四章 告白


 マイカラス王国の戦姫と謳われる騎士、ダルジィ・フォア・ハイダーは、至福の時を過ごしていた。
 なにしろ今、彼女が想い慕うマイカラスの若き王、ハルティ・ウェルと二人きりなのだ。
 といっても、別に艶っぽい話ではない。王国南部に広がる砂漠の視察に来ているのだ。
 砂漠とはいえ、その地形は不変ではない。雨期に大雨が降れば一気にその様相を変えるし、一度の砂嵐で新たな砂丘が出現することも珍しくない。
 だからこの砂漠の地形の調査は、毎年欠かすことはできなかった。
 サラート王国など、南方の国がマイカラスへ侵攻しようとした場合、必然的にここを通ることになる。兵数で劣るマイカラスが敵を有利に迎え撃つためには、地の利を得る必要があるのだ。
 オアシスなどの、水源の位置。。
 兵を隠すのに適した地形。
 砦を築くべき場所。
 それらをすべて把握し、いつ敵が攻めてきても対処できるように作戦を立てておくこと。
 マイカラスを護るためには、この砂漠で敵軍を撃破しなければならない。砂漠を越えれば王都まで大きな街も砦もなく、そこで敵を迎撃するのは困難だ。
 敵は、一般に砂漠での戦闘に慣れていない。この砂漠こそが、マイカラスの生命線だった。
 だからこそ、今回の視察にはハルティが自ら乗り出したのだ。昨年のサラート王国の侵攻は、まだ記憶に新しい。
 しかし、そんな事情はダルジィにとってはどうでもいいことだ。ハルティの側にいられる――それだけが重要だった。
 実力、忠誠心共に騎士団の中でも五指に入るといわれるダルジィだが、実はその忠誠心がマイカラス王国でも国王でもなく、王冠を戴いている個人に向けられていることを知る者は少なかった。
 実際のところ、今回の視察は二人だけで来ているわけではない。ケイウェリなど、騎士団の主だった若手が何人も同行している。
 しかし広い砂漠である。手分けして調査するために、二、三人ずつの小グループに分かれて行動しているのだ。
 ダルジィをハルティに同行させたのはケイウェリだった。彼は気付いているのかもしれない。その外見に似合わず、細かいところに気の回る性格だから。
 それなのに、ハルティは彼女の気持ちなどまるで気付いていないのだが、ダルジィは別に不満とも思わなかった。
 ハルティに愛されたいなどというのは、ダルジィにとっては身の程知らずの大それた思いだった。自分のことはよくわかっているつもりだ。同世代の他の娘たちのように、美しく着飾って男性の気を惹くことなど自分にはできない、と。
 彼女にできるのは、より優れた騎士となって、ハルティの役に立つことだけだった。
 それだけが、彼女の望みだった。
 だからこそ、今が至福の時なのだ。
 危険があるかもしれない砂漠で、ダルジィと二人で行動している。それは、彼女に対する全幅の信頼の証だ。
 そう思えば、この灰色の荒野の中にあっても、美しい花園にでもいるような気分になれた。
 しかし。
 ダルジィの表情が、不意に強張った。
 たとえ幸せに浸っている時であっても、決して警戒心は緩めない。だからこそ彼女は、ハルティの信頼を得られるのだ。
「誰か、来ます」
 簡潔に伝え、微かに目を細める。
 遠くに、人の気配がした。
 南西の方角、まだかなり遠い。
 今は、その方角に仲間はいないはずだ。街道からも外れているから、普通の旅人ではあるまい。
 砂嵐等で道を見失った旅人か、あるいは……。
 すぐに、魔法による探知をその方角に集中する。向こうは特に結界も張っていないようで、簡単に姿を捉えることができた。
 馬が二頭。それぞれに一人ずつ、人が乗っている。
 成人男性にしては小柄だ。おそらくは子供か女性だろう。
 こちらに向かってきている。距離が詰まるに従い、その姿が鮮明になる。
