本人にやる気があり、寝技の名手に指導してもらったからといって、すぐに寝技が上達するというものでもない。
むしろ、状況は反対だった。
「……さっぱり上達しないな。このあたしが稽古をつけてやってるというのに」
マンツーマンでの稽古を始めてから数日、凉子は溜息まじりにつぶやいた。
「…………すみません」
聖美としてはうつむいて謝るしかない。凉子が自分の時間を割いて練習に付き合ってくれているというのに、目に見える成果は上がっていないのだから。
「あんた、立ち技はあれだけスピードがあって、一瞬の隙を衝いて大胆に技を仕掛けるくせに、寝技になるとなんかぎこちないんだよな。動作のひとつひとつに迷いがあるというか、余計なこと考えながら技かけてるみたいなんだよ。……なんで?」
凉子の指摘はもっともだった。さすがによく見ている。
立ち技の方が得意とはいえ、聖美は本来、技術的にみれば極端に寝技が下手なわけではない。
ただ試合では寝技に集中できない、どうしても雑念が混じってしまう。
寝技では、相手と密着してしまうから。
相手を『女の子』として意識してしまうから。
――そのことを自覚したのは、今年の早春のことだった。
今年の三月――
中学校の卒業式も終わり、いつもより少し長めの春休みが始まると、聖美はそのほとんどを親友の安原彩と一緒に過ごしていた。
四月から、聖美は親元を離れて聖陵女学園の寄宿舎に入ることになっている。そして彩は、父親の転勤で九州に引っ越していく。
離ればなれになって、もう簡単に会うことはできなくなってしまう。
それは、考えるだけで寂しいことだった。
二人は小学生の頃から一緒のクラスで、いちばん仲のいい友達だった。周囲から冗談まじりに「レズ?」などと言われるくらいに。
半分くらいは正解かもしれない。
けっして恋人ではない。明確な恋愛感情があったわけでもない。だけど単なる友達という言葉では片付けられない関係だった。
寂しくて仕方がない。来月になって新しい生活が始まればまた違ってくるのかもしれないが、三月というのはとかく別れを意識してしまう寂しい季節だ。
だから二人は毎日のように、お互いの家を訪ねて二人で過ごしていた。
「サトは憧れの安曇さんと同じ高校に行けてよかったね。あーあ、新しい学校でもサトみたいなカッコイイ友達ができたらいいなぁ」
彩の口調はふざけているが、その表情にはどことなくもの悲しさが漂っていた。
隣に座っていた彩が、ぎゅっとしがみつくように抱きついてくる。聖美もその小さな身体に腕を回す。
柔らかくて、温かい。
いつもそこにあるのが当たり前だった温もり。もうじき、これがなくなってしまう。
まだ中学生、別れよりも出会いの方が多い年頃の二人にとって、いちばんの親友との別れは何ごとにも勝る大事件だった。
「サト……」
彩が顔を上げる。
間近で見つめ合う形になる。大きくて澄んだ、人形のような彩の瞳が至近距離にあった。
ゆっくりと、彩の顔が近づいてくる。
「……え」
かすかに、唇が触れた。
それはほんの一瞬のことで、彩は弾けるようにぱっと離れていった。
顔中、耳まで真っ赤になってうつむいている。
「……ゴメン、いきなりこんなことして」
「え、う、ううん! ぜんぜん、いいよ! 私も……彩のこと、……好きだし」
突然のことにびっくりしたけれど。
全然、いやじゃない。
むしろ、その事実を認識するにつれて嬉しさが込み上げてくる。
ただ、突然の柔らかな感触に驚いただけだ。
だから、今度は聖美の方から行動を起こした。
「も……もう一回、しようか?」
「…………いいの?」
「ん……」
戸惑いつつも嬉しさを隠しきれていない彩に向かって、小さくうなずく。
また、二人の顔が近づいていく。
お互いに、双方から。
もう一度、唇が触れる。
今度は一瞬で離れたりはしない。腕をお互いの身体に回して、しっかりと押しつけ合う。
気持ち、よかった。
柔らかな身体。体温。湿った唇の感触。
