兄貴は、何を言われたのかわからないといった表情であたしを見ている。
ま、それも無理はない。
「あ…え〜と…」
言葉に詰まっている。
これも当然だろう。
あたしと兄貴は、普段から仲がいい。
仲はいいけど、それはあくまで兄妹としてであって、それ以上のアブノーマルな関係ではない。
「香奈…、お前なに言ってんだ?」
「聞いてなかったの? エッチしよう…って」
「お前まだバージンだろ?」
「バージンじゃなかったら妹でもいいの?」
「そういう問題じゃなくて!」
「バージンだからこそ、興味あるの。セックスしてみたい」
「ビデオ見て興奮したのか?」
「……うん」
素直にうなずいた。本当のことだから。
生まれて初めて修正も何もないセックスを見て、身体中が火照っている。
目の前に兄貴がいなければ、今すぐにでも自分の指で慰めたいくらい。
「俺たち、兄妹だぞ…血のつながった」
「知ってる」
「まあ、カッコ良すぎる兄に惚れてしまう気持ちは分からなくもないけど…」
「勘違いしないでよね!」
断言するけど、兄貴に恋愛感情を抱いたことなんて一度もない。
兄貴のことは好きだけど、それはあくまでも兄貴としてのこと。
異性として意識したことなんて、ただの一度もない。
客観的に見て、まあまあカッコイイ方だとは思うけどね。
でもあたしの理想はもっと高い。兄貴程度じゃなんとも思わないよ…って言ったら、兄貴は少しだけ落ち込んだ。
「ちぇ、だったらどうして…?」
「だって、好奇心旺盛な年頃だもん。エッチしてみたいんだもん」
「それなら、適当に男みつくろってやりゃあいいじゃん。お前だってモテるだろ、俺の妹なんだから」
「そんなのヤダ。初体験は、そんないい加減にしたくない」
適当な相手と初体験して、後で「なんであんな奴にあげちゃったんだろ」なんて後悔したくないもん。
いま好きな相手だって、もし別れたらキライになるかもしれないっしょ?
その点、兄貴は何があったって兄貴だもんね。
とりあえず、外見はカッコイイし。
それにあたし、兄貴のことは大好きだよ。
もちろんそれは恋愛感情じゃなくて、あくまでも肉親としての気持ちだけど。
兄貴になら、裸を見られたり、身体を触られたりすることにも嫌悪感はない。
だから、初めてのエッチを教えてもらうには一番いい相手じゃない?
女の子の扱いは慣れてるはずだし、クラスの男子とかと初体験同士でするよりも、ずっとうまくできそうに思う。
なんだかんだ言っても兄貴はあたしに優しいから、あまり痛くないようにしてくれるだろうし。
ここで経験を積んでおけば、どんな相手とでも安心してできるってものでしょ。
「…って思ったんだけど、どうかなぁ」
「あのなあ…」
兄貴ってば、頭抱えちゃってる。
「…ダメ?」
どうしよう。
なんだか、急に不安になってきた。
勢いでこんなコト言っちゃったけど…もしここで拒絶されちゃったら。
もうこの先ずっと、恥ずかしくて兄貴と顔会わせられなくなっちゃう。
あたし、すごくドキドキしてる。
一大決心だったんだから。
あ…ヤダ、涙が出そう。
あたしはそれを必死に堪える。
「女の子に恥かかせないでよっ!」
思わず叫んでしまう。同時に、堪えていた涙があふれ出した。
「…冗談で…言ってるんじゃないんだから…」
「香奈…」
いつの間にか、兄貴がすぐ横に立っていた。
ぎゅっと、抱きしめられた。
心臓が、大きく脈打った。
「いいのか、本当に」
耳元で声がする。
兄貴の腕の中で、あたしはうなずいた。
こうして抱きしめられていることが、とても心地よい。
「…ひとつ、頼みがあるんだけど」
「なに?」
「学校の制服、着てくれないか?」
「…は?」
何を言われるかと緊張していたのに、いきなり何を言い出すかと思ったら! 涙なんか引っ込んじゃった。
「あ…兄貴ってば、セラコン?」
ちょっとだけ、軽蔑した目で見る。
「そ〜ゆ〜訳じゃないけど。俺の高校はブレザーだったし、大学は私服だし…。現役中学生とする機会なんてまずないから、その事実を実感したいなぁ…と」
冗談めかしたその言い方は、今のあたしにはむしろ救いだった。
なんだか、とても気が楽になった。
もともと愛情表現としてのセックスじゃないんだから、その行為自体を精一杯楽しまなきゃね。
あたしは兄貴の首に腕を回すと、背伸びして耳元でささやいた。
「夏服と冬服、どっちがいい?」
「もちろん夏服!」
やっぱりね。
白いセーラー服って、男の人にはたまらないものらしい。実際、夏服の時の方が痴漢に遭う回数も多い。
ま、あんなビデオ見てた後だし、制服でのエッチってあたしもちょっと興味ある。
その方が刺激的な気がするし。
兄貴は「現役中学生としてる」ことを実感したいからって言ったけど、それはあたしにとっても「中学時代に初体験した証」になる。
「いいよ、ちょっと待ってて。着替えてくる」
そう言ってあたしは一度、自分の部屋へ戻った。
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