激しい動機が治まらない。
心を決めたつもりでも、やっぱり緊張してしまう。
ただシャワーを浴びるだけとはいっても、修学旅行などで友達と一緒に入浴する時と同じような平常心ではいられない。なにしろ一度肉体関係を持ったことがある相手と、これからまたセックスするためにシャワーを浴びるのだ。
裸になることにも抵抗を覚える。
制服を脱いだところまではいいが、そこで手が止まってしまう。
しかしそれは由起も同じだ。ブラジャーを外したところで、手で胸を覆い隠して杏の様子を窺っている。ただし、容易に隠せる杏の胸とは違い、大きな膨らみが手からあふれそうだ。
「なんだか……照れるね」
「三郷さんだけじゃないわ」
由起もあと一枚、脱ぐに脱げず躊躇している。
「どうぞ、お先に」
「……三郷さんこそ」
お互い、そこで動きが止まってしまった。最後の一枚を脱いで相手の前に全裸を曝すことができずにいる。
ちらちらと相手の様子を窺う。このままでは埒があかない。
「じゃあ……一緒に」
「……ええ」
一、二の三で同時に下着を脱ぎ捨て、バスルームに飛び込んだ。それでもまだ手で胸を隠して、不自然に内股になっているところが可笑しい。
「え……っと……」
由起はこちらに背を向けて、シャワーを出して湯温を確かめる。
全裸の由起を見るのは初めてだった。前回は制服のまま、まくり上げて胸をはだけただけだ。
やっぱりスタイルがいいな、と思う。服を着ている時にややぽっちゃり系に感じるのは、大きな胸が服を持ち上げているからだ。
反則的なほどに大く盛り上がった、しかも綺麗な形の胸。なのにその下の腰は細く、艶めかしい曲線を描いている。
インドア派のためだろうか、肌は眩しいほどに真っ白で滑らかだ。
今は眼鏡を外して、野暮ったい三つ編みもほどいている。
こうしていると、由起はかなりの美人だった。おそらく、クラスメイトのほとんどはこの事実を知るまい。由起を「流行のオシャレに疎い、ぱっとしない子」と馬鹿にしているクラスメイトがこのことを知ったらどう思うだろう。
あまりまじまじと直視するのも悪い、と思いつつもつい視線が吸い寄せられ、見とれてしまう。その視線に気づいたのか、由起がこちらを向いた。
「なに?」
「あ……えっと……」
杏は口ごもる。まさか、正直に「あなたの裸がきれいなので見とれてました」なんて言えない。
だけど……。
抑えられない。
ああ、もう、どうにでもなれ!
どうせ、既に一度はセックスした間柄なんだから!
なかばやけくそ気味に、由維の身体に腕を回してぎゅっと抱きしめた。
突然のことに驚いて小さな悲鳴を上げる由起。しかしすぐに、おずおずと杏の身体に腕を回してくる。
シャワーを浴びながら、ふたりは全裸で抱き合う。
肌と肌が密着する。
他人と、これだけ広い面積で直に肌を触れ合わせるのは初めてだった。
由起がまた、耳まで真っ赤になる。それはもちろん、お湯が熱いためではない。
「……は、裸で抱き合うのって、柔らかくて温かくて……なんだか気持ちがいいわね」
「……そうだね」
紅潮した由起の顔が、びっくりするくらい至近距離にある。
おそらく、杏の顔も負けず劣らず紅くなっていることだろう。
全裸で抱き合い、相手の体温を直に感じている。
恥ずかしい。
すごく恥ずかしい。
だけど、気持ちいい。
心臓がすごい速度で脈打っている。
身体の奥の方が熱くなってくる。
恥ずかしいけれど、緊張で胸が破裂しそうだけれど。
それでも、妙に幸せな気分だった。
ずっとこうしていたい。
だけど、もっと気持ちのいいことをしたい想いもある。
葛藤。
そして羞恥心。
抱きしめたのはいいけれど、ここからどうすればいいのだろう。どうにも次の動きがとれない。
「……ずっと……こうしていたい、かも」
由起がぽつりと言う。
心を見透かされたようでドキッとする。だけど由起も同じ想いだったことが嬉しくなる。
「……でも、いつまでもこのままじゃあ埒があかないわよね。三郷さんのこと洗ってあげる」
「え」
杏の身体に回されていた腕が解かれる。つられて、杏も由起を抱きしめていた腕の力を抜いてしまう。
身体を離した由起は、ボディソープを手にとった。
「あ、洗う……って……」
「だって、せっかく一緒にシャワーを浴びているんだもの。お互い洗いっこするのって、面白そうじゃない?」
「で、でも……」
身体を洗ってもらうということは、つまり、由起に身体を、裸の身体を直に触れられてしまうということだ。
それはさすがに恥ずかしい。まだ心の準備ができていない。
しかし断わる口実を思いつくより先に、ボディソープをたっぷり載せた手が杏に触れてくる。
「ひゃ……」
肩のあたりに、一瞬のひやっとした感触。
反射的にぴくっと震える身体。
由起の手が、肌の上を滑っていく。
肩から腕へ。また肩に戻って、今度は背中へ。
ぬるぬるとした感触で滑っていく手。
少し……いや、かなり気持ちいい。
そして、それ以上に恥ずかしい。
肩や背中はまだしも、手がお腹や胸へ移動してくると恥ずかしさは急上昇する。
「あ……」
由起が杏の背後に回る。
後ろから腕を回してくる。
ボディソープでぬるぬるの手のひらで、胸を包み込まれた。
どくん!
