10


「中川……大丈夫?」
 あまりに激しい反応に心配になって、杏は手の動きを止めて由起の顔を覗き込んだ。
 焦点の合わない瞳。
 荒い呼吸を繰り返し、上下する大きな胸。
 唇が震えている。なにか言おうとしていうのかもしれないが、声になって出てこない。
「…………ひょっとして、イった?」
 一応こちらの声は聞こえているらしく、朦朧とした表情で力なくうなずく。
「……イ……ちゃった…………ヤダ……すご……く……感じた……」
「みたいだね……、すっごいんだもの。見ててびっくりするくらい」
「…………」
 声を出さずに動く唇が「バカ」とつぶやいたように見えた。
 可愛い反応だ。
 エッチで、快楽に貪欲で、すごく激しく悶えて。
 なのに我に返ると、そんな自分を恥じている。
 こんな反応、可愛すぎる。
 もっと見てみたい、もっと感じさせたいと思ってしまう。
 もっといっぱいエッチなことをして、もっと感じさせて、だけど激しく悶えている由起の姿を見てみたい。
 ふつふつとそんな感情が湧き上がってくる。
「ぁ…………ぁんっ」
 まだ由起の中にあった指を軽く動かしてみると、切ない声が漏れた。
 あれだけ激しく達した直後だというのに、まだまだ感じているようだ。
「もっと、してあげようか?」
「……え、でも……」
「まだまだして欲しそうじゃない?」
「そ、んな……こと……」
「ないの? して欲しくないんだ? じゃあ、やめる?」
 指を抜こうとするよりも先に、由起の手が反射的に手首を掴んだ。言葉よりも雄弁な無意識の行動だった。
「…………三郷さんって、すごい意地悪だわ。三郷さんの指……まるで麻薬よ。気持ちよすぎておかしくなっちゃう。一度味わったら……いらないなんて言えるわけないじゃない」
「欲しい?」
「…………欲しい。して、欲しいわ、すごく。でも……いいの?」
 おそらく由起は、今度は攻守逆転する番ではないかと言いたいのだろう。
 確かに杏も自分が気持ちよくなりたいという想いはある。しかしギヴアンドテイクとはいえ、必ずしも同じ回数ずつ、しかも交互にしなければならないというものでもあるまい。
 なにより今は、もっと由起の感じている姿を見たいという気持ちが強い。その行為によって杏は精神的な満足感を得るのだから、これもひとつのギヴアンドテイクといえる。
 さすがにいきなり三本では激しすぎるだろうということで、人差し指を抜き、中指と薬指の二本をゆっくりと動かす。
 入口からいちばん奥まで、膣全体を擦るように。
「ん……っ、あ、はぁ……んっ」
 由起の唇から漏れる、溜息とも喘ぎ声とも取れる声。
 指の動きに合わせるように腰が前後する。
 声がだんだん高く、切なくなってくる。
 目が潤んでくる。
 膣内も潤いが増し、体温が高くなってくる。
 本当に感じやすいんだな、と思う。
 また、うんと感じさせてあげよう。激しく悶えさせて、いかせてあげよう。
 だけど、先刻とまったく同じことを繰り返すのも芸がない。なにか違うことを試してみようか。
 そんなことを考える。
 ひとつ、思いついたことがある。
 さっきもちょっとやってみようかと思ったけれど、タイミングを逃してしまったこと。
 せっかくだから、やってみてもいいかもしれない。
 ちょっと恥ずかしいけれど、でも、やってみたいという想いはある。
「ね……中川?」
「な……なぁに?」
「……く、口で、してあげようか?」
「え?」
「ク、クンニ……っていうんだっけ? ここににキスしたり、舐めたりするの。して、欲しくない?」
 胸だって、唇や舌で愛撫されたら気持ちいいのだ。もっと敏感な性器が気持ちよくならないはずがない。
「え……それは……でも、いいの? いやじゃない?」
「どうして?」
 確かに、経験のない者にとって、他人の性器に口をつけるというのは抵抗を覚えることかもしれない。しかしそれがセックスにおけるごく当たり前の行為であることは知っているし、経験ずみの友達から、その気持ちよさを聞かされてもいる。
