「……え?」
 いつものように上村くんの家へ行った私は、驚いて目を見張った。
 部屋の中では、美しいゴールデンレトリーバー、私が愛するラッキーが行儀よくお座りして、つぶらな黒い瞳で私を見つめている。
 それはいい。問題は、ラッキーが三頭いるということだ。
「ラッキーが……分裂増殖してる?」


 あの夏休み以来、私と上村くんは一緒に帰ることが多い。だからクラスメイトからは、すっかり「恋人同士」と公認されてしまっている。
 まさか、本当の恋人はゴールデンレトリーバーのラッキーで、私はラッキーともども上村くんのペット……だなんて、誰も思わないだろう。
 いつも、一緒に散歩して。
 時々……というかしょっちゅう、エッチして。
 その時には、首輪と耳と尻尾を付けられて、牝犬扱い。
 人間としての尊厳はどこへ行ってしまったのかと思わなくもないけれど、正直なところ、それがけっこう気に入っていた。
 ラッキーとするのも、上村くんとするのも、すごく気持ちよくて。
 ラッキーは私のことが大好きで。私はラッキーが大好きで。
 上村くんとの間に恋愛感情があるのかどうかは微妙なところだけど、少なくとも、愛情を持って接してくれている。たとえそれが、ペットへの愛であったとしても。
 だから、ペットとして扱われることに抵抗は感じていなかった。
 上村くんと私の関係には、はっきりと口には出さないけれど明確なルールがあって、普段、学校などでは普通に仲のいいクラスメイトとして接している。一歩上村くんの家に入って、ある瞬間から、私は彼のペットになるのだ。
 大抵の日は学校が終わると一緒に帰るんだけど、今日は私が委員会の用事があって、上村くんはなんだか用事があるらしく急いで帰ってしまったので、私は遅れて彼の家へ行った。
 そして――