そのすべてが、気持ちいい。
そのすべてが、愛おしい。
もっと、もっと、相手と近づきたい。二人の距離のゼロにしても、まだ足りない。
一度唇を離し、間近で見つめ合う。
「サト……」
「彩……」
二人同時に口を開く。その瞬間、お互いが同じ想いを抱いていると悟った。
もっと、近づきたい。
もっと、深い関係になりたい。
キスよりももっと、近く、深く、つながりたい。
一生の想い出になるように。
誰よりも大切な人の、いちばん大切なものが欲しい。
自分のいちばん大切なものをもらって欲しい。
恋人ではないのかもしれないが、いちばん大切な人だから。
手を、相手の胸に運ぶ。
相手の手が、胸の膨らみに触れる。
指先が、先端の突起をつつく。
「んっ……!」
ビリッと、電流が走ったような感覚だった。
「いいなぁ。サトの胸、大きくって柔らかい」
彩の指が乳房にもぐり込んでいく。
「彩だって、形はすごくキレイじゃない」
聖美の手の中にすっぽりと収まる控えめな膨らみ。だけどそれは滑らかな曲線を描き、綺麗なお椀型に盛りあがっている。聖美の掌は、その上で何度も小さな円を描くように動いた。
「あ、はぁ……」
また唇を重ねる。
唇を開いて、相手の口中に舌を伸ばす。
ふたつの舌が触れ、一瞬躊躇った後に絡み合う。
強く吸う。
二人の唾液が混じり合う。
何分間も続く、長く激しいキス。
その間も手はお互いの胸を愛撫し続けている。
熱い。
顔が火照っている。
頭に血が昇ってぼぅっとしてくる。
鼓動が速くなる。体温が上がる。全身が汗ばんでくる。
どんどん昂ってくる。女の子の部分が疼いてくる。
十五歳の、まだ大人にはなりきっていない身体であっても、既に性の悦びは目覚めつつあった。
もっと、もっと、相手を感じたい。
もっと、もっと、気持ちよくなりたい。
ベッドの端に座って抱き合っていた二人は、どちらからともなくそのまま倒れ込んだ。
身体が重なる。
脚を絡め合う。その付け根の部分を押しつけ、擦り合わせるように下半身をくねらせる。
「あっ……く……」
それは、意図した動きではなかった。下半身が勝手に動いてしまう。
本能で知っている。
そこが、気持ちいい部分であることを。そうすることで、より強い快楽を得られるということを。
女の子の、いちばんエッチな部分、いちばん恥ずかしい部分、いちばん気持ちいい部分が、下着の薄い生地だけを隔てて擦れ合っている。
「……これって……気持ちイイ……ね」
「…………ん」
真っ赤になった彩が喘ぐようにつぶやく。聖美も真っ赤になってうなずく。
こんなこと、初めてだった。
軽いキスとか、服の上から胸を触ったりとか。そのくらいのことなら友達同士でもふざけてすることはある。だけど現在進行中のこれは、まったく桁違いの行為だった。
今まで一度も感じたことのない、はっきりとした性的快感。拙い自慰よりもずっと感じてしまう。
もう止まらない。止められない。
止められるわけがない。
腕の中の相手がこんなにも愛おしいのに。
相手に触れることが、触れられることが、こんなにも気持ちいいのに。
二人はほとんど同時に、手を相手の下半身へと滑らせていった。スカートの中に忍び込ませる。同時にびくっと身体を震わせる。
「サトのここ、湿ってる……」
「……彩だって、熱ーくなってる」
いちばん敏感な部分。自分で触れることさえ躊躇してしまう部分。その部分に指を押しつける。隔てるものは下着の薄い生地一枚だけ。
押しつけた指を前後に滑らせると、彩の唇から嗚咽が漏れる。ひと呼吸の間を置いて、彩の指が聖美に対して同じ動きを始める。
「ふぁっ……っ、……っ!」
胸を触れられていた時とは比べものにならない、はっきりとした快感が押し寄せてくる。
指が動くたびに、びくっと身体が震える。肺が勝手に空気を絞り出して、唇からか細い声が漏れる。
「ひぁっ…………っ、ここ……気持ち……イィ……」
「……うん……うんっ」
だんだん、何も考えられなくなってくる。
