「上村くんの……ばかぁ……」
上村くんの背中にしがみつくような体勢で、私は力のない声でつぶやいた。
「……ホントに、死んじゃうかと思ったんだからぁ……」
私は今、上村くんに背負われて帰宅するところだった。
私が心配――そして期待も――していた通り、エースもラッシーも二回目を求めてきて、結局今日は六度もしてしまうことになった。
もちろん、こんなのは初めての経験。
最後はやっぱり力尽きて気を失ってしまって、意識が戻った時には、すべてが終わっていた。
ラッキーたち三頭は、罪のない幸せそうな顔で眠っていた。
汗と、涙と、涎と、精液と愛液と、そして血で汚れてドロドロのぐちゃぐちゃだったはずの私の身体は、上村くんが綺麗に拭いて服も着せてくれていた。
あそこの傷も、消毒して傷薬を塗ってくれたらしい。もちろん、それでもまだひりひりずきずきと痛んだけれど。
私は心身ともに疲労困憊で、腰が抜けて脚にも力が入らなくて、歩くことはおろか自分の脚で立つのも難しいような状態。
だから上村くん背負われて、家まで送ってもらうことになったのだ。
当然、外は真っ暗だった。
もうかなり遅い時刻だ。
今日は上村くんのご両親の帰りが深夜になるということで、普段ならありえない時刻まで、家族がいたら絶対にできない行為を続けられたのだ。
ラッキーや上村くんとセックスしている時はどうやっても声を抑えられないから、たとえドアを閉め切っていても上村くん以外の人がいる時には絶対にできない。
そういえば、叫びすぎたせいか喉も痛い。
身体には力が入らず、傷とは別に、激しい運動の後に感じる筋肉痛めいた痛みもある。
そして――下半身がスースーする。
上村くんは私に服を着せてくれたけれど、下着は着けさせてくれなかった。
私は今、ノーブラ、ノーパンでおんぶされている。
これでは、いつなんの拍子にお尻が見えてしまうかわからない。なのに彼は楽しげに「その緊張感が興奮するだろ?」とかいっていた。万が一の時に恥をかくのは上村くんも一緒なのに。
問題は下着だけじゃない。
私はまだ、首輪を着けられたままだった。
首輪どころか、イヌ耳も、……そして尻尾も。
いくら、深夜近くの人通りが皆無な住宅地の路地を歩いているとはいえ、このシチュエーションは緊張するどころの話ではない。おまけにお尻の中で蠢く尻尾のせいで、疲労困憊の身体もいまだに下半身が燻り続けている。ノーブラで上村くんに背負われているせいで、胸にもなんともいえない刺激がある。
もしかしたら、そこまで見越した上でのこの格好なのかもしれない。
上村くんと肉体関係を持つようになってそろそろ二ヶ月近く。この間にいやというほど思い知らされた。
普段、黙っていればクールな印象の上村くん。
犬と一緒なら優しい犬好きの上村くん。
だけど人間の女の子に対しては、すごくエッチで、かなりのサドなのだ。
もちろん、彼の要求を受け入れてしまう私にも、ちょっとは問題があるのかもしれないけれど。
でも、嫌じゃないというのが本音。
恥ずかしいとか、痛いとか、苦しいとか思うことはあっても、そうした行為が嫌だと感じたことはない。
認めるのはかなり抵抗があるけれど、本音をいえばわかっている。私もかなりエッチで、そしてマゾなのだ。
ちょっと強引にアブノーマルな行為を強要される方が、興奮して感じてしまう。
もっとも、上村くんとまったくアブノーマルじゃない行為などしたことがないので単純な比較はできないけれど、彼との行為が、二年前の彼とのセックスよりもずっと気持ちいいことは否定できない。それは単に、二年間で私の身体がより成熟したから、というだけではないような気がする。
だけど、けっして自分から進んで虐められたいわけではない。私はマゾで獣姦趣味の変態でもあるけれど、だからといって普通の女子高生らしい、普通の純愛に興味がないわけではない。
もしも上村くんが優しく普通のセックスをしてくれたとしたら、それはそれで嬉しいし、ちゃんと感じてしまうだろう。もちろん、そんなありえない仮定に意味はないのだけれど。
上村くんの女性経験は私で三人目だと聞いたことがあるけれど、前の二人が誰なのか、そしてどんな付き合い方をしていたのか、詳しく訊いたことはない。私以外の女の子とも、こんな変態的なセックスをしていたのだろうか。だけど、ラッキーの初めての相手は私だから、獣姦に関してはこれまで経験はなかったはず。
