ラッキーとふたりきりで散歩した日の深夜――

「んっ……ぅ、ん……っ、んふぅ……」
 くちゅくちゅと、指が湿った音を立てている。
 途切れ途切れの嗚咽が漏れる。
 私は全裸でベッドに潜り込んで、自分自身を慰めていた。
 あの異常な、そして刺激的な体験からまだ数時間、身体の火照りは治まるどころか、むしろ熱さを増しているようだった。
 女の子の部分はぐっしょりと濡れていて、乳首は固くなって突き出ていて、ちょっと触れただけでも身体に電流が走ったようになって、どんなに抑えようとしても声が漏れてしまう。
 両親はもう寝ているから、少しくらいなら声を出しても大丈夫なはず。
 帰宅してから、家族が寝静まるのを待つ時間は、果てしなく長いものに感じた。夕食後は自室で本を読んでいるふりをしながら、ずっと、服の上から敏感な部分を触っていた。身体が火照って、触らずにはいられなかった。
「はぁっ……ぁぁっ、んっ……んふっ、ぅぅ……んんっ!」
 熱くとろけた秘肉の中に、中指を第二関節くらいまで挿入して、中をかき回すように動かす。
 普段の自慰の時にはもっと深く奥まで指を挿れることが多いのだけれど、今日はあえて深い挿入は避け、ラッキーに舐められていた部分を重点的に刺激していた。
 まだ、夕方の記憶は鮮明だ。まだ、あそこにラッキーの舌の感触が残っているように感じた。
 すごく、気持ちいい。
 あの林の中で経験したことの記憶を反芻しながら、指を動かし続ける。中に挿れていない方の手の指は、クリトリスや、割れ目の上を滑らせる。
「ぁっ……は、ふぁ……っ! あんっ、んっ、ぅんっ……んぁっ」
 信じられないくらいに濡れている。湿っているなどというレベルではなく、流れ出しているような状態だ。
 膣中はすごく熱くなっていて、とろとろにとろけて指に絡みついてくる。
 指を引き抜くと、白濁した愛液が糸を引いて、手をべっとりと汚していた。
 これまで、こんなに濡れたことはない。
 普段、ひとりでする時よりもずっと感じている。
 それでもやっぱり自分の指よりも、ラッキーに舐められていた時の方が何倍も何倍も気持ちよかった。
 これまでに体験したどんな性的快感よりも、格段によかった。
 人間の男の子に舐められた時よりも、ずっとずっと気持ちよかった。

 ――そう。
 
 実は、人間の男の子に舐められた経験はある。
 いや、正確には「男の子」よりも「男性」というべきだろうか。相手は私よりもずっと年上の大学生だったから。
 もちろん、舐められただけではない。
 その先も……最後まで、経験ずみ。
 おそらく、貴音を除けば今のクラスメイトたちは誰も知らない。知ったらきっと驚くだろう。「真面目で優等生の委員長」が、もうとっくにバージンではないだなんて。



 私の初体験は、二年前。
 中学三年生の夏休みだった。
 相手は、夏期講習で通っていた塾で、講師のアルバイトをしていた大学生。
 イケメンで、お洒落で、カッコイイ車に乗っていて、その割に講師としても熱心で。
 今にして思えばかなり遊び慣れた男性だった。うぶな中学生を口説くことなど朝飯前だっただろう。
 実際、私は簡単に彼の誘いに応じてしまった。当時の私は今以上に「真面目な優等生であること」にコンプレックスを感じていて、自分を変えるきっかけを求めていたから。
 あるいはそんなことまでお見通しで、普通におしゃれな女の子たちではなく、真面目な私に声をかけたかもしれない。
 塾からの帰りが少し遅くなった日に、車で家まで送ってもらって、デートに誘われた。
 親にも友達にも内緒で、年上の大学生とデート。それが、きっかけになると思った。つまらない真面目ちゃんから脱皮して、刺激的な夏休みを送ることができる――と。
 初めてのデートは、海へのドライブ。
 その日のうちに、身体を許してしまった。彼は雰囲気作りも、女の子の悦ばせ方も上手だった。
 もちろん、向こうにしてみれば夏休みのちょっとした遊びだったのだろう。バイトのついでに、女子中学生をつまみ喰いしよう――と。
 だけど免疫のない私はすっかりのぼせてしまって、夏休みの間、求められるままに二日と間を空けずに彼に抱かれていた。どんな要求にも、精いっぱい応えた。彼に悦んでもらえることが嬉しかったし、大人の男性とセックスすることで、自分も大人になれたような気になっていた。
 そしてなにより、女性の扱いに慣れた彼とのセックスは、気持ちよかった。
 ほんの一ヶ月も経たないうちに、私はすっかり〈女の悦び〉を身体に教え込まれていた。
 