 遠くにある低い丘の頂に、肉眼でも見える二つの点が現れたところで、ハルティの表情が緩んだ。対照的に、ダルジィの顔が不快そうに歪む。
 彼女にとっては最悪の人物だった。
 天敵と言ってもいい。
 いっそ敵国の大軍の方がましだったと、本気で思った。
 二人のうち一人はまったく見覚えがない少女だが、もう一人はいやというほど知っている人物だ。
「ナコ・ウェル……」
 まるで親の仇であるかのような口調で、その名をつぶやいた。


 それは奈子にとっても、予想もしていない邂逅だった。
 遺跡を後にして真っ直ぐ王都へと向かう途中、近くで人の気配がしたので少し寄り道してみたのだ。
 まさか、こんなところで知り合いに会うとは。
「ナコさん」
「ハルティ様……」
 知らず知らずのうちに、口元が綻ぶ。
 ダルジィや由維が見ている前で不謹慎とは思うが、なにしろハルティはうっとりするような美形なのだ。
 ややくせっ毛の金髪の下の、優しさと猛々しさのバランスが取れた顔立ち。
 すらりとした長身で一見痩せて見えるが、実際にはその身体は無駄なく鍛えられ、騎士としても一流だった。
 そんな男性が自分のことを憎からず想っているというのだから、つい顔が緩んでしまうのも無理のないことだ。
(ああもう、ハルティ様ってばやっぱり素敵。それに比べたらエイシスなんてぜんぜん見劣りするよなぁ)
 ついつい、頭の中で無駄な比較をしてしまう。
「奇遇ですね、こんなところでお会いするなんて」
「本当に」
 ハルティも、嬉しそうに微笑んでいる。しかしその後ろでは、ダルジィが般若のような顔をしていた。
(ごめん、ダルジィ)
 奈子は、心の中で手を合わせる。
 ダルジィの想いは知っているから、できれば邪魔はしたくはない。
 しかし奈子はどちらかといえば惚れっぽい上に「強い美形」には無条件で弱い性格だった。久しぶりの再会なのだから、今だけは見逃してもらおう。
「ところで、後ろの女の子は?」
 ハルティが由維を見て訊く。
「あ、この子は由維っていって……アタシの、幼なじみというか……」
「恋人でーす!」
 いきなり、由維が笑いながら会話に割り込んでくる。
(バカ! いきなりそれはマズイでしょっ?)
 思わず、心の中で突っ込む。ハルティとダルジィは、奈子の性癖を知らないのだ。
 振り返って由維を睨みつけてから、恐る恐る、ハルティの顔を見る。
 この時のハルティとダルジィの表情は、当分忘れることはできないと思った。



 奈子と由維は、辛うじてショックから立ち直ったらしいハルティたちと共に王都へと戻った。
 当初の予定では、ハルティに会うのは王都に戻ってからのはずだったのだが。
 王都には、ファージとソレア、そしてソレアの弟子のユクフェも来ていた。
 ちょうどその日はハルティの妹アイミィ・ウェルの誕生日で、以前から奈子たちはパーティに招かれていたのだ。
 久しぶりに、騎士の礼服で正装しての登城である。奈子の礼服姿を初めて見る由維が、うっとりと見とれていた。
 ところで、アイミィも熱烈な奈子のファンである。由維を連れてきたことでどんな反応をするか……と少し不安だったが、どうやらそれは杞憂だったらしい。
 ハルティか、あるいはダルジィから先に事情を聞いていたらしいアイミィは「やっぱりナコ様も『こちら側』の人でしたのね」なんて嬉しそうに言うものだから、奈子としては苦笑する以外に応えようもない。
 由維とアイミィはなんだか気が合うようで、二人で楽しそうに談笑していた。由維とファージが喧嘩ばかりしているのとは対照的だ。
 その点では、由維は亜依やエイシスとも仲がいいのだから、恋敵の中では何故かファージだけが例外ということらしい。
 そして。
 この件とは別に、今回初めて知ったことがある。
 ユクフェは、美形と金持ちに弱い、と。
