ラッキーと結ばれた日の夜――
 私は自室のベッドの上で、顔を真っ赤にして枕を抱えて、ゴロゴロと転がっていた。
 恥ずかしい。
 恥ずかしい。
 恥ずかしい。
 数時間前の出来事を想い出すと、恥ずかしさにいたたまれなくなってしまう。
 
 ついに、して、しまった。
 最後まで、して、しまった。
 ラッキーと、セックス、してしまった。
 獣姦などという、異常な行為を体験してしまった。
 
 しかも――
 
 それが、信じられないくらいに気持ちよかった。
 人間相手のセックスよりも、ずっとよかった。二年前の経験だってすごく気持ちいいと思っていたけれど、今日の快感はまったく別物だ。
 何度も、何度も、いってしまった。腰が抜けるほどに感じてしまった。
 犬と――ラッキーとセックスすることが、嬉しくて、楽しくて、気持ちよくて、たまらなかった。
 冷静に考えてみれば、それはとんでもなく異常な行為、アブノーマルもいいところだ。
 高校二年生ともなれば、クラスには経験豊富な子もそれなりにいる。私が知っているのは噂話だけだけれど、援助交際とかをしている子もいるらしい。
 だけど獣姦の経験がある子なんて、きっと学校中を探してもいないだろう。
 その唯一の経験者が、学校では〈真面目な委員長〉で通っている私だと思うと、なんだか可笑しくなってしまう。
 上村くんが私のことを「委員長」と呼ぶように、仲のいい子を除けば、私は〈長浜梨花〉という女の子ではなく、クラス委員という肩書きで認識されている。
 真面目で成績のいい子、とも思われている。
 そんな私が、誰も知らないところで犬とセックスして悦んでいる。
 犬に――あの可愛いゴールデンレトリーバーに、本気になっている。
 学校では優等生の私が。
 だからこそ、興奮してしまう。
 真面目な優等生が、異常な行為に酔いしれている――そのギャップが、さらに私を昂らせていた。
 
 ああ、もう。
 本当に、信じられない。
 ラッキーに、背後からしっかりと抱きしめられて。
 あんなに大きなペニスを、そして瘤を、膣内に挿れられて。
 それが、たまらなく気持ちよかった。
 気が遠くなるほどに感じてしまった。
 はじめて体験する過激な快楽に夢中になって、大声で喘ぎ、悶えていた。
 あの、ネットで見つけた獣姦動画を想い出す。
 私も、あの金髪美女のように風に感じていたのだろうか。
 見ている方が恥ずかしくなるくらいにいやらしい姿だったのだろうか。
 枕を抱えたまま起き上がって、パソコンに保存してあった動画を再生する。
 四つん這いになって、背後から大きな犬に犯されている女性の姿が映し出される。
 金髪を振り乱して悶えている。
 私も、こんな風だったのだろうか。
 こんな、いやらしい姿だったのだろうか。
 ラッキーとしている最中に、ちらりと視界に入った姿見を想い出す。
 あそこに移っていた私は、確かに、同じような姿だった。
「……そうだ」
 動画を見ていて、ふと、とんでもないことを思いついてしまった。
 こんなことを思いついてしまう自分が恥ずかしくて、顔が熱くなる。
 だけど――
 
 明日は、ビデオカメラを持っていってみよう。



 そして、翌日の夜――
 部屋のテレビに映し出される痴態を見ながら、昨夜同様に恥ずかしさのあまりベッドの上を転がっていた。
 
 今朝は早い時刻に一度上村くんの家へ行って、朝の短い散歩の後、ラッキーに朝ごはんをあげた。
 その後は一度家へ帰って、塾の夏期講習や夏休みの宿題を片づける。
 そして午後、もう一度上村くんの家へ行った。
 今度は、ビデオカメラと三脚を持って。
 すぐにも襲いかかってこようとするラッキーを窘めながら、ベッド全体が映る位置に三脚を立ててカメラをセットする。
 そして、ベッドに登った。
 ドキドキ。
 ドキドキ。
 心臓の鼓動がすごく大きい。
 昨日とはまた違った意味で、ひどく緊張している。
 なにしろ、自分のいちばん恥ずかしい姿をビデオに収めようというのだから。
 気分は、これから撮影に臨むAV女優のようだ。プロのAV女優も、撮影時にはこんな風に緊張するのだろうか。それとも、カメラの前で裸になることなど慣れっこで、なんとも思わないのだろうか。
 私はもう、身体中の血液が沸騰しそうだった。
 我ながら、莫迦なことを思いついてしまったものだ。
 やっぱり、やめた方がいいだろうか。
 だけど、ラッキーと愛し合っている姿を自分の目でちゃんと見てみたい――そんな想いの方が勝っていた。