 そんな彼との関係は、夏休みが終わって間もなく、美人で色っぽい女子大生らしき女性とデートしている彼の姿を偶然目撃したところであっけなく幕を下ろした。

 もちろん、その時はそれなりにショックを受けた。
 ただ身体目当てで弄ばれていただけだと知って、悲しかったし、悔しかった。
 だけど今では、意外と落ち着いて昔のことを思い返すことができる。
 不思議と、彼を恨む気持ちもほとんどない。当時の自分の愚かさと幼さを思うと、少しばかり可笑しさが込みあげてくるだけだ。
 いい勉強をさせてもらったと考えるべきだろう。
 まだ子供だった自分。
 精いっぱい背伸びして、足許をすくわれた自分。
 当然の報いともいえるかもしれない。
 それでも、あの経験がないよりは、あった方がよかったのだろうと思う。
 あの経験がなければ、セックスの気持ちよさを知ることもなかったはずだ。
 彼とのセックスは、確かに気持ちよかった。彼の目的が単なる一時の遊びだったとしても、ただ自分の性欲を満たすだけではなく、ちゃんと私のことも気持ちよくしてくれた。
 あるいは、彼を恨む気持ちがないのはそのためかもしれない。彼との関係がなければ、私なんてまだバージンのままで、ひょっとしたら男性経験なしのまま高校を卒業していたかもしれない。今のところ、あと一年半の間に彼氏ができそうな気配もない。
 もちろん、これまでの男性経験はそのひとりだけ。
 あれ以来、異性と親しく付き合ったことはない。
 しばらくは男性不信気味だったこともあるし、あの後は夢中になれる男性に巡り会わなかったということもある。
 そして私は相変わらず「真面目で優等生の委員長」だった。
 それでも、少しは成長したのだと思いたい。
 精神面がどうかは自分ではわからないけれど、身体は間違いなく少し大人になっていた。
 あれ以来、欠かせなくなったひとり遊び。一度セックスの悦びを覚えてしまった身体は、その快感を求めずにはいられなくなっている。
 少なくとも、週に二、三度。特に憧れの男性もいない私は、いつも、二年前の彼との行為を想い出しながら自分を慰めるのが常だった。
 だけど、それは昨日までの話。
 今日は、いつもとは違う。
 私をこれ以上はないくらいに昂らせているのは、一頭の美しいゴールデンレトリーバーだった。