 ハルティを一目見るなり「あと六、七年待ってくれれば、あたし、ナコおねーちゃんよりもずっといい女になるよ。どぉ?」などと言い出して、ハルティを困らせる始末である。
 そんな、まだ十歳の女の子の戯言に対してダルジィがかなり本気で睨んでいるものだから、奈子は呆れてしまった。
 とまあ、いろいろとあったが、今夜の宴は全体としてはかなり楽しいものだった。


 そして、深夜。
 城の中で、奈子とハルティが二人きりで会うというのは、実は至難の技である。
 ダルジィはともかく、アイミィの目を誤魔化すのが大変なのだ。しかも今回は、ハルティに「夜這いに来てもいいよ」なんてませたことを言っていたユクフェもいる。
 だから、奈子がハルティの私室を訪れたのは、もう夜半過ぎのことだった。
 逢い引き、という言い方は語弊があるが、しかし以前にもここで口づけを交わしたことがあるのは事実だ。そのことを思い出すと、今でも頬が赤らんでしまう。
「こうして、ゆっくり話すのは久しぶりですね」
「ナコさんが、最近あまり来てくれませんからね」
 軽い皮肉混じりにハルティが笑う。
「ごめんなさい」
 奈子は素直に謝った。
 正直なところ、マイカラスに来にくかった……というよりも、ダルジィの気持ちを知って以来、ハルティと顔を合わせにくかったのだ。
 ハルティのことは好きだ。それは間違いない。
 エイシスに対する感情と違い、素直に認めることができる。
 だけど奈子には、ハルティよりももっと大切な相手がいる。
 だから、ひどく後ろめたい気持ちになってしまう。ダルジィの、真っ直ぐで純粋な想いを知っているから。
 それでも今夜、こうしてここにいるのだから、自分はやっぱりだらしない人間なのかもしれない、と。そんなことを考えてしまう。
 ただハルティに会いに来ただけではない。本音を言えば少しだけ、それ以上のことを期待している。
「ところで……」
 ハルティが、躊躇いがちに訊いた。
「あの子が、ナコさんの恋人というのは……本当ですか?」
「…………」
 奈子は、無言でうなずいた。嘘をつくことはできない。
 さすがに今度は、ハルティも驚かなかった。
「ナコさんも、やっぱりそういう趣味の……?」
 身近にアイミィがいるから、免疫ができているのだろうか。比較的あっさりと、その事実を受け入れたようだ。
「誤解のないように言っておきますけど、アタシは別に、女の子しか愛せないわけじゃないですよ」
 冷静に自分を振り返ってみれば、奈子にとって相手の性別はあまり意味を持たないようだ。高品も、ハルティも、ファージも亜依も、みんな大切で、男か女かというのは問題ではない。
「ただ、いちばん大切なのが由維だったっていうだけなんです」
 そう、由維は特別。
 あの子だけは、すべてを超越して大切な存在。
「……今度会ったら、あなたに結婚を申し込もうと思っていた」
 微苦笑を浮かべて、ハルティは言った。奈子は、それを聞いても驚かなかった。
「実は……、そんな気がしてました」
 騎士団のケイウェリから聞いていたから。
「だからですか? しばらくマイカラスに来なかったのは」
「そういうわけではないですけど」
 だけど無意識のうちに、それを避けていたのかもしれない。
 はっきりと言われれば、断らなければならなくなるから。
「もう一度、考えてみてはもらえませんか?」
「本音を言えば、すごく嬉しいんです」
 それが、奈子の本音。
 しかし……。
「だけど……ごめんなさい。アタシ、ハルティ様と結婚することは……というか、この国の王妃になることはできないんです」
「何故?」
「まず第一に、身分が違うじゃないですか」
「そんなこと、問題ではないでしょう? 生まれがどうであれ、あなたはこの国の正騎士です」
 確かに、ハルティの言うとおりだ。それは致命的な問題ではない。