 女の子同士では『本当の』セックスはできない。ならば、それ以外の気持ちよくなれる行為はなんでも試すべきではないだろうか。
 杏にとって、少なくとも今は、由起の性器を舐めるという行為にはまったく抵抗がなかった。シャワーを浴びて全身きれいに洗ったばかりだ。嫌悪感などあろうはずがない。
 由起の、激しくも可愛らしい反応を生み出す源を間近に見てみたいという想いもある。それをしたら、由起がどんな反応を見せるのだろうという期待感も大きい。
 そしてなにより、それが凄く気持ちのいいものであるならば、後で自分もしてもらいたい。
「中川は……して欲しい?」
「それは……あの…………やっぱり……」
 学校では真面目な割に、エッチに関しては意外と積極的な由起のこと、して欲しくないわけがない。
「だったら、ちゃんとそう言って?」
 由起の顔が一気に赤みを増す。
 それを口にすることの羞恥心と、よりいっそうの快楽を求める欲求とのせめぎ合い。
 結果の見えている争いだった。
「…………三郷……さん……、お願い……口で、して……。私の……舐めて」
 両手で顔を覆って、蚊の鳴くような声で言う。
 可愛い。可愛すぎる。
 くすっと笑って、杏は由起の下半身へと移動した。
 膝のあたりに手を当て、脚を左右に大きく開かせる。
 やってから気がついたが、これはかなり凄い光景かもしれない。由起が真っ赤になって、手で顔を隠している。
 これまでにしてきた指での愛撫でもお互いにそこを見られてはいたけれど、ここまで『もろ』ではない。
 脚をいっぱいに開いて、その中心にある女性器が丸見えになっている。紅い割れ目がぱっくりと口を開いている。
 杏は逆の立場になった時のことを想った。
 この姿勢で、そこに顔を近づけられて至近距離から見られるなんて、考えただけで顔から火が出そうだ。
 無理。とても耐えられそうにない。
 同性が相手でさえそう感じるのだから、好きな男の子の前でこんな体勢になるなんて絶対に不可能だろう。経験ずみの友達は、よくも平気でこんな格好ができるものだ。
 そこはけっして、造形的に美しいものではないと思う。むしろ、あまり他人には見られたくない場所だ。
 考えただけでも心底恥ずかしい。では、いま実際にその状況にある由起の恥ずかしさたるや、いかほどのものだろう。
 少し、試してみよう。
 顔を近づけてみる。されるのは恥ずかしくても、することに関してはさほど抵抗はなかった。
 そこは紅く充血していて、愛液で濡れて光っていた。毛も濡れて貼りついている。
 一言では形容しがたい、独特の匂い。強いて言うならば『女の子の匂い』だろうか。
 別に、嫌な感じはしない。
 キスする時のように目を閉じて、そこに唇を押しつけた。
「あっ……ン、ふっ」
 由起の身体がびくっと震える。
 唇よりも柔らかい、濡れた粘膜の感触が伝わってくる。陰毛が鼻に触れて、少しくすぐったい。
 舌を伸ばして、ぺろりとひと舐めする。
「ひゃんっ……あっ!」
 気持ちよさそうな声。
 弾む身体。
 太腿を抱えるようにして、しっかりと押さえつける。
 そして、もっと強く舌を押しつける。
 標的は、茂みのすぐ下にある敏感な突起。指で触れると、とても気持ちいいけれどちょっと痛い部分。指よりも柔らかな唇や舌で愛撫されたら、きっとものすごく気持ちいいことだろう。
「あぁぁっっ!」
 ソフトクリームを舐めるように、下から上へ舌ですくい上げると、予想通りの反応が返ってきた。
 甲高い悲鳴をあげて大きく身体を捩る由起。
「ひぃっあぁんっ! あんっ、あぁんっ!」
 切羽詰まったような声。下半身が小刻みに震えている。
 杏は乳首に吸いつくように、その部分を強く吸った。
「やぁぁっ! あぁっ……あぁぁぁっ! んあぁぁぁぁ――っ」
 由起の背中が仰け反り、ベッドの上で大きなアーチを作る。
 そんな様子を窺いながら、顔を少しだけ下にずらす。舌を割れ目の中に伸ばし、鼻をクリトリスに擦りつける。
「やあぁっ! やっ……あんっ、あんっ! ヤダっ……あぁあっ!」
