こちらに来た夢魔はあと三匹いるということなので、早苗と一姫も狩りを手伝うことにした。一度家へ戻って、武器やら魔法の杖やらを取ってくることにする。ばらばらにならない方がいいということで、アリアーナたちも一緒だ。
「それにしても、姫様自ら来なくたって……」
 アリアーナは確かに、極めて強い力を持った魔術師でもある。が、夢魔は肉体的には脆弱な動物で、狩るのにそこまでの力は必要ない。
 以前、竜を封印しに行った時とは違う。これではまるで、ネズミを狩るのに大砲を撃つようなものだ……と早苗は思った。
 確かに、魔法に対する耐性のないこちらの世界では問題になるかもしれないが、向こうの平均レベルの魔術師でも、十分に役目を果たせるだろう。
「あまり大勢で来ても、騒ぎになるだけだからな。それにわたしが一番、こちらの事情に通じている」
「それは、そうかも知れませんけど」
 一姫はうなずいたが、早苗はおやっと思った。
 アリアーナだって、こちらに来たのはほんの二、三回、それもごく短い時間のはずだ。早苗たちの案内なしに奏珠別の街を歩けるほど、慣れているとは思えない。
「それよりも、夢魔はもっとも心を許す相手の姿で近付いてくる。油断はしないようにな。……そういえばサナエたちは、どんな夢を見てたんだ?」
「え……」
 二人は同時に絶句した。
「いや、その……まあ……」
「い、言うほどのことではありませんわ」
 誤魔化すように、曖昧な笑みを浮かべる。それを見たアリアーナは「だいたい想像はつく」と納得顔でうなずいた。。



『奏珠別公園の奥の森へ行ってご覧なさい。あそこは、そういったモノが集まりやすい場所だから』
 みそさざいを出る時、晶がそう教えてくれた。どうしてそんなことを知っているのだろう。考えてみると、あの人も正体不明だ。ついでにいえば、実年齢も不明だが。
(まあ、それはともかく……)
 ずらりと並んだ銃器を前にして、早苗は腕を組んだ。
 夢魔狩りには、どの武器がいいだろう、と。
 その光景に、スピカとメルアが目を丸くしている。壁や棚にびっしりと並べられた、あらゆるタイプの銃を見て。
 その一点を除けば普通の女子高生の私室であるだけに、いっそう異様だ。何度か訪れたことのある一姫でさえ戸惑いを隠せないし、あまり感情を表に出さないアリアーナでさえ、なんとなく驚いたような顔をしている。
 早苗の銃器マニアぶりは、高校生になっても相変わらずだった。
「さて……」
 呆れ、驚いている背後の四人を後目に、早苗は銃を選ぶ。
 相手は小動物が三匹。ならばフルオートよりも精度重視のライフルだろう。樹が密生する森の中では、フルオートは意外と役に立たない。
 的が小さくて素速いことを考えると、速射性に優れたセミオート。東京マルイのPSG―1か、MGCのルガーか……。
 いいや。早苗は首を振った。
 野生の獣が相手なのだ。おそらく五十メートルか、それ以上の距離の狙撃になるだろう。気付かれずにそれ以上近付くのは難しいし、あまり近付けばまた幻覚に取り込まれてしまう。
 障害物の多い森の中で、遠距離から小さな標的を狙う。ならば弾数よりも一発の精度が重要だ。
 接近戦はスピカとメルアに任せればいいし、防御は一姫とアリアーナの魔法がある。自分は遠距離から確実に、一発で仕留めることに専念するべきだろう。
 ならばボルトアクションのライフルがいい。アサヒファイヤーアームズの問題作M40か……いやいや。
 早苗は一丁のライフルを手に取った。
 フルカスタムしたスーパー9プロ。
 もともと高性能のライフルではあるが、この銃は六百六十ミリの高精度ロングバレルをはじめとして、すべての部品が最高品質の物に交換されていた。サバイバルゲーム仲間だった模型店の店員が腕によりをかけて改造したもので、サバイバルゲーム用としては最高の射程と精度を誇るライフルだ。
 その店員が転勤になる際、格安で譲ってもらったものだ。そして今では、その最高のライフルが早苗の手によって魔光銃に再改造されている。魔力を結晶化した弾丸と、魔法エネルギーを増幅する鉱石の銃身を備えた指向性エネルギー兵器。その威力と精度は、向こうの世界の魔光銃を圧倒する。
「うん、これしかない」
 満足げにうなずいて、その武器をライフルケースに収めた。さらに予備の武器として、グロック17とベレッタM93R、それぞれについて各二本の予備弾倉を用意する。そしてタンスから迷彩服を取り出すと、いそいそと着替えをはじめた。



「……早苗さんって、やっぱりヘンですわ」
「確かに、並んでいる銃を眺めてにやにやしている姿はちょっと怖いな」
 アリアーナも同意する。スピカやメルアも含めて、四人全員が早苗と距離を空けて歩いていた。
「えー。どうして?」
「普通、そんな格好で街を歩く方はいませんよ」
 一姫が指摘する。家から公園までの住宅地を、早苗は迷彩服姿で平然と歩いていた。
「今どき、ミリタリールックなんて当たり前じゃん」
「実際に銃まで持っている人はいませんわ」
 迷彩服に身を包んでライフルケースを背負った巨乳女子高生と、その他四人の美少女。そのうちの三人は外人で、スピカとメルアは騎士ということで背も高く、目立つ容姿をしている。
 通りを歩いているだけで、好奇の視線が集まってくるのも当然だろう。すれ違う人はことごとく、いったい何の集団かとこちらを振り返っていく。
 鉄面皮のアリアーナは気にもしていないようだが、一姫は顔を赤くしていた。この状況をクラスメイトにでも見られたら、後の説明が大変だろう。
「そういえば、彩ちゃんも呼んだ方がいいんじゃない? 朝、ウチらが電話した時は留守だったけど、もう帰ってるかもしれないし」
 もう間もなく公園に着くところで、早苗はふと思い付いた。早苗たち三人娘の中で、実戦で一番役に立つのは彩樹だ。
 一姫は魔法の才能こそかなりのものだが、どちらかといえば鈍いし、サバイバルゲーム仲間の間で『女デューク東郷』と呼ばれる早苗も、実際に血を見ることは苦手だ。
 その点、彩樹は違う。
 実戦の場においては、彩樹が傍にいるというだけで安心できる。
 しかしアリアーナは、早苗の提案を即座に却下した。
「いいや、だめだ」
「どうして?」
「相手が夢魔では、サイキが一番危険だからな」
 そんなアリアーナの台詞に、早苗と一姫は首を傾げた。



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