七月の後半――
 夏休みも目前に迫ったある日のこと。
「委員長って、八月の第一週になにか予定あるか?」
 いつものように一緒に夕方の散歩をしている時、上村くんに訊かれた。
「え? えっと……特にない、と思う、けど? ……塾の、夏期講習……くらい」
 少し、警戒したような返事になってしまった。
 もしかしから、「夏休み中に一緒にどこかへ行こう」なんて、いわゆるデートのお誘いかもしれないと思ってしまったから。
 上村くんのことは嫌いではないし信頼もしているけれど、恋愛感情めいたものがあるわけではない。二年前の経験から、男女交際というものにいくぶん抵抗感がある私としては、もしも上村くんが私に対して単なる犬好き仲間という以上の感情を抱いているとしたら、もちろん嬉しくないわけではないけれど、それ以上に戸惑いの方が大きいというのが本音。
 だけど上村くんが続けた言葉は、予想外の、そしてもっと嬉しいものだった。
「無理だったらいいんだけど……迷惑じゃなかったら、一週間くらい、ラッキーの世話を頼めないか?」
「……え?」
「休み中、家族で旅行に行くから、その間……」
 なるほど。
 家族旅行の間、ラッキーの餌や散歩の世話を頼みたいらしい。最近はペット同伴で泊まれるホテルも増えてきたとはいえ、どこでもというわけにはいかない。
「旅行って、どこへ?」
「沖縄」
「へぇ、いいね。……うん、いいよ。旅行の間、私がラッキーの世話をしてあげる」
 内心、飛びあがりたいくらいに喜んでいたけれど、それが顔に出ないように気をつけて、何気ない風を装って応えた。
「サンキュ。ラッキーも、ペットホテルに預けられるより、気心の知れた委員長の方がいいだろうし。家の合鍵渡しておくから、エサと散歩、頼むわ」
 上村くんとしても、大切なラッキーを知らない人に預けることには抵抗があるのだろう。
「……うん、まかせて」
 できるだけ自然にうなずこうとしたけれど、どうしても顔がにやけてしまう。
 なんという幸運だろう。
 ラッキーとふたりきりになる機会なんて、そうそうないだろうと思っていたのに、まさか、こんな素晴らしいチャンスが向こうからやって来るだなんて。
 上村くんの家で、誰にも邪魔されることなく、ラッキーとふたりきりで一週間も過ごせる。
 なんの邪魔も入らない。
 舐めてもらうことはもちろん、その先のことだって、チャレンジできる。
 あの、めくるめく快感を思う存分に味わうことができる。
 そのことを考えただけで、上村くんの前だというのに濡れてしまいそうだった。
「委員長、嬉しそうだな」
「え?」
 一瞬、表情が強張る。
 上村くんってば、意外と鋭い。だけどまさか本心を見抜かれるわけにはいかない。
「そ……そうかな? そ、それよりも、留守番してあげるんだから、ちゃんとおみやげ買ってきてね?」
 内心の動揺を隠しつつ、私は必死に話題を逸らした。



「長浜さん、面倒なこと頼んでごめんなさいね」
 そう言って頭を下げたのは、上村くんのお母さん。
 どちらかといえば小柄で、ややぽっちゃりとした可愛らしい雰囲気の女性で、上村くんとはあまり似ていなかった。
 それをいったらお父さんも中肉中背で、長身で細身の上村くんとは似ていない。
 だけどOLをしているというお姉さんの麻利乃さんは、背が高く、ややきつい顔だちの美人で、上村くんと似た印象を受ける。この姉弟は隔世遺伝なのかもしれない。
「トシってば顔に似合わず、ずいぶんと可愛らしい彼女つかまえたじゃない?」
 麻梨乃さんが上村くんの背中を小突いて、からかうように言う。
 なにか誤解されているようだけれど、これはまあ仕方がない。確かに、家の鍵を預けて一週間もペットの世話を頼む異性が『ただのクラスメイト』だなんて考える方が不自然だ。
 おそらく、ご両親も麻梨乃さんと同じように受け取っているのだろう。この場であからさまに否定するのもどうかと思って、私はただ曖昧な笑みを浮かべていた。

 一家四人を乗せて走り去る車を、ラッキーと並んで、小さく手を振りながら見送った。
 角を曲がって視界から消えたところで、隣にいるラッキーの顔を見る。
 ラッキーも、私を見あげている。
 なんとなく笑っているような表情に見えるのは気のせいだろうか。
 私の口元も緩んでいる。
 目と目が合う。
 視線が重なった一瞬、心が通じ合ったような気がした。
「……したい?」
 小さな声で訊く。
 返事のつもりなのか、ふさふさの尻尾が大きく振られる。
 想いは同じだとわかった。
 私も、したい。
 一刻も早く、誰にも見られない場所でラッキーとふたりきりになりたい。
