10


 上村くんは部屋の入口に寄りかかるように立って、驚くよりはむしろ感心するような、そして少し呆れたような表情を浮かべてベッドに視線を向けていた。
 状況が理解できない。
「かっ、かっ、か……上村くんっ、ど、どうしてっ!?」
 ラッキーに貫かれたまま、私は真っ青になる。
 言い訳のしようもない。
 ベッドの上で四つん這いになって、背後からラッキーに乗りかかられている私。
 服を脱いではいないとはいえ、なんの救いにもならない。スカートをまくり上げてお尻が丸出しで、ラッキーとの結合部まで露わになっているのだ。
「あ……っ! んくっ!」
 慌てて身体を起こそうとして、突然の刺激に短い悲鳴をあげた。私の中にはラッキーが入ったままだ。膣内いっぱいに満たす瘤のおかげで抜くことができない。
 私はベッドの上に突っ伏したまま、顔だけを上げた。
 どうして上村くんがここにいるのだろう。彼が出かけて、まだ三十分も経っていないはずなのに。
「……本物の獣姦をこの目で見るなんて、初めてだな」
 上村くんは小さく笑みを浮かべながら、ベッドの脇へ着て私の下半身を……結合部を覗きこんだ。
「本当に根元まで入ってるな、これ。あの委員長に、こんなアブノーマルな性癖があったとは……」
「……あっ、あのっ! ……こ、これはっ、その……」
 言い訳しようにも言葉が出てこない。この状況、いったいどう言えば誤魔化せるというのだろう。
「クラスの連中に言ったら、驚くだろうな」
「い、いやぁっ! 言わないでっ!」
 思わず悲鳴を上げる。こんなことを他人に知られたら、もう人前に出られない。
「お願い……言わないで……」
「言わないさ。言って、誰が信じる? 普段の行いがいいと得だよな」
 そう言って私をほんの少しだけ安心させたところで、上村くんはぽんと手を叩いた。
「この姿をビデオに撮って見せれば、さすがに信じるか」
「いやぁっ!!」
 涙が溢れ、頬を濡らす。上村くんの表情は、そんな反応を楽しんでいるかのようだった。
「……冗談だって。それより、まだ途中なんだろ? 俺のことは気にせず、最後まで続けろよ」
「え……あっ、あぁっ!」
 上村くんはベッドの端に腰かけると、私の腰のあたりに手を置いて左右に揺さぶった。
 その動きで、膣内を満たしているラッキーのペニスが膣壁を刺激する。瘤が、いちばん敏感な部分を圧迫する。
「い……やぁっ……あっ、あっ……ぁんっ! や、め……だめぇっ! あぁぁっ!!」
 声が、出てしまう。
 どんなに抑えようとしても、いやらしい声が漏れてしまう。
 上村くんの手が、私の身体を乱暴に揺する。
 それは、私が自分で腰を動かす時よりもずっと大きな動きだった。
 激しすぎる刺激が全身に広がる。
 どんなに抑えようとしても無視することのできない、痛みすら覚えるほどの快感。
 無意識に漏らす声が、だんだん大きくなっていく。
 だめ……
 もう……だめ……
 おかしくなっちゃいそう。
 上村くんが見ている目の前で、ラッキーとセックスしているだなんて。
 こんな……
 こんなの……
 もう、どうしたらいいのかわからない。
 気が狂いそう。
「あぁっ! ……いゃ、ぁ……ぁんっ! いやぁっ、あぁっ……や、め……ひゃぁぁっ!」
 乱暴に揺すられて、結合部がぐちゅぐちゅと音を立てている。
 溢れ出た愛液が、内腿を滴り落ちる。
 下半身が痙攣する。
「ふぅん、ずいぶん感じてるな」
 さらに手の動きが激しくなる。
 限界を超えた刺激に、私の理性の堰が一気に決壊する。
「やぁぁっ! だっ……めぇぇっっ! あっ、あぁっ! いやぁぁぁ――――っっ!!」
 ――達して、しまった。
 上村くんが……恋人でもなんでもない男の子が、見ている前で。
 犬と、セックスして。
 快感のあまり全身を震わせて。
 涙と、涎と、愛液を垂れ流しながら。
 かつてないほどの絶頂を迎えてしまった。



