終章 Dear、お姉様へ


 フィーニとミュシカは、並んで村の中を歩いていた。
 今日もいい天気だ。乾いた気持ちのいい風が、静かに吹いている。
 村の郵便局の前で、ミュシカは立ち止まった。ポケットから一枚の絵葉書を取り出して、ポストに投函しようとする。その前に一度手を止めて、自分で書いた葉書を読み返した。
「ミュシカ、早く!」
 フィーニが腕にしがみついてくる。
「ん」
 ことん、と微かな音を立てて、葉書がポストの中に落ちる。
「じゃ、行こうか」
 二人は手をつないで歩き出した。今日は天気がいいので、湖に泳ぎに行く予定だった。



 シーリア学園の麗しの白き百合姫様ことレイア・リン・セイシェルは、まだ休暇がずいぶん残っているうちに寄宿舎へと戻ってきた。
 いつまでも実家にいたところで、堅苦しいし退屈なだけだ。寄宿舎ならば、仲のいい友達も可愛い下級生も大勢いる。実家に帰省していた者たちも、同じような思いでそろそろ戻ってくる頃だ。
 しかし、レイアが一番会いたいと思っていた相手の姿は寄宿舎になかった。代わりに、久しぶりの自室へ戻ると、レイアに宛てた一枚の絵葉書が机の上に置かれていた。
 旅行鞄をベッドの上に放り出して、その葉書を手に取る。
 裏を返すと、手描きの水彩画のようだった。サインはミュシカが大好きな画家のもので、山中の美しい清流の河原で遊んでいる、二人の女の子が描かれている。
 レイアは、見慣れた筆跡の文面を追った。

『……というわけで、もうしばらくこちらに滞在する予定なのですが、よろしければお姉様も遊びにいらっしゃいませんか? 空気はいいし、きれいな湖もあるんですよ』

 読み終えたレイアの口元に、ふっと笑みが浮かぶ。
 葉書を裏返して、もう一度、絵の方に視線を戻した。楽しそうに笑っている二人の女の子は、レイアの可愛い妹たちだ。
「……仲良くやっているみたいね。なんだか、妬けるくらい」
 誰も聞いている者はいないけれど、小さな声でつぶやいた。
 そして、これから片付けようとしていた旅行鞄に水着を詰め込むと、寄宿舎に提出する外泊届けを書くためにペンを取った。



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