 テレビの中で、私が服を脱いでいく。
 ミニスカートを下ろし、半袖のブラウスと、その下に着ていた薄手のキャミソールを脱ぐ。
 ブラジャーを外す。柔らかそうな膨らみが揺れる。
 最後に、緊張した面持ちでショーツを脱いだ。
 ベッドの上に座って、脚を開く。
 黒い茂みが、そして赤い秘裂が、カメラの前に曝される。そこは既に濡れそぼって、蜜を滴らせていた。
 一瞬、視線がカメラに向けられる。
 潤んだ瞳で、どこか妖艶な笑みを浮かべている。自分のこんな表情、初めて見た。
 艶っぽいというか、いやらしいというか。
 まるで、自分の顔じゃないみたい。
『……ラッキー、来て』
 笑みを浮かべたまま、脚を大きく開いて、自分の指で割れ目を拡げてラッキーを誘う。
 ラッキーはすぐに股間に鼻先を押しつけてきた。
『はぁぁっ! あんっ、あぁんっ!』
 私の身体がびくっと痙攣する。
 鼻にかかった甘い声が上がる。
 切なげな悲鳴に混じって、ぴちゃぴちゃという水音が聞こえてくる。
 まるで、仔犬がミルクを舐めているかのような音。
 そのくらい、私の秘所は濡れてしまっていた。
 濡れやすい方だ――と言われた経験はあるけれど、それにしてもラッキーとしている時の濡れ方は異常だと自分でも思う。溢れ出る蜜の量は、自分でする時はもちろん、二年前の彼に愛撫されていた時と比べても桁違いに多いのだ。
 ラッキーは熱心に舐め続けている。
 私は全身を痙攣させながら喘いでいる。
 本当に、アダルトビデオの一シーンみたい。
 いや、正直に言って、既製のアダルトビデオよりもいやらしく感じた。
 それはおそらく〈演技〉の要素が一切ないからではないだろうか。
 この映像は、すべてがノンフィクションのドキュメンタリー。撮影のためにセックスするのではなく、セックスしたくてたまらない状況を撮影したものだ。
 だからこそ、伝わってくるものがある。
 観ているだけで、顔が紅くなるのがわかる。身体の芯が熱く火照って、下半身に、昼間ラッキーに舐められていた時の感覚が甦ってくる。
 ショーツの中は、もうぐっしょりだ。
 ヘッドフォンから聞こえてくる甲高い悲鳴が、鼓膜を震わせる。
 画面の中の私は、ラッキーの長い舌に舐められて、今日も簡単に達してしまっていた。
 しばし、動きが止まる。その間もラッキーは夢中で舌を動かし続けている。私のあそこは、彼にとってそんなに美味しいのだろうか。
 そう思ってもらえているのなら、嬉しい。やっぱり、自分の身体で好きな相手を悦ばせることは、私にとっても歓びだ。
 動きを緩めることのない、ラッキーの舌。
 激しすぎる愛撫に、私もまたすぐに反応しはじめる。
 それでも今度は、押し寄せてくる快楽にただ身を任せるのではなく、ラッキーのことを気持ちよくしてあげるために身体の向きを変えた。
 四つん這いの姿勢。
 ラッキーを誘う、牝の姿。
 すぐさま背後からラッキーがのしかかってくる。
 高速でピストンのように前後する腰。その動きに合わせて、短い悲鳴を絶え間なく上げ続ける私。
 その声がだんだん大きく、高くなっていく。
 腰の動きが激しくなっていく。
 私もお尻を振る。
 
 そして、絶叫――
 
 この瞬間のことは、よく憶えている。
 ラッキーのペニスが、ちょうど絶妙な角度で深々と突き挿れられたのだ。高圧電流に打たれたような刺激に全身が貫かれ、簡単に達してしまった。
 小柄な身体が大きく痙攣して、ベッドの上で弾む。しかしすぐに力が抜けて、シーツの上に突っ伏した。
 私は呆けた表情で、目の焦点が合っていない。だらしなく開いた唇からは泡混じりの唾液がこぼれている。
 お構いなしに動き続けるラッキー。
 動きに合わせてか細い嗚咽を漏らす私。
 やがて意識を取り戻し、動きが、そして声が、大きくなっていく。手が震えるくらいに強く、シーツを握りしめる。
 しかしそんな状態は、ほんの二、三分しか続かない。
 徐々にヴォリュームを上げていく喘ぎ声が、甲高い悲鳴に変わる。
 全身を震わせながら肺の空気をすべて吐きだしたところで、また力尽きる。
 それでもラッキーは攻め続ける。
 私もまたすぐに反応しはじめる。
 その、繰り返し。
 二、三分ごとに、絶頂に達してしまう。なのにそれで終わることなく、さらなる快楽を貪欲に求めてしまう。
 この時の私は、本当にいやらしい表情をしていた。自分のこんな顔、これまで見たことがない。
 AV女優よりも、猥らな表情。
 心底気持ちよさそうな顔。
 理性なんか欠片も残っていなくて、ただ本能のままに快楽だけを貪り続けているような顔。
 心の底から、悦んでいる。
 この状況を、楽しんでいる。
 とても、幸せそう。
 これが自分の姿だなんて、実際に経験していた自分でも信じられない。
 そこには〈優等生の委員長〉の面影はどこにもない。クラスメイトがこのビデオを観ても、私に似た他人と思うのではないだろうか。
 それでも――
 画面の中の私は、普段、鏡で見慣れている姿よりも、ずっと綺麗に思えた。
 私は瞬きをすることも忘れて、ただ黙って見入っていた。



 つながったままの状態は、優に三十分以上は続いただろうか。
 ラッキーの身体がようやく離れた時には、私は完全に力尽きて、意識を失っていた。
 いったい、何度絶頂を迎えてしまったのだろう。一度の挿入でいった回数としては、間違いなく記録更新だ。
 対してラッキーはまだまだ元気そうで、私の股間に顔を埋めて、溢れ出る愛液と精液のカクテルを舐めとっていた。
 その刺激に、やがて私も目を覚ます。
 しばらくは焦点の合わない瞳で朦朧としていたけれど、意識がはっきりして状況を理解すると、お返しとばかりにラッキーのものを口に含んで、舐めて綺麗にしてあげた。
 正直に言って、口でするのはけっこう好きだ。
 私はすぐに二年ぶりのフェラチオに夢中になって、美味しそうに頬張っていた。
 その最中、ふとカメラの存在に気づいた。
 カメラがあることなどそれまで忘れていたかのように、軽い驚きの表情を浮かべる。
 我に返って、頬が真っ赤に染まる。
 それでも、ラッキーのペニスから口を離さない。
 恥ずかしげに、だけどどことなく嬉しそうというか誇らしげというか、そんな表情でカメラに向かってVサインを出していた。


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