「ゆ、夢……?」
 私はぼんやりと、茶色い天井を見つめていた。
 まったく、なんて初夢だろう。せっかく、祥子さまのお家へ泊まりに来ているというのに。
 枕の下の帆掛け船も、あまり役に立たなかったみたい。折り方が下手だったから? それとも字が汚いから?
 そんなことを考えて落ち込んでいると。
「……祐巳?」
 不意に、祥子さまの声がした。
「は、はいっ」
 慌てて横を見ると、祥子さまはご自分の布団から出て、私の横に座っていた。
「どうしたの? うなされていたわよ。怖い夢でも見たの?」
 そう言って、私の額にそっと掌を当ててくれる。祥子さまの手は少しひんやりしていて、気持ちよかった。
「怖いというか、何というか……」
 私は口ごもった。あんな夢、祥子さまに言えるはずがないじゃない。
 ずっと遠くから、オートバイのエンジン音が聞こえている。どうやら、本物の暴走族が走っているらしい。そのせいだろうか、あんな夢を見たのは。
「ああ、あの音で目が覚めたのね。本当にうるさいわね、まったく。……シメてやろうかしら」
「えっ?」
 今、祥子さまの口からなにやら物騒な台詞が漏れたような気が。
「な、何か言いました?」
「え? い、いいえ、何も。空耳ではなくて?」
 白々しく微笑むその姿は、だけどやっぱりマリア様のように美しかった。



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