八章 空へ還る


 頭が痛い。
 頭が痛い。
 脳幹にまでがんがんと響く痛み。まるで、頭の中で電話のベルが鳴っているようだ。
「うぅ……」
 シェルシィが呻き声を上げて目を開けたところで、不意に不快なノイズが消えた。ベッド脇に置いた電話に手を伸ばしているソニアの姿が目に入って、本当に電話が鳴っていたのだと気がついた。
「ふぁい、ソニアっす……」
 半分、寝ぼけたような声。時計を見ると、朝というにはいくらなんでも早すぎる時刻だった。それでも白夜のこの季節、外だけは明るい。
 シェルシィは、ゆっくりと首を巡らした。ソニアの私室だ。昨夜はソニアの話を聞きながら浴びるようにワインを飲んで、そのまま酔い潰れて眠ってしまったらしい。アルコールには強い体質だが、さすがに二日酔いになっていた。頭が痛いし、胃がむかむかして今にも胃液が逆流してきそうだ。
「なんすか、司令。こんな時間に……え?」
 受話器を耳に当てたソニアの声が、一瞬大きくなる。顔を見ると、眉間に皺が寄っていた。
「はい……はい……わかりました、すぐ行きます」
 受話器を置いたソニアは、テーブルの上にあったワインの瓶に手を伸ばしかけたが、途中で思い直して隣にある水差しを取った。グラスに注いだ水を一気に飲み干してから、水差しごとシェルシィに差し出してくる。
 ひどく喉が渇いていたので、ぬるくなった水でも美味しかった。二杯続けて喉に流し込んでから、今さらのように訊いた。
「出撃ですか?」
「ああ、ちょっとな。お前は寝てていいよ。どうせまだ飛べないだろ」
 ソニアの言う通りだ。昨日は竜姫に近づいただけで具合が悪くなったのだ。今の体調で飛べるはずもない。
「でも……」
「今いちばん大切なのは、ゆっくり休むことだ。無理する必要はない。結論を急ぐ必要もない。……今夜、もう一度話そうか」
「……はい」
 シェルシィの頭に手を置いて髪をくしゃくしゃにしてから、ソニアは部屋を出ていった。行先は司令室だろうか。先刻の電話は司令官からのようだった。
 ソニアの心遣いに感謝しながら、毛布にくるまってベッドに横になった。起きているには体調が悪いし、まだまだ眠い。
 だから、横になればすぐに眠れるものと思っていた。眠ってしまえば、胃のむかつきも頭痛も気にならなくなるはず、と。
 しかし、どうしてだろう。
 眠ることができなかった。身体は睡眠を欲しているのに、頭が、眠ることを拒否していた。
 気になることがあって眠ることができない。なのに、それがなにかわからなくてもどかしい。ベッドの中で、何度も何度も寝返りを繰り返す。
 どのくらいの時間そうしていただろう。また、喉の渇きを覚えた。起き上がって水差しに手を伸ばす。
 昨夜摂取したアルコールの量を考えれば、まだまだ水を飲まなければならない。飛ぶことができない精神状態とはいえ、いつでも出撃できるように体調は整えておかなければならない。自分はまだ、マイカラス空軍のパイロットなのだ。
 そういえば、司令官からの電話はなんだったのだろう。こんな時刻に連絡してきたからにはよほどの急用なのだろうが、敵襲に対する緊急発進であれば、基地全体にサイレンが鳴り響く。ソニアだけを呼び出すというのはあまり例がない。
 そこでふと、自分が持っている水差しに気がついた。
 ソニアは先刻、一度ワインに手を伸ばしていながら、思い直したように水差しを取った。水だけを飲んで、部屋を出ていった。
 不自然ではないだろうか。
 テーブルの上を見る。瓶の中身はまだ三分の一ほど残っていた。
 遅摘み葡萄から造られた高級ワインで、ソニアのとっておきの一本だ。こんないいワインが残っているのに水だけを飲んでいくなんて、ソニアらしくない。
