「んっ……ぅん……く……」
 くちゅくちゅと、指が湿った音を立てている。
 私は裸でベッドにもぐり込んで、自分自身を慰めていた。
 あの異常な、そして刺激的な体験からまだ数時間。身体の火照りは治まってはいない。
 私の女の子の部分はしっとりと濡れていて、乳首は固くなっていて、ちょっと触れただけで声が漏れてしまう。
 家族が寝静まるのを待つ時間が、果てしなく長いものに感じた。夕食後は、部屋で本を読んでいるふりをしながら、ずっと服の上から触っていた。
「はっ……ぁっ、ん、ふぅっ……ん!」
 中指を第二関節くらいまで入れて、中をかき回すように動かす。いつもの自慰の時はもっと奥まで指を入れるんだけど、今日は、ラッキーに舐められていた部分を重点的に刺激する。
 まだ、あそこにラッキーの舌の感触が残っているようで、すごく感じた。
 夕方の記憶を呼び起こしながら、私は指を動かし続けた。中に入れていない方の手は、クリトリスや、割れ目の上を滑らせる。
「はふぅ……あっ……んっ……。くぅ……ん……」
 すごく、濡れてる。
 中はすごく熱くなって、トロトロにとろけてる。
 指を抜くと、白濁した液体が糸を引いて、べっとりと手を汚していた。
 普段、自分でするときよりもよりも、ずっと感じてる。
 それでもやっぱり、自分の指よりもラッキーの舌の方が何倍も気持ちよかった。
 あれは――人間の男の子に舐められるよりも、ずっと気持ちよかった。


 そう。
 実は私、人間の男の子に舐められた経験はあった。いや、性格には「男の子」じゃない。相手は、私よりもずっと年上だった。
 多分、今のクラスメイトは誰も知らないはず。言ったらきっと驚くだろう。「真面目で優等生の委員長」が、バージンじゃないなんて。
 私の初体験は、二年前。中学三年生の夏休みだった。
 相手は、塾の講師のアルバイトをしていた大学生。
 格好良くて、おしゃれで、話が上手で、カッコイイ車に乗っていて。
 今にして思えば、かなり遊び慣れた男だった。うぶな中学生を落とすことなど、朝飯前だっただろう。
 私は簡単に、彼の誘いに応じた。当時の私は今以上に、自分の「優等生ぶり」にコンプレックスを感じていて、自分を変えたいと思っていたから。
 それが、きっかけになると思った。今の自分、つまらない「真面目ちゃん」から脱皮することができる、と。
 初めてのデートは、海へのドライブ。
 その日のうちに、求められるままに身体を許した。彼は雰囲気作りも上手だった。
 向こうにしてみれば、夏休みのちょっとした遊びだったのだろう。
 だけど、免疫のない私はすっかり彼に本気になってしまった。年上の大学生と付き合って、セックスして、自分も大人になれたような気になっていた。
 夏休みの間、二日と間を空けずに会っていて、その度に彼に抱かれた。どんな要求にも、私は精一杯応えた。彼に喜んで欲しかったから。
 ほんの一ヶ月ほどの間に、私はすっかり「女の悦び」を身体に教え込まれて。
 そして。
 ――夏休みが終わるのと同時に、捨てられた。


 もちろん、その時はショックだった。
 自分がただ、身体目当てで弄ばれていたことを知って、悲しかったし、悔しかった。
 だけど今では、意外と落ちついてその時のことを思い出すことができる。
 いい勉強をさせてもらった、と思えばいい。
 まだ子供だった自分。
 精一杯背伸びして、足下をすくわれた自分。
 不思議と、彼を恨む気持ちはなかった。当時の自分の愚かさ、幼さがすこし可笑しいだけ。
 もちろん、私の男性経験はその一人だけ。以来、男の子と親しく付き合ったことはない。
 しばらく男性不信になっていたということもあるし、その後は一度も夢中になれる男性に巡り会わなかった、ということもある。
 そして私は相変わらず「真面目で優等生の委員長」だった。
 それでも少しは、成長したと思いたい。
 精神面がどうかは知らないが、身体は間違いなく、少し大人になっていた。
 あれ以来、週に一度は欠かせなくなった一人遊び。一度セックスの悦びを覚えた身体は、どうしてもその快感を求めてしまう。
 特に憧れの男性もいない私はいつも、二年前の彼との行為を反芻しながら、自分を慰めていた。
 だけどそれは昨日までの話。
 今日は、違う。
 私を昂ぶらせているのは、一頭の美しいゴールデンレトリーバーなのだ。


