きばらの森・オマケ


 もう学校は冬休みに入り、今年も残すところあと数日というある日の夕方。
 一人で街に買い物に出かけていた祐巳は、夕方になって家に帰る途中、見覚えのある二人連れを見かけた。
(あれは…黄薔薇さまと、令さま?)
 珍しいこともあるものだ。私服の黄薔薇さまと令さまの組み合わせなんて、初めて見る。二人は、薔薇の館に存在する五組の姉妹の中でも、一番よくわからない関係だ。どうして黄薔薇さまが令さまを妹に選んだのか、祐巳にはいまだに理解できない。
(でも、あれって…本当に黄薔薇さまと令さま?)
 だんだん、自信がなくなってきた。ぱっと見は間違いないと思ったけど、なんだか、まとっているオーラがいつもの二人とはまるで違う。
 だからすぐには声をかけず、後ろからそっと近づいていった。
 二人とも、両手に重そうな紙袋を下げ、楽しそうに談笑している。祐巳は、声が聞こえる距離まで近づいた。
「新刊が完売して良かったですね」
「ホント。荷物が軽くなったおかげで、買い物がたくさんできたわ。今回は収穫も多かったし」
「花寺本、うち以外にもいっぱいありましたね」
「そりゃあ、今はなんといっても、柏木×ユキチが旬だもの」
「次のコミティア用の新刊は、小林くんも入れて三角関係にしませんか?」
「それより、花寺に美形の先生はいなかったかしら?」
「もちろん、ユキチくんは総受ですよね?」
「当然」
「ふふふふふ…」
 声を揃えて不気味に笑う二人に気付かれないように、祐巳はそっと距離を開けた。
 なんの話をしているのか、よくわからないというか、わかりたくないというか。いずれにしても、この件には関わらない方がいいような気がする。
 遠ざかってゆく怪しげな二人の背中を見ながら、祐巳はポツリとつぶやいた。
「そういえば、令さまは少女小説マニアだっけ。今どきの少女小説といえば…そうよね…」
 黄薔薇さまと令さまがどうして姉妹になったのか、ようやくわかった祐巳であった。



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