その後のことは、あまり思い出したくないというか、頭が混乱していてよく憶えていないというか。
 私は、祥子さまのオートバイの後ろに乗せられて、無我夢中でしがみついていた。
 お正月の空いた道路を、我が物顔で走り回って。
 けたたましくサイレンを鳴らして追ってくるパトカーを振り切ったり。
 途中で見かけた、見覚えのある人物が運転するピッカピカの真っ赤なオープンカーを取り囲み、みんなで運転手をボコったり。……お許しくださいマリア様。この時ばかりは私も、祥子さまから木刀を借りて、進んで参加してしまいました。
 ちなみに黄薔薇さまは、その助手席にいたタヌキ顔の男の子を拉致って、自分の隣りに乗せて満足そうにしている。
 私は祥子さまにお願いして、オートバイを黄薔薇さまの車の助手席側に寄せてもらった。
「どうして、あんたがここにいるのよっ!?」
 エンジン音に負けないように大声で怒鳴る。祐麒も同じように怒鳴り返してきた。
「どうして、って。いやもう、俺もなにがどうなっているのか……って、祐巳こそ何やってるんだ? なんなんだよ、この怖いおねーさんたちはっ!」
「私だって知らないわよっ!!」
 ああもう、大変な夜。
 唯一、いいことがあったとすれば、それは祥子さまとずっと密着していられたことだろう。だけど、それをゆっくり楽しむ精神的余裕がなかったのが残念。
 爆音とクラクションを響かせた二台の車と三台のオートバイは、いつの間にか見覚えのある風景の中を走っていた。
「何処へ行くんですか?」
「初代総長のところへ、新年の挨拶に。毎年恒例の行事なのよ」
「初代総長……って。ここ、リリアンの敷地じゃないですか!」
 冬休みでしかも夜だというのに、何故か門は開いていて、一行はリリアン女学園の敷地へと入っていった。夜だから先生はいないだろうけど、修道院にはシスターたちがいる。こんなのシスターたちに見つかったら、大変なことになってしまう。
 そんな心配をしていると案の定、修道院の建物の前に立つ人影が見えた。
(ひええ……)
 私は悲鳴を上げそうになったけれど、先頭を走る令さまは進路を変えようともせず、真っ直ぐにその人影へ向かって行く。
(あれは、まさか……)
「あの方が、伝説の初代総長よ」
 祥子さまが教えてくれる。
 伝説の初代総長、って……。
 まさか、そんなバカなことが。
 だってだって、あの方は……。
「……し、し、シスター上村ぁぁぁっ!?」
 叫んだ拍子に――

 目が覚めた。



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