクル語の名前」を持っているはずですが、わかりやすくするためにこうしてあります。

 では最後に恒例、今後の予定ですが、次の長編は『たたかう少女5・反逆の少女たち(仮)』を予定しています。『一番街の魔法屋』の今後については、第二話『夢見の杖編』というのを予定していますが、詳しい内容や執筆時期はまだ未定。気長にお待ちください。
 それでは、二○○二年も『創作館ふれ・ちせ』をよろしくお願いします。

二○○二年一月 北原樹恒(Kitsune Kitahara)
kitsune@nifty.com
創作館ふれ・ちせ
http://plaza4.mbn.or.jp/~kamuychep/chiron/



目次に戻る

(C)Copyright 2002 Kitsune Kitahara All Rights Reserved.