ただただ指に力を込めて、小刻みに震わせる。
相手の唇を貪る。
心身共に余裕はまったくなくて、快楽の虜になってしまう。
指の動きが激しくなっていく。
痛いくらいに激しく擦る。
その痛ささえ、快楽に変わっていく。
「はっ……はぁっ! あぁっ! あぁぁんっ!」
「あぁっ、あんっ、あんっ! あんっ、んんん――っっ!」
視界が真っ白になって、二人はほとんど同時に全身を痙攣させた。
しばらくの間、二人とも無言で荒い呼吸を繰り返していた。
やがて少し落ち着いたところで、お互いの顔を見合わせてぷっと小さく吹き出した。
「服も脱がないで、こんなコトしちゃったね」
「……でも……気持ち、よかった」
「ん……すっごく、ね」
どちらからともなく顔を寄せて、唇を重ねる。
ちょんと軽く触れて、少しだけ離れて、またしっかりと口づけて舌を絡める。
その行為が、性に目覚めたばかりの二人の身体と心に火を着ける。
「もう一回…………しようか?」
「……次は、ちゃんと裸にならない?」
「ん……」
微かにうなずく。
人前で裸になることはもちろん恥ずかしい。だけど羞恥心よりも、直に触れ合いたいという想いの方が強かった。この場においては、薄い生地すらも邪魔者でしかない。
聖美が彩の服を脱がす。
彩が聖美の服を脱がす。
人の手で脱がされるということが、よりいっそう気持ちを昂らせる。
露わにされる肌。隠していたものが曝される。
ブラジャーを外したところで、もう我慢できなくなった。下着一枚だけの姿で抱き合い、ベッドに倒れ込む。
先刻よりもずっと気持ちいい。
肌が直に触れる。相手の体温を直に感じる。
柔らかくて、温かい。
聖美の上に乗った彩の身体が下に移動していく。
首筋に、鎖骨に、そして胸にキスされる。
乳首が口に含まれて吸われる。軽く咬まれる。舌先でくすぐられる。
その度に声が漏れた。
だんだん気持ちよくなってくる。
どんどん感じてくる。
胸を揉んでいた手が、お腹の上を滑っていく。ショーツの中にもぐり込んで、その小さな布を下ろしていく。
彩は脚の間に移動すると、露わにされた女の子の部分に顔を埋めた。
「ひぃあっ! あぁぁっんっっ!」
初めて、そこを直に触れられ、口づけられる。
生まれて初めて経験する衝撃に、まるで自分のものではないような甲高い声が発せられる。
くちゅくちゅ、ぴちゃぴちゃという湿った音が、その伴奏をしている。
女の子の秘密の部分を曝し、そこを触れられ、舐められている。
とても、とても、恥ずかしくて、だけどおかしくなってしまいそうなほどに気持ちよかった。
「あぁっ、はぁぁっ! あんっ、あんんっ! あぁんっ!」
聖美の声が大きくなるのに合わせて、沙耶の指や舌の動きが大胆になっていく。
入口の部分をくすぐるように動いていた指はやがて、恐る恐る聖美の中へと侵入してきた。
「はぁっ……、あ、ぁ……ッ!」
入ってくる。
少しずつ、だけど確実に、奥に向かって進んでくる。
「あっ……くぅぅ…………いぃッ!」
「……痛い?」
「ちょっとだけ……でも、でも……」
「気持ちイイ?」
「…………すっごく」
信じられない。
はっきりと感じる。自分の中に、彩の指がある。
自分でも触ったことのない深い部分まで届いている。
「……動かしてみて、平気?」
「ん……あぁっ!」
指が、中を探るように動き出す。最初は遠慮がちに、だんだん大きく、速く。
熱く火照った粘膜が擦られる。
初めて体験する感覚。
初めて体験する強い快感。
「すごぉい……中、熱い……。あたしの指を包み込んで……すっごく濡れてる」
「や……あっ、あっ、あぁっ……あぁっ! あやっ、あやっ! あやぁぁっ!」
気持ちいい。
気持ちいい。
気持ちイイ。
気持ちイイ。
彩の指から発せられ、下半身から突き上げてくる快感。それは聖美の全身を貫いて、頭の中で大きく弾けた。
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