 昨夜飲み過ぎたから、というのは理由にならない。二日酔い知らずの丈夫な肝臓の持ち主で、どんなに飲んだ翌日でも、朝食代わりと言ってワイン片手に竜姫に乗り込むのが、シェルシィが知っているソニアだった。
「あたしが知っている隊長……か」
 そういえば昨夜は、いろいろな話を聞いた。酔っていたせいで憶えていない部分もあるが、これまで知らなかったソニアの一面を見たのは確かだ。普段あれだけ脳天気で、お酒のこととと飛ぶことしか考えていないように見えても、決してそれだけの人間ではないのだ。
 そういえば。
 最後に、なんて言っていただろう。
 二日酔いで痛む頭を精一杯働かせて、曖昧な記憶をたどる。半分意識を失いかけた頃に、すごく重要な言葉を聞いたはずなのだ。
 ……そうだ。
『素面で人を殺せるほどには強くないんだ』
 そう言っていた。それが、お酒を飲んで出撃する理由だと。
 本来、飲酒した直後に飛行機を操縦するなんて言語道断である。体内に入ったアルコールは、操縦に一番大切な判断力、反射神経、平衡感覚を鈍らせる。地上を走る自動車でさえ飲酒運転は禁じられているのに、酔って戦闘機を飛ばしているなんて上層部に知られたら懲罰どころの騒ぎではない。
 基地司令が穏和で細かいことを気にしない性格だから、そしてソニアは酔っていてさえも空軍トップクラスのパイロットだから、大目に見られているのだ。あるいはアーシェン中佐は知っていたのかもしれない。ソニアが、人を殺す痛みから逃れるために飲んだくれているということを。
 そんなソニアが、ワインに手をつけずに出ていった。それはなにを意味しているのだろう。
 考えられることはふたつ。
 ひとつは、戦闘にならない簡単な任務だという可能性。しかしソニアは普段の訓練飛行でも素面でいることなどほとんどない。
 もうひとつの可能性は――
 それに気がついたシェルシィは、慌てて立ち上がった。同時に、二日酔いのひどい頭痛に襲われて、頭を抱えてうずくまる。込み上げてくる胃液を必死に押し戻す。
 もうひとつの可能性、それは――
 酔っていてもシェルシィを圧倒できるソニアでさえ、素面で全力を出さなければならない困難な任務。
 そうとしか考えられなかった。



「時間がねーから、簡潔に済ますぞ」
 クリューカ基地の会議室で、シェルシィを除く一○人の部下を前にソニアは言った。
 ここにいるのは九○七飛行隊の隊員だけ。司令官をはじめとする基地幹部たちは空軍の総司令部や周辺基地との打ち合わせに追われているし、白鳥を擁する九一一飛行隊は既に格納庫で出撃準備に取りかかっている。
 基地の全員が忙しく動き回っていた。普段なら、当直の者以外はまだ眠りについている時刻だが、今日は事情が違う。
「つい先刻、情報局からの緊急連絡があった。数時間以内に、カランティ市および周辺工業地域に対して大規模な空襲が行われる。敵のγ暗号を解読した情報だそうだから、まず間違いない。第一波はもう出撃している頃だ」
「大規模って、具体的にいうと?」
 飛行隊ではソニア、サラーナに次ぐ地位にいるルチアが、他の隊員たちを代表して訊ねる。もっともな質問だ。
「情報局の推測では、総数一○○○機を超えるということだ。北部戦線ではかつてない規模の作戦だな」
 隊員たちの間でざわめきが起こる。平然としているのは、ソニアと一緒に司令官から話を聞いていたサラーナだけだ。
「それは……いくらなんでも、私たちだけでは手に負えないのでは?」
 カランティ市を囲むように存在する、カランティ、ティアサーク、クリューカの三基地が擁する戦闘機は、総数二○○機に満たない。これでも以前に比べれば倍以上に増強されているのだが、一○○○機の敵を迎え撃つにははなはだ心許ないといわざるをえない。後方のいくつかの小基地にも戦闘機は配備されているが、その大半はアルキアの重爆には太刀打ちできない旧式機だ。