 奈子にとっても、これは言い訳に過ぎなかった。
「私は、ナコさんを愛しています」
 そう言って、ハルティは奈子を抱きしめる。
 優しく。しかし、しっかりと。
「……ハルティ様ってば、卑怯」
「え?」
 奈子は、ハルティに軽く体重を預けた。
「こんな体勢でそんな風に囁かれたら、つい、うなずきそうになるじゃないですか」
「もちろん、それを狙ってのことです」
 二人揃って、小さく笑う。
 奈子も、ハルティの身体に腕を回した。
 間近から、お互いの目を見つめる。
 そして、奈子の方から唇を重ねた。
 ゆっくりと、時間をかけたキス。
「……だけど……アタシ、ハルティ様とは結婚できないんです。アタシ、子供の産めない身体なんですよ」
「えっ?」
「以前、怪我が元で……。だから……」
 だから、王妃にはなれない。
 たとえハルティがなんと言おうと、世継ぎを産めない王妃を誰が認めるだろう。
 一昨年のクーデターのため、アイサール王家の直系の血筋はハルティとアイミィしか残っていない。臣下の者たちがハルティを結婚させようと躍起になっているのはそのためだ。
 一日でも早く、世継ぎが生まれて欲しい、と。そう願っているのだ。
 子供を産めない女性を妃と認めるはずがない。
「だから……ごめんなさい……。ハルティ様には、もっと相応しい人がいるはずです。この国の王妃に相応しい人が……」
 例えば、ダルジィのような。
 彼女の家はマイカラス建国以来の名家で、本人は優れた騎士で、心身共に健康だ。
 誰もが納得する相手だろう。それになにより、奈子よりもずっと真摯にハルティを想っている。
 だけど、奈子の口からその名は言わない。
 ちょっとした意地悪だ。色恋沙汰に関しては奈子よりもずっとうぶなダルジィが、勇気を出して自分から行動するまでは、奈子もケイウェリも何も言わない。
「だから……、ごめんなさい」
 涙が、溢れてきた。
 それを見られたくなくて、ハルティの胸に顔を押しつける。
 初めてだった。自分の身体のことを、人に話すのは。
 吹っ切れたつもりでいたのに、やっぱりまだ傷は癒えていなかった。
「ナコさん……」
 ハルティの腕に力が込められる。
 それが心地良かった。
「でも、遊び相手でよければお付き合いしてあげますよ?」
 涙を拭って、奈子はわざと軽い調子で言った。
「なにしろ、マイカラスで一番の一の『抱かれたい男』ハルティ様ですもんね」
「また、そんな……心にもないことを」
 ハルティが苦笑する。
「……抱かれたい、ってのは本音ですよ」
「ユイさんに怒られますよ?」
「あの子は、知ってるもの。アタシがこんな性格だって。相手が男だろうと女だろうと、恋人であろうとなかろうと、節操なく身体を許す女だって。だからハルティ様も、アタシなんかに本気になっちゃダメですよ。本気の恋愛より、遊びのセックスが好きな女なんですから」
「……相変わらず、嘘が下手ですね。ナコさんは」
「――っ」
 ハルティに哀れむような瞳で見つめられて、奈子はそれ以上、何も言えなくなってしまった。



「ずいぶん、遅かったですね」
 そんな声と同時に部屋が明るくなったので、奈子は小さく驚きの声を上げた。
 自分の寝室へ戻ったのは、草木も眠る丑三つ時だ。当然、由維も夢の中にいると思ったのに。
「……由維、起きてたの?」
 微かな魔法の残滓が感じ取れる。どうやら、侵入者探知の結界でも張っていたらしい。
 つまり、奈子が夜中に寝室を抜け出していたことも知っているわけだ。
「も少し早く帰ってくると思ったのに。これだけ時間がかかったということは、ハルティ様といーいコトしてたんですか?」
「え? いや、あの、えっと……」
 いきなり核心をつかれて、奈子は狼狽えた。しどろもどろに応える。
「ど、どうしてハルティ様と会っていたなんて思うの?」