 楽しくて、気持ちのいいことを、したい。
 上村くんたちが出かけてすぐにそういうことをはじめるというのも気恥ずかしいものがあるけれど、もう待てない。
 上村くんにラッキーの世話を頼まれてからずっと、今日を心待ちにしてきたのだから。
「……行こ」
 私はラッキーを促して、家の中に入った。



 これまでにも何度か入ったことのある、上村くんの部屋。
 デスクトップパソコンが置いてある大きな机に、スチール製の本棚に、セミダブルのベッド。
 テレビとブルーレイレコーダーとゲーム機。
 壁にはポスターが二枚。地元チームのJリーガーと、胸が大きな水着姿のアイドル。
 よくわからないけれど、多分、高校生男子の一般的な部屋とはこういうものなのだろうと思う。
 小さく、深呼吸。
 息を吐いてベッドに腰かけると、間髪入れずにラッキーが飛びついてきた。
 ラッキーの方が体重が重くて力も強いから、小柄な私は簡単に押し倒されてしまう。
 上に覆いかぶさって、私の顔を舐めまわすラッキー。
「ちょっ……、や……ラッキー、あ、慌てないで」
 なんとか押しのけて上体を起こし、首に腕を回して抱きしめる。
「……こら、あんまりせっかちだと、嫌われるぞ? 女の子にはムードが大切なんだからね」
 耳元でささやいてから、キスをする。キスといっても、ラッキーが相手では「唇を重ねる」という形ではなく、お互いの唇や舌を舐めあうような動作になる。それでも、これはこれでけっこう気持ちいい。
 口の周りを、唇を、そして口の中を舐めまわされる。私も精いっぱい、ラッキーを舐め返す。
 だけど、いつまでもキスを続けてはいられない。もう、キスだけでは我慢できない。
「ちょっと待って。服、脱ぐから」
 一度ラッキーから離れ、まずカーテンを閉めた。室内が薄暗くなったけれど、灯りはつけない。やっぱり、エッチの時は多少暗い方が雰囲気が出る。
 続いてスカートを下ろし、ブラウスとキャミソールを脱ぐ。
 ブラジャーも外す。体格の割には豊かな胸が露わになる。
 裸になっていく私を、ラッキーが熱心な瞳で見つめていた。
 その瞳の熱さを意識すると、緊張してしまう。私に対して性的な意志を向けている以上、人間の男の子に見られているのと感覚的にはさほど変わらない。
 緊張で強張る身体をほぐすために、小さく深呼吸。それから、ショーツに手をかけた。
 小さな布が足下に落ちる。
 顔を上げると、ちょうど正面に姿見があった。
 白いソックスだけを残して、全裸になった私が映っている。
 一四五センチちょっとの、高校生としてはかなり小柄な身体。だけど、Cカップ強の膨らみも、ウェストから腰、そして太腿にかけてのラインも、余分な脂肪が多少ついてはいるものの、女らしい曲線を描いている。
「……お待たせ。……来て、ラッキー」
 ベッドに座る。
 おずおずと脚を開いてベッドの上に乗せ、いわゆる〈M字開脚〉の体勢になる。
 姿見に映っている恥ずかしい姿の私の顔が、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。
 だけど、いちばん恥ずかしい部分が鏡に映っていたのはほんの一瞬だけ。そこはすぐにラッキーの身体に隠された。
 ラッキーが鼻先を押しつけてくる。
 舌が、触れる。
「は……っ、ぁんっ!」
 長くて、しなやかで、とても器用に動く舌。
 人間の男の子や自分の指では経験できない、至上の悦びを与えてくれる舌。
「はぁっ、……あぁぁっ! ぅあっ、ぁぁんっ!」
 ぴちゃぴちゃと湿った音が響く。
 リズミカルな、人間には真似のできない速い動きで割れ目全体を舐めまわされる。
 高圧電流のように身体を貫く快感。
 全身の筋肉が硬直し、上体が仰け反る。
 そのままバランスを崩し、ベッドの上に仰向けに倒れる。
 構わずに舐め続けているラッキー。
 その動きに合わせるように、私も小刻みに腰を動かした。
「あぁぁっ! あっ……あぁぁっ! いィ……いぃぃっ! あぁぁっ……も、もっと……もっとぉっ!」
 だんだん、大きくなる声。
 屋外だった前回と違い、今日はいくら声を出しても平気だ。快感が増すほどに、反比例するように理性は薄れていく。やがて私はなんの遠慮も恥じらいもなく、大声で喘ぎ、さらなる快楽を求めておねだりしていた。
「ねぇっ、もっとっ! す、すごいっ、すごいのっ! あぁぁっ! ぁ……あぁぁぁ――っ!! もっとっ、もっと奥まで舐めてっ!」
 はしたない言葉に応えて、ラッキーはさらに舌の動きを加速する。
「あぁぁんっ! あぁっ! あぁぁんっ! あんっ! くぅ……んんんっ!」