「ラッキーが……分裂増殖してる?」
「なにバカなこと言ってんだ」
 私のつぶやきに、上村くんが笑う。
 でも……だって。
 目の前には、まったくそっくりなゴールデンが三頭。
 まったく同じポーズで座っている。
「ラッキーと一緒に生まれた兄弟たちだよ。こいつが長男のエース。ラッキーが次男で、三男がラッシー」
「ああ……なんだ」
 そういえば、聞いたことがある。
 ラッキーは、親戚の家で生まれた仔犬のうちの一頭だって。何匹も生まれた仔犬を、親戚内で分けたんだって。
「あー、びっくりした」
「……っつーか。どうやったら分裂増殖なんて発想が浮かぶんだか」
「いいじゃない。私は想像力が豊かなのよ」
 馬鹿にしたような口調に、私はぷぅっと膨れた。
「でも、どうしたの急に? ラッキーの兄弟たちなんて連れてきて……」
 そこまで言って、はっと気づいた。
 思わず、部屋の扉のところまでささーっと後退る。
「ま、まさか上村くん! よ、4Pとか、そーゆーすごいアブノーマルなこと考えてるっ? だ、ダメだよ、私っ!」
 つぶらな三対の瞳が、じっと私を見つめてる。あの瞳に見つめられるだけでドキドキして、身体の奥が熱くなってきちゃいそう……だけど、ダメダメ。
 犬とエッチするってだけでも十分すぎるくらいにアブノーマルなのに、しかも乱交だなんて。
 第一、いつもラッキー一頭の相手をするだけでヘトヘトになるのに、三頭だなんて。
「そ……そんなにしたら、死んじゃうよぉ」
「……」
 何故か上村くんは、無表情に私を見ている。少し、呆れているようでもあった。
「委員長、またなんか勝手に思い込んでるな? 伯父さん家が一家で旅行に行くんで、その間預かったんだよ」
「え? あ……? あ、なんだ、そうなの? あははー、やだ、私ったらてっきり……」
 笑ってごまかす。また、エッチな想像をしてしまった。
 どうして、すぐに考えがそっちに行ってしまうんだろう、私ってば。
 でもそれは、半分以上上村くんの責任だと思う。
 彼はクールな外見とは裏腹にすごくエッチで、私にいろいろと恥ずかしいことをして楽しんでいるのだ。
 だけど、先刻の台詞は失言だった――そう気付いたのは、上村くんがにやっと笑って立ち上がった時だ。
「4Pか、それも面白いな」
 不穏な空気を感じ取って、私は背後の扉にびたっと張り付いた。
 上村くんが近付いてくる。
「よかったな委員長。今日は、たっぷりと楽しめるぞ。明日は休みだし、少しくらい遅くなってもいいよな?」
「だ……、だめだめ! 無理だよ! そんな……ホントに壊れちゃう!」
「委員長」
 上村くんの声が、少し低くなる。
 ゆっくりと腕を上げる。その手が持っているものを見て、私は動けなくなった。
 紅い、革製の首輪。大型犬用の。
 私の名前を彫った、小さなメダルがついている。
「あ……」
 手が、首に回される。
 皮の感触。
 メダルを下げている短い鎖が、鈴のような音を立てた。
 顔が、かぁっと熱くなる。
 首輪を付けられてしまったら、私はもう完全に上村くんのペット。
 逆らうことはできない。
 それが、暗黙のルール。
 この二ヶ月ほどの間に、すっかり身体に染みついてしまった習性。
 身体が、微かに震えている。
「リカ」
 首輪を付け終わった上村くんが、一歩離れて私の名前を呼んだ。
 もう「委員長」ではない。
 上村くんのペットの牝犬「リカ」でしかない。
「……はい」
 私は小さくうなずいて、制服のスカートに手をかけた。
 微かな衣擦れの音とともに、スカートが足下に落ちる。
 続いて、セーラー服。ソックス。そしてブラ。
 いつものことなのに、もう何十回も上村くんの前で全裸になっているのに、最後の一枚はどうしても躊躇してしまう。
 だけど上村くんは、犬に服を着せる趣味はない。私は小さく深呼吸して、パンツも脱いだ。
「よし」
 セーラー服を手際よくハンガーにかけてくれていた上村くんが、また側に来る。頭に、付け耳を付けられる。
 私はその場に膝をついて、そのまま四つん這いになった。
 裸で、首輪と耳を付けて。
 本当に犬みたい。
 だけど、まだ足りないものがある。
「ひゃん!」
 お尻に触れた冷たい感触に、思わず声を上げた。
 上村くんの手が、お尻の……一番触れられたくない部分を撫でる。
 冷たくて、ぬるぬるとした感触。
 ジェル状のローションが、たっぷりと塗り込まれる。
 私はきゅっと唇を噛んで、次に訪れるものに備えた。
「ん……、くぅん」
 お尻の穴の部分に、指よりも固くて太いものが触れる。
 ゆっくりと、しかし力強く押し付けられる。
「ぅん……くっ、ふぅ、んっ……」
 堪えようとしても声が漏れる。
 少しずつ少しずつ、お尻の穴を広げて、私の中に侵入してくる。
 そう。それはかなり太めのアナルバイブ。ふさふさの尻尾の縫いぐるみが付いた、エッチな付け尻尾なのだ。
 長浜梨花という人間を一匹の牝犬とする、最後の仕上げ。
 無意識の抵抗を続ける括約筋を押し広げて、どんどん深く入り込んでくる。
「うぅ……んん、くっ……ふぅぅ――――」
 根本まですっかり埋まったところで、私は大きく息をついた。
 ラッキーの毛皮と同じ、鮮やかな山吹色の尻尾だけが、私のお尻から生えている。
 何度入れられても、やっぱり慣れることはできない。
 この、不思議な感覚。言いようのない異物感。
 全身を貫くような快感を伴う、膣への挿入とは違う。
 収縮しようとする筋肉が、強引に引き延ばされる鈍い痛み。
 苦しいような、だけどじんわりと全身に広がっていく快感。
 私のあそこをしとどに濡らしているのは、お尻から流れていったローションではない。身体の奥から湧き出してきた、私自身のエッチな蜜だった。
「は……ぁ、ん」
 潤んだ瞳で、縋るように上村くんを見上げた。
 笑っている。
 私にエッチなことをしている時、彼はいつも楽しそうだ。
「始めてもいいか?」
「……うん」
 小さくうなずくと、上村くんはまた私のお尻に手を伸ばした。
「――っ! あぁっ! あぁぁぁっ! あぁんっ!」
 くぐもったモーターの呻りとともに、私の体内にある異物が妖しく蠢きはじめる。
 私は思わず身悶えした。
 その動きは尻尾に伝わる。
 私はパタパタと尻尾を振って。
 あそこからは発情した牝の匂いを振りまいて。
 若い牡たちを誘っていた。



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