 さらに、指を挿入する。二本の指が柔らかな泥に埋まるように飲み込まれていく。収縮した膣壁が締めつけてくる。
「イィっ……やぁっ……やぁ、ぁんっ! あっ、あぁっ、あぁっ!」
 本当に、予想以上の反応だった。
「すっごい感じてるね? そんなにイイんだ?」
「い、イイっ! すっごいイイのっ! もっと……あぁっ! おかしく、なっちゃう……ひゃああっ!」
 由起の反応を見ていると、なんだか楽しくなってくる。さらに熱心に舌を動かし、ピチャピチャと音を立てて舐める。
「あぁっ、すごい……スゴイぃっ! ねぇっ、三郷さん、も……一緒に……気持ちよくなろうっ?」
「え?」
「私が三郷さんの……三郷さんが私のを……一緒に舐めるの。あの……し、シックスナイン、っていうんだっけ?」
「あ……ああ」
 それはお互いに反対向きになって、相手の性器を口で愛撫する行為。もちろん知識としては知っているが、実際の経験はない。
 一応、興味はある。いい機会かもしれない。それに交代でするよりも、一緒に気持ちよくなれる方がいい。
「……面白そうだね。やってみようか?」
「じゃあ、三郷さん、私の上に……」
「ん」
 うなずいて上体を起こしたものの、いざやろうとすると、しかしこれはかなり恥ずかしい体勢だと気がついた。
 先刻、口でしてもらう時の体勢が恥ずかしいと由起の姿を見て思ったが、これはそれ以上だ。なにしろ上になる杏は、お尻を向けて脚を大きく開き、由起の顔の上にまたがるような体勢になるのだから。
「う……」
 これは恥ずかしい。
 だけど今さらやめるわけにもいかない。
 自分に言い聞かせる。
 セックスまでした関係なのだ。今さら、どこを見られてもいいではないか。
 それで羞恥心が消え去るわけではないが、口でしてもらうことへの好奇心が勝った。なにしろ、杏に舐められていた時の由起は、指だけで愛撫していた時よりもずっと気持ちよさそうにしていたから。
「こ……んな感じでいい?」
「……うん」
 ベッドの上で脚を開いて膝立ちになり、由起の顔にまたがる。
 上体を前に倒して由起の股間に顔を埋めつつ、ゆっくりと腰を下ろしていく。
 茂みが、由起の顔に触れた感触。
 そして――
「ひゃんっ!」
 指とは違う、初めての感触が触れてくる。
「あっ、あぁっ! やっ……ヤダっ!」
 二度、三度、立て続けに襲ってくる刺激。柔らかくて、湿っていて、指のような固さはない。
 敏感な粘膜に絡みついてくる。
 気持ちいい。
 気持ちよすぎる。
 気が遠くなりそうだ。
 襲ってくる快感から意識を逸らして正気を保つために、由起を攻めることに集中する。
 クリトリスを強く吸う。
 唇で噛む。
 舌先でくすぐる。
 同時に、指二本を挿入する。
「あぁぁっ! あぁっ! あんっ、あんっ、ああぁっ!」
 悲鳴を上げる由起。
 身体を捩らせ、悲鳴を上げながら、無意識なのかわざとなのか、少し乱暴に指を挿入してくる。
「いっ……ぅぅっ! あっあぁっ!」
 まだ慣れていないだけに、指を挿入される瞬間は少し痛い。
 だけど、気持ちいい。
 頭が真っ白になる。ただひとつ、ものすごく濡れていることだけはわかる。
 ぬるぬる、なんてものじゃない。びちゃびちゃ、ぐちゃぐちゃという形容が相応しい。
 それは由起も同じだ。
 夢中でむしゃぶりつく。指で中をかき混ぜる
 同じことをやり返される。
「んっ……んぅっ! ふっ……んんっ! んあぁっ! やっ……んんんっ! くぅぅっ!」
 自分の涎と由起の愛液で顔の下半分がべとべとになっている。
 もう無我夢中だ。なにも考えられず、ただ必死に舌と指を動かし、下半身から襲ってくる快感に耐える。
 由起も状況は同じなのだろう。
 愛撫の激しさは、お互い、どんどんエスカレートしていってしまう。
「やっやぁぁっ、だっ! イヤッ、ダメッ! も、もうっ! いやァ――ッ! あァ――――っ!」
 断末魔の悲鳴。
 もう、それがどちらの悲鳴なのかもわからなかった。


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