ある日の放課後。
写真の束を抱えて廊下を歩いていた私は、角を曲がったところで前から来た人とぶつかった。
持っていた写真が、ばらばらと床に散らばる。
「ああ、ごめんなさい」
「あ、すみません。祥子さま」
そう。ぶつかった相手はよりにもよって祥子さまだった。祥子さまは屈んで、落ちた写真を拾ってくれる。
その手がふと止まった。
「……もし良かったら、この写真を焼き増ししてくださらないかしら?」
一枚の写真をこちらに向けて言う。
「……ダメです」
私は一瞬口ごもって、気が付くとそう答えていた。
「それは……私自身、納得していない写真なので」
祥子さまが持っていた写真は、祐巳さんの上半身のアップだった。いつものように楽しそうに笑っている。
「写真の善し悪しはよくわからないけれど、とてもいい笑顔だわ。それだけじゃだめなのかしら?」
「……申し訳ありません」
確かにそれは、祐巳さんの最高の笑顔だった。しかし私はその写真を撮った時、祐巳さんの隣にいた人物を意図的にファインダーから外してしまったのだ。
どうして、そんなことをしたのだろう。
やきもち、だろうか。その笑顔が向けられている相手に対する。
自分の気持ちがわからない。祥子さまと別れた後で、私は小さくため息をついた。
私は、祐巳さんの笑顔が好き。
だけど最高の笑顔が見られるのは、祥子さまと一緒の時。
だから私にとって、祐巳さんの笑顔は嬉しくて悔しい。
私は、ジレンマに陥っていた。
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