「司令部の話だと、現在、他の基地から大急ぎで部隊を移動させているところだそうだ。西部戦線の戦力は動かせないとしても、中央航空団から六個飛行隊、カイザス航空団から四個飛行隊……とにかく、敵と対峙していない部隊は片っ端から援軍として送るとさ。数の上の不利は、かなり解消されそうだな」
「それなら、まあ、なんとかなりますね」
 ルチアの言葉に、他の隊員たちもうなずいた。一瞬前までの緊張が解けてくる。
 なにしろ敵は、空の難所である北極航路を越えてくるのだ。基地からの距離が近いことと、戦域をくまなく覆うレーダーが利用できることを考えれば、地の利はこちらにある。多少の数の差を覆すのは不可能ではない。
「西部戦線の戦況が思わしくない上に、北極戦線では虎の子の重爆がぽろぽろと墜とされて、アルキアも一か八かの賭に出たんでしょうか? これまでの損害率を考えれば、アルキア空軍が誇る戦略爆撃軍団は、この作戦で壊滅的な打撃を受けることになります。こっちの迎撃部隊やカランティ市の損害も皆無とは言えないでしょうけど、どう考えても差し引きこっちの勝ちです」
「いや、そんな簡単な話じゃないんだ」
 楽観的な意見にソニアは首を振った。これから伝えなくてはならない任務を考えると、正直なところ気が重い。指揮官としてまだ未熟なのだろうが、部下に無理を強いることには慣れていなかった。
 初出撃時のアーシェン中佐の言葉ではないが、九○七飛行隊ではこれまで、無事に帰還することを最優先にしてきたのだ。
「大局的に見れば、この大戦は徐々に連合軍有利に傾きつつある。アルキアが一か八かの捨て身の作戦に出てくるのもわかる。しかし今回に限っていえば、こっちがかなり不利なんだ」
「何故ですか?」
「今日、アタシらに課せられる任務はたったひとつ。敵の重爆を、一機残らず撃退すること。ただの一機も、カランティ市および周辺工業地帯への進入を許してはならない。一発の爆弾も投下させてはならない」
 一斉に不満の声が上がる。
「アタシに言うなよ。お偉いさんがそう言ってきてるんだから」
「納得できる理由があっての命令なんでしょうね?」
「残念ながら、そうだ」
 文句を言いたい気持ちは痛いほどよくわかる。一○○○機の敵機、護衛戦闘機も含めた数とはいえ、爆撃機を一機も目標上空へ進入させないなどというのは統計学的に見て不可能だ。地上戦なら話は別だが、三次元空間の大空が戦場では、どれほど鉄壁の防御陣を敷いたところで必ず撃ち漏らしが出る。
 しかし今回だけは、その不可能に挑戦しなければならない。そうしなければならない理由がある。
「敵の重爆のうちどれか一機、どれかはわからんが一機だけが、新型の特殊爆弾を積んでいるらしい。アルキアが極秘で開発していた新兵器だそうだ」
「どんな新兵器か知らないけど、たかが爆弾一発、いいじゃないですか。それでカランティ市が壊滅するわけじゃあるまいし」
「壊滅する、と言ったら?」
 隊員たちの多くは冗談だと受けとったようだ。普段の態度が不真面目だとこういう時に信用されなくなるのだと、少しだけ反省した。
「その新兵器、外観は四トン級の大型爆弾だが、一発で通常爆弾数万トンに匹敵する破壊力がある」
「――っ」
 全員が同時に息を呑んだ。
「……あの、なにかの間違いじゃ?」
「アタシも何度も念を押した。残念ながら事実だ。TNT火薬じゃなくて、プルトニウムとかいう特殊な物質を使うらしい。詳しい原理は物理学者に訊けとさ。今度、ブロック大佐が来た時にでも訊いてみろよ」
 今度があれば……という台詞は、あえて口にしなかった。