心臓が大きく脈打つ。
小さく声が漏れる。
手の動きが妙にいやらしい。身体を洗ってくれるなどというのは口実に過ぎず、これは明らかに『性的な愛撫』だった。
胸の膨らみ全体を手のひらで包み込んで優しく揉んでくる。
時々、指先で乳首をつまんで転がしたり、引っ張ったり。
あまり大きくはない乳首が、固くなって突き出てくる。
愛撫されている胸だけではなく、背中も気持ちよかった。柔らかな膨らみの感触がはっきりとわかる。由起の大きな胸が背中に押しつけられている。
「ん……っ、あんっ」
いきなり、うなじにキスされた。
思わずエッチな声を上げてしまう。
これは予定外の展開だった。普通にシャワーを浴びて、その間に心の準備をして、ちゃんとベッドに移動してから肌を合わせるつもりでいたのに、一緒にシャワーを浴びることになって、実際にはシャワーを浴びはじめると同時にエッチが始まってしまうなんて。
とはいえ、この展開がいやなわけではない。自分の心境を冷静に分析してみれば――今の状況で冷静な分析というのも難しいが――むしろ喜んでいるといってもいい。
喜んでいる。楽しんでいる。これから起こることを――由起がもたらしてくれるであろう快楽を――期待している。
「……いい?」
由起が訊いてくる。
だけどそれが「気持ちいい?」の意味なのか、それとも「このまま最後までしてもいい?」の意味なのかは判断できない。かといって、いちいち訊き返して確かめるのも興醒めな気がする。
だから、
「ん……イイよ」
杏は小さくうなずいた。
考えるまでもない。
どちらの意味であれ、答えは同じなのだ。もしかしたら由起も、ふたつの意味で訊いたのかもしれない。
杏がうなずくのと同時に、胸を愛撫していた手の一方が移動をはじめた。下へと滑っていく。
胸からお腹、おへそ、下腹部。
くすぐったくて、だけど気持ちがいい。
「は……ぁぁ……」
大きく息を吐き出す。
身体から力が抜ける。
頭がかぁっと熱くなって、なにも考えられなくなってくる。
ただ由起に抱きしめられて、愛撫に身を委ねることしかできない。
ボディソープまみれの手で抱きしめられ、胸とかお腹とか肩とか腕とか撫でられるのはとても気持ちがいい。心地よくて、ゆったりまったりとした幸せな気分になれる。
だけど手がおへそからさらに下へと移動してくると、そうしたのんびりとした気分は一気に吹き飛んでしまい、羞恥心と緊張感が押し寄せてくる。
由起の手がどこを目指しているのかは一目瞭然だ。その動きにはまったく迷いがない。
そこを触れられるのは、腕やお腹とはまったく事情が違う。胸と比べても、恥ずかしさも、そして感度も桁がひとつ違う。
「あんっ……んっ、んぅ……」
滑り下りていった手が、下腹部のさらに下にある茂みをかき分ける。その奥にあるのは、熱い密が滾々と湧き出している泉だ。
触れられる前から、そこは十分過ぎるほどにぬかるんでいた。指が泥濘に沈み込んでいく。
「くぅ……、ぅんっ」
「もう、濡れてるのね」
耳元でささやかれて、顔から火が出そうになった。
触れられもしないうちからこんなに濡れてしまうなんて、自分がすごくいやらしい女の子みたいで恥ずかしい。
耳まで真っ赤にしてうつむいてしまったことで、背後にいる由起にも杏の反応は伝わったらしい。
「恥ずかしがることはないと思うわ。濡れやすいなんていいことじゃない。感度がいいってことだし、いっぱい濡れている方が気持ちいいんだし」
耳たぶを噛むようにしてささやかれる。
同時に、膣の入口をもみほぐすように愛撫される。それによってさらに濡れてしまう。
「私なんて、どこも触られてもいないのに濡れているわ」
「え……」
「三郷さんが可愛い声で喘ぐから、聞いてて興奮しちゃう」
「ばっ、ばかっ!」
ただでさえ恥ずかしい状況なのに、さらに恥ずかしくなるようなことを言わないでほしい。
顔が熱くなって、まるで高熱にうなされているような感覚を覚える。
「もっと、聞かせて欲しいな。三郷さんの、可愛くてエッチな声」
「あっ、……っ! あぁんっ!」
熱したチーズのように、熱く柔らかくとろけた粘膜。その中に指が潜っていく。ゆっくりとかき混ぜられる。熱い粘液が糸を引くところまでチーズと一緒だ。
「ぅんんっ、くぅぅ……ぅぅんっ! んはぁっ!」
膣口が拡げられ、指が入ってくる。
身体の内側から拡げられるという、日常生活では経験することのない独特の圧迫感。
そこに他人を受け入れるのはまだ二度目だ。潤滑液は十分にあふれているのに、指を一本挿入されただけでもかなりの抵抗感を覚える。そして、下半身が痺れるような刺激。
少し、苦しい。
まだ、少し痛い。