「ぁ……っ! はぁっ! はぁぁっ……ぁぁっ! は……ぁぅっ!」
 大きな声を出さないことだけを気をつけて、呼吸を荒げながら指の動きを速くしていく。
 中をかき混ぜるように動かすと、熱く濡れた粘膜が指に絡みついてくる。
 溢れ出た愛液はお尻の方まで流れ落ちて、シーツをしっとりと濡らしていた。
「はぁぁっ! あっ……ぁっ、ぁっ、はぁぁっっ! ……っ!」
 ラッキーの舌の記憶を反芻しながら、指を動かす。
 指の動きに合わせて、自然と腰も動いてしまう。
 あの、めくるめく舌の感触。
 人間の舌よりずっと長くて。
 ずっとしなやかで。
 ずっと速く、ずっと器用に動く舌。
 気が遠くなるほどの快感を与えてくれる舌。
 信じられないくらいに奥深くまで、舐められてしまった。
 信じられないくらいに気持ちよかった。
「あぁっ……はぁぁっ……ぁんっ! ぁんっ! あぁっ!!」
 これまでのひとりエッチで、いちばん、気持ちいい。
 それでもやっぱり、自分の指ではものたりない。
 指では、本当の気持ちよさは味わえない。
 ラッキーの舌じゃないと、だめ。
 指の皮膚と舌の粘膜の感覚では、ぜんぜん違う。
 あの舌の感触を、もう一度味わいたい。
 また、ラッキーに舐めて欲しい。
 それが異常な望みであることは理解している。だけど、堪らなく気持ちのいい行為であることも認めないわけにいかない。
 もちろん、抵抗感がないわけではない。私は本来、常識を外れた行動など簡単にはできない性格なのだから。
 それでも、常識とか世間体とかを別にすれば、犬に舐められるという行為自体に対する嫌悪感はまったくなかった。大の犬好きの私にとって、犬にされることはなんであっても嫌だと感じるわけがない。その上、気が遠くなるほどの快感が得られるのだから、嫌がる理由はない。
 私は、ラッキーのことが大好きだ。
 ラッキーも、私に好意を抱いてくれている……と思う。
 なにも問題はないではないか。
「あっ……ぁんっ! ら……っきぃ……」
 膣内で蠢く指の感覚に身を震わせながら、その名を呼ぶ。
 それだけで、さらに昂ってしまう。
「んんっ……くぅんっ、な……舐め、て……もっと……っ!」
 今日よりもっと激しく舐められる姿を、何度も何度もいかされてしまう姿を、想像する。
 今すぐにでも、ラッキーに逢いたい。
 また、舐めて欲しい。
 だけど実際のところ、今日みたいなチャンスはそうそうないだろう。上村くんがいなくてラッキーとふたりきりで、しかも他の人に見られたり声を聞かれたりしない状況なんて、滅多にあるものではない。
 叶わぬ願いに身を焦がしながら、私はそれから一時間以上も自分を慰め続けていた。



 いったい何度、絶頂に達してしまったのだろう。
 覚えていないくらいの回数であることは間違いない。
 さすがに疲れ切って、私は裸のままでベッドに横たわっていた。
 しかし、朦朧とした頭は、不意に突拍子もないことを思いついてしまう。
「……そういえば……、どこかで、バター犬なんて言葉、聞いたことあったっけ……」
 もしかして。
 誰も人には話さないだけで、犬とのエッチな行為を楽しんでいる女性は案外多いのではないだろうか。
 異常な行為と思っていたけれど、実は、意外と普通に行われていたりはしないだろうか。
「……調べて、みよ」
 こんな時でも優等生の血が騒いでしまう。わからないこと、疑問に思ったことをそのままには放っておけない性分だ。
 もちろん、教科書や事典をいくら調べたところで、いま心の中に在る疑問の答えが載っていないことはわかっている。
 こうしたことを調べるなら、手段はひとつしかない。
 全裸のままでベッドから降りると、机の上に置かれたノートパソコンの電源を入れた。
 知りたいことがあれば、まずはネットで調べればいい。なんといっても、アダルト関係の情報に関してはそれがいちばん確実だ。
 実をいうと、そうした用途でパソコンを利用するのは初めてではない。周りからは真面目ちゃんと思われていようとも、私だって思春期の女の子、性的なことに人並み程度には――あるいはそれ以上に――興味は持っている。海外のサイトの、なんの修正も加えられていない画像や動画に、顔を赤らめつつ見入ってしまったことだって……ない、とはいわない。
 幸いなことに、私のパソコンには、アダルト情報を遮断する有害コンテンツフィルターは設定されていない。真面目な子だと親に信頼されているおかげだ。実際のところ、二年前のことや、隠しフォルダに保存されている動画のことを顧みるに、学業の成績以外ではその信頼を裏切っているのかもしれないけれど。
 グーグルで、いくつか思いつくキーワードを入力する。表示されたサイトの中からそれらしきものにアクセスし、そこからさらにリンクを辿る。
 ブラウザのタブが次々と増えていく。