 会議室が、重苦しい沈黙に覆われる。通常爆弾数万トン、その数字の持つ重さを理解できない者はここにはいない。
 アルキアの爆撃機ペリュトンの最大搭載量は約八トン、ケツァルコアトルスなら一ニトンを超えるが、北極航路を越えるような長距離爆撃任務では、速度と航続距離を稼ぐため、実際に搭載する爆弾はもっと少ない。
 通常爆弾数万トンとはすなわち、重爆撃機一万機近くの搭載量に相当する。大都市ひとつを完膚なきまでに破壊し尽くすのに、十分すぎる火力だ。
「こんな爆弾がカランティ市の人口密集地に投下されれば、死者一○万人、負傷者は三○万人以上に達する。そしてなにより、マイカラスはこの戦争に負ける」
 ソニアはそこで一呼吸の間を置いた。全員が台詞の最後の部分を理解するのを待つ。
「開戦当初に西部戦線や赤道戦線で大打撃を受けた連合軍が、その後も戦争を継続し、ついには五分以上の戦いに持ち込めるようになったのも、北部の豊富な資源と、それを利用するカランティの工業地帯が無傷だからだ。この戦争は工業力が勝敗を分ける消耗戦だ。カランティを失えば、マイカラスはこれ以上戦い続けることはできない」
 重い沈黙。
 ソニア以外の誰も口を開かない。言葉が途切れると、呼吸音すら聞こえなかった。
「幸い、新型爆弾は製造や取り扱いが極めて難しく、完成しているのは一発だけらしい。だが、どの機体がそれを搭載しているかはわからない。ペリュトンとケツァルコアトルスならどれでも搭載できるからな。いいか、今日は戦闘機や攻撃機は可能な限り無視しろ。その代わり、重爆は徹底的に叩き墜とせ!」
 声が震えないようにするには、少なからぬ精神力を必要とした。言っていることは単純だが、単純だからこそ忠実に実行するのは難しい。
「作戦は簡単だ。いつものように二機編隊を組み、常にこの二機単位で行動する。捕捉した重爆はすべて撃退しろ。燃料や弾薬が尽きたら、カランティでもティアサークでもいい、一番近い基地に着陸して補給を受け、白鳥の指示で次の目標に向かえ。おそらく今日は一日中、戦闘が続くことになる。その間、一機でも多くの敵重爆を墜とすこと。作戦概要は以上だ。すぐに出撃準備にかかれ」
 初めてだった。生き残ることよりも敵を撃墜することを優先して命じたのは。
 短い命令が、こんなにも苦い味がするとは知らなかった。
「シェルちゃんはどうするの? あなたの僚機でしょう?」
 隊員たちが立ち上がろうとする中、サラーナが座ったままで言った。一瞬、他の隊員たちの動きも止まる。
「シェルは……まだ飛べる状態じゃない。アタシは一人で行くよ、編隊数を減らしたくないからな」
「そりゃあ、あなたの腕なら一人でも大丈夫でしょう。でも……いいの?」
「アタシは一人で行く。話は以上だ。ぐずぐずしないで出撃準備に……」
 強引に話を打ち切ろうとした。これ以上、シェルシィの話題を続けたくはなかった。しかしその言葉は途中で途切れ、ソニアの視線は会議室の入口に釘付けになった。サラーナが、ルチアが、そして他の隊員たちが、視線を追って振り返る。
 そこには飛行隊の一二番目の隊員が、青い顔をして立っていた。
 見るからに具合が悪そうである。しかし意外としっかりした足取りで、真っ直ぐにソニアを見据えて進んできた。
 ソニアも一歩、二歩、近づいて立ち止まる。泣いているような、笑いを堪えているような、複雑な表情になった。
 大きな瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめている。寝不足と二日酔いのせいでいくぶん充血気味ではあるけれど、昨日とは違う瞳だ。初めて会った時と同じ、強い光を持っている。
「……飛べるのか?」