 まだ少し、意識が朦朧としている。
 私はラッキーとつながったまま、ぐったりと枕に顔を埋めて、ぐすぐすと泣いていた。
 立て続けの激しすぎるエクスタシーのために全身から力が抜けていた上、恥ずかしさのあまり顔が上げられない。
「か……みむら、くん……どうして……?」
 枕の上に突っ伏したまま、蚊の鳴くような声で訊いた。
 言葉の足りない私の問いは、しかし正しく伝わったようだった。
「どうして、こんなに早く戻ってきたのかって? もちろん、いいところを見逃さないためさ」
「――っ!?」
 それって……
 もしかして……
 知っていた、の?
 私とラッキーをふたりきりにすれば、こうなることを。
 上村くんは、知っていたの?
 どうして……?
 顔を上げて上村くんを見る。彼は笑みを浮かべてこちらを見おろしていた。その笑みには不思議といやらしさが感じられなくて、悪戯っ子のような表情に思えた。
「不思議か? 俺が、なにも知らないと思っていた?」
 こくんとうなずく。
 だって、知っているはずがない。このことを知るのは、私とラッキーしかいないのだ。
「ラッキーから、聞いた」
「え?」
 聞いた、って……?
「今まで黙っていたけどな、俺は、犬の言葉がわかるんだよ」
「……え?」
「委員長が思っているよりもずっと正確に、ラッキーたちと意思の疎通ができるんだ。ちょっと、普通じゃない能力……わかりやすく言えば、テレパシーみたいなものかな」
「え……そ、それじゃあ……?」
 確かに。
 上村くんとラッキーはすごく仲がよくて、話をしているように見えることも多かった。
 ラッキーは利口な犬だけれど、それにしても上村くんの言うことをよくきいていた。
 それに上村くんは他の犬にもすごく好かれていた。初めて会った犬にもよく懐かれていた。
 それは……彼が、犬と話ができるから?
 だとすると……全部、知っていた?
 ラッキーをお風呂に入れてあげた時に、なにがあったのか。
 散歩を頼まれた日に、なにがあったのか。
 上村くんが旅行に行っていた一週間に、なにがあったのか。
 全部知っていて、私にラッキーの世話を頼んだ?
「ど、どうしてっ? いったい、なにを考えて……んぁっ、んんっ!」
 思わずがばっと起きあがったけれど、突然の刺激に腕から力が抜けて、また枕の上に顔が落ちた。あまりにも予想外の展開に、まだラッキーとつながったままだったことを失念していたのだ。
 そんな様子を見て上村くんは口元をほころばせると、私の頭を手のひらでぽんぽんと叩いた。
「委員長って、一年の頃からしょっちゅうあの河川敷を散歩していただろ?」
「……ぅん」
 犬好きの私にとって、あそこは楽園のような場所だから。
「自分は犬の散歩じゃないのにちょくちょく見かけるから、気づいていた。ずいぶん犬が好きなんだなって」
「……うん」
「で、ラッキーも委員長のことを気に入ったって言うからさ。こいつもそろそろ年頃だし、彼女を世話してやろうかと」
「じゃ、じゃあ……」
 最初から、仕組まれていたってこと?
 ラッキーが私を押し倒した、あの日から?
「だけど正直、こう上手くいくとは思ってなかったな。なにしろ牡犬と人間の女の子、どうやってその気にさせたものかと悩んでたんだけど……まさか委員長に獣姦趣味があったとは予想外だった。本当に、人は見かけによらないものだな」
「そ、そんな……」
「ラッキーも喜んでるぞ。委員長とのセックスは最高だとさ」
 そう言うと、上村くんはまた私の腰を掴んで乱暴に揺さぶった。
 激しい刺激に、こんな状況でありながら身体は反応してしまう。
 ――もしかしたら、こんな状況だからこそ、なのかもしれない。異常なシチュエーションほど興奮してしまうような気がしないでもない。
「あっ……くぅ……っ、んんっ!」
「相手が犬でも構わない上に、セックスするのが大好きっていうんだから最高の女の子だよな。ラッキーも見る目があるというか」
「やぁ……あぁっ! んっ……うぅんっ! は……ぁぁぁっっ!!」
「ラッキーの彼女にするなら、人間の女の子の方がいいと思ってたんだ。去勢手術とか仔犬の貰い手とか、気にしなくてもいいだろ? それに……な?」
 意味深な笑み。
 なにを言わんとしているのか、本能的に理解できた。
 一瞬、全身の筋肉が強張る。
「それに……俺も楽しめるしな」
 上村くんはゆっくりとジーンズのファスナーを下ろした。
 大きく反り返った男性器が、鼻先に突きつけられる。
 私はごくり……と唾を呑み込んだ。
 人間の男性のものを見るのは、これが二人目。
 それはすごく大きくて、赤黒い色で、血管が浮かんだ凶悪そうな見た目をしていて、びくびくと脈打っていた。
「あ……」
 顎を掴まれて上を向かされる。
 先端が唇に押しつけられる。