だけど、
だけど、
だけど……
「気持ち……いい?」
「うっ……んっ! い……ィ……」
気持ちよかった。
自慰で感じるのよりもずっと強い、性的な快感。これはセックスでしか得られない。
少しくらい痛くても、苦しくても、やっぱりいい。
「もっと、聞かせて。三郷さんの可愛い声。エッチな声。私もドキドキするわ」
由起の指が奥まで入ってくる。深い部分をかき混ぜられ、膣全体が刺激される。
「あっ……んんっ! ひゃ……あんっ! やっ……だ、め……ぇ」
身体の内側の敏感な粘膜を直に擦られる。電流でも流れたみたいに、びりびりと感じてしまう。
杏の中で指は動き続けている。括約筋が勝手に収縮してその指を締めつける。密着度が増して、よりいっそう刺激が強くなる。
「はぁっ、あっ……そこっ! ……イィ! あぁっ、あっ」
指の動きに合わせて声が出てしまう。そして杏が声を出すほどに、動きが激しくなっていく。
「……もっと、感じて?」
それまで胸を弄んでいた手も下へ滑っていく。茂みをかき分けて、もう一方の手と合流する。
「やっ……そこっダメっ!」
指を挿れられたまま、クリトリスをつままれてしまった。
「や……ぁぁっ! あぁっ! あぁぁんっ!」
そこは膣以上に敏感な部分。両手で、いちばんの性感帯を二カ所同時に責められてしまったら、もうたまらない。
「だっダメっ、ダメッ……だ……あぁぁっ! あんっ! ひゃっ……あぁぁ――っ!」
敏感な突起に押しつけられた指が小刻みに震える。
それは剥き出しの神経を擦られるような感覚だった。
脚に力が入らず、がくがくと震える。立っているのも辛くて、その場に頽れそうになる。
そのため杏自身の体重で、由起の指をより深く迎え入れる結果になった。
「ひぃっ、あっああぁ――――っ!」
一瞬、意識が飛んだ。
視界が真っ白になる。
落ちていくような感覚。
気がつくと、タイルの上に座り込んでいた。由起が支えてくれなかったら、ばったりと倒れていたかもしれない。
下半身がじんじんと痺れて、脚が震えて、腰が抜けたみたいにまるで力が入らない。
「…………」
すごく、気持ちよかった。
いや、気持ちいいというには激しすぎる、意識が飛ぶような感覚だ。
前回よりもよかったような気がする。そして、前回よりも短い時間で達してしまったように思う。
慣れのせいか、全裸で密着していたせいか、それとも、始める前から気分が昂っていたせいだろうか。
「は……ぁぁ……」
大きく息を吐き出す。
呼吸を整えて上を見ると、ちょっと驚いたような、そして心配しているような由起の顔が目に入った。
「三郷さん……大丈夫?」
「あんまり……大丈夫じゃ……ない、かも」
力のない笑みを浮かべて応える。
身体に力が入らない。なんというか、身体の中心を支える芯が抜け落ちてしまったような感覚だ。
初めての経験だった。あんなに、一気に登りつめてしまうなんて。
だけど、その理由もすぐにわかった。
あの経験から一週間近く。その間ずっと、また由起とできることを期待していた。
待ち望んでいたものがようやく得られたのだから、激しく反応してしまうことも致し方ない。
たぶん、十七年の人生でいちばん気持ちのよかった一瞬だった。小学校高学年の頃にひとりエッチを覚えて以来、あんなに感じてしまったことはなかった。
本当に気持ちよくて、幸せだった一瞬。
由起にも、同じ思いをさせてあげたい――。
心底そう思った。
でも、
「ゴメン……、中川にも……同じことしてあげたいんだけど……、ちょっと……腰が抜けて、すぐには無理っぽい。悪いけど、身体は自分で洗って。……そしたら、ベッド行ってちゃんとしよう?」
「気にしないで。ちょっとやり過ぎちゃったかしら? ……でも、その代わり、ベッドではいっぱい気持ちよくしてね?」
甘えるように言う由起に向かってうなずく。
「期待しているわ。ベッドの上なら、お風呂場と違って失神しても安全だろうし」
「うわ、責任重大だ」
思わず苦笑する。
由起を自分と同じくらい気持ちよくさせることができるだろうか。
頑張るしかない。前回の由起はすごく感じやすかった。きっとなんとかなるだろう。
「……結果はともかく、頑張るよ」
「そう言ってもらえると嬉しい」
由起も杏の前に膝をつく。
そのまま、肩に手を置いて唇を重ねる。
キスだけで感じてしまう。
きっと、大丈夫。
由起だってきっと、杏とエッチすることを待ち望んでいたはずなのだ。
<< | 前章に戻る | |
次章に進む | >> | |
目次に戻る |
(C)Copyright Takayuki Yamane All Rights Reserved.