 言いたいことはたくさんあったけれど、口から出てきた言葉はそれだけだった。その答えさえ聞けば十分だ。
 ゆっくりと、しかし力強く、シェルシィはうなずいた。
「飛べます。……あたしは、飛びます」
「……そうか」
 叫びだしたい気持ちを、ぐっと堪える。胸の奥から込み上げてくるこの感情は、なんなのだろう。
「機体に近づいただけで、吐きそうになるくせに」
「今日の吐き気は二日酔いのせいですから」
「飛行中に、マスクの中で吐いたら死ぬぞ」
「ここに来る前に、すっかり吐いてきました。もう、胃液も残ってませんよ」
 疲れたような表情はそのためか。それでも、微かな笑みを浮かべている。
「あたしは飛びます。あたしは、戦闘機パイロットです」
 決して大きくはないけれど、しっかりとした言葉。飛ぶために生まれてきた者が、空へ還ることを決意した言葉。
 気がついた時には、ソニアは目の前の華奢な身体を抱きしめていた。
 愛おしくて仕方がない。
 この子は鳥だ。こんなに小さな身体で、鷹よりも隼よりも巧みに空を翔る。
「……そうだな。アタシらのいるべき場所は地上じゃない、あの空の上だ。行こう、一緒に」
 腕の中の頭が、小さくうなずく。その頭に手を乗せて、髪をくしゃくしゃにする。
 涙が出そうだった。シェルシィが還ってきたことが、一緒に飛べることが嬉しくて、泣き出してしまいそうだった。それを堪えることができたのは、二人を囲んでいる視線の存在に気づいたからだ。
 慌ててシェルシィの身体を放す。
「……お、お前ら、なに見てんだよ! さっさと格納庫へ行け! 三十分以内に離陸するぞ、急げっ!」
 照れ隠しのために、必要以上に大きな声になってしまう。サラーナをはじめとする一○人の隊員たちは、笑いを噛み殺しながら格納庫へと駆け出していく。
 二人きりになったところで、ソニアはもう一度シェルシィを抱きしめた。



 ほんの数日離れていただけなのに、ひどく懐かしかった。
 窮屈な竜姫のコクピットにいられることに、悦びを感じる。
 体調は決してよくはなかったが、込み上げてくる吐き気を二日酔いのせいだと自分に言い聞かせた。どうせ胃の中には、吐くようなものはなにも残ってはいない。
 飛べるはずだ。
 いや、飛ばなければならない。
 主電源を入れ、酸素マスクを接続する。計器をひとつひとつチェックしていく。この基地に来てから何百回と繰り返してきた手順は、シェルシィの身体にすっかり染みついていた。頭で考えなくても発進準備は進んでいく。
 ここが、自分のいるべき場所なのだ。たとえなにがあっても、ここから逃げてはいけない。父親に勘当されてまで、自分で選んだ道ではないか。
 この大空以上に相応しい場所はない。自分は「鋼の翼を持つ鳥」なのだ。命ある限り飛び続けなければならない。
『リリィ01、離陸準備よし』
 無線機から声が聞こえてくる。一番頼りになる声。一番大切な声。この声が聞こえる限りは、自分は大丈夫だ。
『リリィ12、よし』
 今は、ソニアの僚機として飛べることが誇りだった。ソニアと共に飛び、共に戦うことが悦びだった。
 ソニアは子供のために戦う。ならば自分はソニアのために戦おう。敵を殺すためではない。自分の大切なものを護るために戦うのだ。ソニアを無事に家族の許へ帰すために。
 斜め前にいるソニアの機が、エンジンの出力を上げる。同時にシェルシィもスロットルレバーを押し込む。
 身体がシートに押しつけられる。周囲の風景が後ろへ流れていく。
 心が躍る。
 大空こそがシェルシィの居場所だった。たとえ、この先に戦いが待ち受けているとしても。



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