もしかして、前の彼女とは普通のセックスに飽き足らなくなって別れたとか――ありそうな話だ。
ぼんやりとした頭でそんなことを考えながら、上村くんの背中で揺られていた。
幸いなことに、上村くんの家から私の家までの十分弱、誰にも合わずに着くことができた。門を入ったところで、ほっと息をつく。
本当に、今の格好を誰かに見られたら――それが知り合いでなくても――恥ずかしくて生きてはいられない。
家に灯りはついていない。両親は留守にしていて、それは上村くんの家を出る前にわかっていたことだった。帰り支度をしていた時に、母からのメールが届いていたことに気がついた。どうやら、ラッキーたちとの饗宴に夢中になっていた時に受信したものらしい。
『今夜はパパとで・ぇ・と。帰りは遅くなるから、勝手にごはん食べてなさい』
そんな内容。
「……梨花の両親、仲いいんだな」
横から覗きこんだ上村くんが、微かに苦笑しながらいう。
「娘が恥ずかしくなるくらい、ね」
照れ隠しに、わざと素っ気なく応える。
まったく、あの両親ってば、いい歳をしていつまでもラブラブなんだから。
高校生の娘がいるのに、いまだに頻繁にふたりきりでデートしているし、いってらっしゃいのキス、お帰りのキスも欠かさない。
そんな両親に育てられたから、私も真面目な割にエッチなことに積極的なのだろうか。
なんにせよ、今夜に限っては両親がいないのは幸いだった。自分の脚で歩くこともできないような状態を見とがめられたら、言い訳に苦労していただろう。
家に誰もいないことを幸いに、上村くんにおんぶされたままドアを開けてもらい、そのまま二階の自室まで連れていってもらった。
少し、甘えたい気分だったのだ。
私をベッドに寝かせて、上村くんはその端に腰を下ろす。
「そういえば、梨花の家に入るのって初めてだな」
物珍しそうに、部屋の中を見回す。
几帳面な性格だから、突然の来訪でも綺麗に片づけられているけれど、それでも男の子に部屋を見られるのはなんとなく恥ずかしい。〈異性〉というものを意識するような年齢になってから、男の子がこの部屋を訪れるのは初めてだった。
「……そう、だね」
私たちが逢うのは、いつも上村くんの家だった。いちばんの目的はラッキーに逢うことなのだから当然だ。
それに、ご両親が家にいないことが多い上村くんに対し、私の母は短時間のパートタイムのみでほぼ専業主婦。学校を除けばセックス抜きで上村くんと逢うことなど皆無なのだから、母がいる家に連れてくることなどできない。
その時だけはエッチなしで健全に過ごせばいいのかもしれないけれど、そもそもラッキーの散歩もセックスも抜きで上村くんと逢うことなど、想像することすら難しかった。
「今日はちょっと無理させすぎたか?」
「……ん」
ベッドに横になると、一気に疲労と睡魔が押し寄せてきた。怠くて眠くて、口を開くのも億劫だ。
上村くんの手が、頭に乗せられる。彼にしては珍しく、優しく撫でてくれる。
「……ちょっと……ね、……きつ、い……かな?」
本音をいえば、ちょっとどころではない。
身体にはまるで力が入らないし、今にも気を失いそう。かろうじて意識を保っていられるのは、あそこがヒリヒリ、ズキズキと痛むからだった。
それもこれも、全部上村くんのせい。
だけど優しく撫でてくれているのが気持ちよくて、あからさまに文句をいうのも悪い気がしてしまう。
この一場面だけを見れば、まるで普通の恋人同士みたい。
このまま、眠るまで撫でていてくれたら嬉しいんだけど。
だけど。
相手が上村くんである以上、そんな綺麗なエンディングはありえない。
「……やっぱり、俺も我慢できないな」
そういって、私の上にのしかかってきた。
「……!」
スカートをまくり上げられる。
下着を着けていない下半身が露わにされる。
脚を開かされる。
その間に上村くんが身体を入れてきて、ズボンのファスナーを下ろして……
「え……ちょっ、だめ……いィっっ!!」
短い悲鳴をあげる。
いきなり、入ってきた。
前戯もなしに。
とはいえ、挿れられっぱなしの尻尾のために潤ってはいたし、あれだけ激しい行為の後で充分すぎるほどにほぐされてはいる。