「あっ、はっ! はぁっ……あっ! はぁぅっ!」
 荒い息をしながら、指の動きを速くしていく。
 中をかき混ぜるように動かすと、熱く濡れた粘膜が指に絡みついてくる。
 溢れ出た愛液はお尻の方まで滴って、シーツを濡らしていた。
「あっ……あぁっ……あぁっ……っ!」
 ラッキーの舌の感触を思い出しながら、指と、腰を動かす。
 人間の舌よりもずっと長くて。
 ずっとしなやかで。
 ざらざらとした刺激を与えてくれる舌。
 信じられないくらい奥まで、舐められてしまった。
 信じられないくらい、気持ちよかった。
「あ……はぁ……あんっ! あっぁんっ!」
 気持ちいい。いいけど、やっぱり自分の指じゃ物足りない。
 あの舌の感触を、また味わいたい。
 また、ラッキーに舐めて欲しい。
 相手が犬だからといって、嫌悪感はまったく感じなかった。
 犬に舐められるのは……少なくとも相手がラッキーの場合は、すごく気持ちいいのだ。
 私は、ラッキーが好きだ。ラッキーも、私のことが好きだ(と思う)。
 なにも問題はないではないか。
「あんっ……また、舐めて欲しいよぉ……」
 だけど、今日みたいなチャンスはそうそうないだろう。
 叶わぬ願いに身を焦がしながら、私は一時間以上も自分を慰め続けた。



 疲れてぼうっとした頭は、時に、突拍子もないことを思い出す。
「……そういえばどこかで、バター犬なんて言葉を聞いたことあったっけ」
 もしかすると、人には言わないだけで、犬との行為を楽しんでいる女性は案外多いのではないだろうか。
「……調べてみよ」
 こんな時でも優等生の血が騒ぐ。わからないことをそのままにはしておけない性分だ。
 もちろん、教科書や事典をいくら調べたところで、そんなこと載っていないことくらいはわかっている。
「やっぱり、あれよね」
 私はパソコンの電源を入れた。
 なにかわからないことがあれば、インターネットで調べればいい。なにより、アダルト関係の情報に関しては、それがいちばん充実している。
 こういったことにパソコンを利用するのは初めてではない。いくら真面目ちゃんと思われていようと、私だって性的なことに人並み(それともそれ以上?)の興味はある。海外のサイトの、なんの修正も加えられていない写真を、顔を赤らめつつも見入ってしまったことだって……ない、とは言わない。
 大手のサーチエンジンにアクセスし、いくつか思いつくキーワードを入力する。
 見つかったサイトから、さらにリンクを辿って。
 ――そして数十分後。
 顔を真っ赤にして、夢中でパソコンのモニタを見つめている私がいた。
 そこには、衝撃的な画像が映し出されていた。
 金髪の美しい白人女性が四つん這いになっていて、背後から大きなグレードデンにのしかかられている。
 そして。
 その犬の性器が女性の中に深々と挿入されているところまで、その画像にははっきりと映っていた。
「…………」
 私はしばらく、言葉を失っていた。
 今まで、思いもしなかった。
 犬と人間が、セックスできるなんて。
 だけど、目の前に映し出されている何枚もの画像では、紛れもなく種の異なる動物が結合していた。しかも女の人は、さも気持ちよさそうに恍惚の表情を浮かべてさえいるのだ。
 見つけたのは、画像だけではなかった。
 動物と人間とのセックスを題材とした小説も、いくつもあった。
 私は夢中で読みふけった。
 さらに興味深いものも見つけた。『女の子のための獣姦講座』というタイトルのそのページでは、牡犬とのセックスについて詳しく解説されていた。
 それがどんなにいいものであるか。
 実際にどういう風にすればよいのか。
 そして、様々な注意点まで。
 一字一句暗記するくらい、何度も繰り返し読んだ。
 もしかしたら私も、ラッキーとセックスできるのかもしれない。
 そう考えただけで、興奮する。
 動物と……犬とのセックス。人の道を外れた行為かもしれない。だけど……だからこそ、興奮してしまう。
 なにより、私はラッキーのことが大好きなのだ。ラッキーだって、私相手に欲情しているはず。
 とはいえ、それが簡単に実現できるとは思っていない。今日みたいにラッキーと二人きりになるチャンスもそうそうあるわけではないし、さすがに屋外でそんな行為に至るのは無謀すぎるから。
 当分は、ラッキーとのセックスを空想しながら自慰を楽しむことになるのだろう、と。そう思っていた。

 ――だけど。
 チャンスは、私が考えていたよりもずっと早くにやってきたのだった。




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