 そして数十分後――

 裸のままであることも忘れ、顔を真っ赤にして、夢中でパソコンのモニタを見つめる私がいた。
 視線の先には、衝撃的な映像が映し出されていた。
 金髪の美しい白人女性が四つん這いになっていて、背後から、大きなグレードデンにのしかかられている。
 そして――
 犬の男性器が、その女性の膣内に深々と挿入されているところまで、はっきりと映っていた。
「…………」
 初めて見る光景に、私は言葉を失っていた。
 今の今まで、思いもしなかった。
 ラッキーにエッチなところを舐められて気持ちよくなっていながら、その先のことには考えが及んでいなかった。
 まさか――
 犬と人間が、セックス、できるだなんて。
 信じられない。
 だけど目の前に映し出されている何枚もの写真の中では、紛れもなく、種の異なる動物の性器がひとつにつながっていた。しかも犬に犯されている女の人は、さも気持ちよさそうに恍惚の表情さえ浮かべているのだ。
 写真だけではなく、動画も見つけた。
 紛れもなく、犬と人間がセックスしていた。牡犬が女性の胸や性器を舐めまわし、女性は犬のペニスを舐め、そして犬と同じように四つん這いになって、パートナーの犬を迎え挿れていた。
 激しく腰を振る牡犬。
 長い金髪を振り乱して悶える女性。
 信じられない光景のすべてが、現実だった。
 見つけたのは、映像だけではない。
 動物と人間のセックスを題材とした小説も、いくつも見つかった。
 私は夢中で読みふけった。
 動物は犬がいちばん多かったけれど、豚とか、猿とか、馬が相手の作品さえあった。
 さらに興味深いものも見つけた。『女の子のための獣姦講座』というタイトルのそのページでは、人間の女性と、牡犬とのセックスについて詳しく解説されていた。
 それが、どれほどいいものであるのか。
 実際にどういう手順で行えばよいのか。
 そして、様々な注意点まで。
 フィクションではなく、本当に実践する人のための教科書だった。
 私は無我夢中で、一字一句暗記してしまうくらい、何度も何度も繰り返し読んだ。
 もちろん、パソコンの隠しフォルダに保存もした。
 心臓の鼓動が速くなっているのを感じる。
 身体の芯が熱く火照っている。
 もしかしたら……
 もしかしたら、私も、ラッキーとセックスできるのかもしれない。
 この写真や動画の女性のように、私もいやらしく悶えてしまうくらいに感じてしまうのかもしれない。
 そう考えただけで、興奮してしまう。
 動物と……犬との、セックス。
 種を超えた、性行為。
 それは人の道を外れた行為かもしれない。
 だけど……いや、だからこそ、惹かれてしまう。
 なんといっても、私はラッキーのことが――それは恋愛感情とは別のものかもしれないけれど――大好きなのだ。ラッキーだって、あんなことをするのだから私に欲情しているはずだ。
 ならば、その気になれば、セックスできるのかもしれない。
 もちろん、それが簡単に実現できるとは思っていない。
 今日みたいにラッキーとふたりきりになるチャンスなんてそうそうあるわけではないし、舐められるだけならまだしも、野外で最後までしてしまうなんて無謀でしかない。
 だから、本当に実現できる可能性は極めて低い。それでも可能性はゼロではない。わずかな可能性であっても、実際に起こるかもしれない未来――私を昂らせるにはそれで充分だった。
 当分は、ラッキーとのセックスを空想しながら自慰を楽しむことになるのだろう。それはおそらく、これまでしてきたひとりエッチよりもずっと気持ちいいはずだ。
 そう、思っていた。

 だけど――

 実現することはまずないと思っていた機会は、考えていたよりもずっと早くにやってきたのだった。


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