だから、挿入自体はスムーズだった。
だけど。
「……だめっ! いや……痛っ! 痛ぁいっっ!!」
力の入らない腕で、上村くんの大きな身体を押しのけようとする。
痛い。
すごく、痛い。
涙が溢れ、身体が強張る。
なにしろ今日は、ラッキーたちと六度もした後なのだ。
しかも、大きくなった瘤を無理やり押し込まれたりもした。
膣には、裂傷と擦過傷が残っている。そこに上村くんの大きくて硬いペニスを挿入されて激しく擦られたら、その痛みは耐え難い。
「ご……ゴメン、やめ、て……。痛……ぃ……無理……今日は……」
ちょっとくらいの痛みならむしろ感じてしまうマゾな私でも、ただ痛くて泣いてしまうような激痛。
こんな状態で上村くんを受け入れるのは、さすがに無理っぽい。
「あー、やっぱり、無理か?」
普段とは違う私の反応を見て、上村くんは身体を起こした。かなりSな上村くんだけど、私が本当に耐えられないことを無理やりするほどの鬼畜ではない。
痛みの原因が抜け出たことで、私は小さく息をつく。
「ん……ゴメン。今日は……ちょっと無理っぽい。……痛すぎて……」
「そっか……」
おあずけをくらった上村くんは、少し残念そうだった。
そういえば、今日は上村くんとしていない。
いつもなら、ラッキーとしている間にたっぷりと口で奉仕させられて、その後、何度も何度も犯されるのが常なのだけれど、今日は初心者が二頭いるということで、上村くんはサポートに徹していたのだ。
その上、三頭相手に二回ずつということで、ラッキーたちとのセックスだけで私は力尽きて、時刻もすっかり遅くなってしまった。
だから、上村くんとはなにもしないまま、帰ってきた。
だけどエッチで精力絶倫の上村くんが、あれだけめちゃくちゃにされている私をずっと見ていて、我慢できるはずがない。先刻の挿入だって、前戯もなにもなしだったのに、彼のものはすっかり大きくなりきっていた。
多分、すごく昂っている。
一昨日、昨日は上村くんのお母さんの帰りが早いということで、していなかった。今日あたりはもうしたくてたまらないはず。
そう考えると、おあずけは可哀想だ。
してあげたい。
彼の性欲を満たしてあげたい。
正直にいうと、して欲しい。
上村くんとセックスしたい。セックスして欲しい。
そう、想っている。なんだかんだいって、彼のことは好きだから。
だけど、今日は無理。
どれだけしたい気持ちがあっても、身体はもう限界を超えている。セックスするのは無理だ。
それでも、このままじゃ可哀想。せめて、一度はちゃんと射精させてあげたい。
本番は無理でも、口でならなんとかできそうだ。フェラチオだけで満足してくれるだろうか。
あるいは、胸でするのはどうだろう。最近成長著しい私の胸は、一応、パイズリなる行為が可能な程度には育っている。
本番なしのそうした行為だけで、上村くんは満足してくれるだろうか。
そしてもっと重要な問題として、私はそれで満足できるのだろうか。
口での奉仕は大好きだし気持ちもいいけれど、それだけでいけるようなものではない。あくまでも、挿入の前の気分を高めるための行為だ。
今の私はラッキーたちとのセックスで充分すぎるほどに満足しているけれど、上村くんにご奉仕したら、またスイッチが入ってしまうに決まっている。
絶対、ちゃんと挿入して欲しくなってしまうに違いない。
フェラチオの後で挿入してもらえないなんて、デザートのないコース料理、雑炊のない鍋料理。
やっぱり、締めは上村くんじゃないと。
だったら……
実は、ひとつ考えていることがある。
だけど。
いいのだろうか。
本当にいいのだろうか。
なにも問題ないような気もするし、根本的に間違っているような気もする。
しばらく躊躇して、だけど、結局その思いつきを口に出した。
「……ね、上村くん……?」
「ん?」
「……今日は……普通に……するのは、痛くて……無理、だから……」
枕に顔を埋めるようにして、小さな声でささやく。
それは疲れているからではなく、恥ずかしいから。
とても恥ずかしいことを、口にしようとしているから。
「……お……お尻、で……しても、いいよ?」
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