 気持ち、いい。
 気持ち、よすぎる。
 下半身がとろけていくみたい。
 身体の中から、おびただしい量の愛液が溢れ出しているのを感じる。ラッキーはミルクを飲むような音を立てて、私の蜜を舐めとっていく。
「お、美味しいの? あんっ、ねぇっ! わ、私の……お、おまんこ、美味しいのっ? もっと舐めてっ! 私のエッチな蜜、全部飲んでーっ!」
 脚をいっぱいに開く。腰を少し浮かせる。ラッキーの舌を、できるだけ奥深くまで迎え挿れるために。
 同時に、両手で自分の胸を鷲づかみにする。
 手のひらの中で柔らかく潰れる乳房の感触。低反発クッションのような心地よさがある手触りだ。腰の動きに同調するように、乳房全体をこね回す。
「はぁぁっ! あんっ! あぁぁっ! あんっ、あぁぁんっ!」
 気持ち、いい。
 本当に気持ちいい。
 気持ちよくて気持ちよくて、気持ちよすぎておかしくなっちゃいそう。
 まだ、舐められはじめて一、二分しか過ぎていないはずなのに、もう今にも絶頂に達してしまいそうだ。
 もう……だめ。
 すぐにいってしまうのがもったいなくて、もう少し我慢したかったけれど、無理。
 とっくに臨界点を超えてしまっている。もう、このまま絶頂まで突き進むしかない。
「あぁぁんっ! あぁぁっ! あぁぁぁっっ!! あぁっ、あぁぁぁ――っっ!!」
 全身が痙攣する。
 筋肉が不自然に強張り、胸に、痛いくらいに指がめり込む。
 身体を仰け反らせて背中を大きく浮かせた状態で、全身がぶるぶると震える。
 頭の中が真っ白になる。
 私の女の子の部分で、快感の爆発が起こる。
 そんな状態がしばらく続いて、やがて力が抜けて背中からベッドに落ちた。
「ぁ…………あ、ぁ…………」
 快楽の極みの余韻が、身体全体に拡がっていく。全身の筋肉が弛緩して、身も心もとろけていくよう。
 大きく、息を吐き出す。
 あっという間に、達してしまった。
 それも、ものすごく強い快感で。
 こんなに短い時間で絶頂に達してしまったのは初めてだった。先月、林の中でラッキーに舐められた時よりもさらに早い。あの時は初めてだったし、屋外ということで、かなり緊張もしていたのだろう。
 その点、今日は最初から心の準備ができていたし、家の中で誰にも見られる心配はない。心底安心して、快楽に身を委ねられる状態。歯止めが利くはずもない。
「……最っ……高……、素敵……ラッキー」
 まだ意識が朦朧として、言葉もうまく出てこない。
 だけどラッキーは私がいってしまったことなど気づいていないかのように、まだ私の秘所を舐め続けている。とめどなく溢れ続けている白濁した蜜を、一滴残らず舐め取ろうとしている。
「や……、ちょっ……と、待っ……やぁぁんっ!」
 私は脱力しきっていたけれど、ラッキーはやめてはくれない。疲れることを知らないその舌は、かつてないほどの絶頂の余韻に浸っていた私に、またすぐにスイッチを入れてしまう。
 まだ全然回復していないのに、強引に感じさせられてしまう。
「やぁっ……ラッキー……、やっ、んんっ! あぁぁっ! あんっ、あぁぁっっ!!」
 こんな、いったばかりなのに、すぐにまた二回目なんて。
 なのに、こんなに感じてしまうなんて。
 身体が、びくんびくんと痙攣する。
 意志とは無関係に、絶え間ない悲鳴が上がる。
 エッチな蜜が、滾々と湧き出てくる。
 最初の絶頂で疲れきって身体には力が入らないのに、それでも腰を突き上げようとする。
 私ってば、ものすごい淫乱な女の子になってしまったみたい。
 恥ずかしい。
 だけど、どこか心の奥底では、そんな自分に酔ってしまっていることも否定できない。
 今でもやっぱり、周囲から優等生と思われることにむしろ劣等感を抱き、そんな自分を変えたいと願っている。
 だから、
 もっと、いやらしいこと。
 もっと、恥ずかしいこと。
 もっと、気持ちのいいことをしたい。
 して、もらいたい。
 そう、思ってしまう。
 だから、脚を開いて腰を突き上げ、自分の指で割れ目をいっぱいに拡げて、奥の奥まで舐めてもらおうとしている。
 はしたない喘ぎ声を上げている。
 激しく腰を振っている。
 快楽の頂へと一気に駆け上がっていく。
「あぁっ、あぁぁっ! あぁ……ぁ……ぁ……っ! ぁ……、――――――っっ!!」
 最後はもう、喉がひゅうひゅうと鳴るばかりで、声にならなかった。
 一度目の絶頂から一分足らずで、今日二度目の、そしてもっと高いところにある頂に達してしまっていた。


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