「他に行くトコないでしょ? まさか、アイミィのところじゃないだろうし」
「う……」
 どうやら、完全にお見通しらしい。
 由維はベッドから降りると、奈子の胸に顔を押しつけた。
「男の人の、匂いがするよ」
「……ごめん」
 本気で怒っているわけではなさそうだが、由維はぷぅっと頬を膨らませている。
「もぉ、ホント浮気っぽいんだから」
 由維が抱きついてくる。
 身体を擦り付けるようにして。
 まるで、動物が自分の縄張りにマーキングをしているようだ、と奈子は思った。
 身長差の関係で、奈子はちょうど胸が擦られるような形になる。
「ちょっと由維、そんなコトされたら、アタシ……」
「感じちゃう?」
 悪戯な瞳で奈子の顔を見上げる。
 由維の言うとおりなのだが、さすがにそれを素直に認めるのは抵抗がある。
「えっと……」
「我慢できなくなる? 今してきたばっかりのくせに」
 だからこそ、だ。身体が敏感になっている。
「奈子先輩の性欲って、底なしですねぇ」
「そうゆう言い方やめてよね」
 奈子は真っ赤になって言い返す。
「だって、固くなってますよ」
「ひゃん!」
 由維の指先が、胸の先端をピンと弾いた。奈子は思わず声を上げる。
「こら、由維!」
 由維を抱きしめて、そのままベッドに押し倒した。
 顔中に、キスの雨を降らせる。
「そうやって挑発すると、マジで襲っちゃうよ?」
「もう襲ってるクセに」
 笑って、由維の方からもキスを返してくる。
「ん……ふ……」
「ぅん……」
 舌を絡ませながら、お互いに相手の身体を弄る。最近の由維は、服の上から触るくらいは嫌がらない。
 由維の身体を触るのは楽しい。
 由維に触られるのは気持ちいい。
 だから、つい調子に乗ってしまう。しかし、寝間着を脱がそうとした奈子の手を、由維はしっかりと押さえた。
「いいじゃん。少しくらい」
「ダメ。それとも奈子先輩、見られながらすると燃える方?」
「え?」
「魔法で出歯亀してる人がいますよ。きっと、アイミィかな」
「ええっ?」
 慌てて身体を起こし、由維から離れる。
 服を直しながら気配を探ると、確かに、誰かが魔法で監視していたようだ。こちらが気付いたことを悟ったのか、気配は急速に薄れていく。
「でも、どうしてアイミィだって?」
「気配がそうでしたもん。それに、彼女もこーゆーことに興味ありそうでしたよ。奈子先輩とはもうしたのか……とか、私にいろいろ訊いてきましたから」
 なるほど。仲良くしていると思ったら、そんなことを話していたのか。
「あの子もねぇ……。けっこう楽しい性格してるよね」
「ちょっと、亜依さんに似てません?」
「そういえば、あいつも出歯亀してたことがあったっけ」
 今年のバレンタインデーの夜を思い出して、二人は笑った。
 が、不意に奈子の表情が凍り付く。
 大変なことに気が付いた。
「魔法で見ていたってことは……、先刻の会話も聞かれてた?」
「かもしれませんね」
「それってマズイよ!」
 アイミィにとって、一番の恋敵は由維でもファージでもなく、実の兄ハルティなのだ。奈子の取り合いでハルティに喧嘩を売ったことも、一度や二度ではない。
 それが、先刻の「ハルティ様といーいコト」云々を聞いていたとすると……。
「ハルティ様が危ない!」
 そう叫ぶのと同時に、遠くから爆発音が響いてきた。続いて、誰の声か考えるまでもない金切り声が。
「……今の、ハルティ様の寝室の方?」
「……みたい、ですねぇ」
 諦めの表情で、奈子と由維は顔を見合わせた。


 深夜の王宮を騒がせた、突然の兄妹喧嘩。
 その原因を知っているのは、ごく限られた者だけだった。



<<前章に戻る
次章に進む>>
目次に戻る

(C)Copyright 2000 Kitsune Kitahara All Rights Reserved.