 私は条件反射のように、口を開いてそれを受け容れた。
「……ぅんっ……んぅうん……んくぅ……」
 上村くんのペニスが、口の奥までねじ込まれる。
 それはとても太くて、熱くて、固い弾力があった。
 先端は喉の奥まで届いているのに、根元はまだ口の中に入りきらない。
 これって、ずいぶん大きいのではないだろうか。長さも、太さも、二年前の彼よりも大きいことは間違いない。
 強引にくわえさえられたのに、私はそうするのが当たり前のように舌を絡ませた。唇をすぼめて、内頬で彼のものを締めつける。
 こうした行為――フェラチオをするのは、もちろん初めてではない。二年前、初体験のその日からくわえさせられ、口の中に射精された。
 その時は苦しくて涙も出たけれど、不思議と、嫌だとは感じなかった。
 以来、ほとんど毎日のように口で奉仕させられた。
 当時の私は、肉体的には苦しいはずのその行為が嫌ではないどころか、むしろ好きだったかもしれない。
 まだほとんど経験のない私が、拙いながらも一生懸命に口でしてあげると、彼が喜んでくれたから。
 私の方から彼にしてあげられることが悦びだった。
 上手になった、と褒められることが嬉しかった。
 少しでも彼に気に入られたかった。
 あの夏休みに、たっぷりと仕込まれた口戯。二年間のブランクを経ても、身体はしっかりと覚えていた。
 私は無心で口での奉仕を続けた。上村くんにフェラチオすることが構わないことなのか、嫌なことなのか、あえて考えない。この状況で、彼を満足させる以外の選択肢は存在しないのだ。だからなにも考えずに、行為そのものだけに意識を向けていた。
 舌を絡めたり。
 強く吸ったり。
 内頬に擦りつけたり。
 もともとは上村くんが私の意志などお構いなしに強要していることなのに、二年前と同じように精一杯の奉仕をしてしまう。これはもう、条件反射のようなものかもしれない。男性器を口に含んだ時はこうするのだと、身体に染みついてしまった動作だった。
 それに……
 これは、拒絶することなどできない行為なのだ。
 これだけの弱みを握られてしまった以上、彼の機嫌を損ねないようにする以外の選択肢はない。
 そう自分に言い聞かせて、口戯を続ける。
 上村くんは私の頭を両手で掴んで、腰を乱暴に前後に動かしている。
 その度に小柄な私の身体は激しく揺すられて、まだ膣内にある瘤に刺激され、新たな快感が呼び起こされてしまう。
「んぅ……んっ……ぅんんっ……んぐぅっ」
 いま私は、ラッキーとセックスしながら、上村くんに口を犯されている。
 女性器と、口。その両方に同時に挿入されている。
 この状況、考えてみたら所謂3Pというものではないだろうか。
 3P……?
 それが、セックスの――あまり普通ではない――形態のひとつであることは知っている。
 それを、今、自分がしている。
 しかも相手の一方は犬で、もう一方は恋人でもなんでもない、ただのクラスメイト。
 身体の芯がかぁっと熱くなるのを感じた。
 私は、今、普通ではない――あからさまに言えば異常な――行為をしている。
 獣姦というだけでも十分すぎるほどにアブノーマルだというのに、それに加えて、なかばレイプじみた3P。
 信じられないくらい、異常な行為をしている。
 その事実を認識してしまうと、よりいっそう昂ってしまう。普段が真面目なだけに、いったん羽目を外すと〈普通じゃないこと〉に興奮してしまうのだ。
「んぅ……んんっ、んぐっ……ぅんんっっ!!」
 口いっぱいに、上村くんを頬ばっている。
 下の口は、ラッキーに満たされている。
 そんな状態で私は夢中で首を振り、腰をくねらせていた。
 ふたりを、もっともっと感じさせようとしている。
 そうすることで、自分自身ももっと感じようとしている。
 頭がぼぅっとしてくる。
 口が塞がれた状態で激しく動いてのぼせていることで、酸欠状態になりかけているようだ。
「……意外だ。委員長って、フェラ巧いな」
 そんな上村くんの声が、遠くに聞こえる。
 もう、なにも考えられない。
 ただ狂ったように舌と腰を動かす。
 高く、高く、どんどん高く。
 かつてない高みの頂へと登りつめていく。
 ラッキーの熱い精が、子宮へと流れ込んでくる。
 口の中のものが、びくんと大きく脈打つ。
 一瞬、口の中で何かが爆発したように感じた。
 粘りけの強い熱い液体がほとばしり、口中を満たしていく。
 熱い。
 口の中、膣の中だけじゃなく。
 全身が熱い。
 身体中の血液が沸騰しそう。
 意識が遠くなって。
 目の前が暗くなって。
 
 ……そのまま、私は気を失ってしまった。


<<前章に戻る
次章に進む>>
目次に戻る

(c)copyright takayuki yamane all rights reserved.